◎調査・報告


BSE(いわゆる狂牛病)には、
正確な知識で対処することが、大切です。

財団法人 日本食肉消費総合センター・農畜産業振興事業団


10月27日読売新聞に広告が掲載されましたのでご紹介します。

                        企画情報部

はじめに

 1986年、イギリスで初めて確認されたBSE(いわゆる狂牛病)がヨーロッパ全
土に拡大、そしてこれまで水際の防止策が万全だったはずの日本でも去る9月、
BSEと判定される牛が見つかりました。10月18日、農林水産省と厚生労働省は、
今後は安全な牛からのものだけがと畜場から出回り、それ以外のものは一切市場
に出回らないシステムを確立したということを踏まえて、いわゆる※「安全宣言」
を発表しました。しかし現実には、一般消費者には今なお不安の要素を残してい
ます。ゼロに近い非常に低い確率ではありますが、それはBSEが人間にも感染す
ることが、現実にあるといわれているからです。今回は10月18日の厚労・農水両
大臣の記者会見を機に、BSEについての正しい情報を客観的に生活者の方々に提
供するために、専門家の皆様のご意見をうかがってみました。




EUを超える世界最高水準の検査体制が確立

中村 まずは、10月18日のいわゆる「安全宣言」について、主婦の立場から萩尾
  さんはどうお感じになられましたか。

萩尾  BSE検査がはじまったということですが、いざ買い物をするとなると、ま
  だ牛肉に手が伸びにくいですね。というのも、「疑陽性」が出て、また検査
  をやり直したりしているのを聞くと、本当に陽性のものを見逃しているんじ
  ゃないかといった不安感はぬぐえません。

山内 多くの一般生活者が、そうした不安をお持ちだと思いますが、現在政府が
  行っている、BSEかどうかを判定するBSE迅速検査(エライザ法)は、ベルギ
  ーの中立的な研究機関が比較検査した3種類の検査法の中でも最も感度の高
  いもので、したがって信頼できる試験と考えられます。

萩尾 ではなぜ、判定に違いが生じるのですか。

山内 感度が高い反面、その牛がBSEでない場合でも、まれに陽性として検出さ
  れることがあるのです。これがいわゆる「疑陽性」という判定なんですがこ
  の「疑陽性」が生活者に不安を与えているんですね。しかし、エライザ法で
  陽性と判定された場合はさらに確認検査を実施することになっています。エ
  ライザ法は見逃しのおそれがないことを最優先とした検査法で、そこでひっ
  かかったものを最終確認するわけです。

金子 一般の人には「疑陽性」というと、ツベルクリン反応みたいな「弱い陽性」
  のことだと誤解している方がまだまだ多いのが現実ですね。

萩尾 そうではないんですか?

山内 本当は陰性なのに、「ニセの陽性である」というのが「疑陽性」。科学者
  は理解していますが、一般の方はわかりにくいと思います。こうした言葉の
  正確な説明は、今後はもっと行うべきでしょう。

中村 金子先生、柴田先生はいわゆる「安全宣言」についてどう思われますか?

金子 牛肉に対する不安が日々募るなか、16年かけてBSEと戦ってきたEU(欧州
  連合)が組み立てた安全基準にのっとり、さらにそれをも上回るものとして、
  全頭を対象とした検査システムが確立できたことは評価しています。ただし、
  中立的な立場の機関による繰り返しの調査・チェックは必要です。

柴田 こういう問題が起こったときには、行政、アカデミズム、生活者代表が一
  緒になってシステムを作り、そうした機関が判断することが一番望ましいと
  思います。「疑陽性」の問題についても、はじまったばかりで、検査方法に
  現場が不慣れなことも原因のひとつと考えられますが、感度の高い検査をや
  っていれば出てくるのは当然なんです。ただ、発表の仕方に統一性がないた
  めに不安を招いているように思われます。




人間への感染リスクは限りなくゼロに近い

中村 牛肉については脳、脊髄、眼、回腸遠位部(小腸の最後の部分)などの危
  険部位を除けば安心して食べられるものであり、しかもこれからは一頭ずつ
  と畜場に運ばれた牛について脳の組織を取り、検査するというわけですから、
  心配することはないと思います。ただ、牛の解体法のことで、まだ疑問をお
  持ちの方もいらっしゃるようです。

萩尾 「背割り」の問題ですね。私もよくわからない一人なのですが。

山内 背割りを行った場合、脊髄液が出てきますが、これを危険部位の脊髄と混
  同されている方が多いようです。危険部位はBSEに罹った牛のいろいろな臓
  器をマウスの脳内に接種した実験結果に基づくものですが、脊髄液自体には、
  感染性は認められていません。問題は脊髄の組織で、この組織の中に病原体
  である異常プリオン蛋白質が入っているのです。組織自体は目で見えるもの
  ですから、これをきれいに取り除けばリスクはありません。現に、背割りは
  EUでも行われています。しかし、今後ともいろいろな工夫は必要でしょう。

中村 BSEの問題に私たちが人ごとでいられなくなった背景には、それが人間に
  も感染することがほぼ確実になっているからですが、これについてはいかが
  でしょうか。

金子 資料によれば、古典型のヤコブ病の年間死亡率は世界で100万人に1人前
  後、BSEとの関連が疑われる変異型ヤコブ病については、BSEの発生が18万
  頭にも達する英国では500万分の1程度と推定されています。日本で変異型ヤ
  コブ病の患者が出ないという保証はありませんし、仮にBSEが大量に発生し
  ている英国を当てはめてみると日本全体で見れば患者さんが発生する可能性
  もあるわけです。リスクと個人個人の安全の問題は分けて考えなければなり
  ませんし、行政は「慎重の原則」にのっとり、あるかもしれないという前提
  での対応が必要です。

