◎今月の話題


モノ余り・多様化時代の牛乳の販売促進

日本チェーンストア協会 常務理事 白 石 吉 平








1リットル200円前後という小売価格をめぐって

  「スーパーの牛乳は長期にわたり1リットル200円前後の水準に張りついて
いる。 他方、 生産者価格は100円前後とコスト割れの水準にあり、 牛乳生産者
は減少傾向にある。 当初は規模拡大効果もあって、 トータルの供給力は維持され
てきたが、 規模拡大も限界に達してきた。 牛乳という生活上欠かせない重要食品
については、 量販店も短期的な需給のみに目を奪われず、 中長期的視点に立って
安定供給が可能な価格設定が考えられないか」 ということで、 数年前、 量販店の
牛乳担当バイヤーと関係者との間で意見交換会が開かれ、 大要以下の議論があっ
た。 

1) 生産者価格100円について

 生産者が大変厳しい立場にあることは認識している。 小売価格は生産者価格の
3倍といわれるので、 生産者価格が100円ならば小売価格は300円位にしな
ければならないが、 消費者には牛乳1リットルは200円前後という認識が焼き
ついていて、 牛乳の業者間取引を厳しくしている。 

2) 小売価格200円前後について

 乳牛の搾乳量は、 涼しい時に増加するが、 消費量は減少し、 暑い時は逆の関係
になる。 需要と供給には、 気象の変化に対し、 常に逆の方向を向くという背反性
があり、 生産者等が不満を持つ200円前後の小売価格は、 涼しい時の実効価格
が平常価格化しているのではないか?需給に背反性があるならば、 涼しい時は安
く、 暑い時は高く値付けされるのが望ましいが、 同じ商品を暑いからといって3
00円、 400円で売れるとは思われないし、 暑い時でも200円前後で売れる
商品がなんとか手に入る。 

3)新商品開発について

 消費者の脳裏に200円前後の価格感が焼きついているならば、 生産者価格を
その3分の1の70円前後に下げられれば問題解決になるが、 それが不可能であ
ることはいうまでもない。 小売価格も生産者価格も動かせないとなると、 残る方
策は、 消費者の価格認識を払拭する新しい商品を開発する以外に解決方法はない
のではないか?



商品開発問題をめぐって

 1リットル200円前後という固定観念を払拭するため新商品開発の必要性を
提案すると、 決まって出てくる反論は、 牛乳とは神様が造られた乳牛のチチをし
ぼって、 そのまま販売する、 いわゆる 「成分無調整牛乳」 であって、 他の食品の
ような差別化はできないとの主張である。 しかし、 乳製品についても腎不全小児
用粉ミルクとしてリン等を抑えた低リンミルクLPKという 「成分調整乳製品」 
が開発され、 これは当初の特定保健用食品から現在では病者用食品として位置づ
けられている。 現在許可済みの特定保健用食品77種には高血圧者用や腸内環境
の良化用の乳酸菌飲料が9種類もある。 

 モノ余り・多様化時代にあっては、 消費者はカロリーやビタミンなどの栄養を
買うというよりも、 食品においしさ、 健康、 安全、 美容など多様な効用を求める
ようになる。 従って、 ニーズを充足するには食品という 「モノ」 だけでなく、 そ
の食品の効用を説明する 「情報 (表示)」 を提供することが肝要であり、最早、 成
分無調整だけでは十分でなく、 消費者ごとの特性に応じて 「科学的根拠に基づい
た成分調整」 がむしろ求められ、 それが商品選択情報として付けられねばならな
いのではないか?



牛乳の宅配をめぐって

 去る6月26日の読売新聞朝刊には 「牛乳宅配復活の兆し」 の見出しで、 減り
続けた牛乳専門店が20年振りに増加に転ずる見通しとの報道があった。 要因と
して1) 共働きや単身者、 独り暮らしの高齢者から宅配要望があること、 2) 脱
サラや定年後に牛乳店を開業するケースが増えていること、 3) 乳業各社が上述
の特定保健用食品をはじめとする多様な宅配専用商品をラインアップしたことが
指摘されている。 

 平成6年の商業統計表 (品目編) によれば、 牛乳の小売販売シェアは、 スーパ
ー、 コンビニなどの各種食料品小売業54. 5%、 牛乳小売業21. 7%、 そ
の他23. 8%である。 スーパーが過半を占めているためか、牛乳の販売網とし
てスーパーを過剰に注視しがちだが、 牛乳や乳製品という個別商品のことだけを
考えて販売する牛乳専門店は、 省力型業態であるスーパーが担えない、 商品開発
シーズの収集・伝達、 濃密・専門的な販売促進の実施、 消費者クレームのフィー
ドバックなどチーム・マーチャンダイジング上、 極めて重要な役割を果たす 「専
属的な流通機構」 である。 需給の特性から商品開発が特に重要な牛乳について、 
生産者や処理業者は牛乳専門店の復活を重視し、 この専属的なチャネルに牛乳に
限らず良質、 多様な商品を開発、 集中させ、 利便性と競争力を強化するべきでな
いか?

しらいし よしひら

 昭和35年4月農林水産省入省、 食品流通局外食産業対策室長、 経済局統計情
報部水産統計課長を経て、 平成元年5月から現職。 

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