★ 農林水産省から


U 加工原料乳の保証価格等

             (農林水産省畜産局牛乳乳製品課 中村 充男) 

 
  農林水産省は、加工原料乳生産者補給金等暫定措置法第11条の規程に基づき、
平成7年度の加工原料乳の保証価格及び基準取引価格、生産者補給金交付金に係
る加工原料乳の最高限度として農林水産大臣が定める数量(限度数量)並びに指
定乳製品の安定指標価格を別表のように定め、3月31日付けで告示(農林水産
省告示第487号)した。以下、その内容等について紹介する。
 

1 牛乳・乳製品の需給動向

 生乳生産は、5年度前半までは前年度を上回る状況となっていた。一方、飲用
牛乳等の需要は、62年度以降飲用牛乳の成分がグレードアップしたこと等によ
り、2年度まで好調な伸びが継続したものの、天候不順などにより3年度以降伸
び悩み(対前年度比、3年度0.5%増、4年度0.2%増、5年度1.5%減)の状況
となった。
 この結果、生乳需給が穏和し、4年度から5年度前半にかけ乳製品向け生乳処
理量が大幅に増加し(4年度対前年度9.3%増)、バターを中心に在庫水準が増
大した。
 このため、生産者団体は5年度及び6年度について前年度を下回る計画生産目
標数量を設定し(5年度対前年度比1.5%減、6年度対前年度比2.9%減)、生乳
生産は5年9月以降前年を下回って推移(5年度対前年度比0.8%減)してきた。
 しかしながら、6年度に入り記録的な猛暑等により、飲用牛乳等の需要が前年
を大きく上回って推移した(6年4月〜7年1月対前年同期比5.2%増)ため、
乳製品向け生乳処理量が大幅に減少し(6年4月〜7年1月対前年比5.2%増)た
め、乳製品向け生乳処理量が大幅に減少し(6年4月〜7年1月対前年同期比14.3
%減)、脱脂粉乳の需給がひっ迫する状況となった。このような中で生産者団体
は昨年11月に特別生産枠数量を設定し、計画生産を実質1%上方修正したが、
脱脂粉乳の需給は引き続きひっ迫した状況となっており、畜産振興事業団による
脱脂粉乳1万7千トンの輸入が決定され、順次輸入、放出を実施することになっ
た。
2 酪農経営の動向

 酪農経営の動向についてみると、飼養戸数が零細飼養層を中心に引き続き減少
する(6年4万8千戸、対前年比▲6.5%)一方で、飼養規模は、着実に拡大して
いる(全国平均5年40.6頭/戸→6年42.4頭/戸、北海道5年69.7頭/戸→6年
72.4頭/戸)。
 酪農経営の収益性は、平成2年後半からの初生牛価格の低下等により平成3年
には低下したが、1頭当たりの乳量の増加等から平成4年以降は回復してきてお
り、こうした状況において最近では乳肉複合経営が着実に進展している。


3 ガット・ウルグァイ・ラウンド農業合意への対応
 ガット・ウルグァイ・ラウンド農業合意の結果を踏まえ乳製品については、
 (1)輸入数量制限の関税化
 (2)カレントアクセス機会の確保。特に畜産振興事業団による輸入は、生乳
    換算で13万7千トン
 (3)一般関税の段階的引下げ

 を本年4月1日以降実施することになった。
 このため必要となる措置を講ずるための「加工原料乳生産者補給金暫定措置法
 の一部を改正する法律」が6年末の臨時国会において成立を見たところである。

4 加工原料乳保証価格等の算定について

(1)加工原料乳保証価格

  加工原料乳の保証価格については、生乳の生産条件及び需給事情その他の経
 済事情を考慮し、主要加工原料乳地域(生産される生乳の担当部分が加工原料
 乳であると認められる地域:北海道)における生乳の再生産を確保することを
 旨とし、酪農経営の合理化の促進に配慮して、価格決定年度における推定生産
 費を基礎として算定する。
  具体的には、農林水産省の平成6年生乳生産費調査(調査期間5年9月〜6
 年8月)の北海道における生産費を、生産者の生産性向上努力に配慮し所要の
 乳量調整を行った上で、頭数規模別生乳生産量ウエイトにより加重平均した平
 均生産量について、飼料費、建物費等の物財費及び副産物である子牛等を、原
 則として直近時点(6年11月〜7年1月)における物価水準に修正し、飼育
 管理家族労働費については北海道における最近水準の製造業5人以上規模労賃
 で評価替えする等の評価替えを行って、7年度推定生産量を算定した。この推
 定生産費に集送乳経費、販売手数料及び企画管理労働費を加算して試算値を算
 定した。
  この他、本年度の算定では、飼育管理家族労働については、婦人労働の評価
 を高めるためにパートタイム労働者を除いた一般労働者の労賃単価で評価し、
 また昨年度に引き続き生産者の休日の確保、労働時間の軽減に配慮して、酪農
 ヘルパー費用を加算し、乳牛の耐用年数が短くなっているという実態に合わせ
 て、乳牛償却費については耐用年数を4年として算定(牛乳生産費調査では耐
 用年数は6年)する等の措置をとっている。
  この結果、試算値は73.11円/kg(6年度保証価格との差2.64円/kg)とな
 ったが、これに調整額として2.64円/kgを加算し、保証価格の試算値としては
 75.75/kgとなった。
(2)安定指標価格

