◎専門調査レポート


飼料自給率100%による環境保全型牛肉生産 −北里大学八雲牧場の試み−

農林業ジャーナリスト 増井 和夫

 

 




飼料増産で食料自給率向上

 食料自給率を、現在より5%引き上げて、平成22年度には45%に高めることが
農政の重要課題になっている。

 そのためには、麦や大豆に加えて、飼料の自給率を高めることが重要であり、
飼料増産戦略会議が国や県、市町村等で開催され、増産に拍車がかけられている。 
地域の土地資源を活用した飼料生産は、資源循環型畜産として、広く環境問題に
も貢献するとともに、消費者が求めている安心・安全な畜産物供給を拡大してい
くためにも重要である。

 ここで紹介するのは、飼料自給率を究極の100%に高めた牛肉生産を行ってい
る北里大学八雲牧場と、その特色ある牛肉の加工や流通の状況である。

 土地条件の違いなどから、100%自給を一般化するのは困難であるが、自給率
を高める際の参考になる要素は多い。 併せて、北海道酪農の発祥の地の1つで
もある八雲町の放牧主体の酪農経営も紹介する。


消費者が待つナチュラルビーフ

 東京の世田谷区内に事務所を持つ東都生活協同組合(東都生協)では、約16
万人の組合員に商品案内を出している。   

 12年8月第2号には、八雲牧場産のナチュラルビーフが久しぶりに登場した。
価格は300グラムのパックで980円、100グラム327円である。添え書きには、八雲
牧場で自給飼料100%によって生産された牛肉で、各部位のミックス規格であり、
炒め物などでの利用に適していると勧めている。

 ちなみに同時に紹介されている牛肉は、それぞれ100グラムで八千代牛サイコ
ロステーキが166円、岩手短角牛カタロースしゃぶしゃぶ用は540円だ。ナチュラ
ルビーフに用途がやや近い蓼科牛カルビ焼肉用は293円であった。

 他の肉がほぼ常時販売されているのに対して、ナチュラルビーフは量がごく少
ないので、断続的な扱いだが「八雲牧場の生産方針・コンセプトに共感する組合
員がおり、一定の人気がある」と東都生協商品本部の農産部宮田進課長は言う。  

 同生協には、組合員代表による品目別仕入委員会があり、同委員会に商品の買
入れ決定権がある。基本的な選択基準は国産であり、産直扱いできることだ。

 生協としては昭和48年の発足だが、前身は昭和42年に結成された「天然牛乳を
安く飲む会」である。その牛乳は千葉北部酪農農業協同組合(千葉北酪−千葉県
八千代市)の成分無調整牛乳であり、産直で仕入れした仲間が活動を広げた。

 現在、年間供給高が約350億円に達しているが、国内生産のある食品は輸入品
を扱わない方針で一貫してる。

 ただし、畜産物についてはわが国の飼料供給の現状から、輸入穀物飼料利用を
認め、その上でより安全な飼料の選択を求める現実的対応を取っている。容認で
きる範囲で量の確保も必要だからだ。

 八雲牧場のナチュラルビーフの販売は平成9年からで、その際に詳しい商品案
内をしている。まず日本初の100%国内飼料による産物であること、さらに環境
に優しい農業であり、飼料の内容や肥育スケジュールの概要を紹介、月に約5頭
の限定供給になることも説明している。

 また、仕入委員会畜産部会の押上光子氏は「雄大な自然に囲まれて草を食んで
いる様子は感動的だった。このナチュラルビーフを食することで、環境保全の精
神と実践を応援できることを考えてほしい」と現地報告でアピールしている。 

 さて、輸入穀物給与なしで肥育した牛肉の品質的評価はどうか。食品として欠
かせない味など嗜好性はどうか。「一般的な日本人の好みの脂肪交雑がなく、ヘ
ルシーだろうが味で購買というより、コンセプトからの支持でしょうか」とは宮
田課長の弁である。

