生産局 畜産部 牛乳乳製品課長 五十嵐 太乙
わが国の生乳生産は、平成9年度以降減少傾向で推移している。特に、12年度 は主産地である北海道においても自然体で初めて前年度を下回り、関係者は危機 感を強めている。 そのような中、昨年の雪印乳業の食中毒事故の影響により、生乳を100%使用 した牛乳の消費が好調に推移していることもあり、今夏の需要期を迎え、生乳需 給のひっ迫が懸念されていることから、酪農・乳業関係者の協力が必要となって いる。
12年度の生乳生産は、約840万トン、対前年度比1.2%の減少であった。地域 別には、都府県は479万トン(▲1.1%)で4年連続の減少、北海道は362万トン (▲1.1%)と自然体で初めての減少となった。特に、これまで都府県の減少を かなりの程度カバーしてきた北海道の生産減少は、わが国酪農生産の将来にとっ て憂慮すべき事態となっている。生乳生産の減少要因としては、高齢化による離 農に加え、2年続きの夏の猛暑の影響による分娩の遅れもあり、これまで離農農 家の減少分をカバーしてきた大規模および中堅生産者の増頭が進まなかったこと、 さらには乳価が比較的安定的に推移する中で、個々の経営にとって新たな規模拡 大への投資意欲が強くないこと等が考えられる。 このような状況の中、本年度に入ってからの生乳生産は、4〜5月▲3.2%、 地域別には北海道▲1.6%、都府県▲4.4%で推移しており、依然として減少傾向、 とりわけ都府県の生産の落ち込みが激しい。
生乳需要の動向についてみると、近年は飲用牛乳が伸び悩む中、乳飲料、はっ 酵乳の需要が増加する傾向にあったが、12年6月末の雪印乳業の食中毒事故の発 生以降、現在まで需要の様相は一変し、生乳100%使用の飲用牛乳に対する需要 が増加する一方、加工乳、はっ酵乳などの需要が急激に減少している。 また、乳製品に仕向けられる生乳についても、12年7月以降急激な減少傾向が 続き、本年度に入っても、生乳生産が減少する中で飲用牛乳への供給が優先され ることにより、大幅な減少(▲12.5%)で推移している。
需要については、飲用牛乳の増加が7月で一巡するものの、さらなる増加傾向 が続くのか、何よりも今後の天候により左右されることとなるが、今年の梅雨明 けが早かったことに加え、9月に入っても残暑が厳しいとの予報がなされている ことから、引き続き好調に推移すると見込まざるを得ない。 一方、供給については、速報によれば北海道の6月の生産が対前年度100%を わずかに上回り(100.3%)、7月上旬に入っても1%増加で推移するなど回復 の兆しが見られるものの、年度目標の103%達成は厳しい状況にあり、また、夏 期に入っても都府県の生産が思わしくないことから、引き続き減少傾向で推移す ると見ざるを得ない。 このような状況の中で、学校給食が再開される9月には最大の需要期を迎える が、生乳がひっ迫状況になることは避けられそうにもない。飲用牛乳向けの生乳 については、海外からの輸入に頼ることは想定されないことから、国内の酪農・ 乳業関係者が、量販店等流通小売関係者の理解を得つつ、協力してこれに対処す ることが必要である。さもなければ、競合する他の飲料に需要を奪われ、わが国 酪農乳業の衰退につながるだろう。
生産者の努力 国産生乳への需要に対する供給責任を認識し、暑熱対策の徹底、事故防止、給 与飼料の改善等可能な限り生産回復に努めることが必要である。 特に、都府県の生産者団体にあっては、広域的な需給調整を図り徹底的に加工 の発生を抑える必要がある。また、北海道の生産者団体にあっては、都府県にお ける飲用需要の動向に応じて、柔軟な対応をお願いしたい。 乳業メーカーの努力 最需要期にあっては、飲用需要への対応を優先するとともに、量販店に対し、 今夏の需給ひっ迫により供給量の減少は避けられないこと、また、牛乳の特売・ 安売りの中止、小売価格の是正を求めて欲しい。 量販店等の努力 生乳需給がひっ迫状況にあることを十分理解し、牛乳の安売り・特売の自粛、 適正価格での販売による内部留保の蓄積に努めていただきたい。
最後に、近年の口蹄疫や狂牛病等伝染性疾病の発生を背景として、乳製品の国 際価格が上昇する気配を見せている。やはり、国内の牛乳・乳製品需要に安定的 に応えていくためには、相当程度を国産生乳で賄う必要性、すなわち自給率確保 の必要性を強く感じている。 わが国酪農・乳業の協力により、今回の生乳需給のひっ迫を乗り切っていきた い。
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