◎調査・報告


MEAT STUDY 
BSE(いわゆる狂牛病)を正しく知ろう

財団法人 日本食肉消費総合センター・農畜産業振興事業団


10月28日朝日新聞に広告が掲載されましたのでご紹介します。

                          企画情報部

はじめに

 現在の日本で人々の関心がきわめて高い話題はBSE(いわゆる狂牛病)にかか
わる問題です。今年9月わが国で初めてBSEに感染した牛が確認されて以来、さ
まざまな情報が流れています。中には根拠に乏しい風説もあり、人々の不安は増
すばかりです。そこでBSEについて正しく知るためのシンポジウムがさる10月23
日東京で開かれ、多くの人々が熱心に聞き入りました。

出席者

◎出席者

藤田 陽偉先生 国際獣疫事務局〔OIE〕アジア・太平洋地域代表
近藤 喜代太郎先生 放送大学評議員・教養学部教授 北海道大学医学部名誉教授
小川 益男先生 (財)日本食品分析センター学術顧問 東京農工大学名誉教授
島田 淳子先生 昭和女子大学教授 お茶の水女子大学名誉教授
高田 明和先生 浜松医科大学名誉教授
ちはるさん タレント

●コーディネーター

藤巻 正生先生 東京大学名誉教授 お茶の水女子大学名誉教授


基調講演1 「BSEについて」―藤田 陽偉先生

【藤田 陽偉先生】
 BSEとは牛海綿状脳症のことで、いわゆる狂牛病と言われています。脳の神経
細胞が空胞化に加えて海綿状となり、異常行動など神経症状が現れたのちに、死
亡します。1986年に英国で初めて報告されました。発生のメカニズムは脳にある
プリオンというたんぱくが外部からの異常プリオンに接触し異常プリオンに転換
することで起こるとされています。BSEの潜伏期間は2年から8年と長く、発生
牛の年齢は平均4〜5歳齢となっています。

 BSEに汚染された肉骨粉を飼料として給与されておこると考えられています。
英国ではBSEにかかった牛の肉骨粉を飼料にしていましたが、BSE牛の異常プリオ
ンが正常な牛に伝達しBSEが広がり、約18万頭がBSEにかかりました。し
かし1988年から牛などの反すう動物由来の肉骨粉を反すう動物に給与するこ
とを禁止しました。その結果、BSEの発生頭数は92年の3万7千頭をピークに20
00年は1,573頭、2001年8月現在では318頭と激減しました。食物連鎖のチェー
ンを断つことが撲滅への第一歩でした。その英国では、同じ農場で同じ飼料を食
べていた牛群のBSE発症率は平均3%以下でした。

 BSEの発症に伴い、OIE(国際獣疫事務局)の名前を目にする方も多いと思いま
す。OIEは157カ国が加盟する動物の衛生に関する国際機関で、動物・畜産物につ
いてのさまざまな規約を定めています。この国際ルールではBSEの発生程度や肉
骨粉の反すう動物への給与状況等に応じて、清浄国、暫定清浄国、低発生国、高
発生国の4ランクに分け国際貿易上の取り扱いを規定しています。しかし牛乳に
ついてはBSEの発生の程度に関わらず、いかなる国からも輸入規制の対象としな
いこととされ、牛肉についてもBSEを理由に輸入の禁止等の規制は加えていませ
ん。これらはBSEにかかった牛の臓器をマウスに接種する実験などに基づく、科
学的根拠の裏付けをもって定められています。つまり牛乳・牛肉のいずれもBSE
の伝達性は認められていないのです。発生国(英国など高発生国を除く)から輸
出できない危険部位は、OIEの基準によれば、肉骨粉の他、脳、脊髄、眼、回腸
遠位端部といった特定の部位に限られています。すなわち、これらの危険部位以
外は流通させて問題ないことをOIEの規約では規定しているのです。

