★調査・報告 

−平成8年度需要開発調査研究事業から− 各種食肉消費と年齢:コーホート分析 (概要)

代表者 森   宏 (専修大学) W.D.Gorman (ニューメキシコ州立大学) 稲葉 敏夫 (早稲田大学) 石橋喜美子 (農業総合研究所) 田中 正光 (前駒沢大学)



はじめに


 現代の子供・若者は魚を余り食べず、 食肉に傾斜しているのは、 身の廻りの観
察からもほぼ真実に近い。 また、 飲物について、 年配の人は緑茶をのみ、 子供や
若い人達はコーク類を好んで飲んでいる。 

 しかし、 若い人達が次第に年をとって中年・高年になっていくに従い (本稿で
は加齢と呼ぶ)、1)現在の中・高年層のように肉類は敬遠し魚を余計に食べるよう
になる。 また飲物もコーク類から緑茶に移っていくのであろうか。 あるいは、 2)
子供・青年期に形成された飲食の習性は加齢に拘わらず維持され (これを 「コー
ホート効果」 と呼ぶ)、現在の10代〜20代の人達は20世紀初頭に30〜40
代になっても、 相変わらず魚は余りとらず肉類中心の食形態にとどまるのであろ
うか。 もし後者とすれば、 今後わが国の人口構成が、 若年層が薄く中・高年層が
厚くなるに従い、 全体としての魚消費は減り、 食肉の消費はなお増加し続けるこ
とになる。 逆に前者、 すなわち現在の若年層も加齢と共に魚に移っていくとすれ
ば、 全体の食肉消費は昭和50年以降の果物消費にみられたように目立って減少
するかもしれない (参考文献4)。 

 本研究では総務庁統計局による 『家計調査』 に基づき、 食肉類及びそれと競
合する魚介類の家計内消費を、 家計を構成する世帯員個々の年齢階級別に、 デー
タ的にさかのぼれる昭和54年 (1979年) から現在までの16年間について
推計する (1部、 今回は割愛)。 次に総務庁統計局の 『家計調査』の個票データ 
(各年約9万6千世帯)に基づき、 昭和57年及び58年 (1982・1983年)、 
さらに10年後の平成4年及び5年 (1992・1993年) の4カ年について、 
同じように世帯個々の年齢階級別の消費を推計する (2部)。 

 いずれの推計結果も、 これまで試みられなかった新しい分析手法によるもので、 
十分完成されたものとはいえない。 今後改善を加えることにより、 先にのべたわ
が国の食肉消費における加齢とコーホート効果を計量的に識別することが可能に
なることが期待される。 

1部 世帯員構成からの食肉消費の推計

(割愛) 

2部  『家計調査』 個票を用いた推計


 総務庁の 『家計調査』 の個票からそれぞれの世帯の構成員の年齢と、 その世
帯で購入した品目ごとの購入数量がデータとして得られる。 食料品は普通一つの
世帯でまとめて購入し、 調理して食卓に出されるものなので、 構成員の一人一人
がどれだけ消費したのかを直接知ることはできない。 しかし、 下記に示す森島教
授によって開発されたモデルを用いると、 間接的ながら世帯員個々の年齢階層別
消費量を推計することができる。 

 分析に使用したデータは、 全国を対象とした 『家計調査』 の1982年 (各
月約8,000世帯、 年間延べ約96,000世帯)、 1983年 (同上)と、 1
0年後の1992年 (同上)、1993年 (同上) の4年分である。 ただし、 家計
調査』 では農林漁業を営む世帯及び単身世帯を除外している。 また、世帯での購
入数量はすべて消費されたものとみなした。 

● 推定方法

 森島 (参考文献2,3) は、 年齢階層別に食料品の消費量を推定しており、 こ
こでは森島の手法により、 下記の回帰式モデルを適用した。 
ある品目の世帯ごとの1カ月間の購入数量をQ、 ある世帯での (0−4,5−9,
10−14,………という5歳きざみの) n年齢階層に属する世帯構成員の人数
をan、 n年齢階層に属する世帯構成員の1人当たり1カ月間のその品目の消費
量をXnで示すと、 その品目の世帯ごとの1カ月間の購入数量Qは、 次式のよう
に表される。 

Q=a1X1+a2X2+……+anXn
 =ΣanXn

 このような式が各年について世帯の数だけ (約96,000本) 得られる。 そ
れらに対し重回帰分析を行い、 年齢階層別消費量 (Xn) を推定した。 上述のよ
うに年齢を5歳きざみの年齢階層別とし、 70歳以上は一つの階層にまとめたの
で、 独立変数の数は、 15となった。 これらの計算は、 農林水産研究計算センタ
ーのSAS (統計的データ解析システム) を利用して行った。 

 例をあげれば、 35歳の夫と30歳の妻に5歳の子供がいる3人家族の世帯で、 
1カ月に牛肉を500cc購入したとすると、 

500=1・X2+1・X7+1・X8

という式が得られる。 X2、 X7、 X8は、 それぞれ5歳の子供、30歳の妻、3
5歳の夫が1カ月間に消費する牛肉の量である。 年齢階層を5歳きざみにしてい
るので、 X2は5歳から9歳まで、 X7は30歳から34歳まで、 X8は35歳
から39歳までの人が1か月間に消費する量を表している。 もし、 この世帯が7
歳の子供もいる4人家族で、 購入量は同じく500ccとすれば式は、 

