全国肉牛事業協同組合 専務理事 鶴島 晃
おがくずは、肉用牛飼養の敷料として今や必須の資材であるが、最近入手難が 伝えられ、価格も上昇気味である。このおがくず不足現象は、バブル経済崩壊以 来、住宅建設の停滞等から木材需要が減退したことがその理由とされている。更 に、木材は外材に依存する度合が強いが、特に最近は丸太のままではなく外国で 製材された用材として輸入されるようになったため、国内でのバーク及びおがく ずの発生が減少したばかりでなく、製材所の稼働も激減したと伝えられている。 さて、「肉用牛経営の課題と今後の方向」を考えるに当たっては、二つの面か ら検討する必要があるように思う。その一つは「消費者に牛肉を供給することを 前提とした生産・流通の構造的課題」であり、今一つは「個別の肉牛生産の課題 と今後の方向を占うこと」であろう。 日本の畜産物の需要は、多くの品目が停滞する中で、牛肉は依然として増加の 傾向にあり、極めて喜ばしいことであるが、残念ながら国内生産はこの需要の増 加に十分に応えることが出来ていない。牛肉の輸入が自由化されたのは平成3年 度だが、 4 年後の 7 年度には輸入量は 33年度の 2 倍を超える迄に増加し、牛 肉の総供給量に占める輸入牛肉の割合は、393年度では64%にも達しているのであ る。 国内生産の大幅な拡大が難しい現状で、更に需要量が増加すれば必然的に輸入 牛肉の供給割合は増大することになる。 木材の用材輸入と同じように、牛肉の必要な部位が、必要なだけ輸入されるな らば、「製材所の業務縮小と同じような現象が肉用牛関連産業にも起こらないと いう保証はない」とみるのは考えすぎだろうか?既にその現象は起こっている様 に思えるのだが。
そこで、国内生産拡大の途を模索する必要がある。和牛では、既に一般に言わ れているように繁殖牛飼養者は高齢化し、後継者がいないことに加えて飼養頭数 規模は零細で、繁殖牛経営の長期的な維持継続のためには解決すべき課題が多い。 都市サラリーマン並みに年間 700万円の所得を繁殖牛専業経営で上げるとする と、60頭程度の繁殖牛を飼養しなければならないことになる。しかし、既に、2, 000頭規模の黒毛和種繁殖牛を飼養し、肥育までの一貫経営を実践しているものも あり、100頭以上の繁殖牛経営も現れてきており、実践例があることは強味であり、 決して夢物語りではないと考える。 次に、国内の牛肉供給の60%弱は乳用種によるものであるが、生乳需給の面か らもその頭数の大幅な増加を期待することには無理がある。 乳用種去勢牛は、肉牛資源の少ないわが国では足りないが故にほとんど総てを 活用してきたが、肥育経営で採算に合いにくくなっていることも現実である。輸 入牛肉は、価格の面で乳用種牛肉を圧迫するだけでなく、肉質の面でも競合する。 乳用種牛肉のあり方について、検討する必要がある。 酪農家、肥育農家双方の利害の一致するところから、乳用種に黒毛和種を交配 したいわゆる交雑種は、近年急速に増加し、既に乳用種の51%が交雑種となって いる。にもかかわらず、未だ交雑種に対する意見はマチマチで、それを集約する ことは現下の急務と考えられる。また、交雑種雌を繁殖供用するためには、その 経済性や飼養基準等整理されなければならない問題は多いが、国内生産の拡大の ためにも、早急に繁殖牛として活用することを促進する必要があると考える。 また、外国産肥育素牛の輸入は、現在は年間、15千頭程度となっている。国内 の肥育素牛については、繁殖から子牛価格補てんに至る迄各種の対策が構じられ ているが、輸入肥育素牛には 1 頭 4 万円弱の関税が賦課されている。輸入肥育 素牛の導入を拡大したとしても、決して国内の繁殖経営を圧迫することにはなら ないのではないだろうか。むしろ肉牛関連産業活性化のためにも今後検討されて 然るべき課題と考える。
さて、紙数も少なくなったが、個別経営の課題としては、輸入牛肉と等質の牛 肉生産では、いくらコスト低減を図ったとしても輸入牛肉に対抗できるものでは なく、質的な面で住み分けることが最も重要と考える。そのためには、交雑種を 除いた牛肉生産は考えられない。早急に交雑種の位置づけを明確にすることが重 要である。 更に個別経営で当面する重要な課題は経営資金を借入金に依存する割合が高い ケースが多いことである。少なくとも肥育素牛代及び飼料費については自己資金 で賄う経営の実現に努める必要がある。このような視点に立った施策を渇望する。 紙数もつきたので、コスト低減と肉質改善のための自家配合等飼料問題につい ては、またの機会に譲りたい。
つるしま あきら 昭和23年農林省入省。畜産経営課課長補佐、競馬監督課課長補佐を経て、53年 退官。同年(社)全国畜産経営安定基金協会常務理事。平成元年全国肉牛事業協 同組合設立、専務理事として現在に至る。