★調査報告


平成6年度畜産物需要開発調査研究から 
牛乳における宅配マーケットの新展開

帯広畜産大学   佐々木 市 夫
                        大 西 正 男
                          和 田 大 輔  



1 はじめに
  牛乳・乳製品に対して消費者は、 価格、 味、 機能性、 利便性、 接客サービス
など、 様々な価値観に基づき行動している。 限られた需要のパイのなかでの多
様なニーズに応え続けなければ、 乳企業の生き残りは難しい。 成熟社会で求め
られるのは、 「安い」というだけのひとつのコンセプトによる需要促進ではない。 
様々なコンセプトの組み合わせによって、 いかに需要を掘り起こしていくかが、 
乳企業の重要課題なのである。 
 
  本論は、 高齢化社会の進展、 女性の社会進出、 単身者世帯の増加等による食
の簡便化、 健康志向に対するニーズを捉え、 牛乳の新しい宅配マーケットに注
目した。 一つに、 宅配マーケットに供給されている牛乳の商品特性はいかなる
ものか。 二つに、 消費者の高齢化とその購買行動にはどんな関連性があるか。 
これら二つを明らかにすることがここでの目的である。 

2 最近の宅配牛乳における商品特性
  ここでは、 関東圏と関西圏を宅配マーケットとする二つの中小乳業(以下、A 
乳業 (関東地域) とB乳業 (関西地域) と呼ぶ)を選定し、 調査協力をいただい 
た。   
  
  さて、 宅配マーケットに参入したA、 B両乳業は、 どんな宅配商品を提供して 
いるのだろうか。 A乳業の宅配商品は、 全体として19品目である。 これを分け
ると、 牛乳4品目、 加工乳4品目、 乳飲料5品目、 はっ酵乳1品目、 果汁飲料
5品目になる。 ヒアリング調査に基づき、 これら宅配商品の特徴を5点あげる
ことができる。 一つに、 全品目の容器がビンとなっていること。 二つに、 容量
としては180〜200ml、 500mlおよび720mlの3種類があり、 その主流を占める
のは500mlや720mlの中・大型であること。 三つに、 加工乳では高脂肪高たんぱ
くの成分を追求したものであること。 四つに、 乳飲料の目玉は、 乳糖を酵素で
分解して「乳糖不耐症」を解消させ、 カルシウムと鉄分を強化したものである点
である。 五つには、 健康増進に配慮したビフィズス菌入りの牛乳、 β-カロチ
ン入りの飲料を提供していることである。   

  次にB乳業の場合、 全体として宅配商品は13品目である。 品目別では、 牛乳 
9品目、 加工乳3品目、 および乳飲料1品目となる。 さて、 B乳業における宅 
配商品の特徴をあげると以下のようになるだろう。 一つに、 容器としてビンに 
統一されておらず、 ポリ、 紙の3種類が混在していること。二つに、 容器にお 
いても、 小型 (180〜200ml)、 中型 (500ml)、 大型 (900〜1000ml)の3種類 
が準備されていること。 ただ、 加工乳は小・中型、 乳飲料は小型である。 三つ
に牛乳において高脂肪を追求したもの、 特定の補助栄養飼料を乳牛に給与した
生乳を使用するもの、 特定の産地の生乳を原料としたものに特徴がある。 四つ
に、 乳飲料では、 A乳業と同じく、 乳糖分解による 「乳糖不耐症」 の解消と、  
カルシウム、 鉄分を強化した点である。 

 二つの乳企業は宅配マーケットを志向する商品化において、 どんな戦略コン
セプトをもっていたのかまとめてみよう。 戦略コンセプトは次の四点に整理で
きる。 

  第1には、 健康志向における食品機能の強調である。 具体的には、 乳糖を分
解し、 カルシウム、 鉄分のミネラル強化である。 二つには、 発ガン抑制効果が
あるといわれるβ-カロチンに注目していることである。 さらには、 腸内細菌
相の改善を促すビフィズス菌(乳酸菌)の供給を考えている点である。
 
 第2には、 500ml、 720mlあるいは900mlの中・大型ビン化による宅配単位当 
たりの高価格化である。 宅配商品の価格が高くなれば、 牛乳販売店における宅 
配1回当たりのマージンも大きくなる。 これが、 宅配店の拡販意欲増進につな 
がる。  

  第3には、 「こだわり商品」といわれるような、 イメージ、 品質、 製法、 情
報サービス等の非価格的差別化である。 ここでは、 特定産地からの生乳、 低温
殺菌法などの製法、 商品名等がその具体例としてあげられよう。 
 
