◎地域便り


地域内循環型(リサイクル)農業を目指して

埼玉県/佐竹 吉人
はじめに

 北本市は、埼玉県内においても都市化の進展が著しく、農業経営を継続してい
くためには社会状況の変化に対応していく必要に迫られている。混住化が進展す
るなかで、多頭化が進む畜産農家は、ふん尿処理を適切に行い、ふん尿公害の発
生を防止する必要がある。一方、耕種農家には、環境にやさしい農業生産と消費
者に対し安全で高品質な農産物の提供が求められている。これらの問題を解決す
るには、地域の相互関係に基づいた対処方法が効果的であり、現実的ではないだ
ろうか。このため、畜産農家と耕種農家が連携した地域循環型農業を推進し、周
囲の消費者の理解が得られるような取り組みが必要とされている。


北本畜産有機物活用組合

 平成7年の秋頃から、北本市で乳用牛(ホルスタイン種、成牛40頭)を飼養し
ている鯨井牧場では、飼養規模拡大等により牛の尿を処理する能力が不足し、こ
れまでの処理方法では対応できなくなった。

 このため、当初は活性汚泥等の放流式(尿汚水を微生物(汚泥)の働きにより
浄化し、河川に放流可能な濃度まで処理する方法)を検討したが、高価な施設費
ときめ細かな維持管理が必要であるなどの問題が多くあり、対応に困っていた。

 鯨井保さん(71)は、北本市は梨栽培が盛んな地域であることから、尿の処理
水を液肥として農家に使ってもらえないかと考え、市役所を通じて土づくりに関
心を持っていた北本梨組合に相談をしたところ、前向きの返事が得られた。その
後、打ち合わせをかさねた結果、梨農家が処理水を液肥として利用する見込みが
たち、平成 8 年度、酪農家 1 戸(鯨井牧場)と梨農家18戸で北本畜産有機物活
用組合を設立して、液肥化施設(液肥として利用できる程度までに汚水を処理す
る施設)と液肥運搬散布車 1 台、液肥散布車 1 台及び堆肥散布車1台を導入す
る補助事業に取り組んだ。

 組合では、組合長の鯨井さんが飼養している成牛40頭、子牛20頭のふん尿を堆
肥として、牧草地や樹園地27haに施用することにした。


事業の概要

 事業概要は、次のとおり。

 @牧場から排出される尿の処理

 A処理水の利用(液肥として牧草地及び梨園に散布、畜舎の洗浄に利用)

 B堆肥の生産・利用:酪農家が 1 次発酵を担当、 2 次発酵を梨農家が担当し、
  生産した堆肥を利用導入した施設・機械は次のとおり。

 @処理施設(容量 60m3)

   この施設は、自然界の微生物、自然石のミネラル及び水の相互作用によっ
  て家畜の尿等を処理するもので、簡易な尿処理施設であることから、コスト
  がかからず、安く液肥が生産できる。

   具体的には、ふんを分離した後の尿を、多様な土壌菌を含む良質堆肥、花
  崗岩等の岩石及び泥炭等の腐植質を沈めた、連続した5つの貯尿槽に順に導
  き、ブロアーでばっ気し、土壌微生物と岩石から溶け出すミネラルの作用に
  より汚水中の有機物を分解するというもの。この方法によって生産された処
  理液は、生物にとって有益な発酵菌や各種のミネラル等を多く含んでおり、
  畜舎内に散布すれば悪臭が解消され、ふんに散布すれば堆肥化が促進される
  といわれている。また、牧草、野菜、果樹等の肥料として利用できる。

 A液肥運搬散布車(バキュームカー容量1.8m3)、液肥散布車(梨園散布用ス
  ピードスプレイヤー 容量0.5m3) 

   生産された液肥の運搬と草地や畑の散布に用いる。液肥散布車による液肥
  の葉面接散布は、葉からの養分吸収や液肥中の有用微生物による病害虫の防
  除効果があるといわれている。

 B堆肥散布車(マニュアスプレッター積載量 0.8t)

 C堆肥舎


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