◎専門調査レポート
酪農を核に地域の農業構造が変貌 −岡山市・幸田地区−
農政ジャーナリスト 山本 文二郎
はじめに
「平成に入ってからのコメづくりと酪農は大変な変わり方ですよ。大型ほ場で
耕起もせず水も張らず、8人のオペレーターが4台の播種機を使い、40ha以上のタ
ネ播きを3日で仕上げてしまうのですから。『こんなコメづくりは怠け者のやる
ことだ』と涙を流さんばかりだったあるおじいちゃんが、周辺より収量が多いの
が分かって、もうほ場には出てこなくなった。イタリアンをつくるにも播種から
収穫まですべて機械作業、ロールベールの運搬までする。」。こう話すのは酪農
家で幸田地区生産組合のオペレーターの1人田淵康久さんだ。
横から奥さんが「朝から晩まで搾乳、飼料づくりなどに追われていたのに、今
は昼から夕方の乳搾りまではゆったりと自分の時間がとれる。それでいて、たく
さん飼料をつくることができるんですから。その代わり、近年は乳代が下がって、
お金の方は忙しくなりましたがね」と明るい顔で付け加えた。
ここは岡山市の東にある旧太伯村の幸田地区。幸田の東隣は風光明媚な牛窓町
だ。いまから300年ほど前に造成された幸島干拓地の一角にある。吉井川に沿っ
た肥沃で平坦な水田地帯で、その周りに邑久郷、神崎など3集落が点在する。温
暖な瀬戸内気候に恵まれ晴天の日が多く、台風が少ない。なかなかハイカラなと
ころもあって、明治15年に早くも乳牛を入れた。岡山県の酪農発祥の地でもある。
それ以来、一貫して乳牛が飼われており、現在、太伯地域の酪農家は19戸、乳牛
頭数がざっと740頭、年間約3,800トンの乳が搾られている。ここの農業はコメと
酪農が2本柱となっている。
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【「酪農にも時間的余裕ができた」と語る
田淵さん御夫妻(左)と筆者(右)】
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変革のきっかけは大規模ほ場整備
80haの基盤整備事業
幸田地区の農業は、ちょうど時代が昭和から平成へ変ったのと歩調を合わせて、
大きく様変わりすることになった。
そのきっかけとなったのが、ざっと14億円をかけて平成元年から9年にかけて
実施された大規模ほ場整備事業であった。
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【整然と広がる、1区画1.2haの大規模ほ場】
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大型ほ場整備の話が持ち上がりだしたのは昭和60年頃だった。当初は県などか
らの働きかけであったが、酪農家を中心とする専業農家たちがそれを受けて立っ
た。平成元年に「こんな大きな変化が起きるとは予想もしなかった」ような1区
画1.2haの大型ほ場整備に取り組む。平成3年からは、「21世紀型水田農業モデル
ほ場整備促進事業」を導入。長たらしい事業名だが、要するに農地の集積に取り
組み大型機械による徹底した省力稲作を進め、21世紀に向けて幸田の農業構造の
改革を図ろうということにほかならない。
幸田地区の水田80haを9年にかけて逐次整備していった。1枚の田の標準区画は
長辺120m×短辺100m。今までは1枚1枚が自分の田だったが、こうなると自分の
田が大型区画の中の一部分に埋没してしまう。農家にとって神経を使う水管理は
パイプライン方式に変わり、バルブをひねれば自動的に水が入る。丘の上からみ
た基盤整備の終わった田は、整然と並んで見事に広がっている。受益農家が180
戸、そのうち、第2種兼業農家が8割である。
幸田地区生産組合の結成
「21世紀型」の低コスト稲作の実現に向け、農作業の受委託が促進された。ま
た、オペレーターが大型機械を駆使して直播栽培を推進することになった。さら
に不耕起乾田直播栽培が入り、共同作業、大型機械によるコメづくりへと質的に
変化した。同時に転作消化を兼ねて飼料作物26haとタマネギ6haを作付けするこ
とになった。
これを推進するために、6年に、酪農家10戸と稲作専業が核となって122戸の農
家が参加して幸田地区生産組合を結成した。作業は、酪農家6人と専業稲作2人の
オペレーター、それに補助オペレーター10人が行う。同年から40haの受託に取り
組む。受託面積は年々拡大している。直播栽培田は作業しやすいようにまとめて