 後日、八雲牧場でナチュラルビーフの焼肉を試食したが、粗飼料肥育にしては
脂肪の黄色みがほとんどなく、赤肉として味も柔らかさも実に良かった。


千葉北酪がパック加工を担当

 東都生協と千葉北酪との関係は前記の通りだが、東都生協は現在は牛乳のみな
らず、牛肉も同組合から産直仕入れ八千代牛肉として販売している。その牛肉産
直に異色な形で加わり、千葉北酪で精肉加工されているのが、八雲からのナチュ
ラルビーフである。

 千葉北酪では、早くから収穫後に消毒薬等を使用しないPHF(ポスト・ハーベ
スト・フリー)飼料を使ってきたが、最近は遺伝子組み換え飼料を全く使わない
(NON-GMO)配合飼料を組合員に供給している。組合員80戸、うち62戸の酪農
家が総数約2,600頭を、肉牛飼育農家が18戸で約1万頭を飼育しているが、使う濃
厚飼料全量が厳選された組合からの供給であるのが特色だ。

 最近は、PHFやNON-GMO飼料についての関心が高まり、部分的に導入する例
が増えているが、組合挙げての取り組みは少ない。
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【左から沓沢事業部長、梅原組合長、筆者】
 組合員の牧場などには、年間2,000名ほどの消費者が訪問するなど、消費者と
の交流にも力を入れている。

 八雲で生産されたナチュラルビーフは最初は生体で千葉まで運ばれていたが、
現在は函館でと畜解体され、部分肉が千葉北酪に送られてくる。

 枝肉で1キログラム当たり950円を生産者の八雲牧場に支払っているが、千葉北
酪が組合員に支払っている価格との比較では、乳雄肥育より高いが、乳牛と黒毛
和種の一代雑種(F1)よりは安い水準である。

 また、ナチュラルビーフは年間でせいぜい50〜60頭の扱いであり、冷凍ストッ
クしながら量をまとめ、全部位のパックをできるだけ均等な内容にするなど、手
間を要し不定期な作業になる。「厳密には採算部門とは言い難い」と千葉北酪の
沓沢豊事業部長は傍らの梅原宏保組合長を見ながら打ち明ける。

 小売業、生協、そして農協も厳しい競争にさらされ、部門別採算が問われる中
で、なぜ採算がとれにくいナチュラルビーフの精肉処理を続けているのか。

 ここでも、コンセプト談義がでた。東都生協でも重視されている国産食品に求
められる特性を備え、千葉北酪の基本理念にも合致し、他所では扱えない食肉を
扱う意義があるとの認識だ。 

 ひとりの組合員として、養鶏、酪農、肥育牛生産を手掛ける梅原組合長は、パ
ック入りのナチュラルビーフを見て「一般には、見ておいしい牛肉とは受け止め
られないだろうが、これを支持する消費者は素晴らしい」と言う。

 さて、東都生協や千葉北酪と北里大学八雲牧場とはどんな縁で結びついたのか。

 発端は産直による10円牛乳が注目された昭和30年代前半にさかのぼる。

 ナチュラルビーフの産みの親である北里大学獣医畜産学部の千秋(せんしゅう)
達道教授(八雲牧場長兼務)は、当時は大学生協に関係しており、生協での10円
牛乳普及に尽力した一人だった。 その10円牛乳は、来年で結成50年を迎える千
葉北酪の有力製品だったのである。そんな縁もあり、千秋教授門下の北里大学卒
業生が同農協に就職しており、100%国産飼料による牛肉の販売を持ちかけられ、
東都生協が参画する運びになったのは偶然ではない。


霧の中の八雲牧場

 八雲町は、函館から北へ約80キロメートル、大沼公園を過ぎた位置にあり、筆
者らが駅に到着した時は青空が広がっていた。
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【右から畔柳講師、千秋場長、筆者】
 しかし、千秋牧場長とともに出迎えに来られた牧場常駐の畔柳(くろやなぎ)
正講師は、「牧場の天気は平場とは違い、晴れかどうか分かりません」と言う。

