★ 事業団から


食品、主として畜産物に関する表示制度について

企画情報部情報第一課




はじめに

 食品の表示制度については、さまざまな役割からいくつかの法令制度の中で重
複して表示事項が任意、または義務で定められている。

 JAS法(農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律)による表示は
消費者の選択に資するための表示であり、食品衛生法による表示は食品の安全性
を確保するための表示であるといったように、それぞれ目的があり、義務または
任意で表示しなければならない事項がある。今回、6月10日の「農林物資の規格
化及び品質表示の適正化に関する法律の一部を改正する法律」(以下「改正JAS
法」という。)の施行に合わせて、諸規制の整理を試みる。


食品表示に関する基本的な法律

食品衛生法

 食品衛生法は厚生省の所管する法律で、すべての飲食物を対象とし、「飲食に
起因する衛生上の危害の発生を防止し、公衆衛生の向上及び増進に寄与する(第
1条)」ことを目的としている。表示に関しては、容器、包装の見やすい場所に、
消費期限または品質保持期限、製造所または加工所の所在地、保存方法等を記載
することを義務付けている。また、ハム、ソーセージ等の食肉加工品については、
添加物等の表示も義務付けている。

 特に畜産物については、近年サルモネラ・エンテリティディス等による食中毒
が増加傾向にあり、この原因食品については、「卵類及びその加工品」が増加し
ていること等が指摘されていること等から、平成10年11月25日、食品衛生法施行
規則および食品、添加物等の規格基準の1部が改正され、新たに鶏卵についての
表示基準、液卵についての規格基準が設けられた。11年11月1日から施行されて
おり、殻付き鶏卵については、「消費期限又は品質保持期限」、「製造者又は加
工者の名称、所在地」、「採卵、選別包装を行なった施設の名称、所在地」、
「使用方法(生食用等、加熱加工用)」、「保存方法」等の表示が義務化された。
また液卵についても、「消費期限又は品質保持期限」、「殺菌方法」、また未殺
菌のものについては加熱殺菌を要する旨等を表示しなければならないこととなっ
た。


計量法

 通商産業省の所管する法律で「計量の基準を定め、適正な計量の実施を確保
(第1条)」することを目的としており、改正JAS法、公正競争規約等において
表示が義務付けられている量目については計量法に基づくものとしている。また、
計量法で定められている「特定商品」について、量目表示等を義務付けている。 

 特定商品は計量法の政令である「特定商品の販売に係る計量に関する政令」で
規定されており、畜産物では食肉および食肉加工品、はちみつ、牛乳・乳製品が
対象となっている。


改正JAS法

 11年7月22日に公布された改正JAS法については、本誌11年9月号の「農林水産
省から」でご紹介したが、公布後、政省令等の策定が進められてきた。12年6月
9日、省令が定められ、同法が施行されることとなった。

 改正JAS法は、特に民間活力の活用等により格付け、認定等を行うことや、関
心の高まっている有機農産物やそれらを利用した加工食品、遺伝子組み換え農産
物を利用した加工食品等についても新たに基準が設けられた。基準の策定に当た
っては、国際基準(コーデックス委員会の基準等)との整合化を基本とし、また、
技術水準の進歩等に合わせられるよう5年ごとに見直しすることとされている。


品質表示基準の制定について

 JAS法は、農林物資の品質の改善、生産の合理化、取引の単純公正化、使用ま
たは消費の合理化と図るとともに、適正な表示をすることで消費者の選択基準に
資することを目的として制定されているもので、農林水産大臣が制定する日本農
林規格(Japanese Agriculture Standard、JAS規格)による格付け検査に合格
した製品にJAS規格の貼付を認めるJAS規格制度と、消費者の選択に必要とされ
る品質表示基準に従った表示を製造業者または販売業者に義務付ける品質表示基
準制度の2つの制度からなっている。

 品質表示基準制度については、改正前のJAS法では、缶詰、ハム、ソーセージ
類などの加工食品等55品目、生鮮食品9品目、合計64品目について品質表示基準
が設けられていた。加工食品等については、品名、原材料名、内容量、製造者名、
賞味期限、保存方法等の表示が義務付けられ、生鮮食品については、品名、原産
地等の表示が義務付けられていた。生鮮食品では青果物9品目(にんにく、根し
ょうが、ブロッコリー、さといも、生しいたけ、ごぼう、アスパラガス、さやえ
んどう、たまねぎ)を対象としており、生鮮畜産物は対象外となっていた。

