◎地域便り


谷水を活用した乳用牛の防暑システムを考案

愛媛県/河野 博典


 伊予三島市の酪農家藤井茂喜さん(52歳)は、昨年の夏から新しい防暑システ
ムとして、冷風設備を開発し防暑対策に効果を上げている。この試みは、使用さ
れていなかった地下サイロと廃材として譲り受けた塩化ビニール性の大型パイプ、
それに豊富で水温の安定した谷水を利用して、ラジエーターの熱交換原理をヒン
トに藤井さん自身が発案したもので、平成12年7月に完成。現在2基を設置して
今年(13年)の夏もフル稼働している。

 設備の概要は、まず谷水を地下サイロ(25縺~2基)に引き込み、その中に束
にした多数の細いパイプ(約130本)をくぐらせておく。この中をファンによっ
て吸い込まれた空気が通過する間に温度が下がることにより冷気を作り出す。こ
れを大型パイプのダクトで牛舎内に送風する。自身のアイデアを形にするまでに
は、パイプ中の結露の除去や地下サイロへの水量調整など幾つかの問題はあった
が、地元電気工務店の協力もあって無事解決し、現在順調に稼働している。この
設備で冷却に用いている谷水は年間を通じて約21℃で安定しており、これまでの
ところ外気温より約4〜7℃低い冷風(ダクトの吹き出し口で測定)を送り出す
ことに成功している。ダクトの吹き出し口に手をかざすとエアコン並みの冷んや
り感がある。現在、約50頭の搾乳牛に冷風を当てているが、牛群は全体に落ち着
いてリラックスした印象を受ける。実際、従来は暑熱の影響で食欲や泌乳量の落
ち込む牛が見られたが昨年はほとんどなく、8月生まれの子牛は全頭事故もなく、
その後10〜11月の種付け成績も良好だった。今年も牛の状態は泌乳、繁殖面とも
に良好で、暑熱が原因と思われる分娩や子牛の事故はない。試験的に稼働し始め
た際には、「まだまだこれから。夏を越してみないと何とも言えないが、期待は
している」と話していた藤井さんだが、2度目の夏を終えて予想通りの効果に期
待は自信に変わりつつあるようだ。また、今後は年間を通して安定した温度の送
風ができることから、夏季以外でも稼働させて牛舎内の温度変化を抑え、ストレ
ス軽減に活用したい考えだ。

 瀬戸内地域は昨年、今年と猛暑に見舞われており、午前中から気温が30℃を超
える日も少なくない。多くの酪農家は暑熱ストレスの弊害は十分認識しているも
のの、積極的な防暑対策に取り組んでいないのが現状である。このシステムは立
地環境や飼養形態等の条件により多数の酪農家への普及は困難であると思われる
が、防暑対策に積極的に取り組む姿勢が地域の酪農家へ波及することを期待して
いる。
  
【牛舎内の送風パイプ】

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