 こうした中、本年6月にWHO(世界保健機関)、FAO(国連食糧農業機関)、O
IEの3者で今後のBSE対策の方向について協議されました。その内容をご紹介し
ましょう。まずBSEの危険性は楽観視してはならないということ。BSEの原因であ
る肉骨粉の貿易についてその過程で偽造や実態が伏せられる危険性があることに
関して警鐘をならすこと。リスク管理の方法は科学的根拠に基づき、明白でかつ
必要以上に貿易の制限とならないものということです。また豚や鶏について、BS
Eの経口での感染性は否定するとともに、科学者はBSEのリスクについての情報を
積極的に提供すると同時にその新たなリスクについてどう対処すべきかを明確に
するべきという方針を勧告しています。


基調講演2 「BSEと変異型クロイツフェルト・ヤコブ病について」
 ―近藤 喜代太郎先生

【近藤 喜代太郎先生】
 私はBSEが人にもたらすリスクについてお話しいたします。プリオンはヒト、
牛などすべての高等動物の脳にあるたんぱくです。これがなんらかの要因により
異常化することによって引き起こされる病気をまとめて「プリオン病」といいま
すが、脳病変の特徴から海綿状脳症ともいいます。 ヒトのプリオン病としては
クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)が知られています。CJDはわが国を含め世
界的に年間100万人に1人の割合で発生が認められていますが、その90%以上は
原因がわからない孤発性CJDと呼ばれるものです。残りは遺伝的要素によって特
定の家族に発生する遺伝性CJDや、脳手術の際にCJDで汚染された硬膜移植など
に起因する医原性CJDとなっています。 なお、ニューギニアのある種族にはク
ールーと呼ばれる特殊なCJDが見られました。

 これに対し、BSEと関連があるとされる英国の新変異型ヤコブ病(vCJD)は、
新しいタイプのヤコブ病です。従前のヤコブ病と比較すると、発症の年齢が若く、
CJDに特有の脳波が見られないなど、臨床的な症状がかなり異なります。従前の
ヤコブ病と同じ点は、いったん発症すると治療法はなく、少しゆっくりではあり
ますが、残念ながら死に至る病気だということです。

 これまでに確定しているvCJDの患者数は世界で103人ですが、その内99人は
英国で見られ、いろいろな点からみて、BSEの原因となった異常プリオンを食べ
たことが原因となった疑いが強く持たれています。英国では87年春からBSEが集
団発生の兆しをみせ、88年7月に牛への肉骨粉の給与を禁止し、また89年11月に
は人が牛の脳や脊髄などを食用とすることを禁止しています。この間BSEはすで
に数千頭が発症し1頭のBSE牛の周囲には同じ飼料で育ちながら発症しない牛が1
00〜数百頭いたと推定されることからみて、BSEのプリオンを持ち、見かけは正
常であったため、出荷された牛の脳などをそれまでの間に多くの人が食べていた
ことがうかがわれます。

 では、日本人が普通の食生活をしていて、vCJDにかかる平均的なリスクはど
れぐらいあるのでしょうか。私の試算では、英国におけるvCJDの発生が年間50
0万人に1人であることから「1/500万×日英のリスク比」という式になります。
この日英リスク比に影響する主な要因としては、次の3つが考えられます。一つ
は食生活のあり方です。英国では脳や脊髄を以前にはかなり食べていたというこ
とです。つまり英国のほうがリスクは大きいことになります。次にマーケットに
出た汚染牛の数ですが、これはほぼBSEの発生累計頭数に比例するでしょう。最
後に異常プリオンに対する遺伝的素因の差が考えられますが、こちらはよくわか
っていません。

 仮に汚染牛の数だけを考慮して試算してみても、英国でのBSEの発生頭数が18
万頭であるのに対し、倍の人口をもつ日本は1頭だけですから、この式は食生活
の差を無視しても「1/500万×1/18万×1/2」となり、1/9000億以下と
極めて小さい数字となります。

 これまで生じたリスクがゼロという意味では決してありませんが、極めて小さ
いので日常生活の上では実用的な意義はないということです。つまり、これまで
の汚染は食生活においてなんら影響を与えるほどの脅威でないと考えられます。
また、厳重な全頭検査の体制ができた今、今後の牛肉には何の心配もありません。
これが私の結論です。


