★農林水産省から 

国産高品質鶏肉の生産について

畜産局家畜生産課 畜産専門指導官 小林 一郎



1 はじめに


 今回は、 国産高品質鶏肉の生産について、 特に、 地鶏等の在来鶏を活用した鶏
肉生産を中心に述べていくことにします。 ここであらかじめ断っておかなければ
ならないことですが、 ご存知の様に 「地鶏」 の公式的な定義はなされておりませ
ん。 従って、 これから便宜上、  「地鶏等」 と表現するものは、 在来鶏を活用した
鶏肉生産全般に用いることとします。 また、 従来のブロイラー飼養方式とは異な
り、 肉専用種を特別な飼養方式 (例えば、 飼養期間を長くする、 飼料の成分をか
えるなど) による鶏肉生産については、  「銘柄鶏」 という表現を用いることとし
ます。 


2 鶏肉をめぐる最近の情勢


● 概 要

 鶏肉需要は、 多少の増減はあるものの、 一貫して増加傾向を示しています。 家
計消費は、 ほぼ横這い傾向で推移していますが、 レストラン等への業務向け、 加
工向けの需要が近年増加傾向で推移しています。 

 一方、 供給面を見ますと、 国内生産は、 昭和62年度をピークに、 近年減少傾
向を示しており、 逆に輸入品は、 業務・加工向け需要の増加を背景に増加傾向で
推移してきています。 特に、 最近の傾向として、 輸入品については、 焼き鳥、 チ
キンナゲット、 唐揚げ等加工度の高い調製品が急増してきています。 

● 輸入の状況

 ご承知のように、 鶏肉の対日主要輸出国は、 タイ、 中国、 アメリカ、 ブラジル
であり、 この4カ国で全体のほぼ98%を占めています (平成8年度) 。 最近の
傾向としては、 数年前まで数量的にトップであったタイが減少し、 代わって中国
がトップを占めるようになってきました。 聞くところによると、 これは、 タイの
人件費等が上昇したため、 人件費が安いといわれている中国に生産が移ったから
といわれています。 しかし、 タイからの輸入は、 調製品を含まない鶏肉でこそ減
少していますが、 加工度の高い調製品は増加しています。 

 中国からの輸入は、 かつて、 むね肉ともも肉のセット販売でしたが、 最近では
ももだけでの輸入が行われるようになって急速に増加しています。 また、 高速船
による輸送が開始されたことにより、 チルドの形態でも入ってきており、 国内の
フレッシュもも肉の市場への影響が懸念されています。 


3  「地鶏等」 をめぐる最近の情勢


● 消費動向

 近年、 マスコミなどで 「地鶏ブーム」 といわれるように、 鶏種、 飼養方法、 飼
料等に特徴を付けた、 いわゆる 「地鶏等」 や 「銘柄鶏」 から生産された鶏肉が増
加してきています。 

 テレビや雑誌などで 「おいしい鶏肉」 として 「地鶏等」 が取上げられており、 
名古屋コーチン、 比内鶏、 薩摩鶏などは、 すでに全国的に知れ渡っているといっ
ても過言ではありません。 

 鶏肉は、 かつて 「安価」 で 「新鮮」 で 「健康的」 という面を強調して販売され
てきました。 しかしながら、 消費者は、 多少高価であっても 「より安全で自然に
近い形で飼養された鶏肉」 、  「旨い鶏肉」 などを求めるようになり、 流通業者も
これに対応し、 名古屋コーチンなど 「地鶏等」 の取扱いを増やし始めました。 

 生産サイドとしても「地鶏等」 の生産の取組みを進めてきましたが、 純粋な「地
鶏等」 をつくろうとすると、 種鶏の繁殖性が低い、 出荷までの肥育日数が長くか
かる等から生産量の確保が難しく、 コスト的にも割高となり、 ブロイラー価格の
倍以上の値でないとコストを回収し切れないようになってしまいます。 こうした
繁殖性や肥育日数の問題とコスト問題を解消すべく、 都道府県の試験場等では、 
雄系に在来種、 雌系に肉専用種を用いる等によって肥育日数を短縮するなど、 新
たな 「地鶏等」 の生産に取組みました。 この結果、 ブロイラーの価格に近い 「地
鶏等」 の鶏肉が提供されるようになってきています。 

