★ 巻頭言


農業のパートナーとしての外食産業

 社団法人 日本フードサービス協会  会 長 田 沼 文 蔵


外食産業の市場規模

  平成6年の日本の外食産業の市場規模は、 28兆2,939億円に達するものと推計さ
れる。 この数値を昭和50年の8兆6,257億円と比べると、 この19年間に約3.3倍に
成長したことになる。 
 
 また、 家計の食品・食料費支出に占める狭義の外食比率は、 平成3年には36.6
%、 料理品小売業を含めた広義の外食(食の外部化) 比率では40.1%に達している。
つまり、 金額ベースで単純にみれば3食に1食は外食産業と密接にかかわっており
、 その意味では国民の食生活に占める外食産業の位置は極めて大きいものがある。 
外食産業の食材仕入の特徴
  外食産業の食材仕入に対する第1のニーズは、 量と質に関する安定性と継続性の
確保である。 第2には価格の安定、 第3には加工度と鮮度保持の追及である。 特に
、 単独店ではないチェーン (多店舗) 化された外食企業の場合、 取り扱う食材も大
量となるため、 仕入は極めてシステム化されているケースが多い。 それらの企業に
とっては、 一定の品質・規格の食材を年間を通じて安定的な価格で、 かつ、 数量を
確保することが経営の前提となっている。 
 
 また、 チェーン化している企業全体では扱う量が多くても1店舗当たりでの使用
量は比較的少量で、 かつ一次、 二次加工品が多いという特徴がある。 このことは配
送コストの問題とともに、 如何に鮮度を保持しながら店舗に届けるかという物流の
仕組みの構築の重要性を物語っている。 

 
農業と外食産業はイコールパートナー
  近年、 円高により輸入食材が増加する半面、 産地との広義の契約取引が増える傾
向にある。 消費者の食の安全性に対する関心の高まりを背景に、 外食産業において
も生産者の顔の見える食材を使いたいということである。 
 
 そのような取引が成立するための産地側の条件としては、 第1に需要量に見合っ
た一定の生産規模が必要となる。 第2に生産の技術水準が高く、 生産方法の統一、 
出荷時期の調整などが可能な産地体制が望まれる。 第3に契約意識と長期的視点を
持った産地であることも大切である。 
 
 一方、 外食産業側の条件としては、 第1に契約対象品目の使用量が一定のまとま
りを持つこと、 できればその品目が主要食材であることが必要となる。 第2に、 同
時に比較的長期にわたって安定的に使用できることが条件となる。 その点では、 中
心となるメニューの変更が比較的少ないファーストフードのような業態は、 主要な
食材は固定的であり、 契約取引に取り組み易いといえる。 ファミリーレストランな
どメニュー変更が比較的頻繁である場合であっても、 メニューの多様性を維持しな
がら可能な限り食材の汎用性を高めることによって、 契約取引を長期にわたって行
う条件が備わることになる。 第3には、 産地の事情に通じていることが必要である。 
 
 外食産業側の一方的なニーズをそのまま産地に投げかけるのではなく、 産地の再
生産条件を保証するような価格水準の設定など産地を育成する視点を持つことが必
要となる。 
 
 いずれにしても、 長期的な視点から相互の信頼関係を築くことと、 農業と外食産
業とは常にイコールパートナーであるとの認識を両者が持ち続けることが重要と考
える。 
チャレンジする農業へ
  当協会では昭和63年に 『外食産業界から農業者へのメッセージ』 を発表した。 
これは農畜産物のユーザーとしての立場から、 折からの農業問題論議に一石を投じ
たものであった。 即ち、 経済効率の面からのみ農業を捉えるのではなく、 農業のも
つ独自性を評価しつつ、 外食産業とのパートナーシップを呼び掛けたものである。 
このメッセージは小冊子ながら産地側からの反響も大きく、 以後協会では全国の産
地を訪問し、 生産者の方々と生産現場での交流事業を続けている。 平成6年度の産
地見学会では、 栃木県、 鳥取県、 宮崎県、 鹿児島県などの生産現場を訪問する機会
があった。 
 
 その中で、 鳥取県大山の北麓尾古牧場の事例を紹介したい。 経営者の尾古氏は平
成元年に黒毛和牛の肥育で天皇杯を受賞された篤農家で、 現在は130頭を飼育され
ている。 牛肉の輸入自由化の影響を和牛といえども受けざるを得ない状況の中で、 
飼料の工夫や独特の三段牛舎などのほか様々な経営努力をされている。 その一つは
会員制で消費者に直接部分肉を販売することであり、 もう一つは、 農場レストラン
の経営である。 特にレストランは、 バーベキュースタイルのため家族労働で運営で
き、 モモやウデなどの部位の有効活用にもなっている。 勿論、 フードサービスの基
本の面からみると不十分な点も多いが、 私どもとしてはそのチャレンジ精神を大い
に評価したい。 
 
 尾古氏は牛肉の輸入自由化後、 アメリカの畜産事情を視察された際に、 その規模
の大きさにショックを受けると同時に、 消費者に広く受け入れられる安全で美味し
い和牛肉を生産していく自らの使命を痛感したという。 そのことは、 高く売れるA
5を狙うよりも、 A3クラスを着実に目指していく姿勢にも表れている。 尾古牧場
の事例は、 輸入牛肉の攻勢の中で、 後継者にも恵まれ、 生産農家が自らの工夫で自
立経営に成功されている例として注目される。 こうした動きには、 外食産業として
もパートナーの一人として見守っていきたい。 
 

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