★ 農林水産省から


飲用牛乳等の表示のあり方等について

畜産局牛乳乳製品課 藤澤 眞一


 飲用牛乳等の商品情報に係る表示については、近年の消費者の関心の高まりや
商品の多様化等を踏まえ、消費者の的確な商品選択に資するため、消費者にとっ
て分かりやすく適切な表示を行うとの観点から、これまでも必要な改善が行われ
てきたところである。

 しかしながら、平成12年6月末に発生した加工乳等による食中毒事故を契機と
して、現行の飲用牛乳等の表示は、消費者にとって依然として分かりにくいもの
であり、さらなる改善が必要であるとの声が多方面から寄せられるに至った。

 このため、農林水産省畜産局では「飲用牛乳等の表示のあり方等に関する検討
会」を生産者・乳業者・消費者・流通業者・学識経験者等多方面の委員17名の参
画を得て開催することとし、消費者の視点に立った表示の改善方向について検討
を行った。検討会は、8月29日の第1回を皮切りに10月19日まで計4回開催され、
短期間で精力的な議論が交わされ、その成果は報告書として取りまとめられ、11
月16日に公表された。

 今後、報告書の改善方向の提言について、厚生省および全国飲用牛乳公正取引
協議会において、検討が行われる運びとなる。

 以下、報告書の内容を紹介する。


現行の飲用牛乳等に係る表示制度の概要

 飲用牛乳等に係る表示については、公衆衛生の見地から、乳及び乳製品の成分
規格等に関する省令(以下「乳等省令」という。)に規定があるほか、不当景品
類及び不当表示防止法(昭和37年法律第134号)に基づき、牛乳製造者を会員と
する全国飲用牛乳公正取引協議会が「飲用乳の表示に関する公正競争規約」(43
年公正取引委員会告示第38号。以下「公正競争規約」という。)を定めている。


乳等省令

 乳等省令では、牛乳、加工乳、乳飲料等について、それぞれ、次のとおり定義
し、成分規格を定めるとともに、これらについて、種類別、殺菌温度及び時間、
含まれる無脂乳固形分(加工乳、乳飲料のみ)及び乳脂肪分(加工乳、部分脱脂
乳、乳飲料のみ)の重量百分率、加工乳の主要な原料、乳飲料の主要な混合物の
名称等の表示を義務化している。

・種類別「牛乳」
 直接飲用に供する目的で販売する牛の乳
 無脂乳固形分8.0%以上、乳脂肪分3.0%以上

・種類別「部分脱脂乳」
 生乳、牛乳または特別牛乳から乳脂肪分を除去したものであって脱脂乳以外の
 もの
 無脂乳固形分8.0%以上、乳脂肪分0.5%以上3.0%未満

・種類別「脱脂乳」
 生乳、牛乳または特別牛乳からほとんどすべての乳脂肪分を除去したもの
 無脂乳固形分8.0%以上、乳脂肪分0.5%未満

・種類別「加工乳」
 生乳、牛乳若しくは特別牛乳またはこれらを原料として製造した食品を加工し
 たものであって、直接飲用に供する目的で販売するもの
 無脂乳固形分8.0%以上

・種類別「乳飲料」
 生乳、牛乳若しくは特別牛乳またはこれらを原料として製造した食品を主要原
 料とした飲料

(注)特別牛乳とは、牛乳であって特別牛乳として販売するもの。無脂乳固形分
 8.5%以上、乳脂肪分3.3%以上。


公正競争規約

 公正競争規約では、牛乳、加工乳、乳飲料等について、基本的には乳等省令の
定義を採用しているが、その一方で、従来、加工乳及び乳飲料にあっては、乳等
省令に定められた牛乳の成分規格(無脂乳固形分8.0%以上、乳脂肪分3.0%以上)
を満たすものについては、商品名表示に「牛乳」という文言の使用を認めていた。
これについて、11年12月の改正により、白もの乳飲料(注)および加工乳にあっ
ては、成分規格の要件に加えて、原料として生乳を50%超使用しているものに限
り、商品名表示に「牛乳」という文言の使用を認めることとされた。また、この
改正において、乳飲料の原材料名については、「乳または乳製品」とひとくくり
で表示することができるとしていたものを、「乳」と「乳製品」を分けて表示す
ることとされた。

(注)公正競争規約においては、乳飲料について、次の2つに大別している。

 白もの乳飲料:カルシウム、ビタミン、鉄分、繊維等が加えられており、白の
        色彩を基調とするもの。 

 色もの乳飲料:コーヒー、ココア、果汁等が加えられており、白以外の色彩を
        基調とするもの。


検討に至る経緯と課題

 最近では、飲用牛乳等の商品名表示が乳等省令に基づく種類別表示と乖離して
おり、生乳の需要拡大の阻害要因となっているとの生産者団体からの指摘等を受
け、11年12月に公正競争規約の改正が行われた。