  第4には、 購買者の多様なニーズに応えるために、 「品揃え」 を考えている 
ことである。 普通牛乳、 加工牛乳、 乳飲料における小型容器のものをいくつか 
提供しているところにそれが表現されている。 

 ところで、 宅配マーケットに参入しているのはもちろん中小乳業ばかりでな
い。 大手乳業各社も、 この数年、 宅配ルートだけに流す宅配専用品の販売に力
を入れてきた。 その主力商品は、 骨粗しょう症予防を意識したカルシウム強化
の牛乳である。 

3 宅配牛乳の購買行動分析
3. 1 アンケート調査の方法  
  アンケート調査は、 上記A乳業とB乳業から宅配牛乳を購買している世帯を無 
作為に抽出して行った。 アンケートの配布数はA乳業101、 B乳業100、 合わせて 
201で、 アンケートの実施時期は平成7年1月であり、 回収率は100%であった。  

3. 2 購買行動の分析視点  
  宅配牛乳の購買行動に影響を与えるものとして、 様々な要因をあげることが 
できよう。 米国のマーケティング研究者P.コトラーはそれらの要因を四つに大 
別した。 すなわち、 一つに、 消費者自身に関連する要因としての「購買者特性」 
、 二つに、 製品の機能等に関連する要因としての「製品」、 三つに、 メーカーや 
小売業等の売る側に関連する要因としての「売り手」、 最後に、 季節・天候や景 
気動向など全体としての状況に関連する要因としての「状況」である。 
  
  これら四つの要因のうち、 ここでは主として 「購買者特性」 を取り上げて検 
討した。 ただ、 「購買者特性」といっても、 実はいろいろな属性が存在する。 
 
  本論では、 特に消費者個人の職業、 所得水準、 年齢、 ライフスタイル等の「 
個別的社会経済属性」 が購買者特性に与える影響を重視し、 それが宅配牛乳の 
購買行動にどう関連しているかの分析視点に立っている。 
 
  以下、 まず宅配牛乳の購買者における個別的社会経済属性と購買行動をアン 
ケート調査結果に基づいて明らかにしていきたい。  

3. 3 調査結果とその検討 

(1) 家族構成と世帯主年齢

  調査対象となった世帯の家族構成と世帯主年齢の集計結果は表1と図1にま 
とめてある。  1世帯当たりの家族員数は3.8人である。  

表1 家族の年齢構成(人)
年齢階層 構成比(%)
0〜5歳 31 21 52 6.9
6〜11歳 46 44 90 11.9
12〜19歳 52 50 102 13.4
20〜39歳 86 98 184 24.3
40〜59歳 108 112 220 29.0
60歳以上 44 66 110 14.5
367 391 758 100
(2) 1ヵ月当たり平均家計支出額

  1ヵ月当たり平均家計支出額は、 各世帯の経済状態を表す指標である。 住宅・
車等へのローンの返済は除き、 飲食、 教育、 衣料、 健康・医療やサービス(クリ
ーニング、 理美容等)などへの支出の平均額がここでの家計支出額を意味する。 
家計支出額階層別の世帯数割合を示したものが図2である。  

(3) 宅配商品の購買量  

  宅配商品の購買量は1週間を単位に買い入れる量として求めた。 宅配商品は 
、 普通の牛乳、 加工乳、 乳飲料、 はっ酵乳および天然果汁飲料に分類し、 さら 
に普通の牛乳については低温殺菌処理の有無によって、 牛乳A (高温殺菌、 成 
分無調整牛乳)と牛乳B(低温殺菌牛乳) に分けている。  品目ごと、 容量、 容器
別に購買本数を集計したのが表2である。 この表の180mlおよび200mlの小型容
量を190ml、 中型で500mlおよび720mlのものは610mlとして宅配量を計算する
と、 牛乳A335.6リットル、 牛乳B52.2リットル、 加工乳156.1リットル、 乳飲
料51.6リットルおよびはっ酵乳12.5リットルとなる。 この合計は608.0リット
ルである。 52週間で1年間として、 一世帯当たり年間宅配牛乳購買量を求める
と157.3リットル、 また、 世帯員一人当たり年間購買量は41.7リットルと算定
された。

 次に、 現在契約している牛乳販売店から宅配牛乳を利用して何年経過したか
についてまとめたのが図3である。 これによると、 3年未満階層が37%を占め、 
最も高く、 最近宅配牛乳を利用しはじめた世帯が多いことが察せられる。 次い
で、 3〜5年未満階層が22%、 10〜20年未満階層が17%となっている。 

