◎地域便り


野草の飼料活用で農地の荒廃化防止も

企画情報部


 西海町で黒毛和牛の繁殖経営に従事する前田富治さん(58)方を視察に訪れる
人たちは「牛を外に放牧しなくとも順調に発情しますか?」口をそろえたように
尋ねる。

 何ら問題はない。理由は「野草を腹一杯食べさせているから」である。ビタミ
ンバランスのとれた粗飼料で育つ牛たちに種付け時のトラブルはほとんど起きな
い。粗飼料のうち全体の60%が野草で、残り40%を稲ワラで補う。その結果、1
年1産とまではいかないものの、平均12.4カ月で1産の良績を維持している。

 繁殖専業となってからおよそ20年が経った。以前は水稲とイモ類を栽培しなが
ら、炭坑に勤務する兼業だったが、炭坑は閉鎖される。この時、地元農協が積極
的に押し進めたのが和牛繁殖農家の新規育成で、前田さんも平戸等県内先進地を
見て回り、これに応じた。当初の飼養規模は13頭で、畜舎はすべて手作り。間伐
材や古材を活用し、ブロックも1つ1つ自分で置いていった。トラックも中古で間
に合わせるなど、徹底的なコストダウンを図った。それでも楽な経営とはいえな
かった。

 10年後、県のコンサルタント事業が始まり、これを受けた。この当時で抱えて
いた借入等の合計は1,700万円。肉牛農家の中には負債が5,000万円を超すケース
もあり、決して大きい額ではなかった。だが前田さんには他に「投資」しようと
決めていたことがあった。

 お嬢さんと息子さんの大学進学、つまり教育投資である。コンサルタント関係
者によれば「2人で1,500万円」が相場で、ここが前田さんの踏ん張りどころであ
った。機械の更新も我慢し、さらなる低コスト化を図る。今はそれぞれに教職、
農業指導の道へと進んでいる子供たちの大学卒業と並行するかのように子牛の価
格も上昇していった。その結果、現在では成牛25頭、育成牛2頭を飼養し、負債
は最高時の30%程度にまで圧縮されている。

 このように経営改善に心血を注ぎ、夢中で取り組んできた前田さんだが、ふっ
と周囲を見回すと集落の内外では畑地は草ぼうぼうの荒廃が進行していた。「こ
れを何とかできないものか?」とひらめいたのは野草の飼料利用であった。大小
50軒の農家と採草契約を結んでいるが、前田さんの経営自体にもたらすものも確
かに大きいが、それよりも高く評価されなければならないのは農地の荒廃防止へ
の貢献であることは今さら指摘するまでもない。
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【野草を食べて元気に育つ。】

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