★ 事業団から


肉用牛ヘルパー事業の概要について

畜産助成部




はじめに

 最近、肉用牛経営の飼養規模の拡大、肉用牛飼養者の高齢化等の進展に伴い、
冠婚葬祭、傷病、旅行等に際し肉用牛ヘルパ−を設置するなど、その体制の確立
が要請され、国は、指定助成対象事業として、平成10年度に、肉用牛生産基盤安
定化支援対策事業において「肉用牛ヘルパ−事業」を創設した。

 しかしながら、その実施状況は極めて低調であることから、肉用牛版の「ヘル
パ−制度」の普及・定着が急務となっている。また、平成12年度の会計検査院の
会計実施検査においても、肉用牛生産を取り巻く厳しい情勢の中で本事業の果た
す役割は極めて重要であるとのご理解を得たにもかかわらず、その実施状況が極
めて低調であることにかんがみ、実効性のある方策を検討の上、事業効果を上げ
るよう指導を受けたところである。

 今後、早急に、農協段階等における現場での肉用牛ヘルパー制度の確立を図り、
普及・定着を進めることが今後の肉用牛の生産基盤の強化を図る上で極めて重要
と考えられることから、本事業の実施運用等について詳細に解説することとし、
関係者の本事業に対する一層の理解と事業推進を切に願う次第である。


肉用牛ヘルパー利用組合の活動内容と組織の概念について

基本的な活動内容

 ア 肉用牛ヘルパー活動の組織化(推進協議会、活動計画策定、運営等)に関
   すること
 イ 肉用牛ヘルパーの要員確保活動に関すること
 ウ 肉用牛ヘルパーの出役調整に関すること
 エ 肉用牛ヘルパーの技術研修・講習会に関すること
 オ 肉用牛ヘルパーの傷害・損害保険の加入に関すること
 カ 利用組合の業務、組合員の肉用牛生産技術等の向上を図るための先進地調
   査、検討会の開催等に関すること
 キ 肉用牛経営者の傷病時のヘルパー利用による互助制度の推進等に関するこ
   と
 ク 肉用牛の輸送代行に関すること。
 ケ 飼料生産(たい肥散布、耕起、は種を含む)・調製(刈り取り、乾燥、収
   穫、サイレ−ジ調製を含む)・運搬の代行に関すること
 コ 肉用牛の飼養管理(去勢、削蹄、分娩、衛生等を含む)の代行に関するこ
   と
 サ その他組合の目的を達成するために必要な活動に関すること

利用組合の設立に当たっての基本的な考え方

 肉用牛ヘルパー組合の設立は、ヘルパー活動の機能性と迅速性、かつ、正確性
を確保する観点から、地域段階で、市町村単位の単協単位あるいは複数市町村の
広域農協単位に設立されるものと考えられる。

1 広域農協の単位で肉用牛ヘルパー組合を設立する場合の考え方

(1)広域農協等.に「○○肉用牛ヘルパー利用組合」を設置し、旧農協単位に
「○○肉用牛ヘルパー利用組合○○支部」の設置を行うことによって円滑な実施
体制が確保されると考えられることから、これらの役割分担を明確にする必要が
ある。

ア 「○○肉用牛ヘルパー利用組合」の役割(活動)内容

(ア)管内のヘルパー利用組合○○支部に対する統一的な助言・指導及び連絡調
   整
(イ)肉用牛ヘルパーの技術向上のための研修会の開催
(ウ)肉用牛ヘルパーの保険加入
(エ)ヘルパー料金の設定及び徴収・管理
(オ)関係規程の作成
(カ)事業計画の作成、総会等の開催
(キ)肉用牛経営者に対する啓発・啓蒙
(ク)県地域基金(県畜産会)との連絡調整と補助金の管理
(ケ)ヘルパー組合運営円滑化推進協議会の開催

 等の全般的な連絡・調整等

イ 「○○肉用牛ヘルパー利用組合○○支部」(旧農協単位)

(ア)肉用牛ヘルパーの登録
(イ)肉用牛経営者及び肉用牛ヘルパー利用組合との連絡調整
(ウ)ヘルパーの派遣
(エ)ヘルパー料金の徴収
(オ)ヘルパー利用組合○○支部運営協議会等の開催
(カ)先進地研修会の実施及びヘルパー実施方策、手続き等の検討
(キ)事業計画の作成

 等の全般的な連絡・調整

2 単一農協の単位で肉用牛ヘルパー組合を設立する場合の考え方
 上記1を包括的に実施
【広域農協の区域で実施する場合】

    
【単協の場合】


肉用牛ヘルパーの種類

飼養管理ヘルパー:

 冠婚葬祭、傷病時、旅行時等に肉用牛の飼養管理の代行を行うヘルパー

飼料生産収穫調製ヘルパー:

 飼料作物の収穫・調製(乾燥、サイレージ)作業管理代行を行うヘルパー

削蹄ヘルパー:

 肉用牛の削蹄を行うヘルパー

家畜市場出荷ヘルパー:

 ア 農家から家畜市場までの家畜の運搬
 イ 農家から購買者までの引渡し(家畜の運搬、セリ上場前後の家畜の世話、
   セリ上場、購買者への家畜の引渡し)
 ウ セリ上場前後の家畜の世話、セリ上場および購買者への家畜の引渡しの代
   行を行うヘルパー

たい肥散布・耕起ヘルパー:

 たい肥散布または耕起あるいは両者の代行を行うヘルパー

除角・去勢ヘルパー:

 除角・去勢の代行を行うヘルパー

肉用牛施設等衛生管理ヘルパー:

 家畜飼養施設等における消毒及び肉用牛の予防注射、去勢等の代行を行うヘル
パー

稲わら収草ヘルパー:

 飼料用稲わらの刈り取り、乾燥調製、収穫、運搬の代行またはホールクロップ
サイレージ生産を行うヘルパー


ヘルパー要員の確保と身分・位置付け

ヘルパー要員の確保

1 肉用牛ヘルパー組合は、ヘルパー要員を年間固定した専任ヘルパーとして確
 保することが望ましいが、酪農と異なり、毎日、毎月といった定期的なヘルパ
 ー需要はあまりみなれないことから、季節的、期間的あるいは臨時的なヘルパ
 ー要員の確保登録を行うことが極めて重要であり、それぞれの代行作業に携わ
 るヘルパー要員を確保、登録し、肉用牛経営者からのヘルパー要請に応じ、そ
 の都度対応可能なヘルパー要員を調整・斡旋し、迅速に派遣することが重要で
 ある。

2 肉用牛ヘルパー組合は、ヘルパー要員の安定的な確保とヘルパー要請に応じ
 た迅速な対応を確保するため、ヘルパー代行作業の内容により、生産者、家畜
 商、農協機械銀行の従事者(職員ではない者)、市町村または農協等の第三セ
 クターの従事者(職員でない者)等を対象にして、希望者を対象に登録を行う。

3 ヘルパー要員の調整・斡旋を円滑かつ機動的に実施するためには、ヘルパー
 利用組合の事務局をどこに設置し、誰が事務局運営の責任者になるのかが、重
 要な鍵を握ることとなる。

  事務局については、指導・助言をうける市町村または農協の理解を得て、市
 町村または農協内に事務局を設置することが望ましい。

  事務局の運営については、専任の事務局員を設置することが望ましいが、経
 費面、ヘルパーの利用頻度等から考えると専任事務局員の設置は困難と考えら
 れるので、市町村又は農協の職員のOB等を臨時的に組合が雇用し、ヘルパー組
 合の業務を委託形態で実施することにより、効果的な運営が図られると考えら
 れる。この場合、臨時的に雇用する費用(アルバイト料)については本事業の
 補助対象経費と認められる。

ヘルパー要員の身分・位置付け

1 ヘルパー組合は、ヘルパー要員を年間専任的に雇用する形態でなく、ヘルパ
 ー登録制度を導入して、ヘルパー要員との年間または期間契約により登録を行
 う。
  この場合、地域的な状況、期間的に集中する作業内容等を勘案し、ゆとりの
 ある要員登録を行うことが重要。

2 ヘルパー組合は、登録したヘルパー要員を肉用牛経営のヘルパー作業の要請
 に応じ、対応できるヘルパー要員を派遣することとする。

3 労働保険については、5人以上常時雇用する場合は加入が義務付けられてい
 るものの、この場合常時でなく助け合い的な組織であることとして保険加入は
 免れている。日々雇い入れるものとしての「保険手帳」での加入も考えられる
 が、事務手続的煩雑さから、労働保険については、組織が大きくなり常時雇用
 が進展した後に検討することとしている。

4 ヘルパー利用組合は、ヘルパー料金を徴収して、ヘルパー要員にその対価
 (賃金)を支払うことから、当然ながら所得税、住民税の対象となる。従って、
 これらの対応を行うため、当該利用組合は、税法上、人格なき社団法人として
 位置付けられることから、税務署に対し、「給与等支払事務所届」および「納
 期特別承認申請書」等の届出を行い、ヘルパー要員にその対価(賃金)を支払
 時に、「源泉徴収月額表乙欄」で所得税を徴収し、翌月の10日までに税務署に
 納付することとなる。(1カ月8万7,000円以内は5%を徴収)


料金設定の基本的な考え方

 ヘルパー料金の設定に当たっては、農業委員会等で決定されている地域の平均
的な雇用労賃等を参考にして、飼養頭数規模、飼料作物面積等を勘案し、ヘルパ
ー組合が都道府県と協議の上、標準的な基本料金を設定するものとする。

飼養管理ヘルパー

 飼養管理ヘルパー作業は、飼料の調製・給与、ボロ出し、給水、発情発見、牛
の健康確認等が一般的であり、地域の平均的な雇用労賃等を勘案し、飼養頭数規
模別の基本料金を設定し、基本料金と1頭当たりの利用料を飼養頭数に乗じて得
た額を加算し、ヘルパー料金とする。