 今回の改正により、すべての飲食料品を対象とした品質表示基準が定められる
ことになり、12年3月31日付けで「加工食品品質表示基準」、「生鮮食品品質表
示基準」、「玄米及び精米品質表示基準」、「遺伝子組換えに関する表示に係る
加工食品品質表示基準及び生鮮食品品質表示基準」が告示された。


◇品質表示に対する監視体制ta1-g01.gif (26456 バイト)


生鮮食品品質表示基準について

 生鮮食品品質表示基準では、今後、すべての生鮮食品(農産物、畜産物、水産
物)に、「名称」、「原産地」(原産地についても「品質」に含めることとなっ
た。)、「量目(「特定商品の販売に係る計量に関する政令」により定められた
ものについてのみ表示することとしているが、畜産物は該当する。)」の表示が
義務化された。

 生鮮食品のうちの畜産物とは、生肉(牛肉、豚肉、鶏肉またはその他の家畜の
肉)、食用鳥卵である。

 表示は、容器または包装の見やすい箇所、またスペースが限られる場合等は商
品に近接して掲示しなければならない。

 表示に用いる文字は日本工業規格Z8305(1962)に規定する8ポイント以上の活
字を用いなければならないこととなっている。

 畜産物の原産地については、国産品は、「国産」と記載する。もしくは主たる
飼養地の都道府県名、市町村名その他一般的に知られている地名を記載すること
も可能としている。輸入品については、原産国名を記載しなくてはならない。

 牛肉、豚肉、鶏肉の原産国表示については、後述の「食肉小売品質基準」およ
び「食鶏小売規格」(畜産局長通達)で既に定められ、また、全国食肉公正取引
協議会の「食肉の表示に関する公正競争規約」においてもその他の食肉も含め表
示をすることとされていた。しかし、基本的には、協議会の会員以外への罰則は
なかった。表示を行わない会員以外の者については、不当景品類及び不当表示防
止法に基づき公正取引委員会が警告をすることとなっていた。

 今回の改正JAS法では、原産国表示も含め、定められた表示を行わない者には、
農林水産大臣が行う最終的な改善命令に従わない場合、罰則(50万円以下の罰
金)が課せられることとなった。

 なお、生きた家畜を輸入し、国内でと畜した場合については、「食肉小売品質
基準」および「食鶏小売規格」で、11年9月1日から以下の規定が適用されていた
が、今般の生鮮食品品質表示基準で同様に規定された。すなわち、牛については
生きた牛を海外から輸入した場合は、輸入した日から3カ月以内にと畜されたも
のは「輸入品」とし、輸入国を原産国名として記載しなければならない。豚につ
いては、生きた豚を海外から輸入した場合は、輸入した日から2カ月以内にと畜
されたものは「輸入品」とし、輸入した原産国名を記載しなければならない。

 牛、豚以外の家畜については、生きた家畜を輸入した場合は、輸入した日から
1カ月以内にと畜されたものは「輸入品」とし、輸入した原産国名を記載しなけ
ればならない。


遺伝子組み換えに係る加工食品の品質表示基準

 昨今さまざまな加工食品の原料として輸入されている遺伝子組み換え農産物に
ついては、「遺伝子組換えに関する表示に係る加工食品品質基準第7条第1項及び
生鮮食品品質表示基準第7条第1項の規定に基づく農林水産大臣の定める基準」
(以下「遺伝子組換えに関する品質表示基準」とする。)により遺伝子組換え農
産物の分別生産流通管理等について表示基準等が定められた。対象となる遺伝子
組み換え農産物は「大豆」、「大豆もやし」、「枝豆」、「とうもろこし」で2
4種に分けられた加工食品について、分別、不分別、混入率等の表示基準が定め
られた(適用は13年4月1日)。なお、この遺伝子組換えに関する品質表示基準で
は、加工食品でないこともあり、家畜の飼料は対象となっていない。