 なお、 宅配牛乳以外の牛乳を購入しているのか、 の問に対する回答をみると、  
購入していないが96世帯、 購入しているが90世帯だった。 その購入世帯がどれ
くらい購入しているかを集計してみたのが図4である。 この図によると、 1〜
2リットル未満階層と2〜3リットル未満階層に集中している。 回答した86世
帯における1週間当たり平均購買量は2.4リットルだった。 

(4) 高齢化と宅配牛乳の購買行動  

  さて、 高齢化と宅配牛乳の購買行動との関連性を検討してみよう。 このため
に、 二つの指標を準備した。 一つは、 「宅配率」である。 これは、 購入牛乳に占
める宅配牛乳 (普通牛乳に加工乳を加えたもの) の比率である。 宅配率が50%
未満であれば購入牛乳のなかで宅配牛乳以外の牛乳の量が多いことを意味する。 
宅配率100%とは、 全牛乳宅配依存であり、 宅配以外のルートから一切牛乳を購
入していない世帯である。 二つには「主飲用高齢者率」である。 この指標は、 宅
配牛乳を主として飲む世帯員のうち、 60歳以上の世帯員の比率である。 したが
って、 たとえば70歳の世帯員一人が主として飲む世帯の場合、 主飲用高齢者率
は100%となり、 一方、 10代の子供3人と70歳の世帯員が主として飲むという
場合、 主飲用高齢者率は25%という数字になるわけである。  

 図5と図6は、 それぞれ、 主飲用高齢者率と宅配率、 世帯主年齢階層と宅配
率の関連を整理したものである。 まず、 主飲用高齢者率との関連をみてみよう。
ここで注意したいのは、 主飲用高齢者率が0%と100%の二つのケースである。 
主飲用高齢者率が0%、 つまり、 主として飲む世帯員のなかには60歳以上の者
が一人もいない世帯において、 宅配率50%未満が29%、 宅配率50〜99%が23%
となり、 宅配率100%は49%となった。 他方、 主飲用高齢者率100%では、 宅配
率50%未満が21%、 宅配率50〜99%がゼロ、 そして宅配率100%は79%である。 
これらのことから主に宅配牛乳を飲む世帯員が高齢者である比率が高いほど、 
全牛乳購買中の宅配依存の割合が増大していると指摘できよう。 

 次に、 世帯主年齢との関連を調べてみよう。 ここで比較してみたいのは、 20
〜39歳階層と60歳以上階層の欄である。 世帯主が20〜39歳階層では、 宅配率50
%未満が23%となり、 宅配率100%が58%を占める。 一方、 60歳以上階層では、 
宅配率50%未満が15%、 宅配率100%が71%と最も高い。 このように、 全牛乳
宅配依存の割合は、 世帯主年齢が60歳以上のとき、 最大となっているのである。 

  以上、 主飲用高齢者率と世帯主年齢階層の点からいって、 高齢者と宅配牛乳
の購買行動の間には密接な関連が確認できる。  

(5) 高齢化と宅配牛乳利用の理由 

 アンケート調査において、 どんな理由で宅配牛乳を利用するのか、 質問して
いる。 回答は13個の選択肢から3つ以内まで選ぶ方式をとった。 その回答を世
帯主年齢の観点から整理したのが表3である。 まず、 全体的に、 宅配牛乳利用
者の指摘する理由のうち、 上位のものは下記の通りである。 第1に鮮度。 「でき
るだけ新鮮な牛乳を飲みたいから」 (45%) 第2にミネラル強化。 「オリゴ糖、 
カルシウム、 鉄分などの強化で健康に良いと思う」 (41%)  第3にビン容器。 
「牛乳にはビン容器がふさわしいから」 (24%)
 
 第4に量販店との差別化。 「現在利用している宅配牛乳はスーパーなどの店頭 
に置いていないから」 (21%)  第5に販売店サービス。 「宅配する牛乳販売店
のイメージやサービスが良いから」 (20%)  第6に重量負担。 「重くてかさば
る買い物を運ぶのがきつくなったから」 (20%)  

  次に、 世帯主年齢階層別に宅配利用理由をみてみよう。 60歳以上の世帯主が
上の全体的な平均よりも多く取り上げている理由として、 次の点を指摘できる。 
すなわち、 1に、 量販店との差別化、 2に、 買い物の省力化、 3に販売店の勧
誘、 4つに販売店サービス、 5にビン容器である。
   