 平坦な市街地を過ぎて、丘陵地帯に入る頃には次第に霧がでてきた。伺えば八
雲は偏東風(やませ−夏に太平洋から吹き寄せる冷風で、しばしば冷害をもたら
す)地帯に属するとか。やがて民家から離れた標高200メートル前後の牧場に着
くと、霧はさらに濃くなり、雨になるかも知れないと聞き、まずはナチュラルビ
ーフを生み出す牛群の放牧状況を拝見した。

 放牧地に向かう途中に遺跡のようなサイロを見かけた。今は大学の牧場になっ
ている総面積350ヘクタールの土地は、戦後開拓者の離農跡地で放置状態にあっ
た。当時の入植者は耕種農業から酪農に転換したが、積雪が1〜2メートルあり牛
乳運びにも辛酸を極め、半年分の貯蔵飼料確保も困難であったなど容易に想像で
きる。

 気象条件の厳しさは現在でも同じで、初雪は10月下旬に降り雪解けは4〜5月、
最高気温が25度を超える日はほとんどなく、逆に0度以下の日が約80日と、まさ
に積雪寒冷地そのものである。

 放牧の前提となる牧柵については、部分的には電気牧柵も使っているが、混在
する他人の畑を脱柵牛が荒らしたこともあり、強い鉄線が欠かせない。しかし、
湿った雪が積もると、牧柵に使う有刺鉄線(バラ線)を切断する。初雪の時期に
バラ線を外し、放牧前に点検しながら戻す作業は2名で1カ月半かかる大仕事だ。


雑種強勢の積極的利用

 肥育牛として放牧飼育されている牛は時期により130頭を前後しているが、老
廃牛など繁殖不適になった牛を除いてはF1か戻し交配のものが主である。

 わが国では、肉専用種の肥育牛も純粋種がそのまま使われるのが一般的だが、
牛肉生産の生産性を高めるための雑種強勢の活用は、海外では常識である。

 純粋種飼育は種としての改良と、雑種強勢効果を高めるのが目的である。

 反面では、肥育素牛の供給が雑多な交雑種の母牛から行われる問題もあり、八
雲牧場では教育・研究素材として追跡調査が必要であるため、雑種2代目程度に
止めている。
 繁殖用純粋種の構成は、日本短角種(短角)やアンガス種など放牧飼育に適し
た品種を主体に黒毛和種もいる。これら3品種以外は褐毛和種、ヘレフォード種、
シャロレー種も少数ながら飼育されている。
 
 種雄牛も少数ながら、上記品種をそろえて交雑あるいは純粋繁殖に使っており、
輸入精液(サラー種など)も使う。交配は主に人工授精で受胎率は約83%、少数
ながら自然交配(まき牛)を行っており、こちらは100%受胎である。
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【翌日は久々の快晴。
多種多様な牛が群をなす。】
 前述のように、ナチュラルビーフ向けの肥育牛は交雑種が主体だが、どんな交
雑かは耳標で誰にも判別できる。
 群の中で、生後6カ月で体重300キログラムを達成した牛がいた。サラー種と短
角のF1だが、放牧と貯蔵粗飼料による肥育でも、高い生産性を発揮する交配計
画が次第に明らかになろう。

 肥育牛の飼育は月齢で24カ月、体重は600キログラム目標だが、表に示したよ
うに自給飼料主体ではあるが従来型の穀物肥育も行う方式(表の上段)に比較し
て、各要素での生産性は低いのが現状だ。

従来の自給飼料主体による穀物肥育とナチュラルビーフ生産方式による
肥育牛の品種別発育成績および枝肉成績の比較
(上段:穀物肥育、下段:ナチュラルビーフ)
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 注:Aアンガス種、B黒毛和種、N日本短角種、AB、NBは一代雑種、
   ABB、NBBは戻し交配

 放牧飼育により骨や内臓が丈夫で肥満にならないが、枝肉歩留まりは55%前後
とやや低い。むろん内臓など、枝肉以外の部分の品質も高く、価値を生かした有
効利用も課題である。