有機農産物、有機農産物加工食品等のJAS規格の制定

 JAS法のもう1つの制度、JAS規格制度については、規制緩和が行われた。生
産、製造工程や検査等の品質管理体制について、製品の品質の安定性や規格への
適合性が確保されると認められる製造業者等は、農林物資の種類および工場ごと
に登録認定機関等に申請し、認定されれば、登録格付機関による格付けを受けな
くても自ら格付けできるよう整備された。畜産物では現在JAS規格制定品目であ
る乳製品、食肉加工品等がこの対象となる。

 また、特定JAS規格は、特別な生産、製造方法についての基準を内容とする規
格で平成5年のJAS法改正で導入され、熟成ハム類、熟成ソーセージ類、地鶏肉
について定められていたが、12年1月20日には、有機農産物の農林規格および有
機農産物加工品の農林規格が告示された。生産基準等を定める特定JAS規格であ
る。これによる有機食品は、生態系を活用した物質循環を基本とし、生産・加工
の過程等において化学合成資材を原則として使用しない「有機農産物」および
「有機農産物加工食品」に限定された。

 「有機畜産物」、「有機水産物」およびこれらの加工食品については、まだ規
格は定められていない。改正JAS法は国際基準との整合化を旨としており、有機
畜産物等については現在もコーデックス委員会で定義等について作業が進められ
ていることから、今後、生産、流通、消費などの実態を踏まえつつ告示されるも
のと思われる。

 特定JAS規格では、生産、製造方法等について検査、認証が必要である。改正
JAS法においては、「登録認定機関又は登録外国認定機関となるための登録基準」、
「生産行程管理者の認定の技術的基準」、「小分け業者の認定の技術的基準」、
「輸入業者の認定の技術的基準」、「生産方法(行程)の検査方法」等が、施行
日までに告示された。なお、「地鶏肉(特定JAS規格)の登録認定機関となるた
めの登録基準(11年6月21日告示)」については有機農産物及び有機農産物加工
食品とともに登録基準が定められたため廃止された。

 登録認定機関等については、農林水産大臣が定める基準を満たし、登録を受け
た非営利法人以外の民間会社がなることも可能とされた。

◇図 改正JAS法による地鶏肉の
              特定JAS格付け◇
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公正競争規約、畜産局長通達による品質表示

不当景品類及び不当表示防止法

 公正取引委員会の所管する法律で「商品の取引に関連する不当景品類及び表示
による顧客の誘因を防止する(第1条)」ことを目的としており、業界の自主規
制である公正競争規約に関する規定を設けている。畜産物に関しては9つの業界
の公正取引協議会(飲用乳、はっ酵乳・乳酸菌飲料、殺菌乳酸菌飲料、ナチュラ
ルチーズ・プロセスチーズ及びチーズフード、アイスクリーム類及び氷菓、はち
みつ類、ローヤルゼリー、ハム・ソーセージ類、食肉)がそれぞれ公正競争規約
を定め、表示に関して詳細なルールを設定している。規約の改正等に関しては公
正取引委員会の認定が必要である。また、罰則は会員について適用され、会員以
外には、公正取引委員会が警告を与えることができることとなっている。

 全国食肉公正取引協議会の規約である「食肉に関する公正競争規約」では、牛
肉のうち、和牛と表示できる品種を「黒毛和種」、「褐毛和種」、「日本短角種」、
「無角和種」の4種と定めている。

 また、11年11月24日、「黒豚」の表示について、「バークシャー純粋種のみを
黒豚と表示できるものとする。」と改正し、公正取引委員会は11月25日官報告示
を行った。これは11年6月14日の「食肉小売品質基準(後述の農林水産省畜産局
長通達)」の改正を受けたものである。食肉小売品質基準では既に9月1日から
「バークシャー純粋種のみを黒豚と表示できるものとする。」としていた。

 また、11年12月20日、全国飲用牛乳公正取引協議会は「飲用乳の表示に関する
公正競争規約」を一部改正し、加工乳、乳飲料の表示について変更を行った。公
正取引委員会は12月22日、官報告示し、今後、「○○牛乳」と表示できる加工乳
および乳飲料は生乳を50%以上使用したものに限定されることになった。併せて、
原材料について「乳または乳製品」していたものを「生乳」、「乳製品(脱脂粉
乳、バターなど)」と使用原材料が明確に分かるような表示をすること等と変更
した。


