◎地域便り


転作田を活用した都市近郊型酪農経営

福岡県/家守 紹光


 日本酪農青年研究連盟主催の第51回酪農研究会において、坂井彰さん(39)は、
最優秀・黒沢賞を受賞した。乳用牛群検定や飼料分析・飼料診断という地道な努
力を続ける傍ら、自給粗飼料の生産を高め、乳飼比(乳代に対する購入飼料費の
割合)を27%まで引き下げることによりバランスの取れた高収益な経営を実践し
ていることが評価された。

 坂井さんが住む久留米市は、人口23万人の福岡県南西部の商工業の中心都市で、
肥沃な筑後平野に位置し、水稲栽培を中心とする農業が盛んな地域でもある。酪
農も65戸が3,087頭を飼養する本県酪農の主産地の一つである。父親が昭和35年頃
から酪農を始め、坂井さんは昭和55年から経営に参加した。現在では乳牛72頭を
飼養している。

 しかし、この地域では畜産農家の間近まで宅地開発等が進み、また、規模拡大
が進んだことから、畜産経営に起因する環境問題の発生や土地の集積が困難であ
る等厳しい状況となっている。

 このような中で、坂井さんは転作田を積極的に借地し、自作地と合わせて7ha
を集積している。転作田にはローズグラス、イタリアンライグラスを作付けし、
ロールベール・ラッピングサイレージによる通年サイレージ給与体系を実践して
いる。また、購入粗飼料は地域の酪農家と共同購入することにより、市価より安
い価格で入手している。

 飼料管理では、乳用牛群検定データや粗飼料分析結果を活用し、給与診断結果
を元に乳牛が持つ泌乳能力を最大限に引き出すとともに、乳成分の安定化を図っ
ている。さらに、西南暖地では、暑熱対策が生産性を左右するが、牛舎の屋根に
スプリンクラーを設置し、舎内では換気扇と細霧の組み合わせにより舎内温度の
低下に努め、夏期の乳量の増加を図っている。

 これらの努力により1kg当たりの生乳生産費67円を実現し、酪農部門所得1,500
万円という高収益な経営を可能としている。また、集積した借地への堆肥還元や
近隣の野菜農家への販売により、糞尿処理問題を発生することなく安定的な経営
を実施している。

 坂井さんは都市近郊型水田酪農モデル経営としてさらなる飛躍と、地域のリー
ダーとして酪農後継者の先導的な役割を期待されている。
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【自給粗飼料を調製する坂井さん】

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