山内 過去については否定できませんが、これからの場合、脳・脊髄については
  除去されますし、発症のリスクは限りなくゼロに近づくでしょう。英国など
  での発症理由のひとつに、脳・脊髄が肉に混ざったものが安いハンバーガー
  やソーセージなどに利用されていたことが発表されましたが、幸い日本では
  ほとんどそれはないということですから。

中村 動物実験などの報告を見ていると、BSEには「種の壁」があり、人間はも
  ともとかかりにくいものであるように言われていますが、実際のところはど
  うなのでしょうか。

山内 かかりにくいという可能性は十分あると思います。マウスの脳内にBSEの
  病原体であるプリオンを接種した場合、牛に比べて約1000倍感染効率は低く
  なっています。同じようにサルに接種すると、潜伏期がマウスでは1年ほど
  だったのが、サルでは3年くらいに延長します。サルはマウスよりもずっと
  かかりにくいということになります。サルの実験から推測すれば、人間も非
  常にかかりにくいと推測されます。

柴田 確かに確率の上ではそうですが、エイズのときもホモセクシュアルでしか
  感染しないといわれていましたが、ヘテロセクシュアルでも感染することが
  わかってきました。つまり、我々専門家は「今日の科学常識は明日覆るかも
  しれない」という意識を忘れてはならないと思います。そのためにも、金子
  先生が言われるように繰り返しの調査・チェックは今後とも必要でしょう。


牛肉は栄養的にも優れた食品、健康生活のためにも不可欠

萩尾 牛乳や乳製品については、大丈夫と考えてよろしいのですか。

山内 BSEに罹った牛について、現在では脳、脊髄、眼および回腸遠位部以外か
  ら感染性は認められていません。牛乳・乳製品は、当然食べても大丈夫です。

柴田 牛肉は元来良質なタンパク源であったわけですが、今回の騒ぎで、牛肉へ
  のバッシングが高まっているのは非常に残念に思います。私は長い間、人間
  の寿命や健康の問題を専門としてきましたが、日本が世界一の長寿国になっ
  た要因は、まさに肉と乳製品の摂取量増加によるものなのです。

   同じタンパク質でも植物性に比べて肉に含まれる動物性タンパク質の場合
  は、スタミナをつける作用があります。また、必須アミノ酸の中のトリプト
  ファンからできるセロトニンという神経伝達物質は、不足すると鬱を招き、
  ひいてはボケの原因にもなるため、肉から摂取するのが望ましいといわれて、
  最近特に注目を浴びてきたところでした。さらに、肉を食べると私たちは心
  のどこかに幸福感を覚えますが、これはアナンダマイドという至福物質が肉
  に含まれているからなんですね。

   日本には過去の歴史の中で、宗教等の問題や、最近ではコレステロールの
  問題等で周期的に肉をバッシングしてきた風潮がありますが、肉そのものは
  食べておいしいという味覚だけでなく、栄養的にも優れた食品であることに
  変わりはありません。

山内 今回の騒ぎで、牛が悪者になった感については私も胸を痛めています。こ
  れまで牛は私たちの生活に随分と貢献してきてくれました。BSEをつくった
  のは人間なのだということを忘れてはなりません。私は自著の中で「狂牛病
  の牛は狂っていない」というチャプターを設けましたが、牛への偏見を抱く
  ことには注意を呼びかけたいと思います。

金子 日本でも年間100人ほどの古典型ヤコブ病の患者が発生していますが、こ
  うした患者さんに対する偏見がないようにお願いしたいですね。

中村 私たちはあらゆる機会をとらえて、BSEに関する正しい知識を身につけな
  ければなりません。そのためにも、行政も科学者も客観的な情報の開示に努
  めてほしい、と思います。関連して、今後の課題として一つ上げたいのは、
  牛のパスポート作りです。牛一頭ずつに生まれた場所、育った場所、使った
  餌、そして出荷後はどこで食肉処理されたか、どこで部分肉になったかを、
  バーコードでつけます。消費者はスーパーの店頭で、希望すれば、牛の素性
  を全部知ることが出来ます。EUは、既に着手していますので、日本でも情報
  提供の一つとして、考えてほしいと思います。

 今日はありがとうございました。


私たちはあらゆる機会をとらえて、
BSEの正確な知識を求めるべきです。
そのために必要なのは広範囲の情報開示です。

中村靖彦
(なかむらやすひこ)
明治大学客員教授。農政ジャーナリスト。東北大学文学部卒。


牛肉はもちろん、乳製品から加工食品、
化粧品に至るまで、牛のパワーがこんなにも
身近だったことに改めて驚きました。

萩尾みどり(はぎおみどり)
女優。千葉大学理学部生物学科中退。1974年、TBSドラマで
ヒロインデビュー。その後、テレビドラマ、映画、舞台等で
活躍。現在NHK教育「おしゃれ工房」に司会として出演中


牛肉は元来良質なタンパク源。今回の騒ぎで、
牛肉へのバッシングが高まっているのは
非常に残念です。

柴田 博(しばたひろし)
桜美林大学文学部教授。医学博士。北海道大学医学部卒。


人間への感染リスクは非常に低いとされています。
ただし、リスクと個人個人の安全の問題は
分けて考えるべきです。

金子清俊(かねこきよとし)
国立精神神経センター神経研究所部長。医学博士。新潟大学医学部卒。


エライザ法は現在実用化されている検査法の中で、
もっとも高い感度で
異常プリオン蛋白質を検出します。

山内一也
(やまのうちかずや)
東京大学名誉教授。(財)日本生物科学研究所理事・主任研究員。
農学博士。東京大学農学部獣医学科卒。

元のページに戻る