埼玉県/佐竹 吉人
はじめに 北本市は、埼玉県内においても都市化の進展が著しく、農業経営を継続してい くためには社会状況の変化に対応していく必要に迫られている。混住化が進展す るなかで、多頭化が進む畜産農家は、ふん尿処理を適切に行い、ふん尿公害の発 生を防止する必要がある。一方、耕種農家には、環境にやさしい農業生産と消費 者に対し安全で高品質な農産物の提供が求められている。これらの問題を解決す るには、地域の相互関係に基づいた対処方法が効果的であり、現実的ではないだ ろうか。このため、畜産農家と耕種農家が連携した地域循環型農業を推進し、周 囲の消費者の理解が得られるような取り組みが必要とされている。 北本畜産有機物活用組合 平成7年の秋頃から、北本市で乳用牛(ホルスタイン種、成牛40頭)を飼養し ている鯨井牧場では、飼養規模拡大等により牛の尿を処理する能力が不足し、こ れまでの処理方法では対応できなくなった。 このため、当初は活性汚泥等の放流式(尿汚水を微生物(汚泥)の働きにより 浄化し、河川に放流可能な濃度まで処理する方法)を検討したが、高価な施設費 ときめ細かな維持管理が必要であるなどの問題が多くあり、対応に困っていた。 鯨井保さん(71)は、北本市は梨栽培が盛んな地域であることから、尿の処理 水を液肥として農家に使ってもらえないかと考え、市役所を通じて土づくりに関 心を持っていた北本梨組合に相談をしたところ、前向きの返事が得られた。その 後、打ち合わせをかさねた結果、梨農家が処理水を液肥として利用する見込みが たち、平成 8 年度、酪農家 1 戸(鯨井牧場)と梨農家18戸で北本畜産有機物活 用組合を設立して、液肥化施設(液肥として利用できる程度までに汚水を処理す る施設)と液肥運搬散布車 1 台、液肥散布車 1 台及び堆肥散布車1台を導入す る補助事業に取り組んだ。 組合では、組合長の鯨井さんが飼養している成牛40頭、子牛20頭のふん尿を堆 肥として、牧草地や樹園地27haに施用することにした。 事業の概要 事業概要は、次のとおり。 @牧場から排出される尿の処理 A処理水の利用(液肥として牧草地及び梨園に散布、畜舎の洗浄に利用) B堆肥の生産・利用:酪農家が 1 次発酵を担当、 2 次発酵を梨農家が担当し、 生産した堆肥を利用導入した施設・機械は次のとおり。 @処理施設(容量 60m3) この施設は、自然界の微生物、自然石のミネラル及び水の相互作用によっ て家畜の尿等を処理するもので、簡易な尿処理施設であることから、コスト がかからず、安く液肥が生産できる。 具体的には、ふんを分離した後の尿を、多様な土壌菌を含む良質堆肥、花 崗岩等の岩石及び泥炭等の腐植質を沈めた、連続した5つの貯尿槽に順に導 き、ブロアーでばっ気し、土壌微生物と岩石から溶け出すミネラルの作用に より汚水中の有機物を分解するというもの。この方法によって生産された処 理液は、生物にとって有益な発酵菌や各種のミネラル等を多く含んでおり、 畜舎内に散布すれば悪臭が解消され、ふんに散布すれば堆肥化が促進される といわれている。また、牧草、野菜、果樹等の肥料として利用できる。 A液肥運搬散布車(バキュームカー容量1.8m3)、液肥散布車(梨園散布用ス ピードスプレイヤー 容量0.5m3) 生産された液肥の運搬と草地や畑の散布に用いる。液肥散布車による液肥 の葉面接散布は、葉からの養分吸収や液肥中の有用微生物による病害虫の防 除効果があるといわれている。 B堆肥散布車(マニュアスプレッター積載量 0.8t) C堆肥舎元のページに戻る