 しかしながら、12年6月末に発生した加工乳等による食中毒事故を契機として、
加工乳や乳飲料の存在がクローズアップされ、その製造工程等についても広く報
道されることとなった結果、消費者等から、「生乳100%である牛乳と加工乳・
乳飲料との区別が分かりにくい」、「今まで牛乳と思って飲んでいたものは実は
加工乳であった」等の指摘が多く寄せられる事態となった。

 今回の食中毒事故を契機として指摘がなされ、早急な対応が求められる課題と
しては、次の3つが挙げられる。

@消費者に対する十分な商品情報の提供がなされているか。具体的には、原料と
 して生乳を用いているのか、またはどれだけ生乳が用いられているのか等の情
 報が必要ではないか。

A現行の商品区分(種類別)について、名称が分かりにくいものや認知度が低い
 ものについては改善が必要ではないか。また、加工乳と乳飲料の区分は、これ
 らの流通および消費実態からみて本当に必要か。

B加工乳や乳飲料(白もの及び色もの)について、商品名表示に「牛乳」の文言
 を使用することは、生乳のみを原料とした本物の牛乳であると誤解、誤認を与
 えているのではないか。これが適切な表示と言えるのか。


今後の方向

基本的な考え方

 そもそも商品表示は、消費者が商品を選択する際の重要な判断材料であり、分
かりやすいものであることが基本である。このため、飲用牛乳等の表示について
も、これまでも改善が行われ、併せて、消費者の理解を得るための活動が行われ
てきた。

 しかし、消費者等からは、そもそも商品区分(種類別)の意味を知らない面が
あること、商品名として「牛乳」と表示されているものの中にもさまざまな種類
のものがあることについて必ずしも認識されていないこと等の問題があるとの指
摘があったところである。

 こうした指摘に対応するためには、消費者の視点に立って、表示の中立性およ
び他の飲料との統一性に配慮しつつ、商品の実質内容と表示をできる限り一致さ
せ、誤認の余地がなくなるようにして表示の信頼性を確保することが必要である。

 この基本的な考え方の下、上記の課題に対応するため、それぞれ次のような改
善が必要である。


生乳使用割合表示の制度化

 加工乳および乳飲料において、これらの原料として生乳がどの程度使用されて
いるのかという点について、消費者は重要な商品情報と考えており、原料につい
ての情報を積極的に提供するという観点から、生乳使用割合(製品製造に用いた
原料および水の総重量に占める生乳の使用量の割合)を表示すべきである。具体
的には、一括表示欄中の原材料欄に「生乳○○%使用」と記載するほか、分かり
やすい場所に明記することを、公正競争規約等において義務付けることが考えら
れる。また、生乳使用割合に季節的な幅がある場合には、その最低水準をもって
「生乳○○%以上使用」と表示することが適当である。

 一方、牛乳、部分脱脂乳および脱脂乳についても、消費者に対し、原料につい
ての情報を正確に伝え、牛乳に対する誤解を招かないようにする観点から、「生
乳100%使用」と表示することが適当である。

 なお、生乳使用割合の表示については、それを検査・確認する方法が十分でな
いとして反対する意見もあるが、乳業界としては、牛乳工場における帳簿の整備
に取り組み、使用原料の確認を可能とするなど、生乳使用割合の表示の信頼性を
確保することが必要である。また、現在開発中の生乳使用割合の推定手法につい
てさらに検討を進める必要がある。

 さらに、生乳使用割合を表示する場合の割合のきざみについては、生乳使用割
合の検査体制の確立状況を踏まえつつ、乳業界において自主的に検討し、決定す
ることが適当である。


商品区分(種類別)の改善

 商品区分(種類別)については、乳等省令によって規定されているが、特に部
分脱脂乳および脱脂乳について、その名称が分かりにくい、認知度が低い等の指
摘がある。これらについては、その原料が生乳のみであるという商品の内容を適
切に伝えるという観点から、部分脱脂乳および脱脂乳の名称を、それぞれ「部分
脱脂牛乳」、「無脂肪牛乳」と見直すことが適当である。

 また、加工乳と乳飲料の区分については、これらの流通および消費の実態をみ
ると、牛乳類似の還元乳は少なくなっていること、機能性重視の商品が中心とな
り、両者の区分を設ける必要性は低くなっていること等から、消費者にとって区
分は単純化する方が望ましいとの意見がある。しかしながら、一方で、加工乳と
コーヒー乳飲料等の色もの乳飲料とを一緒にすることは好ましくない、大きな括
りになると他の飲料との区分けが不明確になり乳成分使用の減少につながるので
はないかという心配がある等の意見もあり、現時点では、これらの区分について
は現状のままとすることが適当と考えられる。


