◎調査・報告


畜産物需要開発調査研究事業から 鶏肉・鶏卵の官能的手法による解析と品質改善への活用に関する研究

研究代表者 新潟大学農学部 助手 藤村 忍


 近年、消費者ニーズに即した高品質な鶏肉・鶏卵が求められており、「おいし
さ」・「うまさ」という食味に対する消費者の要求も高くなっている。このため、
食味の良い鶏肉・鶏卵を開発することが、輸入品との差別化を図り鶏肉・鶏卵の
需要拡大に貢献すると期待されており、食味の化学的・物理的なデータをもとに
して飼養方法の改善、育種改良への応用を行うことが重要である。しかしながら、
これらの食味と化学的・物理的分析結果は、系統的なデータ化がなされておらず、
有効な効果を得がたい状況にある。

 このことから本調査研究事業は、(1)官能試験法の標準化、(2)化学的・物
理的データ収集の標準化、(3)官能試験と化学的・物理的分析結果の関連性の
検討、(4)品質改善への応用に関する可能性等を段階的に実施することとし、
平成9 年度は(1)及び(2)についての検討を行った。

 本調査研究においては、鶏肉については青森県畜産試験場五戸支場(A支場)、
岡山県総合畜産研究センター(Oセンター)、愛媛県養鶏試験場(E試験場)、
鹿児島県養鶏試験場(K試験場)が担当し、鶏卵は新潟県農業総合研究所畜産研
究センター(Nセンター)が担当した。

図1 調査研究事業の概要
cho-g01.gif (3823 バイト)

鶏 肉

うま味成分の化学的検査について

 食品のうま味成分は、アミノ酸、ペプチド、核酸関連物質、糖などが挙げられ
ているが、それらすべてが一様にうま味に影響するのではなく、個々の食品に特
有の成分バランス(偏り)があり、その影響を受けて、固有の味を醸し出してい
る。鶏肉においては、グルタミン酸及びイノシン酸が主たるうま味成分と考えら
れている。そこで、鶏肉の需要拡大を目的にいくつかの研究機関等において鶏肉
の上記成分を分析した報告が見られるが、磨砕抽出、加熱抽出、水抽出と手法が
異なり、除たんぱく操作等も異なることから分析値に約1.5倍以上もの開きが生じ
ている。

 そこで、本研究においては、加熱抽出法を標準化手法として策定し、異なる共
同研究機関で分析を行った。

 これらの分析においてうま味成分は、検査機器の準備状況はまちまちであった
が各共同研究機関ともにほぼ同等の報告値を示し、策定した標準化手法は再現性
の高いものであると言える。以下に、材料と前処理、分析法の詳細を示す。
鶏肉のうま味成分分析の標準化手法

「供試した材料」

 新潟大学産8週齢ブロイラー(Cobb)雌の浅胸筋を供試した。浅胸筋は放血と
殺後、速やかに低温下で採取し、血管及び脂肪塊を目視できる範囲で除去した。
また、輸送を伴う場合は速やかに−20℃にて冷凍し、冷凍での輸送を行った。3
mm目のチョッパーあるいは刀で十分に細切りし、均一になるように十分に混合し
て用いた。

「分析法の詳細」

 処理は低温下で実施し、供試肉約10gを精秤し、15mlの精製水を加え、ホモジ
ナイザーにより2分間処理し、ペースト状にした。ホットプレート付き攪拌機上
に沸騰水を入れた1リットルビーカーを設け、攪拌子を入れたペースト試料の容
器を入れ、固定後、15分間の加熱攪拌を行った。放冷後、遠心分離(4℃、5,00
0rpm、15分間)し上ずみを採取、残さに精製水を加え再び遠心分離の操作を繰り
返し上ずみを集め、4倍量のエタノールを加えた。遠心分離しロータリーエバポ
レーター(40℃、85rpm)にてエタノールを減圧留去後50mlに定容し、HPLCによる
遊離アミノ酸、イノシン酸の分析に供試した。

官能評価試験、「焼く」のが効果的

 鶏肉の調理は、焼く、煮る、蒸すの 3手法が主である。そこで、焼く、煮るの
2法についてそれぞれ共同研究機関で官能評価試験を実施した。

 試験の手法は、シュッフェの対比較法、2 点識別法、2点嗜好法、自由意見の
4種類を組み合わせた検査用紙を用いて実施した。(図 2 )

