★ 農林水産省から
家畜個体識別システムの緊急実施について
生産局 畜産部 畜産技術課
大森 正敏
家畜個体識別システムとは
家畜個体識別システムとは、重複することのない生涯唯一の番号で家畜を識別
・管理する一連の仕組みである。この番号については、視認性の良さ、価格の安
さ、家畜に対する安全性等から耳標に印字して農家をはじめとする関係者が容易
に利用出来るようにする予定である(図1、2、3参照)。
◇図1◇
◇図2◇
◇図3◇
EU諸国においては、牛について家畜防疫上の必要性から、古くは1950年代に国
家的事業として取り組む国も現れ、1993年のEU市場統合(すべての国境措置の撤
廃)に伴いEU連合として統一的に取り組むこととされ、1998年にはBSE問題への
対処として耳標装着を義務化した。また、オランダ、フランス等においては、家
畜防疫のみならず、農家経営の高度化、家畜改良の強化等に利用され、大きな成
果を上げている(図4参照)。
◇図4:諸外国における個体識別の概要◇
わが国における取り組み状況
わが国においても平成7年度からEU先進国を手本とした家畜個体識別システム
の導入を検討していたところ、酪農関係者からの強い要請もあり、9年度から乳
用牛を対象とした「家畜個体識別システム研究開発事業」を開始しました。
本事業は11年度まで、海外調査、システムの検討・開発、団体間およびモデル
地域での調整等を行い、12年度から実際に6道県のモデル地域において耳標を装
着している(図5参照)。
◇図5:モデル事業の実施地域◇
モデル地域別対象戸数、頭数
注1)対象頭数とは、モデル事業開始時の農家毎の乳用牛飼
養頭数の合計である。
注2)頭数割合とは、各都道府県の乳用牛飼養頭数に占める
対象頭数の割合を示す。
肉用牛を含めた本格実施に向けた検討
13年度からは、肉用牛も含めたわが国に適した家畜個体識別システムを構築す
るために、畜産振興総合対策事業の中で「個体管理情報新技術実用化促進事業」
を開始し、16年度にはわが国で飼養する牛全頭(約450万頭)への耳標装着を完
了する計画を立てました。
そして、13年6月には19の畜産関係団体と5道県で構成する「家畜個体情報管
理システム推進中央協議会」(表1参照)を設置し、14年度からの耳標装着に備
え、着実に準備を整えてきたところである。
表1 家畜個体情報管理システム推進中央協議会
2001.06.18
1.協議会設立の目的
わが国の畜産関係者に広く活用される家畜個体識別システムを構築・普及する
ため、電算処理を含む一連のシステムの開発にかかる事項につき幅広く検討を行
うとともに、全国的な普及を推進することを目的とし、中央協議会を設立する。
2.構成団体等
次の24団体・道県とする。なお、必要に応じて他の業務を担当する団体が参
加できるものとする。また、厚生労働省がオブザーバーとして参加する
3.会長、会長代理および副会長
会長は、菱沼毅農畜産業振興事業団副理事長、会長代理は南波利昭家畜改良セ
ンター理事長、副会長は高島照治日本ホルスタイン登録協会会長および石橋大造
全国和牛登録協会会長とする。
4.実務者会およびワーキンググループ
各構成団体の業務担当者等による実務者会を置く。実務者会においては、事業
推進上の技術的な問題について検討を行う。また、必要に応じて個別課題毎に関
係する団体等によるワーキンググループを設け、検討を行う。
5.実務担当
事業実施に係る実務は、家畜改良センターが担当する。
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家畜個体識別の早期確立に向けた年度内完全実施
わが国における家畜個体識別システムの構築を着実に進め、14年度からの耳標
装着の準備を整えている最中、アジアで初めて千葉県において、BSE(牛海綿状
脳症)の患畜が確認されたのである。
今回のBSE患畜の発生で、同居牛などの疑似患畜と考えられる牛などの特定、
移動先調査に、都道府県、市町村、農協等職員の方々の多大な労力と2ヵ月近い
期間を費やすこととなった。 また、消費・流通サイドからは家畜個体の生産情
報とこれを裏付ける出生からの移動履歴情報の提供が求められる状況になってき
た。このような中で、畜産関係団体はもとより消費者団体からも家畜個体識別シ
ステムの早期確立の要請が高まり、16年度までに完成としていた耳標装着計画を
大幅に前倒し、13年度内にわが国で飼養する牛全頭に耳標を装着する「家畜個体
識別システム緊急整備事業」を実施することとなった(表2参照)。
表2 家畜個体識別システム緊急整備事業
1.事業の目的
我が国で初めて牛海綿状脳症(BSE)の牛が確認されたところであるが、国
民の食生活の安全性を確保するためには、患畜の移動歴や同居牛等の所在を迅速
に追跡調査し、家畜防疫上の措置を的確に実施する必要がある。
このため、全ての牛に生涯一つの個体識別番号を付与し、この番号に基づき個
体の移動歴等を把握する「家畜個体識別システム」の導入が効果的である。
本システムは、家畜のトレーサビリティーを高め畜産物の安全性を確保するば
かりでなく、農家経営の高度化等にも大きく貢献するものである。
今回のBSE発生を踏まえ、「家畜個体識別システム」を緊急に整備し、畜産
物の安全性の確保と畜産の振興を図るものとする。
2.事業の内容
(1)家畜個体識別センター整備
個体識別番号を管理し、当該システムの運営の中心となる「家畜個体識別セン
ター」及び個体識別番号を管理するために必要となる機器整備を行う。
(2)家畜個体識別システム緊急定着推進
地域全体を統括して事業に取り組む農協等が、全頭一斉に耳標を装着する活動
に対する支援を行う。
(3)効率的個体情報収集体制整備
農協、家畜市場、と畜場等地域における各団体が、個体情報を効率的に収集し
全国データベースに送信するために必要なシステム開発、機器整備等を行う。
3.事業実施主体 (社)家畜改良事業団
4.所要額(補助率) 3,442百万円(定額)
担当課:生産局畜産部畜産技術課
代表 03-3502-8111 内線 3905、3906
(夜間)直通03-3591-6745 担当者 大森、葛谷
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この緊急事業については、450万頭という頭数に短期間(実質3ヵ月)で耳標
を装着しなければならないことから、耳標購入経費ばかりでなく装着経費につい
ても助成することとしている。本事業は短期間のうちにEUを凌駕するシステムを
作り上げようとするものであり、牛を飼っている農家の皆様のご理解と協力はも
ちろんのこと、家畜個体識別システムの早期確立に向け、関係者一丸となった取
り組みとして、都道府県、家畜保健衛生所、市町村、農協等の方々の絶大なるご
協力が必要である。このため、現在、各都道府県に畜産主務課長を長とする「家
畜個体識別システム推進協議会」を緊急に設置し、耳標装着の実行計画の策定、
システムの普及・啓発等を行っていただいている。今度は、この協議会を核とし
た取組が本事業の成否を狙っていると考えているので、お力添えの程よろしくお
願いする次第である(図6、7参照)。
◇図6◇
◇図7:家畜個体識別システム緊急整備事業実施スケジュール◇
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