 1日当たり増体重(D.G.)が小さいのは、放牧期間に増体しても、畜舎飼育で
の越冬期間に体重を減らす牛もいるためだ。

 畜舎飼育(冬季)期間の肥育牛(12カ月齢から出荷まで)に対する飼料は、1
頭当たりロールラップサイレージは飽食、バンカーサイロによるグラスサイレー
ジ25キログラム,コーンサイレージ20キログラムとなっている。

 冬季の肥育成績を上げるには、購入した穀物を給与すれば容易である。しかし、
粗飼料を含めて「足りないからと外部から補充をすれば、なし崩しになる。牧草
などが不作でも100%自給できる範囲の飼養頭数に抑えている」と完全自給での
飼育に徹している。

 生産される牛肉はヘルシーな赤肉だが、濃厚飼料多給による霜降り牛肉生産と
は対極的で、一般の規格では下位に相当する。品種は教材、研究目的で多彩だが、
短角を重視しており、優秀な種雄牛も確保できたので、アンガス種などとの交雑
で牧草肥育成績の向上を目指す。


1頭分の全飼料を1ヘクタールから

 1ヘクタールに1頭とは、北海道ではよく聞く放牧飼育の大まかな基準である。
ただし、それは購入飼料も使うのが前提だ。

 八雲牧場は飼料全部を1ヘクタールで賄っており、牛の性能と飼料生産の両面
をさらに向上させる課題に取り組んでいる。

 飼料生産では、越冬期間向けの貯蔵飼料がどれだけ確保されるかが勝負である。
5〜6月の牧草生育が旺盛な時期は、現有頭数では食べ切れないため、一部過繁茂
になるがその時点に合わせた頭数では越冬できない。

 その越冬用飼料は、材料では混播牧草とデントコーン、貯蔵方法では乾草とサ
イレージに分けられ、サイレージはロールベールとバンカーサイロ利用に分けら
れる。
 近年の収穫面積や収穫(貯蔵)量は、バンカーサイロ向けグラスサイレージが
約47ヘクタールで770トン、コーンサイレージが約10ヘクタールで多い年は360ト
ン,少ない年は315トンとなっている。

 ロールベールする牧草の収穫では、一番草が約60ヘクタールで、乾草仕上げ量
は131トン,ロールラップサイレージに加工したのが117トンであった。二番草は
34ヘクタールで、すべてロールラップサイレージ148トンに加工された。

 わが国の実情から、一般に飼料増産は主に粗飼料の増産が現実的だが、粗飼料
と濃厚飼料の中間的な養分を持つホールクロップサイレージの生産も各地で増加
している。

 八雲牧場でも、気象条件に合った90日収穫の極早生コーンを、可消化養分総量
(TDN)がピークになる時期に、ホールクロップとして収穫している。

 ただ、コーン栽培は大型機械作業が必要で、平坦地か緩傾斜地に限られる。 
そのため、主力である牧草の収穫を高めることが飼料供給の基本的課題である。 
現在、10アール当たりTDN換算収穫量が一番草では約155キログラム,二番草で
は約120キログラムの水準だが、収量とTDN含有率も高める草種、施肥を模索し
ている。

 そこで、細かに区分した牧草地ごとに綿密な肥料設計をして、化学肥料を投入
している。すなわち「物質循環生産を基本としているが、たい肥は不足する状態
で、最少限必要な化学肥料は投入する」と千秋場長は言う。

 現在、有機畜産物の国際基準が検討されており、まず飼料が有機生産されるこ
とを前提としている。化学肥料を施用すると有機生産にはならない。それについ
て千秋場長は「畜産物が牧場外に出て行く以上、最低でもその分は別の形で補う
ことで生産が維持される」との見解だ。  