いる。さらに、不耕起乾田直播を行うことになり、今では受託面積の大半を不耕
起で行っている。
生産組合の装備はトラクター、不耕起乾田直播機、コンバイン、ブームスプレ
ーヤー、飼料作物用のラッピングマシン、ロールベーラーなど一連の機械である。
生産組合が農家から作業委託を受け、オペレーターが作業をこなしていく。例
えば不耕起直播は10iai当たりの料金が1万円といった具合である。
作業手順は不耕起なので5月中、下旬に施肥、播種、その後2回除草剤をまき、
6月20日ころ水を入れ、3回ほど病虫害防除をして、11月上旬に収穫となる。大型
機械による作業で、10iai当たりの労働時間はたったの8.2時間、驚くほどに短縮さ
れてしまった。「農家につらい耕起、代かき、苗代づくりもなければ、田植えも
しない。水管理もいらない。作業委託した農家は自分の田に入る余地もなくなっ
た。」といった具合だ。県下平均が46時間、わずか5分の1以下になってしまった。
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【耕していない、からからの田でもしっかりと発芽】
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【水を入れる前に除草剤をまく】
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農地利用、酪農家への集中が進む
変化する兼業農家のコメづくり
この不耕起乾田直播による稲作はコメづくりを大きく変えただけではない。土
地利用の在り方や兼業農家の農業への取り組み方、農業の形態にも大きなインパ
クトを与え、地区の農業を変え始めた。今後、その変化がさらに加速化されてい
くと予想される。
変化の第一は専業農家、特に酪農家に土地の利用が集中してきたことが挙げら
れる。生産組合による作業の受委託が広がり、乾田直播による省力化が徹底して
くると、作業を委託した農家は自分のほ場に入る余地がなくなる。「委託農家に
残された農作業はせいぜいあぜ草刈りくらいのもの、水管理といってもバルブを
ひねるだけさ」というほど農家が農作業の手間がかからなくなった。もちろん、
組合に参加している多くの農家は、幸田地区以外にも田を持っており、幸田地区
の中でも半分は個別にコメづくりをしている。週休二日制の時代、「高くついて
も自分の田は自分で耕す」という兼業農家もいる。当然のことだ。
だが、どことも同じように、幸田地区でも農家の高齢化が進み、米価が下がっ
てコメづくりの魅力がだんだん薄らいできた。岡山市内に近づくにつれて、農地
の出し手があっても借り手が見つからない。近頃は、財産保全のためにコメをつ
くってもらおうとすれば、地主が10iaiに1〜2万円を出さないと受け手がないとい
われるほど変わってきている。「幸田は生産組合に作業を請負ってもらえるから
いいなあ」とうらやましがられるそうだ。「自分の田に誰が入って作業している
のか知らない」、「自分の田が大型ほ場の中に入ってしまうようでは、生産組合
に任せた方がよい」という農家が増えてきたという。不耕起直播の面積がだんだ
ん増え、当初計画の40haを超えていまでは48haになったのもその現われだ。
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【乾田に直播する酪農家の岡田さん】
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中心となる酪農家
受け手は主として酪農家である。ここの酪農家たちの結束は固い。昭和37年に
酪農家80戸で太伯酪農振興会がつくられた。零細な酪農家がだんだん酪農をやめ、
いまでは会員は19戸に減った。このうち半分が幸田地区生産組合に入っている。
生産組合の組合長の阿倍和利さん、同組合の米麦部会長の田淵さん、吉井川の
東の地域を範囲とする旭東酪農協の千葉靖代組合長などは組合結成当時からのリ
ーダーだ。ほぼ50歳代の同年代、4Hクラブなどで仲良く活躍したグループであ
る。しかも、飼養頭数も経産牛で40頭前後とほぼ同じ規模、酪農も2代目、3代目
で古い。気心があうことが生産組合の活動を活発にする要因となっている。
生産組合による受委託が増えると、自然に酪農家に土地が集まるようになって
きた。例えば千葉さんは利用耕地が11ha、このうち借地が7haだ。田淵さんも2ha
ほど借りており、成牛43頭の岡田研吾さんは自己の耕地1.5haに5戸から4ha借りて
