◎調査・報告


−平成8年度畜産物需要開発調査研究から− 採卵養鶏の販売戦略と特殊卵流通に関する調査研究 (概要)

東京農業大学 研究代表者 新 井   肇・張   敬 萬




● 調査目的

 UR後の畜産農家の経営戦略は商品差別化、 高付加価値化による収益性の確保
に向かっており、 新製品の開発、 販路開拓への関心が急速に高まっている。 採卵
養鶏業ではいわゆる特殊卵の生産、 販売がそれである。 

 今回の調査研究では主に特殊卵の流通過程に焦点を当て、 次の諸点を明らかに
したい。 

 1) 特殊卵生産農場の経営的性格、 2) 特殊卵の流通段階別価格と収益性、 3) 
特殊卵市場の新しい動向



● 調査方法

(1)  アンケート調査

 8年8月、 採卵養鶏を対象に、 郵送によるアンケート調査を実施した。 送付先
は前年度の 「企業養鶏の経営管理に関する調査 (7年7月) 」 で回答があった6
6戸及び新たに全国の大規模養鶏 (成鶏100千羽以上) 60戸、 計126戸で、 
うち78戸から回答を得た (回収率61. 9%) 。 

 (2)  聞き取り調査

 アンケート調査から特殊卵の生産・流通に特色のある15農場を選定して訪問
し、 聞き取りによる詳細な面接調査を行った。 



● 特殊卵生産農場の経営的性格

 最近の傾向として、 有色卵が主流ではあるが、 白玉の特殊卵も存在するように
なった。 そこで、 卵殻に関係なく、 何らかの付加価値を施し、 普通卵とは異なる
商品としてその差別化を主張し、 独自の商品名、 ブランドを有し、 高価格販売を
指向しているものを特殊卵と定義する。 

 特殊卵をその販売圏に着目して分類すると、 局地市場で展開するローカルブラ
ンド卵と全国的に流通しているナショナルブランド卵に大別できる。 もともと特
殊卵は小規模養鶏場が周辺消費者に直接販売してきた 「地玉子」 が発祥であり、 
ごく狭い範囲で流通していたが、 近年、 全国的に流通する有名ブランドが出現す
るようになった。 広義のナショナルブランド卵には 「ヨード卵」 のように飼料メ
ーカーが開発したものの他に、 スーパーが開発者となり銘柄化したプライベート
卵がある。 

 このように特殊卵には、  「農場ブランド卵」 、  「ナショナルブランド (NB) 
卵」 、  「プライベートブランド (PB) 卵」 の3種類がある。 

 調査対象の78農場について特殊卵の生産割合によって、 経営の性格タイプ分
けを行い、 4つに分類した。 

表1 鶏卵生産の経営別タイプ


 各タイプは規模との関連が強く、 特殊卵のみを生産する経営は小規模に、 特殊
卵の比重の低いタイプは中大規模に多かった。 

 成鶏飼育規模別に鶏卵生産タイプの分布を見ると、 小規模経営30戸中26戸 
(86. 7%) が主に特殊卵を生産するタイプ1、 2に属している。 中大規模は
ほとんどがタイプ3、 4に属し、 普通卵を中心に部分的に特殊卵生産を行ってい
る経営タイプが多いことがわかる。 

 調査農場はランダムにサンプリングされたものではないので、 これをもって全
国的なタイプ別分布であるとすることはできないがおおよその傾向は把握できよ
う。 

 78戸について鶏卵生産量を集計した結果、 特殊卵9.4%、 普通卵90.6
%と、 特殊卵は一定のシェアーを確保している。 この割合は一般にいわれている
特殊卵の生産割合に近いものと推定される。 

 タイプ1は特殊卵、 タイプ4は普通卵がそれぞれ全量を占めている。 タイプ2
の特殊卵生産は全体の75%で、 普通卵が25%を占めている。 最近、 特殊卵生
産に次々と進出しているのはタイプ3の経営群である。 このタイプの特殊卵割合
は今のところ10%強に過ぎないが、 調査からの感触として、 今後は経営数も特
殊卵生産割合も増加するものと思われる。 

