★事業団レポート


和牛地方特定品種全国サミット開催される       

 
食肉生産流通部   審査役 鈴 木 雄


3月23日山口県萩市で開催

 日本特有の牛は総称して和牛と呼ばれているが、 和牛には黒毛和種、 褐毛和種、 
日本短角種等がある。 黒毛和種が最も知られているが、 これは全国各地で飼養さ
れ数も最も多いことによる。  一方、 褐毛和種等は、 飼養されている地域が限ら
れていること、 飼養頭数が少数であることから、 近年にあっては、 和牛地方特定
品種と呼ばれている。 褐毛和種は熊本県、 高知県、 日本短角種は青森県、 岩手県
、 無角和種は山口県というように特定の地域で主に飼養され、 その数も年々減少
傾向にあり、 全国的には必ずしも知られていないがそれぞれの地では、 地域の自
然条件を生かした伝統ある家畜として親しまれてきた。 

 歴史的には地域の重要家畜として歩んで来たこれら地方品種も、 今日、 食肉と
しての評価は黒毛和種にはサシなどの点で及ばず、 飼養地域が消費地から遠いた
め流通コスト面でも不利であることなどから衰退傾向を余儀なくされている。 か
かる事情の下でどうにかして、 これらの品種の維持・発展を図ろうと、 各地域で
努力がなされているが、 そのような県、 市町村、 農協等の関係者が一堂に会し、 
今後、 和牛地方特定品種をどの様な取り組みで増頭し、 販路の拡大を図っていけ
ばよいのか等の問題について討議するため、 山口県萩市で 「和牛地方特定品種全
国サミット」 が開催された。 

 
日本短角種・村ぐるみの取り組みによる成功
 会議では、 まず、 岩手県九戸郡山形村の小笠原寛村長による基調講演が行われ
れた。 
 講演は 「出会いと熱意がムラを変えた― その主役短角牛」と題され、 村長の山
形村における活性化への取り組みの模様が紹介された。 

 村長は若い頃村にUターンし、 その後、 十年以上にわたって村長を勤めている
が、 この間、 村の住民と一体となってムラの活性化に取り組んでこられた人であ
る。 村長の話で特に印象的だったのは、 都市住民との交流の話であった。 消費者
 (都市住民) も生産者 (農家) もともにそれぞれのことをほとんど知らないと言
ってよく、 両者の間には理解、 認識において大きなへだたりがあったということ
である。 
 
 情報が同時性をもって全国すみずみまでゆきわたる時代に、 改めてその重要性
を悟らされ、 両者のミゾを埋めるのに人的交流を続けながら数年を要したという
ことに驚きを覚えた。 
 
 このほか、 実体験に基づいたいろいろな話があったが、 言葉のはしはしに村を
思う村長の熱意が感じられ、 聞く者に深い感銘を与えた。 
パネルディスカッション

 基調講演に続き山口大学の中山清次名誉教授をコーディネイターとして、  「地
方特定品種の活路」 と題してパネルディスカッションが開催された。 パネラーは
農林水産省畜産局 境政人課長補佐、 同省家畜改良センター奥羽牧場 佐藤忠昭
場長、 青森、 岩手、 秋田、 高知、 熊本、 山口の各県の生産現場からの6名に小笠
原村長と私を加えた11名であった。 

 最初に各パネラーが自己紹介をかねて肉用牛、 牛肉等についてそれぞれの立場
での考えを述べた後、 討議が開始された。 境課長補佐は肉用子牛不足払制度及び
地方特定品種緊急総合活性化対策事業、 佐藤場長は改良、 各県を代表するパネラ
ーは地域における地方特定品種の現状等、 私は牛肉の需給についての考えを披露
した。 

 その中で山口県は、 このままでは無角和種が絶滅するとの危機感から昨年、 無
角和種振興公社を設立した旨を報告するとともに、 今後、 県を中心に同公社を支
援していく考えであることを強調した。 

 参加者から 「産直を成功させるにはどうすればよいか」 の質問を受けた中山先
生が各パネラーそれぞれに考えを求めたが、 その中の一つを紹介したい。 
 
 それは、 村田敦胤元岩手県畜産課長の話であったが 「売手 (農家)は、 自ら生
産した牛肉を試食もせずに、 思い入れだけで売ろうとする。 自らも食して消費者
の意見を体験すべきである。 そうすることによって、 消費者のニーズが理解でき、 
牛作りに反映させることができる。」 というものであった。 岩手県の場合、 日本
短角種の産直で成功した先進県であり、 その話には非常に説得力があった。 

 パネルディスカッションは、 中山先生の好リードでパネラーと参加者が一体と
なり、活発な討議が行われ、 大変な盛り上がりを見せた。 
 
 今回のサミットに参加する機会を得たことは非常に有意義であった。 経済性を
追求して黒毛和種に切り換える等の選択肢がある中で、 数が少ないゆえに大切に
し、 限られた地域にのみしか存在しないがゆえに守っていきたいという関係者の
情熱が会場一杯にあふれ、 盛会のうちにパネルディスカッションは終了した。 

 地方特定品種の改良、 増頭、 販路拡大に日夜取り組んでいる関係者の益々の努
力に期待したい。 


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