 この場合、一般的な飼養管理以外の分娩、種付け、治療等を伴う場合は、作業
そのものの重要性を考慮し、別途1頭当たりの料金設定の方法も考えられる。

飼料生産収穫・調製ヘルパー

 飼料生産収穫・調製ヘルパー作業は、たい肥散布、耕起、播種、鎮圧、乾燥調
製、サイレージ調製、運搬等であり、これらの作業工程を全部または一部あるい
はトラクター、作業機等の移動距離等により、その料金設定が異なることとなる。

 従って、基本料金の設定に当たっては、全行程あるいは作業工程ごとの飼料作
物の面積当たりの料金設定が必要と考えらる。また、地域においては、飼料作物
または牧草の種類についても考慮する必要がある。

 なお、ヘルパー利用組合が、トラクター、作業機等を借り上げして、当該トラ
クター、作業機等を用いてヘルパー要員が使用する場合には、基本料金に当該借
上料を包含することとし、当然ながら、借上料については補助の対象となる。



削蹄および除角ヘルパー

 削蹄ヘルパーは、削蹄そのものは、削蹄免許を有した削蹄師が行うこととなる
ので、地域の平均的な時間当たりの賃金を基に、除角作業は、牛の引きだし、牛
の保定補助が必要であろうし、去勢の場合も同様であるので、現在、民間獣医師、
農業共済組合等が実施している、削蹄料金および去勢料金等を参考に基本料金を
設定する。

家畜市場出荷ヘルパー

 家畜市場出荷ヘルパーは、@農家から家畜市場までの家畜の運搬、A農家から
購買者までの引渡し(家畜の運搬、セリ上場前後の家畜の世話、セリ上場、購買
者への家畜の引渡し)、Bセリ上場前後の家畜の世話、セリ上場及び購買者への
家畜の引渡しの代行が考えられることから、地域の平均的な雇用労賃等を勘案し、
基本料金を設定するものとする。

 この場合、家畜運搬車を借上げて(ヘルパー自身または組合が)代行を行う場
合には、当該家畜運搬車両の借上料については補助の対象となる。

肉用牛施設等衛生管理ヘルパー

 肉用牛施設等衛生管理作業は、施設、たい肥舎、これら周辺の消毒、家畜の予
防注射、去勢等であり、料金設定に当たっては、薬剤費を含めた設定あるいは除
いた設定が考えられ、また、飼養頭数規模、施設規模等をも勘案して設定する必
要がある。

稲わら集草ヘルパー

 稲わら集草作業は、稲の刈り取り、乾燥調製またはサイレージ調製、運搬等で
あり、地域の平均的な雇用労賃等を勘案し、また、サイレージ調製の場合は、作
業の特殊性を勘案して基本料金を設定するものとする。


傷病時等の定義と証拠書類について

傷病時等の定義

 傷病時等とは、肉用牛経営に従事している者(家族経営の場合は夫婦のいずれ
か、法人の場合には専従者)が病気、事故、出産、死亡により、一時的または後
継従事者が確保されるまでの間において、就農が困難となり、肉用牛経営を引き
続き継続することが困難となった場合をいう。

 この間、肉用牛経営者が肉用牛ヘルパーを利用して、経営の持続的な安定に資
する。この場合、ヘルパー利用期間は、自己負担等を考慮して最高1カ月を限度
としているが、必要に応じ、ヘルパー組合と当該肉用牛経営と協議して、その期
間の変更ができるものとする。

証拠書類

 ヘルパー利用組合は、肉用牛経営者から傷病時等ヘルパー利用の依頼があった
場合には、速やかに、その事実関係を確認し、肉用牛ヘルパー要員を派遣し、肉
用牛経営者の要請に対応するものとする。

 この場合、ヘルパー利用組合は、肉用牛経営者に対し、病院が発行する入院証
明書、出産証明書、警察が発行する事故証明書等を徴集して整備保管するものと
する。


おわりに

 酪農ヘルパー制度は、平成2年度から47都道府県において、酪農ヘルパー組合
を、末端農協等の単位で酪農ヘルパー利用組合を設立し、はや10年を経過してい
る。

 酪農ヘルパー制度は、今や末端に深く定着し、酪農経営にとって極めて重要か
つ不可欠な制度として確立されつつあることは周知の事実である。一方の肉用牛
ヘルパー制度は、やっと緒についたばかりで、かつ、専任のヘルパーを確保する
ことは困難である等の特殊性もあり、肉用牛独自のヘルパー制度を確立すること
が重要である。従って、地域の社会的、経済的条件の中で肉用牛経営者がどのよ
うなヘルパー制度を期待しているのか、要望しているのか、関係者及び肉用牛経
営者が一体となって、地域独自の肉用牛ヘルパー制度の確立を推進していかねば
ならないと考える次第である。

<参考>肉用牛ヘルパー等組織支援対策事業(集団活動支援を除く)における
具体的な事業内容、補助対象経費、使用基準、関係証拠書類の整備について

肉用牛ヘルパー活動推進支援

肉用牛ヘルパー活動等推進


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