いる。おおざっぱにみて、酪農家は自己所有地の倍くらいの借地をして飼料面積
を増やしている。主としてイタリアンを作付けしている。イタリアンを収穫した
後、不耕起直播に入るので、除草剤を散布しなければならない。貸し手としては
1回目の除草剤散布の節約にもなる。「幸田地区の耕地の3分の1は酪農家が使っ
ているのではないか」という。
大型ほ場整備と不耕起直播への取り組みが、幸田地区の農地流動化へのきっか
けをつくっていった。
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【岡田さん御夫妻(右2人)も余裕のある
低コスト経営を行っている、筆者(左)】
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粗飼料増産でコスト低減を進める酪農家
ロールベールの導入
こうした農地流動化への動きが出始めたとき、たまたま粗飼料生産の技術革新
が重なってきた。その1つはロールベール。乾田不耕起直播による稲作技術の革
新と並行して、大型機械による粗飼料生産の省力化が進んだ。粗飼料の貯蔵が従
来のタワーサイロ方式からロールベール方式に変わり、ロールベールサイレージ
を機械で運搬するといった技術革新が進行、同時に飼料の良質化が進んだ。稲作
と並行して酪農にも労働と経営に大きな変化が進み始めたのである。北海道など
では早くから普及していたが、岡山県ではジャージー牛で有名な蒜山高原に昭和
60年に入った。これによって飼料生産の省力化が大きく前進することになった。
幸田地区ではイネが収穫される直前に、イタリアンが播種される。この作業は
幸田地区生産組合が請負う。5月中旬、イタリアンの刈取後にタネモミが播種さ
れる。収穫はイネとの関係で一番草だけ。従来はハーベスターでイタリアンを収
穫し、タワーサイロに詰める重労働が続いた。酪農家にとって一番つらい時期で
あった。それがイタリアンをラッピングマシンで袋詰めし、運搬して積み上げる。
すべて酪農家のオペレーターが全員で作業する。田淵さんの奥さんが「家の中に
いても知らないうちに積み上げてくれる。昔がウソのようだ。いまは昼から夕方
の乳搾りまではゆったりできる。」といったのも粗飼料づくりが楽になったから
だ。酪農家側が粗飼料生産を拡大できるようになったのも、ロールベールが普及
してきたおかげである。
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【不必要となったタワーサイロ】
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さらに進む粗飼料生産
酪農家の粗飼料づくりを刺激したのは乳価の低落であった。岡山県の生乳の総
合価格は4年ころ、1kg当たり97円60銭だったのが、9年には87円20銭へ10円前後
も下がっている。しかも、岡山県は生産量の半分近くが県外に移出される生産県
なので、中国地方では乳価が一番安い。乳価の低落でコストの削減を強く迫られ
るようになってきた。幸田地区の酪農家が生産組合のリーダーとなりながら、作
業受託の拡大を通じて、飼料生産を増やし購入飼料の節約を図っているのもここ
からだ。イタリアンの作付面積がだんだん増え、昨年は25ha、今年は29haへと増
加している。
幸田地区はもともと水田の裏作を利用して、イタリアンなどの粗飼料生産の熱
心なところだった。それが地域農業の再編成を通じてさらに拡大していく。雨の
多い日本では品質のよい乾草ができない。ロールベールだと、水分50〜60%でも
可能で、短期間に処理できる。ラッピングして乳酸発酵すれば香りもよくなり、
牛の嗜好性が高まる。
「牛は憎らしいほどよく知っているよ。ロールベールサイレージを与えると、
声を上げて請求する。輸入乾草などは牛は座ったまま横向いているね。」という。
幸田生産組合は整備田に転作を兼ねてタマネギを5ha作付けしていたが、成績
が思わしくなかった。このため、一部の耕地では、イタリアンのあとにスーダン
グラスをつくることを考えている。幸田の農業はコメと飼料づくりに集約されて
きた。
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【収穫後の田に並ぶロールラプサイレージ。この後、各酪農家へ運搬】
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水田酪農は健在