表2 年間平均飼養羽数及び鶏卵生産量




● 特殊卵の流通段階別価格と収益性

 鶏卵1kg当たり生産原価について78経営中、 48経営 (61.5%) から
回答を得た。 

 48経営の1kg当たり特殊卵コストは平均265円、 最低170円、 最高6
00円と経営間の差が大きい。 普通卵に比べ特殊卵のコストはいうまでもなく高
いが、 普通卵の平均163円に対し特殊卵は1.6倍高となり、 その格差は歴然
としている。 また、 タイプ別にみると特殊卵のみの経営は併飼している他のタイ
プよりもコストは高く、 普通卵生産の比率が高い経営ほどコストは安くなる傾向
がみられた。 

表3 鶏卵生産タイプ別コストとその内訳

 注:1)特:特殊卵の生産コスト、普:普通卵の生産コスト
   2)「衛生費」:獣医師料、医薬品の合計値。
     「その他」:建物費、農機具費、生産管理費、販売費等の合計値。

 販売単価 (庭先価格) をみると、 特殊卵は普通卵より高く、 もっとも高いのは
タイプ1の454円、 もっとも安いのはタイプ3253円となっている。 この結
果、 総じて特殊卵の方が鶏卵1kg当たりでは普通卵より高い収益性を示してい
る。 

表4 鶏卵1s当たり生産コストと販売単価


表5 販売方法別販売単価


 特殊卵経営は販売単価、 コストともに普通卵経営より高いがその差額 (経常利
益) は普通卵を上回り、 生産物単位当たりでみる限りその収益性は高い。 特殊卵
生産は小規模養鶏に存立できる条件を与えている。 

 鶏卵の販売先を生産タイプ別にみると、 特殊卵に特化したタイプ1は全量小売、 
普通卵に特化したタイプ4は全量卸売となっている。 特殊卵と普通卵を扱うタイ
プ2、 3は卸売とあるのは普通卵、 小売とあるのは特殊卵と解してもよい。 

表6 鶏卵生産タイプ別販売方法・販売先別割合

 注:小売の直売所は農場内の売店を示す。小売の「その他」には共同販売所で
   の販売を含む。タイプVの「その他」には生協、スーパーを含む。タイプ
   Wで「小売」が全くないとしたが従業員等への内販はあるがネグリジブル
   なので無視した。

 タイプ1のような小規模な特殊卵生産農場は、 売店、 自販機、 宅配便といった
労力のかかる販売方法を中心としているのに対し、 大規模で普通卵に特化してい
る比重の高いタイプ3、 4では問屋、 農協、 スーパー等への卸売が多く、 GPセ
ンター (選別包装施設:生産者から集められた鶏卵を重量別に分け、 パック詰め
にする作業を行う集卵場) をもつ経営はそこで販売先の注文に応じたパック詰め
卵を出荷するという対照的な販売方法をとっている。 

 特殊卵の小売価格はブランドにより大幅な格差がある。 その価格差はPB卵、 
NB卵の参入によって一層拡大し、 平均値でみるとNB卵、 PB卵、 農場ブラン
ド卵の順に高く、 とくにNB卵、 PB卵の参入が特殊卵の末端価格を大幅に引き
上げる結果となっている。 

 問題は生産者及び流通各段階の手取りである。 各種ブランドの流通段階別価格
を比較すると、 農場ブランド卵は農場直売の場合415円、 卸売の場合277円
となっており、 平成8年の平均卵価201円 (全農、 Mサイズ) を大幅に上回る
手取りを得ている。 ここに挙げたのは調査農場の平均値であり、 中には小売で8
00円を超えるものもある。 

図1:特殊卵流通段階別価格とマージン(1s当たり)