 筆者も同感で、地域内で完全に資源循環し、パーフェクトな有機生産を行うこ
とが、現実に可能なのか疑問が残る。  

 搬出される畜産物に代えて、飼料と肥料のどちらを選ぶのかを考慮して、環境
保全と生産の両立のために、肥料を選んだのである。購入飼料が原因の、ふん尿
過剰が起こす環境破壊は避けられた。


北里大学八雲牧場概要

 所在地は北海道山越郡八雲町上八雲で、獣医畜産学部の研究、教育施設として
活用されている。総面積350ヘクタール、牧草地は220ヘクタールを使い、肉用繁
殖牛約120頭、肥育牛約130頭を飼育する一貫経営農場である。6年に21世紀にお
ける畜産のあり方と、牧場の立地条件などから、「物質循環を重視した自給飼料
による環境保全型肉牛生産」を目指して穀物多給飼育から転換した。資源循環の
ために重視している完熟たい肥作りは、手作りのハウスでかくはん機を使って仕
上げ、畜舎内敷き料への反復利用と、飼料生産の基礎肥料として活用している。
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【ビニールハウス型の手作り簡易たい肥舎】


放牧が広がる八雲酪農

 八雲町は明治時代に乳牛が導入され、北海道でも歴史のある酪農の町で、指導
者も多く輩出している。
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【各農家に掲げられている木製の看板。
後ろはファーマーズマーケット。】
 酪農経験約30年、指導農業士でもある小林信雄氏(53)は、奥さんと次男の3
人で搾乳牛35頭など総数約70頭を飼育している。かつては町の乳牛改良同志会会
長として、高泌乳と理想的体型を追い求め、個体管理に力を入れてきた。

 しかし、家族を過重労働から解放し、購入飼料費を節減して所得率の向上を図
るには、放牧が必要と8年から集約放牧主体に大きな方針転換を図った。

 その結果、1頭当たりの搾乳量はやや減ったが、所得率は上がり、乳牛の疾病
は減り、ふん尿処理もやりやすくなった。 ゆとりができた家族労働の一部を、
仲間と開設した酪農産物直売所「ファーマーズマーケット」の運営にも充ててい
る。  借地を含めて、約40ヘクタールの牧草地を使っているが、放牧は60アール
区画を14ほど用意して輪換利用している。

 完熟たい肥の還元と、綿密な土壌分析による微量要素の施用で、草地の牧養力
を高く維持して、飼料自給率を高めた。

 また、最近、他の地域の乳牛育成牧場では預託頭数減などの問題に直面してい
るが、町内では放牧酪農が普及しつつあり、酪農後継者の関心も強く八雲町営牧
場は盛況である。  

 小林氏の牛乳は(株)函館酪農公社に出荷されている。同公社ではPHF飼料使
用の市乳に加え、最近ではNON-GMO飼料使用の市乳販売を開始した。これは、
小林牧場など14牧場で生産された生乳によるもので、牛乳パックに14の牧場名が
記載されている。乳質の良さをそのまま消費者に届ける努力を重ね、地域の消費
者から根強い支持を得ているのである。


消費者の支持・連携に情報開示を

 現在の円高の下では、流通飼料価格は相対的に安く、購入依存が一般的には有
利であろう。しかし、自給飼料増産の可能性は大きく残されており、コスト面で
も有利になっている事例も多く、環境保全や消費者が求める品質や生産様式への
転換も推進できる。

 飼料の100%自給は理想論かも知れない。しかし、八雲の山間部での挑戦は国
内に飼料増産と環境保全を、両立させる余地が大きいことを教えてくれる。

 枝肉1キログラム当たり950円で販売されるナチュラルビーフの生産コストは
「大学の牧場で、研究目的で生産されており、一般的なコストと違うが、試算す
ると売価の倍くらいの水準」「10円牛乳もその後値上げができた経験から、生産
側がコスト低減に努力することを前提に、消費側に生産費補償の考え方を求めて
いく必要がある」と千秋場長は考えている。

 消費者に生産現場を公開し、情報開示で相互理解を深めることが、消費者にも
利益をもたらす、生産側の新たな挑戦を支えるのである。

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