◎地域便り


周年放牧への挑戦―その2
― 水田裏放牧を利用して ―

熊本県 那須利八

 熊本県阿蘇地域では、 4月〜11月まで阿蘇外輪山上の共同利用牧草地や野草地

に肥後のあか牛を放牧し、 12月〜3月までは里の畜舎で飼養する 「夏山冬里方式」 

の飼養形態で低コスト肉用牛生産を行っている。 先月号の放牧期間延長技術導入

による周年放牧への挑戦に続き、 今回水田裏を活用した放牧による周年放牧につ

いて紹介したい。 



 水田裏作を利用した放牧は、 平成元年度放牧新技術定着化促進事業として開始

し、 すでに7年目を迎えている。 



 【水田で草を食む肥後のあか牛】



 この技術のポイントは、 秋から初冬までに草量をできるかぎり備蓄し、 1月中

旬から2月中旬は、 備蓄された草量で乗り越え、 その後4月までは、 再生産され

る牧草量を利用していく方法である。 



 方法としては、 1) 水稲刈取りの7日から10日前 (排水が悪い水田については、 

刈り取り直前) にイタリアンライグラス (早生種) を10アール当たり5kg程度立

ち毛播きし、 水稲収穫後、 追肥を行う。 (10アール当たり窒素成分5kg程度) 2) 

播種が遅れた場合は、 浅く耕起し施肥播種を行う。 3) 追肥については、 イタリ

アングラスの草勢を見ながら適時実施するが、 水稲栽培の肥料残効を考慮する。 

4) 播種時期は、 12月までの備蓄量を確保するため9月中旬までに実施すること

が望ましい。 



 準備として、 1) 飲水の確保2) 水田周囲の牧棚の設置3) 内柵の電気牧柵等

による効率的利用 (ストリップ放牧的利用) 4) 降雪、 降雨が続いた場合に牛を

収容する簡易畜舎 (ビニールハウス等活用) を水田が接する場所に併設。 このほ

かに、 速やかにこの技術を導入するには農地の集団化と排水対策が必要である。 



 技術導入の成果としては、 1) 省力化とコスト低減2) 複合経営における労働

競合の緩和3) 冬季粗飼料備蓄量の節減4) 夏山放牧と冬里放牧 (水田裏) 又は

転作田を組み合わせることで畜舎、 サイロ等施設に対する投資抑制ができること

が挙げられる。 



 なお、 放牧後の水稲の生育や水田土壌に対する悪影響は、 連続して水田裏を利

用しているところでも7年目までの現在もみられていない。 



 この技術は、 現在地域の23戸の農家約20ヘクタールで取組まれ、 今後さらに県

下全域に普及していくことが期待されている。 






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