 また、 最近では、 消費者の安全性に対する関心が高いことから、 デパート、 大
手スーパー等の大型小売店舗では、  「生産者の顔が見える鶏肉」 を供給するため
に、 こうした 「地鶏等」 や 「銘柄鶏」 への指向を強めていると聞いています。 

● 生産動向

 家畜生産課では、 平成4年及び8年を対象年とした 「特定銘柄鶏卵・鶏肉及び
特用家畜の生産流通実態調査」 を都道府県を通じて行いました。 同調査は、  「地
鶏等」 のみならず、  「銘柄鶏」 も対象としていますが、 鶏肉については8年調査
では99銘柄となっています。 同調査は、 全ての生産者を対象としたものではな
いことから必ずしも全体像を反映しておらず単純に比べることは出来ませんが、 
あえて比較すると、 4年調査より17銘柄増加しており、 アイテム数として増加
傾向にあると言えます。 また、 飼養羽数についても、 4年調査が4,000千羽、 
8年調査が15, 094千羽であり、 増加傾向にあると言えます。 

 また、 農林水産省統計情報部の 「畜産物流通統計」 には、 「その他肉用鶏(地鶏) 
の出荷羽数」 があり、 平成5年から調査されていますが、 年々大きな伸びを示し
ています。 


4  「地鶏」 等の定義


●  「地鶏」 とは

 ご承知のとおり、 現在、  「地鶏」 の公式的な定義はありません。 しかしながら、 
多くの事例を参考に分類すると、 概ね次の3点に分類できます。 

 第1は、 広義のもので 「ある特定された地域で飼っている鶏」 のことをいう場
合です。 いわゆる 「地魚」 、  「地酒」 に近い用法で、 この場合、 鶏種には特に拘
束はありませんが、 平飼いで飼養されたものや 「銘柄鶏」 が多いようです。 

 第2は、 狭義のもので 「ある地域で飼っていた地域固有の鶏 (在来鶏) 」 のこ
とをいう場合です。 薩摩鶏、 比内鶏、 名古屋コーチンなどに代表されるもので、 
この場合、 地域的な拘束はなく、 どこで生産されても 「地鶏」 の扱いとされます。 
また、  「名古屋コーチン」 のように鶏種の名称を銘柄とするものが多いようです。  
(さらに、 天然記念物のうち「地鶏」 といわれるものがいますが、 これは、 鶏種、 
地域とも限定され更に範囲が狭められます。 ) 

 第3は、 第1と第2の中間的のものであり、  「ある地域で飼っている在来鶏を
用いて作出された鶏」 のことをいう場合で、 現在の 「地鶏」 の多くがこのタイプ
です。 

 現在、  「地鶏」 等の銘柄を付して販売されているものはこのいずれかに分類さ
れるものと考えられます。 

● 消費者が望む 「地鶏等」 とは?

 では、 消費者は、  「地鶏等」 に対してなにを望んでいるのでしょうか。 

 この問に明確に回答するだけのバックデータは持ち合せていませんが、 流通に
携わる方々などの話しを総合すると、 概ね次の3点が望まれているように感じら
れます。 

 第一に 「安全」 という点です。  「地鶏等」 のみならず、 最近では全ての食品に
対して消費者の安全に対する関心は高まってきています。 消費者は、 <生産現場
の見える商品>を望んでおり、 こうした背景が 「地鶏等」 や 「銘柄鶏」 の増加に
つながっているものと推察できます。 現在では、 更に 「健康」 という点も加わり、 
今後は 「安全」 で 「健康」 的な商品が一層求められていくものと思われます。 

 第二に 「味」 という点です。 当然のことながら、 消費者は、  「地鶏等」 はおい
しいものだと考えています。 そういう意味では、 普通の鶏肉とは違う何か (味?) 
が、 消費者に分かるものであることが重要です。 

 第三に 「価格」 という点です。 たとえ 「安全」 で 「味」 が良くとも、 高価過ぎ
れば消費者には購入してもらえないでしょう。 消費者の値頃感の問題ですが、 や
はり消費者心理としては、「安全」 で 「味」 が良く、 かつ、 納得のいく 「価格」 を
求めています。 