図2
 最初にA、次にBをみて、A試料の香り、味、歯ごたえ、総合評価をお答えく
ださい。

Bに比べて、
(思うところに○をつけてください)
cho-g02.gif (44929 バイト)
AとBには差がありましたか?
(○をつけてください
  ある   ない

あなたはAとBのどちらを好みますか?
(○をつけてください)
  A    B

試料について感じたことを自由に書いてください。
                                       
 

 

 試験は2試料で実施し、対比較法は、「先に食べた試料は、後に食べた試料に
対してどうか」という設問に対して、「先に食べた試料」を評価させる方法であ
る。 2 点識別法は 2 つの試料の差の有無を回答させ、 2 点嗜好法は 2 試料の
中から試験者が好む試料に○をつけさせた。

 比較した 2 つの試料は、新潟大学生産の 8 週齢ブロイラー及び15週齢ロード
アイランドレッド雌の胸肉(浅胸筋)である。

 なお、試験は2種の試料の組み合わせの全て(A→B、B→A)について、同
数の試験者を割り当て、試験者同士の表情が見えない試験室で実施した。

 調理法の詳細を以下に示す。
官能評価試験の鶏肉の調理法

「焼く」

 農林水産省畜産試験場加工部の方法に基づいた。つまり、目視できる範囲で皮、
皮下脂肪、脂肪塊、血管を除去した浅胸筋を試料とし、各試料の5倍量の10%
(注:検討後3%に変更)の食塩水に室温で60分間浸した後、ペーパータオルま
たはガーゼの上で水切りし、これをホットプレート(出力1kwで最強に設定)上
で、片面ずつ、 3 分、 3 分、 2 分、 2 分と繰り返し合計10分間加熱した。加
熱後、加熱肉を適当にスライスし、試料の肉温が室温になってから官能評価試験
を実施した。

「煮る」

 各試料を1cm角に細断しざるに入れ、火力が等しくなるように調整したコンロ
にお湯を沸騰させ、1分間、試料を加熱した。このとき全ての試料に均等に熱が
伝わるように配慮した。その後よく水を切り、試料の肉温が室温になってから官
能評価試験を実施した。
 焼く方法についての結果を表 1 に、煮る方法による結果を表 2 に示す。

表1 鶏肉を焼く方法による官能評価試験結果
cho-t01.gif (3703 バイト)
 ブロイラー及びロードアイランドレッド肉を比較。
 シュッフェの対比較法の評価点は、ブロイラー肉に対するRIRの相対評価で
 あり、全被験者の5段階評価(−2〜+2)の平均値とした。
 NS:有意差なし
  *:5%水準で有意差あり

表2 鶏肉を煮る方法による官能評価試験結果
cho-t02.gif (3703 バイト)
 ブロイラー及びロードアイランドレッド肉を比較。
 シュッフェの対比較法の評価点は、ブロイラー肉に対するRIRの相対評価で
 あり、全被験者の5段階評価(−2〜+2)の平均値とした。
 NS:有意差なし
  *:5%水準で有意差あり


 焼いた場合、2点識別法により有意な差が認められ(官能的に別なものと認識
され)、対比較法によってその差は主に「味」の差によるものと推察された。一
方、煮た場合は、2研究機関で有意差が認められたが、差の内容は、香り、味、
歯ごたえ及び総合で評価が分かれた。これは、一部の試験において、試料の温度
が低すぎたことも原因の一つと思われたが、煮た場合は溶液へのアミノ酸の溶出
が生じ、うま味力が弱まるため、検出感度が低いものと考察された。


鶏 卵

まずアンケート調査から実施

 鶏卵については、味や風味に関する基礎的な資料が少ないことから、まず、消
費者に対するアンケート調査を実施し、鶏卵の味の差の有無や購入時の選択基準
などの 5 項目を調査した。

 アンケート調査は、群馬県内の調理師及び栄養士の計117名に対し、無記名式で
行った。内訳は20歳代21名、30歳代19名、40歳代42名、50歳代35名である。結果
を表3に示す。

 このアンケート調査から、過半数の消費者は、新鮮度や放し飼いなどを意識し
て鶏卵を選別して購入しており、「選択基準はない」とする回答は1%に過ぎな
かった。、また味とにおいについては差があるとする回答が多く、卵の味とにお
いについての過去の知見は少ないが、消費者が十分検知できるレベルで差がある
ものと推察された。

表3 鶏卵に関するアンケート調査(%)
1.鶏卵を購入する際の選択基準
cho-t3a.gif (2634 バイト)