 ところがPB卵、 NB卵の農家手取りは、 生産方法、 飼料等がやや高いため価
格も普通卵より高く設定されているが、 平均卵価201円を下回るものもあり、 
高い場合でも農場ブランド卵の卸売価格を上回る例はなく、 価格面で大きなメリ
ットは得ていないことがわかる。 農家庭先から小売までの中間マージンは農場ブ
ランド卵の場合、 それ程大きくないが、 PB卵、 ΝB卵はきわめて高額、 高率で、ほ
とんどが農家手取りと同額ないし2倍以上となっている。 

 PB卵、 ΝB卵は農場ブランド卵より農場出荷以降の経路が複雑で、 あるΝB
卵の場合は、 集荷業者 (開発者と提携) が一定のマージンをとって小売店 (多く
はスーパー) に引き渡される。 小売店のマージンも普通卵の推定マージンよりか
なり高く設定されている。 流通業者、 小売店に高いマージンを与え、 販売を促進
するねらいがある。 

 結局、 PB卵、 ΝB卵の生産を受託する中大規模の普通卵重点経営 (生産タイ
プ3) にとっては、 一定量を一定の価格で引き取ってもらえ、 かつその分だけは
販路に不安がないというメリットが残る。 このためΝB卵、 PB卵を受託する場
合も、 自社ブランドをあわせて生産し、 その販路を開拓して独自の販売戦略を展
開しようとするのである。 



● 特殊卵の新しい動向

 近年における特殊卵の製品開発の実態をみると、 後発走者ほど先行商品より新
しいキャッチフレーズが増えている傾向にある。 特殊卵の種類別にその開発戦略
を見ると次のようになる。 

表7 各種のブランド卵の製品開発の戦略


 農場ブランド卵では、 鶏種を褐色鶏に限定し、 1段ないし2段のケージ飼いが
中心のタイプ1と、 最近の中大規模でみられる放し飼い、 平飼い等が新しく加え
られているタイプ3の経営がある。 飼料は自家配合を行いながら、 高価な原料を
使っているところが多い。 また、 作業条件は劣悪でほとんどが手作業によるもの
が多く、 手作り感覚を出そうとしているのが特徴である。 一方、 同じ農場ブラン
ド卵でも大規模では機械化 (給餌、 給水、 集卵等が自動化) した放し飼いや平飼
いといった飼い方で差別化しようとしている。 

 ΝB卵は主に飼料メーカーが先頭に立ち、 開発をすすめている。 とくに荷姿や
包装も重要であるが、 中身で明確に差別化をして付加価値を付けようとしている
のが目立っている。 特徴としては直営農場と契約農場を組合せている事例、 飼料
だけを供給している事例、 特定の成分だけを配合飼料に加えればブランド卵とし
て商標使用権を与える事例等、 その形態は多様である。 ΝB卵の製品開発の特徴
はヨード、 ヨウ素、 ビタミン、 DHΑ等、 栄養素を強調しているものが多い。 

 PB卵はスーパー独自ブランド卵で特殊卵としては新しい部類に属する。 鶏種
にこだわらず、 鮮度を売りものにしているのが多く、それに加え、他の条件は 「き
れいな水」  「飼料として動物性蛋白質を使っていない」 等のユニークなものがあ
る。 農場と直取り引きする場合、 取引条件等をクリアするため、 農場規模が大き
く、 G・Pなどの加工施設で洗卵、 選別、 包装することが求められる。 

 特殊卵の進出は、 万年低卵価の中で高値獲得を目指す養鶏家と、 味、 安全性、 
鮮度等を求める消費者の購買行動の結果もたらされたものであるが、 品質規格の
規制もなく、 イメージ先行の販売戦略によって、 内容の割に消費者はかなり高い
価格を支払う例も見られる。 今後、 特殊卵の需要はさらに増加するものと思われ
るがそのためには、 その商品性のあいまいさや価格形成の不明朗な点を改め、 消
費者の信頼に応える商品に脱皮しなければならない。 

 本報告は平成8年度に委託実施した調査研究報告の概要である。


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