イナワラも徹底的に利用されている。全国的にイナワラを利用するところが少
なくなった。収穫のときに細かく裁断され、ほ場にまかれたり、時には焼き払わ
れて煙公害にさえなっている。ここでは昔からイナワラを一本残さず集めて、三
角帽子のように組んで晩秋の風で乾燥し、牛のえさに与えた。三角帽子がほ場に
並ぶと、秋が深まってきたと実感させ、この地方の風物詩になっていた。
大型機械の受委託作業が進んでも、イナワラ利用は変わらない。自分の田でと
れたイナワラはもちろんだが、他の農家から作業を受けた酪農家が堆肥とイナワ
ラを交換したりする。ロールベールの普及で、イナワラもラッピングされて保存
される。イナワラは栄養価は低いが、乳牛の健康維持のために貴重な繊維供給源
となっている。「収穫されたイナワラの10%はすき込まれるが、後は飼料として
利用されている」という。岡田さんはイナワラも含め年間に生産するロールは10
iaiで6〜7個、全部で300個(1個=200kg)つくっているという。ひとときもてはや
された水田酪農は、全国的に衰退をたどってきたが、幸田では水田酪農が立派に
生きていた。
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【イナワラもロールラプサイレージに】
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規模拡大よりも低コスト生産を重視
こうして、幸田地区は粗飼料生産を通じて生産費の切り下げを熱心に進めてい
る。早くから粗飼料生産に熱心に取り組んできた千葉さんの奥さんは「これまで
乾草一本も買ったことがない」と自慢する。横から「組合長になってから忙しく
なって、最近は多少買っているがね」と組合長は割り引いたが。
昨年の乳代はざっと3,200万円、牛は自家保留を原則としているので素牛の購
入費はゼロ。1頭当たりの飼料面積は14iai、岡山でも普通は1ケタ台だ。したがっ
て乳飼比は40%程度、一般には50%以上となっている。そうした結果、牛乳1kg
当たりの第1次生産費は73円60銭、県では一般的には80円を超えるとのことであ
る。所得率は30%、乳価が下がった最近では県の平均は15〜16%くらいという。
無理な設備投資をせず、経営内容も良いので借入金はゼロだ。「酪農の受難時代、
自給飼料を上げてコストを下げ、経営の改善を進めたい」と語る。
幸田の酪農家は、フリーストールなどに思い切って設備投資をして大規模経営
に転換するよりも、現状の40〜50頭規模を維持し、その代わり自給飼料の増産に
力を入れてコストを下げ、所得を高めていく堅実型経営が多い。田淵さんは「乳
量を追求して牛を酷使するよりも、粗飼料給与を増やし、耐用年数を伸ばしてい
きたい」と言い、県平均の2.4産に対して、田淵さんは4産、長いのは7産くらい
まで使っている。
環境保全・堆肥生産で循環農業の確立へ
邑久郷堆肥利用組合の取り組み
こうして、幸田地区の酪農家は大型ほ場整備を契機に、酪農の体質改善を進め
ながら、一方で、畜産の大きな課題となっている環境保全にも力を入れるように
なった。岡山市の膨張でこの地域でも住宅の建設が進み、畜産環境の改善が求め
られるようになってきた。昭和53年ころから環境保全事業に取り組み、ふん尿乾
燥ハウス、堆肥舎、バキュームカー、マニアスプレッダーなどを整備していった。
だが、混住化が進み、悪臭やハエの発生など畜産環境への住民の関心が高まるに
従って、従来の処理方式では十分に対応できなくなってきた。
そこで平成8年に9戸の酪農家と4戸の耕種農家で邑久郷堆肥利用組合をつくり、
環境保全型畜産特別対策事業に取り組み、約1億円の事業規模で堆肥発酵処理施
設を整備した。ふん尿処理は利用しやすいように施設の分散型をとった。発酵処
理施設が2棟、ふん乾燥処理施設が4棟、ばっ気施設2基のほか2tダンプ、バキュ
ームカー、マニュアスプレッダーなどが整備された。育成牛を含め約400頭のふ
ん尿が処理される。
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まず、一番始末に困るのは尿で、ばっ気施設で約1週間フロアーで送風して脱
臭する。年間の生産量は2,200トン、この尿は自己のほ場か耕種農家のほ場に液
肥として散布される。
ふんは畜舎から1次処理のふん乾燥処理施設に搬入される。その際、西大寺農
協のライスセンターで発生したモミガラをふん尿の水分調整のため、加える。こ