●  「地鶏等」 の定義の策定

 近年、  「地鶏等」 の定義を策定しようとする取組みが行われてきています。 

 食鳥処理場、 荷受会社、 小売業者等を会員とする社団法人日本食鳥協会では、 
平成4年以降、 「地鶏等」 の定義を策定するために検討を続けており、 「地鶏」 と 
「銘柄鶏」 とに分けて表示することとしました。 「地鶏」 は、 在来鶏の血が入って
いるもので、  「銘柄鶏」 は、 肉専用種を通常の飼養方法 (飼料内容、 出荷日齢等) 
とは異なった特徴ある方法で飼養したものとしています。 

 また、 農林水産省は、 現在、 特定JAS規格として 「地鶏」の規格設定に向けて検
討を行っているところであり、 この規格に合ったものは特定 JASマークを付けて
「地鶏」 として販売することができるようになります。 本年度中には、概ね方針が
固まる予定となっています。 

 (注) 特定JAS規格とは、 「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律 
(昭和25年法律第175号)」 の改正により新たに追加された生産方法又は特色
ある使用原材料に着目した規格。 


5 新たな改良への取組み


● 鶏の改良増殖目標

 農林水産省は、 平成9年1月、 平成17年を目標年度とした 「鶏の改良増殖目
標」 を公表したところです。 

 この目標では、 それ以前に公表された目標を引継いだ形で、 鶏の経済形質の向
上を図っていくこととしていますが、 新たに、 環境との調和、 衛生管理の徹底と
いった、 改良された遺伝能力を十分に発揮できる環境を確保することが必要であ
るとしたほか、 特に肉用鶏については、 それまでの目標では触れられていなかっ
た新たな取組みについて取上げています。 

 肉用鶏のタイプを3つにわけ、 (1)いわゆるブロイラータイプは、 腹腔内脂肪
量の減少を図りながら産肉性の向上に努めることとし、 (2)特徴ある飼養方式に
よる肉専用種タイプは、 特徴ある肉質を有する系統を活用するとともに、 飼養管
理の改善により肉質の向上に努めることとし、 最後の(3)在来鶏を活用したタイ
プは、 在来鶏を活用した実用鶏の普及・定着化に努めることとして、 取組みを進
めることとしています。 

● 都道府県における取組み

 都道府県では、 養鶏試験場や畜産試験場を中心に、 地域の活性化を図るための
作目として、  「地鶏等」 の生産に取組んできています。 秋田県の 「比内地鶏」 、 
茨城県の 「奥久慈シャモ」 、 東京都の 「東京シャモ」 、 静岡県の 「駿河若シャモ」 、 
愛知県の 「名古屋コーチン」 、 岐阜県の「奥美濃古地鶏」 、 徳島県の「阿波尾どり」 、 
香川県の 「讃岐コーチン」 、 高知県の 「土佐ジロー」 、 福岡県の 「はかた地どり」 、 
鹿児島県の 「薩摩若シャモ」 などが比較的古くから 「地鶏等」 を活用した取組み
を行っていますが、 近年、 他の多くの府県においても、 新たな 「地鶏等」 の生産
へ向けての取組みが行われています。 


6  「地鶏等」 の生産への取組み


●  「地鶏等」 の生産体系の高位平準化

 現在、 都道府県等が「地鶏等」の生産への取組みを進めているところですが、 一
部を除き、 試行錯誤の段階を抜け切れてはいません。 これは、  「地鶏等」 には、 
繁殖性が低い、 闘争性が高い等従来の肉用鶏とは異なる 「地鶏等」 ゆえの多くの
問題点があり、 この解決策を模索しているからと考えられます。 

 社団法人日本養鶏協会では、 平成9年度から4年間かけて、 このような 「地鶏
等」 であるがゆえの問題点を解決するために、 在来鶏の種鶏管理技術の体系化、 
地域生産集団の生産技術の高位平準化を図るための調査研究を行い、 マニュアル
化する事業を実施することとしています。 

● 具体的な取組みの方向性

 では、 具体的にはどのように取組んだらよいのでしょうか。 その一例を次にあ
げておきました。 必ずしもこれでなければならないというのではなく、 事業に取
組む方々に話を聞いて自分なりに気がついたことを記載したものであり、 この部
分は私見であることをご理解の上お読みください。 

