企画情報部 安井 護
平成3年4月の輸入自由化前後から、 主に輸入牛肉の大きな伸びに支えられ、 これまで順調に伸びてきた牛肉の推定出回り量 (消費量) が、 昨年度は、 前年度 を7. 3%も下回った。 この直接の要因には、 英国でのBSE (牛海綿状脳症) の 報道、 腸管出血性大腸菌O−157による集団食中毒の発生が挙げられるが、 「日 本の消費構造全体が成熟化している中で、 牛肉の消費構造も変化している」 と指 摘する意見もある。 今年4月以降、 牛肉の推定出回り量は回復してはいるものの、 一昨年のレベルまでには達していない。 この状況をどのように見るのか。 消費者は、 牛肉消費に対してどのような態度 をとっているのだろうか。 このたび、 (財)日本食肉消費総合センターから公表された 「季節別食肉消費動 向調査−第37回消費者調査」 (平成9年6月調査) から、 消費者の意識、 行動 の変化を見てみることとする。 本調査は、 昭和57年度から継続して実施されて おり、 過年度の調査結果と比較しながら見ていきたい。 〈調査の方法〉 本調査は、 全国8地域2,000世帯を対象とし、 今年6月12日を含む1週 間に、 調査員による面接により実施された。 調査は、 毎年6月と12月の年2回 実施されている。 今回調査時の平均世帯員数は、 3. 5人である。
牛肉、 豚肉、 鶏肉の購入状況は、 どうなっているのだろうか。 図1は、 調査対 象1週間に、 数量のいかんに関わらず、 これら食肉3品を購入した世帯の比率を 示している。 最も購入比率の高い豚肉は、 89.8%と8年6月に比べ1.5ポ イント上昇している。 牛肉は、 大きく減少した8年6月に比べ、 3.2ポイント 上昇しているが、 7年の水準までは回復していない。 昨年0.3ポイント上昇し た鶏肉は、 今年、 0. 8ポイント減少している。 ◇図1:牛肉・豚肉の購入世帯比率(6月・12月)の推移◇ では、 近年の牛肉消費の増加を支えてきた輸入牛肉の購入比率はどうなってい るだろうか。 図2は、 調査対象1カ月間に輸入牛肉を購入した世帯の比率を示し ている。 ◇図2:1ヶ月間の輸入牛肉の購入比率◇ 各年6月で比較すると、 3年から7年まで40%前後で推移してきた輸入牛肉 の購入世帯比率は、 8年6月、 26.6%と大きく低下した。 今回は、 30.2 %と回復している。 BSE 報道の始まった8年3月より前の7年12月の調査時に 既に購入比率が37.8%と、 前年よりも2ポイント低下している点も注目され る。 家事担当者の年齢別に見ると、 60歳以上では20.4%と低いが、 30歳未 満では41.0%と高く、 若年層ほど、 輸入牛肉の購入比率が高くなっている傾 向は、 以前と変わっていない。
低価格化が、 輸入牛肉の消費拡大を支えてきた最大の要因であることは、 間違 いがないだろう。 消費者は牛肉の価格について、 どのように感じているのだろう か。 図3は、 牛肉の価格に対する意識の変化を表している。 ◇図3:牛肉の価格に対する意識◇ 国産牛肉については、 基本的に 「変わらない」 と感じている消費者が、 年によ って変化はあるもののほぼ6割程度で一定である。 一方、 「安くなった」 と感じ ている消費者は、 5年12月、 26.1%と2割を越え、 一時は3割に達したが、 今回は20. 4%と落ち着いている。 輸入牛肉については、 大きな価格低下を反映して 「安くなった」 と感じる消費 者が多かったが、 7年12月にそれまで25%程度であった 「変わらない」 が3 割を超え、 8年6月には、 「安くなった」 と 「変わらない」 と感じる消費者がほ ぼ同率となった。 その後は 「変わらない」 と感じる消費者が 「安くなった」 を上 回っている。 これは、 低下してきた購入価格が下げ止まったこともあるが、 消費 者が低価格に慣れてしまい、 安さを実感しなくなったと考えられる。 実際の購入価格を比べてみると、 最も多い購入価格帯は、 3年から6年では低 価格帯へ大きく移動したが、 今回は6年と比べても大きな変化は見えず、 低価格 化も下げ止まりつつあると見ることができる (図4) 。 ◇図4:輸入牛肉の購入価格帯(購入世帯割合)◇ なお、 輸入牛肉については3割以上の人が、 安くなったのか、 高くなったのか について 「分からない」 と回答している。 これは、 輸入牛肉についてもともと関 心がないからとも思われるが、 国産牛肉の同1割に比べて際だっている。