  指定乳製品(バター、脱脂粉乳、全脂加糖れん乳及び脱脂加糖れん乳)の安
 定指標価格については、これら乳製品の生産条件及び需給事情その他の経済事
 情を考慮し、消費の安定に資することを旨として定めることとなっている。具
 体的には、農林水産省畜産局の牛乳乳製品価格調査等に基づき算定した結果、
 全ての品目について6年度の安定指標価格と同額になった。

(3)基準取引価格
 
  基準取引価格は、主要な乳製品の製造業者販売価格から製造販売費用等を控
 除して、それぞれの乳製品の単位当たり支払可能乳代を算出し、それを生乳1
 kg当たりに換算したものを、それぞれの乳製品の生産量(生乳換算量)ウエイ
 トにより加重平均し、主要な乳製品を通ずる生乳1kg当たりの支払可能乳代と
 して算定した。
  この結果、基準取引価格は6年度と同額の64.26円となった。

(4)限度数量

  限度数量は、生産者補助金の交付の対象となる加工原料乳の数量の最高限度
 として定められる数量であり、生乳の生産事情、飲用牛乳及び乳製品の需給事
 情、その他の経済事情を考慮して定めることとされている。
  具体的には7年度の推定生乳生産量(8,458トン)から推定自家消費量(116
 千トン)、飲用等向け生乳消費量として見込まれる数量の中央値(5,270千ト
 ン)、チーズ・クリーム等のその他乳製品向けとして見込まれる生乳消費量(
 772千トン)を控除して算出した。
  この結果、限度数量は6年度と同量の2,300千トンとなった。


5 答申及び建議
  畜産振興審議会酪農部会においては、次のような答申及び建議がなされた。
 
 [答 申]
   政府諮問に係る保証価格等及び限度数量については、調整額の加算等につ
  き一部に不満があったが、生産条件、消費の動向及び需給事情その他の経済
  事情を総合的に考慮すると、政府試算に示された考え方で定めることは、や
  むを得ない。
 [建 議]
  1 ガット・ウルグァイ・ラウンド農業合意の実施に伴い、今後、国際化の
   一層の進展が予想されることから、我が国酪農・乳業の安定及び健全な発
   展を図るため、中・長期的な政策展開の方向を明らかにすること。
    また、農業合意実施期間中において、生産枠の流動化等による経営体の
   育成強化を推進するとともに、緊急特別対策として、酪農経営の一層の合
   理化対策及び生クリーム、低脂肪乳等向け生乳の生産拡大対策を実施する
   こと。
  2 最近の消費の動向及び国民の栄養摂取の実態にかんがみ、牛乳・乳製品
   に関する知識及び情報の普及を通じ消費の一層の拡大に努めること。
    特に国際市場の影響を受けにくい飲用牛乳をはじめ、チーズ、バター等
   の需要拡大を推進し、もって国内生産の安定性発展を図ること。
  3 生乳流通が広域化している現状を踏まえ、生乳取引の適正化、集送乳の
   合理化、指定生産者団体のあり方等について検討すること。
   また、乳成分取引の着実な導入を図ること。
  4 国際化の進展に対応し、乳業の合理化を推進すること。特に、農協プラ
   ントを含む中小乳業の体質強化を早急に進めること。その際、学乳事業の
   あり方、乳業施設の配置規制のあり方について検討すること。
  
  5 ゆとりある酪農を実現するため、酪農ヘルパー、コントラクターの普及・
   定着を図るとともに、経営の安定を図るため、家畜ふん尿処理等に関する
   環境保全対策を推進すること。

6 最終決定
  農林水産省は、平成7年度の保証価格、安定指標価格、基準取引価格及び限定
 数量について別表のとおり3月31日に決定するとともに、併せて次のような畜
 産物関連対策の実施を決定した。
 
 1 生産・経営対策
  
  (1)酪農安定特別対策(約55億円)
  (2)酪農経営安定対策(約117億円)
  (3)酪農経営体育成強化対策(約79億)
  (4)畜産環境保全対策(約9億円)

 2 加工・流通・消費対策

  (1)牛乳乳製品消費拡大対策(約27億円)
  (2)中小乳業等合理化対策(約5億円)
  (3)生乳需給調整強化対策(約6億円)

(別表)
 平成7年度加工原料乳保証価格等総括表
6年度 7年度 対前年度増減比
保証価格 75.75円/kg 75.75円/kg(0.0%)
基準取引価格 64.26円/kg 64.26円/kg(0.0%)
限度数量 230万トン 230万トン(0.0%)
安定指標価格 バター 993円/kg 993円/kg(0.0%)
脱脂粉乳 12,841円/25kg 12,841円/25kg(0.0%)
全脂加糖れん乳 8,055円/24.5kg 8,055円/24.5kg(0.0%)
脱脂加糖れん乳 7,193円/25.5kg 7,193円/25.5kg(0.0%)

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