◎今月の話題


健康長寿は食肉摂取から

茨城キリスト教大学 生活科学部食物健康化学科  教授 板倉弘重





 




健康長寿のもとは肝臓にあり

 長寿は皆望むところであるが、健康で活動力を持った長寿であってほしい。加
齢に伴う老化を防ぐには、若い時から生活習慣に気をつけなければならないが、
中でも食事が大切である。健康状態をチェックする項目のなかに、栄養評価指標
と呼ばれるものがある。この指標が悪いと健康状態に問題があり、近い将来に何
らかの事故が発生する恐れがあることを意味している。

 栄養評価指標として、肥満度、皮下脂肪の厚さ、体重の推移などと共に血液検
査で測定される血清アルブミン、トランスフェリン、総コレステロール、HDLコ
レステロール、ヘモグロビン、ヘマトクリットなどが挙げられる。これらの指標
が望ましいレベルに維持されて、低下を来たさないようにすることが健康である
ために大切なことである。ヘマトクリットは血液中の血球部分の割合をあらわし
ているが、その他は肝臓が大事な役割をしているのである。これらの体内物質を
生産する素材が肝臓に供給されなかったり、肝臓の生産能力が低下したりすると、
健康に黄信号が点灯されることになる。見逃されやすいが、長寿にとって肝臓は
大切な臓器である。


アルブミンの働きと食肉摂取

 血清たんぱく質の半分以上がアルブミンであり、アルブミンが低下すると浮腫
が生じ、疲れやすく、抵抗力が無くなってくる。血清アルブミンが低いと脳卒中
や肺炎などに罹患する人が多くなる。アルブミンは肝臓で作られ、全身に栄養分
を運搬すると共に、体のすみずみの細胞が働いた結果できた老廃物を肝臓まで持
ち帰り、そこで解毒化して体外に排せつしてくれる。肝臓がアルブミンを作るた
めには、その材料となる良質のたんぱく質が必要であり、その筆頭が食肉である。

 また、アルブミン生産工場である肝臓が壊れているのでは、いくら材料があっ
ても体に必要なだけのアルブミンを作ることはできない。肝臓を健全に保つため
には、若いときからの配慮が必要である。肝臓を壊す原因で多いのは、肝炎ウイ
ルス、アルコールの飲み過ぎ、不適切な栄養摂取、肝臓に有害な薬物などが挙げ
られる。肝臓はさまざまなストレスにさらされ、一部が破壊されても、またそれ
を再生修復して働き続けている。

 この肝細胞の再生修復のためには、十分量の良質なたんぱく質が必要であり、
食肉が役立ってくる。それにミネラルやビタミンをバランス良く摂取することで
ある。アルコールによる肝障害や脂肪肝による肝障害などが増加しており、老化
に伴う病気の誘因となってくる。


動脈硬化の予防にも肝臓が大切

 「血管と共に老いる」と言われるように、高齢者の主要な死因は動脈硬化症で
ある。動脈硬化を予防することが、健康長寿のために必要なことである。動脈硬
化を予防するために食肉摂取を制限したほうが良いと言われることがある。しか
し、これは正しいとはいえない。動脈硬化の予防にとって肝臓は大切な臓器であ
り、肝臓の機能を良好な状態に維持していくためには、食肉を含めたたんぱく質
の摂取は欠かせないのである。体内で発生した活性酸素により、血液中のLDLが
酸化されて酸化LDLができてくる。酸化LDLは血管表面の内皮細胞を活性化し、血
管内面に白血球リポたんぱく質を接着させるいわゆる接着因子が現れてきて動脈
壁の傷が次第に広がっていく。酸化LDLは血管内膜に侵入し、接着因子の作用で
血管内膜に入ったマクロファージにどん食されて泡沫細胞を形成することになる。
酸化LDLを処理してくれる臓器として肝臓は大切である。酸化LDLだけでなく、体
内で形成された過酸化物を処理してくれる最大臓器は肝臓である。

 体内に過剰にたまったコレステロールを処理しているのも肝臓である。またコ
レステロールは活性酸素により酸化コレステロールとなり、性質が変わってくる。
細胞膜のコレステロールが酸化コレステロールに変化すると、これを処理する必
要が生じる。最終的に処理してくれるのも肝臓である。

 70歳を過ぎると血清コレステロールが低下してくる人が多くなる。これまで高
かったコレステロールが下がって良くなったと喜ぶことはできない。むしろ肝臓
の機能が低下してきたことを心配しなければならない。潜在的ながんがあっても
血清コレステロールは低下してくるのである。

 45歳を過ぎてくると、内臓肥満、高血圧、高脂血症、糖尿病の合併が次第に増
えてくる。これらを予防するために筋肉量を減少させないことも必要である。適
度の運動を継続しながら食肉を含めたたんぱく質の摂取がここでも大切になって
くる。食肉摂取をもっと多くして、肝臓を強化していくことによって健康で活動
的な体になっていくのである。併せて抗酸化物質を多く含む野菜や果物をバラン
ス良く摂取することが望まれる。


(解説)

 活性酸素は酸素のなかでも不安定な酸素で周囲の物質を酸化させる。

 血液中の総コレステロールは主にLDLコレステロールとHDLコレステロールの形
で存在しており、LDLコレステロールが高くなると動脈硬化になりやすく、HDLコ
レステロールは低くなると動脈硬化が進行する。HDLコレステロールは多い方が
良いのである。

 リポたんぱくであるLDLは活性酸素で酸化されると酸化LDLに変わる。酸化LDL
は通常の細胞では分解されず、異物として血管壁に存在することになる。これを
取り除いてくれる細胞がマクロファージとよばれる細胞である。マクロファージ
という細胞の中にコレステロールがたまると、あわの様にみえることからあわが
たくさんつまった細胞という意味で泡沫細胞と呼ばれる。

いたくら ひろしげ(医学博士)

 昭和36年東京大学医学部卒業、東京大学医学部第三内科入局、昭和49年〜52年
米国カリフォルニア大学研究員、59年東京大学医学部第三内科講師、60年国立健
康・栄養研究所臨床栄養部長、平成8年同研究所特別客員研究員、10年同研究所
名誉所員、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員、12年から現職。

 第33回日本動脈硬化学会会長、第17回日本臨床栄養学会会長、赤ワインの研究
で食品産業賞受賞。

 著書 「抗酸化食品が体を守る」(河出書房新社)ほか多数。

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