2.鶏卵の味の差について
cho-t3b.gif (1966 バイト)

3.鶏卵のにおいに差はあるか
cho-t3c.gif (1991 バイト)

4.鶏卵のにおいは好ましいか
cho-t3d.gif (2275 バイト)

5.鶏卵に異臭(魚臭)を感じたことはあるか
cho-t3e.gif (1909 バイト)

鶏卵のうま味はグルタミン酸、アスパラギン酸

 鶏卵のうま味成分については、未だ報告例が少なく、とらえるべき成分が定ま
っていない。そこでまず、遊離アミノ酸の分析において、30成分の検討を行いそ
れぞれの濃度を求め、各成分の味覚閾値(いきち、味覚でとらえることが可能な
ぎりぎりの濃度)と比較すると、うま味に影響する濃度にある成分はグルタミン
酸及びアスパラギン酸の2成分のみであった。一方、卵白は濃度が低く、うま味
への影響はないものと考えられた。

 また、鶏卵の香り並びに食感に影響する成分として、脂質や脂肪酸が報告され
ているが、これらについても、今後、風味への影響の指標として検討していくべ
きものと思われる。

官能評価試験、品種の差が結果に影響、その要因は

 鶏卵については、白色レグホンとロードアイランドレッド卵を比較し、2点嗜
好法を除く 3 手法で行った。供試卵は産卵後低温( 5 ℃)で保存し、産卵3日
目を官能評価試験に供試した。

 調理方法の詳細を以下に示す。
鶏卵の調理方法

生 卵:卵黄及び卵白を十分に撹拌したもの、並びに卵黄のみ、卵白のみ

ゆで卵:水からゆでて強火5分、弱火10分、水道水で冷却15分のものを、木綿糸
    で 4 つ切りにする。

卵焼き:卵黄と卵白をよく混合した状態のものをテフロン加工のフライパンにて
    油を使用せずに焦げ目ができないように焼く。

 これらの調理方法について予備試験を実施し、生卵黄、ゆで卵、卵焼きにおい
てにおいの差が検出された。ここでは、生卵黄及び卵焼きを供試した。
鶏卵の官能評価試験結果を表 4 に示す。

表4 鶏卵の官能評価試験結果
cho-t04.gif (2570 バイト)
 白色レグホン及びロードアイランドレッド卵を比較。
 シュッフェの対比較法の評価点は、白レグ卵に対するRIRの評点とし、全被
 験者の5段階評価(−2〜+2)の平均値とした。
 NS:有意差なし
  *:5%水準で有意差あり

 これによると、2点識別法によって、生卵黄、卵焼きともに有意差が認められ
た。生卵黄の場合は、味及び総合評価でロードアイランドレッドが良いとする結
果が得られた反面、香りは悪い傾向がみられた。また、自由意見の集計から、ロ
ードアイランドレッド卵にトリメチルアミン様の臭気(魚臭)があり、そのため
に香りの評価が低いとする意見が多く出された。自由意見は、微妙な要因の検討
に大きな効果が見られた。

 清水ら(1997)は、異臭卵の主たる原因である魚臭(トリメチルアミン)につ
いての研究を行い、トリメチルアミンは白色レグホンとロードアイランドレッド
間では鶏卵への移行量が約10倍異なり、ロードアイランドレッドは魚臭卵が発生
しやすいことを明らかにした。今回供試した両鶏種は同一の市販飼料を給与した
ものであるため、品種の差が官能評価に影響したものと考察された。

 よりおいしい鶏肉、鶏卵を消費者に供給することは「安全」とともに、これか
らの生産・販売にとって最重要課題である。その基礎となる尺度として、官能評
価と理化学的分析の標準的手法が完成を見たことは、鶏肉、鶏卵の需要拡大への
貴重な第一歩であると言える。

 さらに化学的・物理的分析結果と官能試験の組み合わせの方法論を確立し、こ
の手法の応用によるデータの収集を進めることにより、品質向上による需要拡大
が期待される。

 本報告は、農畜産業振興事業団が平成9年度に委託実施した畜産物需要開発研
究事業の成果を、編集部で要約したものです。

 正式な表題は「鶏肉・鶏卵の科学的・物理的・官能的手法による解析並びに解
析結果の品質改善への活用に関する研究」です。

 報告書全文をご覧になりたい方は、企画情報部情報第一課あてFAXにてお申し込
みください。

元のページに戻る