  「生産者は生産するだけでいい。 販売は流通業者がやってくれる」 という時代
は終わりました。 生産者も、 消費・流通ニーズを把握し、 生産・販売のための戦
略をたて、 自らの努力により生産を行っていくことが必要となっています。 特に 
「地鶏等」 については、戦略抜きに生産していては、 消費者に受入れられないでし
ょう。 

 まず、 需要のターゲットを絞り込むことが必要です。 地域の観光施設等で提供
していくのか、 地方都市向けに供給するのか、 特定の小売業者と提携して大消費
地に供給するのか、 それぞれによって生産販売戦略の立て方も異なってきます。 

 次に、  「地鶏等」 のストーリー性、 イメージを構築します。 ややもするとイメ
ージが先行し過ぎて生産物自体がおろそかになっている場合が見受けられます。 
一般に 「地鶏等」 は、  「旨い」 とされていますが、 飲食店等を含めた広い意味で
の消費者に、 一般鶏肉との差がある程度分かるものである必要があります。  「銘
柄」 の 「イメージ」 のみでは定着は難しいでしょう。 

 更に実際の生産計画の策定になります。  「地鶏等」 の生産の主体は、 中小規模
の生産農家が担っています。 従って、 定時定量の出荷が困難であったり、 季節需
要に対応できず、 不需要期に生産したものを凍結して必要に応じて出荷するので
はなく、 地域的なローテーションを組んで積極的に需要に応じた生産を行うこと
が必要でしょう。 


7 今後の鶏肉生産の方向


● 鶏肉生産の方向

 平成17年度を目標とした 「農産物の需要と生産の長期見通し」 では、 鶏肉の
生産量は、 年率0.5%増となっていますが、 このためには、 もてる力を最大限
発揮することが必要としています。 

 鶏肉の場合、 国内生産は、 輸入との競合関係が今後とも続くものと考えられま
すが、 国内生産を維持していくためには、 日本独特の消費・流通ニーズに適した
鶏肉を供給することが重要です。 更に、 輸入品との差別化がより一層必要になっ
てきます。 今までは、  「フレッシュ」 という特性を最大限に活かしていればよか
ったのですが、 これからは、 輸送技術の高度化等による輸入品の品質向上に対抗
するためにも、 プラスアルファが必要となります。 私には、 このプラスアルファ
が何であるか、 まだ分かりませんが、 今後の鶏肉生産の方向性は、 次のように2
極化されていくものではないでしょうか。 

 一つは、 更にコスト削減を推し進め、 加工、 業務用として輸入品と対抗して行
けるタイプ、 もう一つは、 輸入品と差別化した付加価値の高い商品を供給してい
くタイプです。 

 また、 消費者は、 安全性について、 国産品に対する信頼があり、 これを、 更に
確固たるものとして、 生産段階から販売まで消費者も納得するような安全性の管
理を行っていくことが重要となるでしょう。 

● 付加価値の落とし穴

 最後に、 お断りしておきたいことがあります。 先ほどから 「付加価値」 という
言葉を使っていますが、 付加価値を構成する要素の中には 「希少価値」 が含まれ
ています。 現在、  「地鶏等」 の流通量は10%程度といわれていますが、 流通量
が増えれば増えるほど、 単に 「地鶏等」 というだけでは 「希少価値」 の部分が失
われてしまいます。 

 これに対応するためには、 生産を行うに当たって、 プラスアルファの付加価値
を付ける、 あるいはコスト面での対応を可能にするなど、 対策を事前に立ててお
く事が必要と考えられます。 


8 おわりに


 以上、 国産高品質鶏肉の状況と問題点等について、  「地鶏等」 を中心に述べて
きました。  「地鶏等」 だけでなく 「銘柄鶏」 や一般的な鶏肉の生産に対しても言
えることですが、 ニーズに即した鶏肉生産が行われることが重要となります。 

 今後、 益々、  「安全」 で 「旨い」 ものを納得できる 「価格」 で供給していくこ
とが消費者から要求されるでしょうが、 鶏肉の生産・流通に携わる方々が、 さら
なるご努力を傾注され、 21世紀の我が国食生活の安定に鶏肉がその一翼を担っ
ていくことを期待しています。



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