パネルディスカッション「正しく知って、対応しよう」

風評にあまり惑わされずに正しい知識を身につけたい

藤巻 この9月BSEの発生が確認されて以来、わが国では風評も含めさまざまな
  情報が飛びかっています。根拠の乏しい情報は生産者にとっても消費者にと
  っても好ましくはありません。

   本日はお二人の先生に基調講演をいただき、BSEの科学的根拠に基づいた
  認識を新たにしたところですが、パネリストの方々からBSEや牛肉について
  一言ずつご意見をお願いします。
【藤巻 正生先生】
ちはる 専門的なお話は難しかったのですが、牛肉や牛乳が安全だということは
  分かりました。でも頭で分かっていても、ニュースやワイドショーなどの情
  報などに接すると気持が不安になります。私は主婦の立場で分かりやすい説
  明や解説をお聞きしたいと思っています。

小川 一時は日本の畜産はどうなるのかと大変危惧いたしましたが、安全宣言が
  出されて一安心です。しかし、原因の究明や再発の防止などこれからの課題
  もあります。これは食物連鎖の問題ですので、家畜も人間も同様のものを食
  べているのだということを決して忘れず、これからも畜産が発展し、おいし
  い肉を食べられるよう、知恵を出し合い協力していきたいですね。
【小川 益男先生】
島田 私は家政学が専門ですので生活者としての立場から発言させていただきま
  す。この問題では細切れ情報が氾濫し、そのために一般市民の不安が一層高
  まっているように思います。こういうときは正しい知識を系統的に得ること
  が大事だと思います。本日はその意味でありがたかったです。

高田 私は脳が専門の医師です。最近うつ病の患者さんが多いのですが、その治
  療にはほとんどと言ってよいぐらい脳内のセロトニンという物質を増やす薬
  を処方します。セロトニンはトリプトファンというアミノ酸から作られるの
  ですが、これは実はお肉の中に最も効率的に含まれているのです。今回の騒
  ぎにまどわされずに牛肉を食べないなどといった誤解が払拭されることを望
  みます。

藤巻 BSEに関連して話を進めたいと思います。

ちはる 牛肉や牛乳が安全だと分かっていても、テレビで解体のとき脊髄から液
  が飛んで付着するから危ないとか、腸の一部といっても具体的にどんな食材
  に使われているのかが分からないので不安ですね。

藤田 危険部位をはずしているので、流通しているものは大丈夫と考えます。筋
  肉部分は問題がありませんし、国際機関であるOIEにおいてはBSE発生国であ
  っても、肉、牛乳は国際貿易上流通を阻止しておりません。

   解体については専門家ではありませんが、組織の破片が付着しないように
  圧力のかかった水で流しながら処理されているのが現状のようです。一部の
  国では脊髄を抜いてから背割りをしているようですが。

小川 フランスでは来年1月から実施予定ですね。これは、今後普及していくと
  思いますが、ヨーロッパでも背割りが行われ、組織片を可能な限り集めるこ
  とで安全を期しているのが現状のようです。

ちはる 腸の一部が危ないといわれて、製品を回収したというニュースを聞くと、
  もつは全部だめなのかなあ、なんて思いますが。

島田 よく分かります。10月18日以降は腸の一部を含む危険部位を全て除去する
  ことになりましたから、これからは安心してお肉を頂けます。後はちはるさ
  んのおっしゃった加工品ですが、厚生労働省の指導でメーカーが原料に危険
  部位が使用されていないかどうかチェックしているということで、すでに安
  全宣言が出ているものもあるようです。今日のお話を聞くと危険性は少ない
  と思いますが、今後の検討と系統的な情報を期待します。
【島田 淳子先生】

BSE牛をシロとする検査体制ではありません

藤巻 新型のヤコブ病についてはいかがですか。

高田 ヤコブ病の原因のプリオンですが、新型と旧型は違うのですか。

近藤 分子構造が全く違います。新型はBSEと同じなのです。それだけでなく人
  口あたりのBSEの発生率と新型ヤコブ病の発生は比例していますので、疫学
  的には因果関係が強いと思わざるを得ないのです。

