◎地域便り


稲発酵粗飼料が仲立ちする耕種、畜産農家の連携

熊本県/企画情報部


 下益城郡松橋町の川田勝也さん(59歳)は水稲作との複合経営で、搾乳牛45頭、
育成牛15頭を飼養する酪農家。水田農業経営確立対策に応じて今年からホール・
クロップ・サイレージ(稲発酵粗飼料)用の稲1.5ヘクタールを作付けている。

 これまではトウモロコシを主体とする配合飼料を使い、稲わらも給与していた。
しかし稲わらだけでは繊維には富んでいても各種栄養素に乏しい。その点、ホー
ル・クロップは多彩な養分を持っており、乳量の増加、乳質の向上にメリットが
あると判断したことも作付けに踏み切った動機の1つとなっている。

 川田さんは年間1頭当たり8キログラムのホール・クロップの給じを計画して
おり、これを作付面積で換算すると10ヘクタール相当になる。そこで不足する分
は耕種農家との連携で賄うこととし、逆に畜産農家からはたい肥を供給する体制
がつくられようとしている。

 このためのたい肥舎の建設を川田さんは現在進めており、工程の大部分を自ら
の手で行うことで、コストが膨らまないように配慮している。

 松橋町一帯の水田には一昨年の台風18号によって著しい塩害が発生した。これ
ら水田に水を張り、除塩対策を講じる上で有効なのが飼料用稲の作付けである。

 そのほか、飼料用稲の作付けへの取り組みが進もうとしている背景について同
町農政課では、@塩害被災農家の所得確保、A飼料用稲の作付けを活用した生産
調整の定着、B国産粗飼料の確保とたい肥の循環等の要因を挙げており、また
「最近の口蹄疫の発生に端を発した稲わらの輸入問題が畜産農家側からの働きか
けを促した」と指摘している。

 稲わら自体に限らず粗飼料についても輸入品ではなく、「同じ地域の中で生産
された安全な物を使いたいとする強い意向に基づいている」というのである。

 飼料用稲の刈り取りは田植えから60〜90日後。生育途上の稲はビニールに巻か
れて1カ月程度でサイレージとなる。

 町内には収穫用のモア・コンディショナー等の大型機械がまだ普及しておらず、
5台を有するのみ。従って機械のある地区だけに飼料用稲の生産も限られている。

 これを拡大していくために生産組合的な組織の結成も視野に入れられており、
実現すれば個人ベースでの供給契約から地域全体に広がりを持った、一層実効の
高い循環システムが形成されるものと期待されている。

 「耕種農家と畜産農家との連携なくしては環境保全対策は進まない」のであり、
ホール・クロップ・サイレージがそのけん引車になろうとしている。
【川田勝也さん(中央)と松橋町
農業委員会の緒方理明会長(左)、
藤本守事務局長(右)】

    
【収穫された飼料用稲】

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