長崎県/富永 祥弘
長崎県五島地域は、 肉用牛の主産地として長年全国に名声をとどろかせていた が、 子牛価格の低迷や高齢化から、 飼養戸数は減少している。 また、 五島の農業 は肉用牛・米・葉たばこを3本柱として振興してきたが、 近年、 耕作放棄地等の 未利用地が急増したため、 肉用牛と切干かんしょの転換作物 (じゃがいも、 飼料 作物) の振興を積極的に推進している。 このような中、 肉用牛については、 耕作放棄地等未利用地を利用した放牧を再 評価する動きが活発化している。 今までも、 放牧の利点は十分理解されていたが、 失敗事例も散見されたことから、 放牧に取り組む農家は少なかった。 しかし、 五 島支庁をはじめ関係機関の働きかけもあり、 平成8年度より国庫補助事業である 畜産再編総合対策 「山地畜産確立促進事業」 を足がかりにして、 18.2haの 放牧地を蹄耕法等で造成、 電気牧柵等を導入して、 低コスト生産に向けて畜力利 用の肉用牛繁殖経営にチャレンジしている。 この事業に取り組んだ農家は、 「現在までの飼養管理より随分楽になった。 増 頭する余力ができた。 今後も放牧を利用して経営の安定化を図りたい」 と話して いる。 このような取り組みにより、 放牧地の集積が進み、 点的であった放牧地が 面的に広がれば、 この地域では無理のない増頭が可能である。 今後五島地域での肉用牛生産の再浮揚のためにも、 放牧が地域の牽引力となる ことに期待したい。