◎地域便り


ヒージャーの人気

沖縄県/赤嶺 幸信


 ヒージャー、ピージャー、ピンザ・・・。村や島など地域によってその呼称は
異なるが、いずれも山羊のことである。沖縄では、古くから山羊肉を食べる習慣
がある。刺身、チーイリチャー(山羊の血や野菜を入れた炒め煮)、ジュウシー
(やぎ汁の後に作る雑炊)など料理もバラエティーに富むが、やはりヒージャー
とくれば汁。骨、肉、内臓、血を余すことなくすべてを使ってごった煮したもの
がヒージャー汁で、山羊料理の代表格である。沖縄の食肉文化で肉と言えば、豚
肉のことを指すが、ヒージャーも今日でもなお、スポーツイベントの反省会、住
宅の棟上げ式、職場での慰労会、集落の行事や祭りなど、語らいの場にウチナー
ンチュの生命活動の活力源として頻繁に利用され、伝統的食習慣として息づいて
いるのである。

 その山羊に近年、新しい風が吹いてきた。山羊による地域おこし、乳製品の開
発、ヒージャーオーラセー(闘山羊)などこれまでにない山羊活用の見直し機運
が高まっている。

 G8サミットの開催地、名護市街からさらに北西部の山あいに、勝山集落がある。
県内でも有数の景勝地である嘉津宇岳のふもとに位置し、古くから山羊飼育の盛
んな地域でかつては、山羊愛好者が押し寄せ、警察署が交通整理に当たるほどに
ぎわいを見せたところである。

 この勝山では、今、自然環境を活かして山羊の特産化を図っている。観葉植物
や果樹生産農家など25戸で組織する勝山山羊生産組合が、地域活性の起爆剤とし
て活用できないかといろいろな試みに取り組んでいる。組合長の比嘉さん、山羊
料理店を経営する安村さんなどが中心になって、山羊に特別の思い入れのある人
たちが平成3年に結成した。

 生産組合の目下の目標は、飼育頭数を増やすことで、現在、300頭。生産基盤
を強化し、400頭まで伸ばして特産化に勢いを付けたいところである。そのため、
基盤整備の補助事業なども模索しながら、優良種の展示や導入により改良増殖を
行い、肉質の改善、発育の向上に力を入れている。

 一方、このような農家の生産活動と呼応してユニークな活動も展開している。
勝山のヒージャー料理をこよなく愛する近在の人たちが、11年に勝山山羊愛好会
を結成した。愛好会は、地元の農村交流センターで毎月定例会を開催している。
勝山のヒージャー料理に舌鼓を打ちながら、羊魂祭の復活やヒージャーオーラセ
ーのルールづくり、放牧など、地域おこしの一環として勝山山羊の活用方策が検
討されている。

 生産組合と愛好会の二人三脚で動き出した勝山の地域おこし。山羊刺しの風味
を一層引き立てる特産品のシークァーサー(ヒラミレモン)とともに、勝山山羊
の特産化が期待される。

 沖縄では、ほぼ全市町村で山羊が飼育されており、その数1万4,000頭余、飼養
戸数が2,070戸。牛などと比べて非常に取り扱いやすく、また、年中豊かな野草
に恵まれていることなどから高齢者を中心に人気が高い。山羊を前面に押し出し、
地域おこしにその活用を図っている地域も多く、山羊の健在ぶりをアピールして
いる。

 全国山羊サミットや山羊フェスティバルの開催をきっかけにして、優良種の輸
入、山羊乳を利用したアイスクリームやパンの開発、山羊の常設競り市の開設な
ど山羊に対する関心が広がり、沖縄では山羊が注目されている。
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【勝山集落の羊魂碑】

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