◎今月の話題


変化する食肉の需要構造と輸入

日本食肉輸出入協会 会 長 中山 知行









消費構造の変化に適応した輸入食肉

 わが国の食肉輸入は、 1990年代に入り、 国境措置の変更、 物流の国際化と
共に内外価格差を武器として急速に増大した。 1996年の輸入量は、 牛肉63
万トン、 豚肉65万トン、 鶏肉は56万トンを記録し、 これに羊肉、 馬肉、 内臓
肉、 調製品を合わせた食肉総輸入量は、 200万トンの大台を超えるまでに至っ
ており、 試算では、 食肉の総自給率はすでに40%程度になっていると思われる。 

 食肉輸入の急速な拡大の要因としては、 その価格的魅力と規格の均質性などの
使い勝手の良さが評価され、 大手量販店あるいはファミリーレストラン等の業務
用として積極的に取り入れられたことがある。 

 輸入食肉はテーブルミートは勿論として、 その価格競争力と定時・定量・定規
格での供給が可能であるという特性から、 ファミリーレストラン、 ファーストフ
ード等業務用あるいはハム・ソーセージ、 冷凍食品等加工用食材としても高い評
価を得ている。 最近では総菜、 持ち帰り弁当等中食業界においても輸入肉メニュ
ーが積極的に取り入れられ、 幅広くわが国食品産業全般に行き渡っている。 

 このように輸入食肉は、 消費構造の変化、 食生活の多様化が進む中で、 加工・
流通形態の大型化、 低コスト化への対応が求められていた食品産業界のニーズに
沿うかたちで急テンポにシェアを伸ばし、 いまや国内の食肉需給安定に不可欠な
ものとなると共に、 その動向は国内の食肉市況に大きなインパクトを与える存在
となっている。 



変化する食肉需要構造

 さて、 食肉輸入は今後も増大傾向を続けていくのであろうか、 別の言い方をす
るなら、 総食肉需要は今後も増えるのであろうか、 このことは食肉業界関係者の
誰もが関心をもっているところである。 

 わが国の経済がバブル崩壊の後遺症から長期にわたり低迷を続ける中で、 国民
の消費性向も縮小傾向をみせ、 かつての価格破壊がもたらした大量消費から一転
し、 生活の豊かさを実感できる、 より質の高いものを、 必要に応じて購買すると
いう堅実な成熟市場型の消費パターンへと変化している。 一般消費者に最も身近
なタンパク源である食肉の消費についても既に2年ほど前からその傾向がみられ、 
オイルショックの時を除き、 戦後初めて経験する価格よりあるいは量より、 質を
求める動きがはっきりしてきている。 

 このように量の限界が見えてきつつある中で昨年発生したBSE(いわゆる狂牛病) 、 
あるいはO−157による集団食中毒などの事件は、消費者に大きなショックを与
え、 食肉消費を必要以上に減退させる結果となった。 

 このため、 特にチルドビーフについては需要減退から輸入が大幅に減少し、 昨
年の牛肉輸入量は輸入自由化された1991年以来初めて、 前年実績を下回る結
果となっている。 今年に入り牛肉の消費はやや持ち直してきた感があるものの、 
輸入は引き続きかなり低い水準で推移しているというのが現状である。 

 豚肉の輸入についてもSG発動やら、 台湾での口蹄疫発生等、 種々の不測の事態
があったが、 総じて言えば需要が頭打ちとなり、 今年度の輸入量は昨年を大幅に
下回り、 一昨年のレベルに落ち着く可能性が高い。 また、 鶏肉の輸入も昨年を相
当下回ることが確実である。 

 以上概観したとおり、 最近の食肉需給動向は、 国内も生産が引き続き減少、 な
いし、 横ばい傾向をたどる中で、 輸入についても牛肉、 豚肉、 鶏肉ともに減少を
みせるなど、 総供給量は前年を下回り、 低い水準になっているにもかかわらず、 
市況は弱含みの展開を続けている。 食肉需要は全般に縮小傾向に転じつつあるの
だろうか。 特に一般消費者と密接なテーブルミートについては、 牛肉、 豚肉、 鶏
肉ともに、 消費の減退傾向が現れている。 

 これら消費低迷の背景としては、 国内経済が低迷を続ける中で、 消費税率アッ
プ、 将来に対する自己防衛等が大きく影響していることは異論のないところであ
るが、 まず、 わが国の食肉需要構造が大きな変化を起こしていると考えるべきで
ある。 すなわち、 わが国は既に欧米型の成熟社会に到達し、 食肉消費も飽和状態
に達したと考えるべきではないか。 同時に、 健康志向を強める消費ニーズへの対
応が今後の大きな課題となるだろう。 



安定的な食肉輸入を

 わが国の食肉需要構造は大きな転機を迎えていることは確かであり、 消費者の
安全志向が高まる中で、 定時・定量で安定的に秩序正しく生産・加工・流通・消
費が連携協力した新しい需給構造を確立することが望まれる。 今後の食肉輸入に
あたっては、 これまでの右肩上がりの需要拡大を前提にした単なる量の確保や投
機に走ることなく、 価格面、 品質面においても需要者の多様なニーズに応えられ
る体制を確保し、 安定的に秩序正しく行うことが重要である。 そうする中で自ず
と国産品、 輸入品の棲み分けが可能となり、 ひいては国内の需給安定にも貢献で
きるものと考える次第である。 


なかやま ともゆき

 昭和46年丸紅飯田 (株) (現:丸紅(株) ) 入社、 畜産部畜産第一課長、 丸紅
豪州会社食料部長を経て、 平成6年4月から丸紅 (株) 畜産部長、 現在に至る、 
平成8年9月日本食肉輸出入協会会長に就任


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