研究代表者 帯広畜産大学 教授 佐々木 市夫
私どもは消費者が表示情報として何を求めているのか明らかにするとともに、 消費者に対する適切な品質情報提供方法を考えることを目的とした研究「牛乳容 器の表示情報に対する消費者ニーズ」を実施した。本稿は、調査結果を安全性に 着目して再整理したものである。
分析の対象となる牛乳は主として店頭販売されている飲用牛乳(白い牛乳)で あり、調査地としては「平均的な都市」として静岡県静岡市と福岡県福岡市を選 んだ。アンケート調査は、A量販店(静岡県静岡市)において平成11年10月30日 (土)から11月1日(月)までの3日間、B量販店(福岡県福岡市)において11年 11月13日(土)から11月15日(月)までの3日間実施した。配布回収の方法は、 各店頭で小学生以上の来店者に対して調査票を配布しその場で記入してもらった 上でそれを回収する形をとった。回答数は静岡市で943、福岡市で222であった。 なお、以下の分析においては、基本的に各設問ごとの有効回答をベースに分析 を行っているため、各表ごとに回答の総数は異なる。また、設問は論理的に単数 解答のもの以外は特記のない限り回答数に制限のない形での複数回答である。 表1 性別 表2 年齢 回答者の特徴を述べると性別は、回答者の約7割が女性、約3割が男性であった。 年齢は、20歳から59歳までで約8割を占めており、60歳以上と未成年はそれぞれ 約1割であった。 職業等では、主婦と会社員等が多く、主婦が4割弱、会社員等が約3割を占めた。 家族数は3人ないし4人の回答者が全体の半数を占めている。なお、家族数の平均 は3.78人である。 表3 職業等 表4 家族数
表5は、牛乳関連用語の認知度について整理したものである。牛乳に関連した 用語の認知度合いでは、低温殺菌、種類別牛乳、乳脂肪分に関しては有効回答者 の半数以上が「だいたい知っている」と答えている。また、生乳に関しても半数 近くが「だいたい知って」おり、無脂乳固形分、公正取引協議会の「公正」マー クに関しては約3分の1が「だいたい知っている」と答えている。それに対して、 体細胞数、HACCPに関しては「だいたい知っている」と答えた者は1割にも満た ず、「知らなかった」者が7割を超えている。 表5 牛乳関連用語の認知度 表6で明らかなように、男女別では、女性の方が認知度が高い。また、より年 齢が高くなるほど認知度も高くなる傾向にある。 表6 性別・年齢別にみた認知度 注:牛乳に関する8つの用語、種類別牛乳、乳脂肪分、無脂乳固形分、 体細胞数、低温殺菌、生乳、HACCP、「公正」マークのうち、 だいたい知っている用語の数が1以下を認知度低、2〜4を認知 度中、5以上を認知度高とした。 「好きな牛乳」について、消費者はどんなイメージを持っているのだろうか。 表7によると、全体として、好きな牛乳は「おいしい」、「体に良い」、「安全」 の順に多い。「安価」は約2割と選択肢中では回答が少ない。また、「牛乳はす べて嫌い」との回答は少ない。 表7 性別・年齢別にみた好きな牛乳 また、「安全な牛乳」について消費者はどんなイメージを抱いているのだろう か。表8によると安全な牛乳のイメージの主なものは「しっかりとした品質管理」 (66.4%)、「新鮮な」(49.6%)、「産地を明示」(37.8%)である。ここで は、産地の明示と安全性とを結び付けてイメージしている回答が比較的多いこと が特徴的である。 表8 安全な牛乳のイメージ 表9は、牛乳容器における改善希望表示情報について性別、年代別に整理した ものである。まず現状よりもより分かりやすく表示してほしいとの希望は「品質 保持期限」が多い。また「殺菌方法」や「種類別」、「商品名」、「乳脂肪分」 等、現状においても比較的大きな文字で表示されている情報に関してもより分か りやすく表示してほしいとの希望がある。これは、現在、牛乳容器には全面にわ たって多種多様な情報が表示されており、消費者から見て特に求める情報を判別 しづらくなっていることも原因の1つとなっていることが想像される。これら以 外では、「生乳生産地」の比率も比較的高い。男女別では大きな違いは無い。 表9 性別、年齢別にみた改善を希望する牛乳の表示情報 表10は、牛乳関連用語の認知度を階層ごとにみた改善希望表示情報についてま とめたものである。まず認知度の階層間の比較では、認知度が高い層の方が全体 的に改善希望比率が高い表示情報が多い。「特にない」に関しては、認知度が低 い層の方が比率が高い。 表10 認知度別にみた改善希望表示情報
乳牛飼養者、乳牛メーカーおよび流通販売業者は、安全な牛乳関連技術の提供 者であるのに対して、消費者はその牛乳関連技術の安全性に対する選択者である。 その選択者は一連の生産−処理加工−流通販売のプロセスの中で、どこをもっと 整備すべきだと考えているのだろうか。表11は、性別、年代別に安全と高品質の 観点からどこのプロセスの整備を重要と考えているのか整理したものである。ま ず全体としては、生乳生産から店頭までの各段階に散らばって整備するプロセス が選択されている。次に男女別では、男性は店頭寄りの段階の比率が女性よりも 高いのに対して、女性は牧場寄りの段階の比率が男性よりも高い。さらに年代階 層別では、60歳以上の高齢者層は店頭寄りの段階の比率がほかよりも高く、逆に 牧場寄りの段階の比率がほかよりも低い。 表11 性別、年齢別にみた整備方向 注:本表で用いた整備に関する設問は、2回答以内を選択する 複数回答である。 表12は、認知度別に安全と高品質の観点からどのプロセスの整備を重要と思っ ているかまとめたものである。この表によると、認知度が高い回答者は店頭寄り の段階の比率と乳牛自体に関連する段階の比率がほかよりも高く、他方認知度が 低・中の回答者は衛生管理関係の比率が高い。 表12 認知度別にみた改善希望表示情報
本稿は、「牛乳容器の表示情報に対する消費者ニーズ」の調査結果を安全性に 着目してまとめてみたものである。これらを要約すると次のように指摘すること ができよう。 (1)消費者のほとんどは、「体細胞数」、「HACCP」の意味を知らない。好き な牛乳のイメージのなかでは「おいしい」と「体に良い」の後ろに安全に関す る表示が位置している。 (2)そのような消費者が抱く安全な牛乳のイメージとして、主に「しっかりと した品質管理」「新鮮な」を挙げている。 (3)認知度の高い消費者が安全と高品質の観点からどこのプロセスを整備する ことについて重要と考えるかをみると、「乳牛のエサの安全性」の比率が高い。 食品の安全性技術の確立には、@各プロセスのHACCPA販売店から牧場まで の安全性の追跡可能性(トレースアビリティ)B外部機関による認証・検査−と 同時にC健全な選択者としての消費者の存在−が不可欠であろう。