  ところで、 宅配利用の理由として、 重量負担ということを、 高齢者がより多 
く指摘すると一見予想しがちである。 だが、 本調査では、 20〜39歳の世帯主の 
場合、 運搬における重量負担の回避をあげているのが38%なのに、 40〜59歳の 
世帯主の場合15%、 60歳以上の世帯主の場合13%と低い値なのである。 若者は 
お年寄りよりも重さに対する忍耐力がなくなっているか、 もしくは、 重量負担 
を回避することに相対的に高い価値をおいているか、 いずれかだと考えられよ 
う。  

(6) 宅配牛乳における改善点  

  宅配牛乳の利用者は、 宅配に関してどんな改善点をあげているか、 本調査結 
果を集計したのが表4である。 この表から明らかになった主な改善点は次の通 
りである。  
 第1に価格の低下。 「もっと価格を下げてほしい」 (47%) 
 
 第2に取り扱い商品の拡大。 「宅配で取り扱う商品をもっと拡大してほしい」  
(39%) 

 第3に配達量の変更可能性。 「留守をするときもあるので、 日によって配達す
る量を変更できるようにしてほしい」 (16%)

 第4に支払い方法の改善。 「支払いは一括銀行引き落としにしてほしい」 (13
%)
   
  以上である。 なお、 ここでの改良点は、 利用者が改善すべき点として二つま 
で選んで回答したものである。 
4 むすびに−宅配牛乳の復権をめざして−
 以上、 中堅乳業への聞き取り調査と宅配牛乳利用者へのアンケート調査等の 
結果に基づき、 宅配マーケットに供給されている牛乳の商品特性および消費者 
の高齢化と宅配牛乳購買行動との関連性について検討した。 そこで明らかにな 
った重要な点は以下の5点に集約されよう。  

(1) 中堅乳業の宅配商品をみると、 A乳業19品目 (牛乳5、 加工乳4、 乳飲料 
    5、 発酵乳1、 果汁飲料5)、 B乳業13品目 (牛乳9、 加工乳3、 乳飲料1 
    )である。  

(2) それら宅配商品の開発における戦略コンセプトは、 「健康志向」(カルシウ 
    ム、 鉄分強化)、 「高価格化」 (大型容器化)、 「こだわり商品」 (産地、 製 
    法等)、 および 「品揃え」 であった。 
 
(3) 1世帯当たり年間宅配牛乳購買量は158.5リットル、 世帯員一人当たり購 
    買量は42.0リットルだった。  

(4) 主に宅配牛乳を飲む世帯員が高齢者である比率が高いほど、 全牛乳購買中 
    の宅配依存の割合が増大している、 という知見を得た。 
 
(5) 全牛乳宅配依存の割合は世帯主が60歳以上のとき最大となる事実を確認す 
    ることができた。  
    
  総じていえば、 高齢化社会の進展と消費者ニーズの多様化等のなかで、 各乳 
企業が宅配独自の専用商品を開発して顧客を獲得し始めている状況が確認され 
たといえる。   
  
  最後に、 今後、 宅配牛乳の復権を目指すために、 乳企業、 牛乳販売店等に求 
められている取り組みは何か、 考えてみたい。  

 第一に、 宅配マーケットにおける各乳企業の販売戦略が同質化することから
訣別する努力である。 各乳企業、 各販売店が他と異なるプラスαの長所を消費
者に訴え続けていくことに他ならない。 そのためには、 価格面ばかりでなく、 
味、 機能性、 利便性、 接客サービスなどの面における見直しも重要である。
 
 第二に、 改善点として 「価格の低下」 が最も強く要望されていたことからわ 
かるように、 乳企業におけるコスト節減は一層求められる。 消費者の要求はい 
つも高い。 味、 機能等を落とさずにいかにしてリーズナブルな価格のもの(値 
頃感のあるもの)を提供するかが乳企業の最重要課題である。 コスト節減の観 
点から、 乳企業単独の規模の経済性をどこに求めるか。 人件費節約の工夫はな 
いか。 物流や原材料調達における他企業との有効な連携はないか、 などの総点 
検が必要である。   
  
  第三に、 中小乳業の経営者は地方産業のリーダーにふさわしく、 技術革新に 
挑戦している人もいる。 だが、 学乳依存体質からなかなか脱せず、 狭い視野で 
ものごとを考え、 個人的な資産追及に終始しがちな担い手はまだまだ少なくな 
い。 全従業員一丸となったセールス活動、 特殊地域商品の開発等の中小乳業に 
おける革新的努力は、 大手乳業に負けない宅配市場チャンスをも切り開いてい 
くだろう。 

*本論は、 平成6年度に畜産振興事業団の委託で実施された需要開発調査研究 
 事業 「乳企業の宅配専用品における食品機能性と購買行動に関する研究」 を
 委託研究者が要約したものである。


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