500=2・X2+1・X7+1・X8

となる。 これらの式から未知数のX1〜X15を推定することになる。 

● 家庭内での畜産物消費構造の変化

 年齢階層別に求めた個人の家計内食肉消費量の推計結果を図に示した。 左側の
3つの図は1982年と1983年について上から牛肉、 豚肉、 鶏肉の年齢階層
別消費量の推定値を示した。 右側の3つの図は、 10年後の1992年と199
3年の同じく牛・豚・鶏肉の年齢階層別消費量の推定値である。 

図1:年齢階層別消費量の変化(牛肉1982〜1983年)

図2:年齢階層別消費量の変化(牛肉1992〜1993年)

図3:年齢階層別消費量の変化(豚肉1982〜1983年)

図4:年齢階層別消費量の変化(豚肉1992〜1993年)

図5:年齢階層別消費量の変化(鶏肉1982〜1983年)

図6:年齢階層別消費量の変化(鶏肉1992〜1993年)

 まず、 左側の1982年と1983年の結果についてみると、 牛肉消費パター
ンは、 豚肉や鶏肉とは明らかに異なっていることがわかる。 豚肉と鶏肉は10歳
代の消費量が極端に多いのに対して、 牛肉のみは30歳代から50歳代にかけて
の年齢で消費量が多くなっている。 これは豚肉や鶏肉が育ち盛りの子供のたんぱ
く源としての意味を持つのに対して、 牛肉はこれと異なる性格を有していたもの
と考えられる。 それは牛肉が相対的に高価であったこともあり、 贅沢品として大
人の食べ物という位置付けがなされていたのではないかと推察される。 考えられ
ることは、 子供のいる世帯では牛肉よりも豚肉を多く購入することにより、 大人
も含めて牛肉の消費量が少なく、 子供のいない世帯では比較的、 牛肉を多く購入
するという実態があるのかもしれない。 そういう購入実態が約10万世帯という
多数の世帯全体を通した年齢別の解析結果として表れたものといえる。 

 ところが10年後の1992、 1993年の時点でみると (図の右側)、牛肉の
年齢階層別消費パターンは様変わりし、 豚肉や鶏肉と類似したものとなっている。 
40歳から60歳代の階層においても牛肉消費量はこの10年間で増加している
が、 10歳代の増加はめざましく、 1993年には40・50歳代の消費量とほ
とんど変わらなくなっている。 この間豚肉と鶏肉は、 10歳代の消費が突出する
という基本的なパターンに変化はなく、 両者に共通する変化としては、 20・3
0歳代での落ち込みが大きくなったことである。 牛肉の消費パターンの変化は、 
牛肉が成長期の子供のたんぱく源として利用されてきていることを意味するもの
ではないだろうか。 それは近年牛肉価格が低下したことにより、 食べ盛りの子供
に満足させるだけの量として購入しやすくなったということであろう。 低価格の
輸入牛肉の消費量増加と、 それに伴い価格の低下した国産牛肉の消費量増加によ
り、 図に示したような家計内消費構造の変化をもたらしたものと考えられる。 

 世帯の年間収入と牛肉の購入数量の関係をみるため、 1983年と1993年
の 『家計調査年報』 を使用し、 年間収入五分位階級のクロスセクションデータ
から消費支出弾力性を求めると、 牛肉が1983年の0.83から1993年の
0.61へ変化し、 このことからも牛肉の贅沢品としての度合いが弱まっている
といえる。 この間、 豚肉は0.39から0.36へ、 鶏肉は0.27から0.1
1へそれぞれ変化している。 

● 外食及び加工用需要との関連

 1982・83年と1992・93年の比較において豚肉と鶏肉について20
歳から30歳代の消費量の若干の低下が指摘できるが、 1992・93年の時点
の牛肉でもこの年齢層での消費量の相対的落ち込みが観察される。 近年の外食需
要の増加及びこの年齢層での生活様式などから判断して、 食肉の家計内消費の2
0歳から30歳代における落ち込みは外食によるものではないかと推察される。 
うるち米について同様の分析を行った結果でも、 この年齢層で落ち込みが認めら
れる (参考文献1) ことから、 外食により20歳から30歳代の家計内消費が減
少していることを示すものと判断される。 

参考文献 (アイウエオ順) 

 [1] Kimiko Ishibashi: "Changes in Japanese Dietary Patterns by Age",
      The Second Asian Society of Agricultural Economists Conference.
   (講演要旨)(1996)
 
 [2] 森島 賢:「食料需要の動向」、 『農業経済研究』、 第56巻、 第2号、 p.
        63−69 (1984). 

 [3] 森島 賢:[世代別畜産物需要の動向]、 『畜産物の需要動向分析1.』農
        政調査委員会、 p.9−38 (1984) 

 [4] 森  宏、 稲葉敏夫 「果物消費の停滞と年齢要因」 『専修大学社会科学研
   究所月報』 No.399.1996.9.20


 本報告は、 平成8年度に委託実施した調査研究報告の概要を編集部でまとめた
ものです。 

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い。

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