では、 価格が下がれば、 消費者は購入量を増やすのだろうか。 図5は、 国産牛 肉と輸入牛肉について、 「価格が下がれば購入量を増やすか」 との問に対する答 を示している。 国産牛肉については、 「やや増やしたい」 と 「かなり増やしたい」 を併せて、 依然5割の消費者が購入量を増やしたいと考えており、 輸入牛肉に比 べて、 需要の価格弾力性が高いことを示している。 ◇図5:牛肉価格が下がった場合の購入意向◇ 一方、 輸入牛肉は、 自由化直後は 「やや」 と 「かなり」 を併せて、 2割の消費 者が 「増やしたい」 との意向を示していたが、 その割合は、 実際の価格低下とと もに徐々に下がってきた。 昨年6月には、 6.2%と1割を下回り、 逆に価格が 下がっても 「減らしたい」 とする世帯が24.3%と2割を超え、 この傾向は今 回も変わっていない。
この国産牛肉と輸入牛肉に対する反応の違いは、 どこから来ているのだろうか。 この表は、 和牛肉、 その他の国産牛肉、 輸入牛肉に対するイメージ調査の結果を 示している。 牛肉に対するイメージ 国産牛肉(和牛)は、 おいしく(83.5%) 、 品質が良く(75.0%)、安全で あるが (64. 0%) 、 価格は高い (79. 4%) と、 消費者は感じている。 一方、 輸入牛肉については、 価格は安く (70.7%) 、 味と品質は普通だが (それぞれ、53.7%、 70.6%)、 安全性に不安がある (63.6%)と、 感 じている。 この違いが、 上記の消費意向に大きく影響していると言えよう。
ここで、 国産牛肉、 輸入牛肉という区分を離れ、 消費者がどのような牛肉を好 むのか、 赤身肉と霜降り肉の嗜好の違いを見てみよう。 赤身肉を好む世帯は41.2%で、 その理由は、 「健康を考えて」 が85.4 %と圧倒的に多い。 次いで、 「家族が好きだから」 28.0%、 「価格を考えて」 21.2%、 「おいしいから」 18.4%となっている。 一方、 霜降り肉を好む 世帯は38.1%で、 その理由は 「おいしいから」 が92.9%となっている。 今後、 どちらを多く購入したいかについては、 「どちらとも言えない」 が42. 4%と最も多いが、次いで赤身肉の38.5%、 霜降り肉の19.1%である。こ れを家事担当者の年齢別に見ると、 赤身肉志向は高齢者ほど高く、 逆に霜降り肉 志向は若齢者ほど高いのが注目される (図6) 。 ◇図6:赤身肉と霜降り肉の今後の購入意向◇
次に、 牛肉を使った夕食メニューの出現頻度を見てみる。 夏場は焼き肉が多く、 冬場はすき焼きが多いのが特徴だが、 6月の調査で比較すると、 家庭での牛肉消 費の増加の中で、 メニューの出現頻度に、 近年は大きな変化はない。 (図7) ◇図7:牛肉を使った夕食メニューの出現頻度の推移(6月調査)◇ 輸入自由化当初、 伸びが期待されていたステーキの出現頻度は、 大きな変化を 見せておらず、 日本の家庭での普及の難しさを表している。 その中で、 「しゃぶ しゃぶ」 と 「肉じゃが」 が増加傾向にある。 「しゃぶしゃぶ」 は、 夏のメニュー として、 「冷しゃぶ」 が提案され、 流行となった。 今後の家庭での牛肉消費をどのように刺激するかを考えるとき、 上記の消費者 の牛肉に対するイメージである 「おいしく、 品質が良く、 安全で、 安い牛肉」 の 実現は、 勿論であるが、 新たな料理メニューの提案も、 消費増加の大きなきっか けになることと思われる。