高田 プリオンの検査法についてですが、エライザ法とかウエスタンブロット法
  とか聞きますが、素人には分かりにくいですね。
【高田 明和先生】
小川 まず、早く検査結果が欲しいということが要求されますが、かといって陽
  性のものを見逃してしまっては困るわけです。こうしたことから迅速、かつ、
  感度の高いエライザ法というのが採用されているわけですが、陰性のものを
  陽性としてしまうことがあります。これが疑陽性ですね。しかし、陽性(ク
  ロ)のものを陰性(シロ)とすることはありません。これを確認するのがウ
  エスタンブロット法で時間はかかるが、結果は確実なのです。

藤田 エライザ法もウエスタンブロット法も国際機関で認められた検査方法で、
  一般にEUの各国とも複数の検査方法を組み合わせて行っています。

ちはる 検査結果は安全でも、それの伝え方が不十分な気がします。

島田 そうですね。一次検査と二次検査の間でどう発表するかといったドタバタ
  はかえって不信感がつのりますからね。




安全のためのシステム構築  人間どうしの信頼も築こう

藤巻 10月18日に農林水産・厚生労働両大臣の記者会見が行われ、いわゆる「安
  全宣言」がなされました。その体制をフローチャートにしましたが、まず原
  因とされる肉骨粉の輸入・国内における肉骨粉を含む飼料の製造・出荷が停
  止されました。牛は農場においてチェックされ正常な牛だけが出荷されます。
  と畜場では危険部位を取り除き、焼却処分します。さらに全頭についてエラ
  イザ法による検査が行われ、安全を確認した牛の肉や内臓でなければ流通さ
  せない仕組みです。これはEUよりも厳しいものです。

◇牛海綿状脳症(BSE)の疑いのない安全な畜産物の供給体制の構築◇


ちはる 科学的でないと言われるかもしれませんが、図を見て頭では理解しても
  心が納得しない感じも持ちます。英国では落ちこんだ牛肉の消費が回復した
  と聞きますが、どのような努力をしたのですか。

小川 英国では最初は対処が甘かったのです。しかしその後は厳しくなりました。
  膨大な費用をかけて国の政策として全力をあげたことが徐々に評価されたの
  だと思います。

ちはる このフローチャートと同じくらいの体制なのですか。

小川 そのとおりです。安全な牛肉が出て行く出口をしっかりとチェックするこ
  とが大切ですが、全頭を検査することについては、EUよりも優れていると言
  えます。

ちはる それを伝える方法や人に信頼感が持てると安心感が湧き本当に納得でき
  ますね。
【ちはるさん】
藤巻 その意味でこのようなシンポジウムが開かれています。多くの人たちにBS
  Eについてのことを、科学的な知識を含め知ってもらいたいと思います。

藤田 科学者も新しい知識や技術を、そのリスクも含めて知らせる、つまり正し
  い知識を正しく伝えるということが重要な時期にきていますね。

島田 ちはるさんの意見は主婦の意見の代表だと思いますが、消費者には潜在的
  な不安があるのです。流通経路がよくわからないし、お役所が安全だと言っ
  ても、報道などを見ると不安が増すのです。そんな精神的な背景があるので
  す。

藤巻 食品はすべて安全でなければなりませんね。ちはるさんがおっしゃった安
  全に対する潜在的な不安を解消するためにも人と人との結びつきが重要です
  ね。生産者も人であり、役所も人、消費者も人ですからその信頼をどう築く
  かというご発言と受け取りました。

   牛肉は大変おいしいし、栄養価も高い食品です。本日高田先生の発言にあ
  った、脳内物質セロトニンを作るトリプトファンを多く含むのがお肉という
  ことでした。精神的にも肉体的にも大変良い食品である牛肉の消費量が落ち
  ているのは、人々の健康面に良いことではありません。 わが国では科学的
  に見て、これ以上にないシステムで牛肉の安全性が確保されることになりま
  した。消費者の皆さまも、これからは安心して素晴らしい食品である牛肉を
  食べていただきたいと思います。

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