商品名表示における「牛乳」文言の使用の改善

 これまでも、種類別名称表示の明確化、そのPR活動等は行ってきたものの、
例えば、商品名表示における「牛乳」文言の使用については、その商品名の表示
だけ見ていたのではその意味するところが分からないものであり、また、種類別
が「加工乳」と表示されていても、加工乳本来の意味が分からない場合には誤認
が残るおそれがある。これまで成分に着目して商品名表示における「牛乳」文言
の使用の論議が行われてきたが、@現在は牛乳と同じ栄養価値か否かが重要視さ
れずAむしろ別の機能性を売り物にする商品が主流になっているとすれば、なお
さら商品名表示における「牛乳」文言にこだわるのは、消費者にとって理解し難
いものとなっている。

 一方で、実態としては多くの加工乳等が「牛乳」文言を用いており、これを制
限することにより経済的な影響が出るとの意見がある。しかしながら、消費者の
誤認を防ぐためには、乳等省令に基づく種類別の名称は、公正競争規約等におい
ても尊重されるべきであり、種類別として「牛乳」と異なるものが商品名として
「牛乳」を名乗ることがないよう、改善を行うべきである。

 なお、部分脱脂乳および脱脂乳については、従来、商品名表示における「牛乳」
文言の使用が認められていないが、その原料が生乳のみであることにかんがみれ
ば、これらの種類別名称の見直しと併せて、栄養改善法(昭和27年法律第248号)
に基づく栄養表示基準を満たすものについては商品名表示において「低脂肪牛乳」
又は「無脂肪牛乳」文言の使用について検討することが必要である。        

(注)乳等省令における部分脱脂乳および脱脂乳の成分規格(乳脂肪分)と栄養
  改善法における脂質が少ないことを強調する表示の基準は次のとおりとなっ
  ている。

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容器の色分けによる識別の検討

 今回の検討の過程において、消費者に分かりやすい表示とするとの観点から、
上記のような文字による表示とは別に、諸外国の一部で行われているような容器
の色分けによる視覚的な識別方法をわが国にも採り入れられないかとの指摘があ
った。

 この指摘を受け、諸外国の事情について緊急に調査を行ったところであるが、
EUの一部および北米においては、主に個別のメーカーや業界の自主的な対応と
して、容器の色分けで飲用牛乳等の内容を識別する実態があることが判明した。
また、その識別の内容としては、乳脂肪率の水準(無調整、低脂肪、無脂肪等)
を対象としているものであり、生乳使用割合等原料に着目して識別を行っている
事例はなかった。

 このような容器の色分けを飲用牛乳等の内容の識別方法として採用することは、
消費者の識別が一層容易になると考えられるが、

@わが国の消費者は色に敏感であり、用いる色の種類およびその使い方が消費に
 どのように影響するかを見極める必要があること

A各々のメーカーが、容器の配色やデザインにより、それぞれの商品についてす
 でに一定の地位を確立しており、そのことと新たな色分けとの関係がどうなる
 のかを整理する必要があること

B他の飲料容器や飲用牛乳等の識別区分について、流通サイドと十分な調整が必
 要なこと

など、その導入に当たって検討・整備しなければならない条件が多くあると考え
られる。今回の検討においては、結論を得るための時間および判断材料が不足し
ていることから、本件について結論を得るには至らなかったが、その利点にかん
がみ、今後、さらに消費者の色等に対する反応や容器色分けの試行的な導入等に
よる調査・検討を進めていくことが必要である。


おわりに

 この報告書は、消費者等から寄せられた飲用牛乳等の表示についての問題提起
を受け、その信頼性を確保し、ひいてはわが国酪農・乳業の安定的発展を図るこ
とを目的として検討した内容を取りまとめたものである。ここに記された提言内
容は、乳等省令および公正競争規約の改正につながるものであり、特に公正競争
規約については、11年12月に改正して間もないが、表示に対する消費者からの指
摘を真摯に受け止め、飲用牛乳等の信頼の確保を図る観点から、この提言に沿っ
た表示の見直しが早急に具体化されることを期待する。

◇(参考)表示の改善に係る提言のイメージ◇
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注1:生乳使用割合は、一括表示欄にも記載するほか、分かりやすい場所に明記
 2:すべての加工乳及び乳飲料について、商品名に「牛乳」の文言使用不可
 3:使用割合に幅のある場合、その最低水準をもって「生乳○○%以上使用」
   と表示

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