食肉小売品質基準、食鶏小売規格

 いずれも畜産局長通達で、任意であるが、食肉の表示に係る公正競争規約のベ
ースとして使われており、畜産業界の最も一般的な基準となっている。罰則規定
はない。

(1)食肉小売品質基準

 小売段階において、消費者が食肉を購入する際の商品選択に資するため定めら
れたもので、「牛肉小売品質基準」、「豚肉小売品質基準」がある。小売店にお
ける表示の取り扱いの基準である。

 「牛肉小売品質基準」では、@部位表示の方法、Aスライス肉を2種類以上混
合して小売販売する場合の表示方法、B原産国(地)表示等を定めている。

 「豚肉小売品質基準」では、@豚部分肉の分割方法A分割後の整形方法B部位
表示の方法C2種類以上の部位を混合して販売する場合の表示方法D原産国(地)
表示E黒豚の表示方法(バークシャー純粋種のみ)などを定めている。

(2)食鶏小売規格

 小売段階における食鶏の種類、名称、品質標準および部位等の表示方法を定め
ることを目的としている。廃鶏については「親」、凍結品については「凍結品」、
解凍品については「解凍品」と表示すること、原産国(地)表示などについても
定めている。


畜産物に関するその他の表示制度

栄養改善法

 厚生省の所管する法律で、「国民の栄養を改善する方途を講じて国民の体力維
持向上を図る(第1条)」ことを目的としており、栄養表示をしようとする食品
に必要な基準として、栄養表示基準を設けている。また、乳児、妊産婦病者食品
等の特別用途食品、特定保健用食品の表示基準についても定めている。畜産物で
も、乳酸菌飲料やソーセージ等で特定保健用食品になっている商品がある。


地域特産品認証制度

 農林水産省食品流通局の補助事業で平成2年度から行われており、現在の「地
域食品振興対策事業」は10〜14年度の5カ年事業である。各地の豊かな地域性や
多様な食文化を反映させた特産品の生産振興と利用拡大に関する施策を推進する
もので、地域の特色ある原材料や技術を活かし、地域名や地域独自の産品名を冠
した地域特産品を作ることを目的としている。都道府県は認証基準の策定及び認
証を行い、「Eマーク」を付す。また、これらの地域特産品を当該地域の外食産
業に普及させたり、各地の特産品として中心市街地(商店街)等を活性化させる
ことも目的としている。畜産物では食肉加工品、乳製品等を地域特産品する県が
多く、それぞれの基準を設け、認証を行なっている。
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【Eマークは上記の英語の頭文字を食品の
「品」に図案化したもので「良い品(イイ
シナ)」であることを表しています。】
表1 畜産物に係る食品表示制度
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表2 制度による表示項目等
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おわりに

 「農政改革大綱」では、高品質、安全で特色のある畜産物生産を生産努力目標
の1つとしている。また、消費者の食における安全と安心を確保するため、食品
の安全性・品質確保対策を強化するとともに情報提供等の推進を行うこととして
いる。

 改正JAS法の原産地表示では、国産品は国産品であることを表示するほか、主
たる飼養地が属する都道府県名、市町村名その他一般的に知られている地名を表
示しても良いこととなっている。産地銘柄畜産物については、和牛や黒豚、地鶏
でない物も、産地名を付し「〜(地名等)牛」、「〜(地名等)豚」、「〜(地
名等)鶏」として、流通しており、生産者団体や農協等で一定の生産、流通等の
基準を設け、商標登録をしている畜産物も少なくない。

 輸入畜産物が増加する中、消費者の食行動も多様化しているが、安全性や高品
質への関心も高まっている。現時点での日本の畜産物に関連する表示制度は、消
費者の求める必要最低限とする情報を提供するといった役割が大きい。

 国産というプレミアムを生かすためには、制度に従って正しい表示をするとと
もに、生産、流通それぞれの段階においても消費者の信頼を得られるようなルー
ル定め、トレーサビリティを追求できるようなシステム作りも重要であると考え
られる。

  また、今後、有機畜産物という概念の検討が進んでいく中、自給飼料の活用や
中山間地の美しい景観のイメージを利用し、生産者サイドからも消費者のニーズ
をつかんだ日本独自の畜産物を積極的にアピールすることも必要ではないかと思
われる。

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