◎地域便り


耕作放棄地を放牧に利用

農畜産業振興事業団/安井 護


運動で抜群の繁殖成績

 「特に大したことはしていない。 朝晩、 牛をよく見ていることと、運動させてい
ることかな」 というのは、 福島県安達郡白沢村で黒毛和種母牛20頭 (育成牛含
む。) を飼う大内武幸 (53歳)さん。 しかし、 平均種付け回数1.35回、 平均
初産月齢24.1カ月、 そして平均分娩間隔353日と抜群の繁殖成績を実現し
ている。 その秘訣は、 牛舎横のパドック (30a) と裏山 (70a) を利用し、 
毎日、 午後、 運動させ、 母牛を健康に管理していることにあるようだ。 

 白沢村は、 福島市の南約30km、 阿武隈高地が迫る、 コメを中心とした農業
地帯である。 以前は、 養蚕が盛んであったが、 今では経営する人は少なくなって
いる。 そこで、大内さんは、 今年から、 耕作放棄された近所の桑園2.5ha(借
地) を利用し、 種付けの終わった母牛5頭を昼夜放牧している。 施設は、 荒れた
桑園の有効利用のため、 村の助成を受けて作った牧さくと簡単な屋根を付けた水
飲み場だけである。 牛は、 伸び放題の桑の葉を上手に食べているが、 5頭の牛が
2.5haの桑の葉を食べ尽くすには相当の時間が必要だろう。 

 大内さんは、 この桑園放牧地を有効に使って、 5年後には母牛30頭への規模
拡大を目指している。 新規の投資は最小限ですみ、 また、 草地管理の手間もいら
ないこの放牧は、 究極の低コスト経営かもしれない。 

和牛改良のリーダーとして

 大内さんは、 福島県団長を務めた今回の全国和牛能力共進会で、 前回の大分全
共で1等賞を受賞した牛 (育種牛) の孫が優等賞 (第6区若雌の3) を受賞する
など、 県の和牛改良のリーダーとして、 名実ともに活躍している。 ちなみに大分
全共に出品した牛は13産し、 平均分娩間隔363日で、 今も元気に活躍してい
る。 

 昭和60年8月には、 県の畜産試験場に協力して県内初のET産子を誕生させ、 
また、 現在、 同試験場の直接検定牛のうちの1頭は、 大内さんが生産したもので
ある。 

 福島県の子取り雌牛飼養頭数は、 28,200頭 (平成8年) と全国第8位だ
が、 小規模経営が多く、 1戸当たりの平均頭数は5.38頭と全国平均8.7頭
を3頭以上、 下回っている。 今後、 他県と同様に小規模経営の経営中止と母牛頭
数の減少が予想される中で、 この地方には、 このような放置された桑園は、 まだ
まだ多く、 畜産分野での有効な利用が待たれる。 使用されていない桑園を管理せ
ず、 長期間放置すると、 病害虫の巣にもなり、 他の農地にも迷惑をかけるので、 
放牧利用は、 一石二鳥の効果がある。 
【放牧を活用して、増頭を目指す大内さん】
【牛舎横のパドックとそれに続く裏山が、
母牛の健康の秘けつ】
【今年から使用されていない桑園で、
放牧を開始】
【牛は、桑の葉を上手に食べていく】

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