広島県/仙波 豊三
見浦牧場(場長見浦和弥氏31歳)は、昭和37年頃、初代(哲弥氏70歳)が始 めた黒毛和種の一貫経営である。広島県の西部山間部(山県郡戸河内町小板)に あり、土地資源には恵まれているが積雪寒冷地帯である。特に積雪の多い地域で、 牧場を始めた当時は道路事情が悪く、豪雪のため交通が途絶して部落が孤立する こともしばしばであった。そのような環境を逆手にとって、「ここで出来ること は肉用牛経営しかない」との初代の信念に基づいて創業された。苛酷な厳冬を越 すことを繰り返す中で、極めて独創的な経営方針を打ち出して経営を確立してき た。それは雪の中でも子牛を生み、上手に育てる母牛を選抜して牛群を整備する ということである。 当時導入された牛は、種々雑多で、そのような選抜基準に合格する牛は、わず か2割程度であったという。繁殖性を第一とする選抜を重ねて、50頭程度の「ま あまあ」の群を整備するだけで20年は要したとのことである。 文字通り苦節40年を顧みて、資金繰りに行きづまり、3度は投げ出そうと思っ たという。特に、5人の子育て、教育途上では経営者としての厳しさを前面に出 し、高校、大学進学は国公立に限り、受験はワンチャンス・ワントライだと言っ てきた。子供たちは、それだけ真剣に取り組み、皆希望どおり高等教育を受けさ せることができたとのこと。 63年に、次男が後継として経営に参加し、平成4年に経営権を移譲した。7年 に結婚し、今は若夫婦主体の経営である。 草地18ヘクタールに繁殖雌牛58頭、肥育52頭、育成子牛64頭、計174頭の一貫 経営で、最悪の時には借入金が4,000万円を超えたこともあったが、今は、1,50 0万円の経営資金の借入れがあるが順次償還ができ、経営上の大きな心配は払し ょくされている。 繁殖性については、確実に一年一産が実現され見事である。一方、肉質はA3 ・B3クラスが主体で、極上ねらいをする意志は全くないとのこと。今の広島牛で は、繁殖性と肉質を兼備した系統はまだないというのが初代の苦言である。一貫 経営であるから、母牛の肉質能力は、すべて判明しており、肉質系の種雄牛を交 配して徐々に、母牛の系統改善をと普通は考えるところである。しかし、この厳 しい環境は、そんなに甘いものではない。繁殖性重視の経営方針は簡単には変え られないとのこと。 若い二代目の経営がますます発展することを期待してやまない。
【みんなこっちを向いている】 |
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【「冬の中でも子牛を生み、 上手に育てる」繁殖牛群】 |