◎地域便り


酪農発祥の地で黒毛和牛生産に取り組む

千葉県/新城 恒二
 千葉県南部の安房地方は、江戸時代に将軍徳川吉宗によりインド産の白牛3頭
が導入され、白牛酪といわれる乳製品を製造したことから「日本酪農発祥の地」と
されており、明治時代から酪農の盛んなところとして全国的に知られている。

 安房地方の酪農家は改良に熱心で、哺育・育成ともに高度な技術を有し、生産
牛は「房州牛」と称され、種畜として高い評価を受けると共に、全国各地に移出
され、基礎牛として乳牛改良の一翼を担ってきた。

 今、その酪農地帯に異変が起きている。乳牛と黒毛和牛が同居している牛舎が
最近増えてきたことである。

 この地方は、乳価の低迷や立地条件の不利(山間地)、経営者の高齢化等によ
り、昭和56年に3,040戸あった酪農家戸数が平成元年には1,640戸に半減、平成8
年には770戸と15年間に 4 分の 1 となってしまった。

 酪農仲間の減少と酪農経営の厳しさに危機感を持った富山町の酪農家8名は、
酪農専業経営では限界があるとの考え方から複合経営への転換を図るべく、「酪
農技術を生かせるもの」、「老齢でも対応できるもの」、「農産物自由化の影響
を受けにくいもの」の3点に適応するものとして、和牛繁殖経営を集団で取り入
れることとし、昭和62年に和牛生産組合(安房農協和牛部会)を組織した。

 昭和63年には先進地から8頭の黒毛繁殖和牛を導入し、繁殖経営を開始した。

 会員は、乳牛の飼養技術に固執せず、和牛の基本的な技術に忠実になることを
モットーとし、県の試験場や肉牛生産農協の指導を仰ぐと共に、受精卵移植技術
等の先進的技術も積極的に取り入れてきた。

 更に仲間を集めることが技術の向上や協力体制の強化になるとの考えから、酪
農仲間に広く参加を呼びかけると共に、研修会・講習会を積極的に開催し、技術
の研さんに励むと共に参加者の技術の平準化を進め、短期間で和牛の生産技術を
獲得するに至った。

 これは、会員の熱心さもさることながら、長年、乳牛の種畜生産で培った種雄
牛選択等の改良手法、高度な哺育・育成技術がベースにあったたまものと考えら
れる。

  8 戸、 8 頭から出発した和牛生産組合は、10年の間に安房地方一円に広まり、
平成10年 3 月には会員61戸、繁殖和牛379頭を数え、会員で約8倍、飼養頭数で
約50倍程度に増加し、千葉県でも有数な和牛生産地に成長するに至った。

 生産子牛は年6回開催される県産和牛市場に出荷・販売されているが、その販
売価格は市場平均を大きく上回っており、市場評価は高いレベルにある。

 定期市場への各戸1頭以上の出荷が課題であるが、当面和牛部会として年間10
0頭の子牛出荷を目標に掲げ、研修会・和牛共進会を開催するなど活発な活動を展
開し、更なる研さんに努めている。

 安房地方に行くと乳牛と和牛が同じ牛舎で寝起きし、酪農家が世話している姿
を見ることができる。


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