のモミガラは農協が処分に困っていたもので、細かく粉砕して供給される。粉砕
すると水分吸収は粉砕前の10倍くらいになる。良質堆肥生産の重要な資材で堆肥
が完熟した後も、形が残るので土が空気を含み柔らかくなる。
10〜20日ほど堆積されて水分65%くらいに1次処理したふんは、一部は利用組
合員のほ場に還元されるが、あとは発酵処理施設に搬入される。そこでブロアー
を使ってワラが分解するまで5カ月ほど堆積発酵させ、「モーちゃん堆肥」とし
て水稲、野菜、果樹用等として農協を通じて販売されていく。年間の堆肥生産量
はざっと1,500トン。自己のほ場に還元されるのが4割弱、耕種農家向けが2割、
残りが販売される。40リットル袋詰めで420円、バラで2トンダンプ1台で1万8,00
0円となっている。
酪農家はまた、堆肥の耕地への還元による土づくりを積極的に進めている。冬
季間に田に堆肥を散布するか、不耕起田は播種前にほ場に散布する。ある農家は
「10iai当たり年に4トン近く還元している」という。このため、土が肥え、土壌
構造がよくなり、粗飼料の収量が増え、栄養価が高くなっているという。コメの
収量も9年で10iai当たり546kgと周辺の慣行稲作よりも高く、県平均より25kgほど
多かった。また「コメにつやがある」とのこと。継続的な堆肥施用の効果が現わ
れてきているからだという。畜産と耕種が有機的に結びついて、農業の循環シス
テムが確立されてきているといえよう。
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【堆肥舎、ブロアーを使い5ヶ月かけて、完熟堆肥に】
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一年中、花に囲まれる畜舎
また、環境美化への取り組みも前向きだ。基盤整備が始まった平成元年には、
太伯酪農振興会の婦人部が環境美化整備事業に取り組み始めた。毎年、花の種子
や苗を配ったり、先進地の視察を行うなど、地域の人達に理解される酪農づくり
に励むようになった。また、春と夏には「環境整備花づくり審査会」を開くよう
になった。この審査会は、県、市、農協、農業改良普及センター、家畜衛生保健
所の代表が審査委員となって、各酪農家を巡回審査する。審査項目として畜舎周
辺の美化と整理整頓、牛舎内の清掃と衛生状態、害虫駆除への取り組み、ふん尿
処理状況、乳牛の個体管理、環境改善への意欲などを審査する。悪ければ改善を
指導する。同時に優秀な農家を表彰することにしている。
こうした努力が定着してきて、自主的に牛舎の清掃、周辺に花を植栽するよう
になってきた。畜舎は設備投資の負担ををできるだけ避けるために、どちらかと
いえば貧弱な感じだが、訪れたどの畜舎も周辺に花が植えられて美しかった。こ
このふるさと祭には消費者との交流を深めるため、新鮮な牛乳の試食会や乳搾り
体験などが行われている。こうした実績が評価されて、10年度の社団法人中央畜
産会の「豊かな畜産の里づくり」事業で畜産局長賞を受けた。
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【畜舎を見た人から「苗を分けてほしい」
と言われることも。】
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おわりに
酪農の経営環境は、これから一層厳しさを増してくると予想される。近く始ま
るWTO交渉でも、牛乳・乳製品貿易の国際化対応がさらに進むだろう。新農政で
も、30年以上も続いた加工原料乳不足払い制度が廃止されることが決まった。長
く酪農の発展を支えてきた政策の枠組みが根本的に変わり、市場原理が強まって
くる。酪農の体質強化が急がれるようになってきた。
一方で、日本農業の自給率の向上が求められ、さらに耕種と畜産の有機的結合
を深めることで農地の保全と有効利用、持続的農業の確立が大きな課題となって
くる。
そうした中で、太伯地域の酪農、幸田地区の土地基盤整備を契機とした農業構
造の大きな変化は注目される。酪農家を中心とした生産組織の形成、耕地利用の
集積、粗飼料生産の拡大による酪農のコスト引き下げへの努力、畜産環境の保全
とからんで堆肥生産の拡充による土づくりの推進、環境美化への取り組みを一層
深めることが求められ、さらに他の地域への波及が期待される。
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