社団法人日本乳業協会 専務理事 石田 洋一
平成12年6月末に発生した雪印乳業株式会社大阪工場製造の低脂肪乳等を原因 とする食中毒事件の有症者は14,780名に達し、近年例をみない大規模食中毒事件 となった。 大阪市は7月10日に原因究明の中間報告を公表し、問題点は以下の4点とした。 @チャッキ弁等の分解洗浄の未実施 A常設のステンレス配管以外のホースによる配管の使用 B屋外における調合作業 C製品の再利用 その後調査が進み、12月20日の厚生省・大阪市原因究明合同専門家会議の最終 報告で、大阪工場の低脂肪乳等の製造に使用された同社大樹工場の4月10日製造 の脱脂粉乳のエンテロトキシン汚染が本食中毒の原因と結論づけられた。 7月頃には上記のように、大阪工場における製品の再利用、すなわち製造後出 荷されずに冷蔵庫に残った製品および出荷後発注ミス等により返品された製品を 加工乳等の原料として再利用したことが汚染原因の1つと考えられた。 そのため、厚生省は12年8月25日「加工乳等の再利用等に関する有識者懇談会」 を開催し、加工乳等の再利用に関する基本的な考え方について検討した。この懇 談会には、学識経験者、消費者、流通業者、乳業者、生産者等多方面の有識者が 参画した。11月29日に第4回会議が開催され、12月8日に最終報告書が公表され た。
再利用の実態調査(平成12年8月についての調査) ・牛乳の加工乳、乳飲料への再利用について、168施設の総生産量に対する未出 荷品(自社営業所等社内管理品を含む)の再利用量の割合は0.45%であった。 ・再利用以外の処理は廃棄、家畜飼料である。 ・再利用するときの具体的方法について、標準作業書の整備状況、再利用の製品 の使用期限、開封方法、再使用する製品の検査に関して調査した。 再利用が行われている背景 ・量販店等の注文確定から出荷までの時間いわゆるリードタイムが短いため、乳 業としては注文を予測して、見込生産をする。 ・さらに、天候、気温等により注文量は変化するが、注文量に対する欠品を生じ させないために多めに生産することになる。 ・乳業者が量販店等に納入する製品、特に牛乳については製造後1日に限られて おり、それ以降は余剰在庫が発生しても出荷できない状況にある。 このようなことから、余剰在庫は衛生的な方法で資源の再利用を図る状況にあ る。 今後の再利用のあり方 (1)製品の再利用の基本的な考え方 @製品の再利用については、衛生上問題がないとしても、消費者感情の問題もあ り、また廃棄したとすれば社会的な無駄が発生する。このことから、再利用は できるだけ少なくする方向で取り組むこと A乳業者と量販店等の間でよく話し合って、無駄のない仕組みをつくる。例えば、 製造後1日のみでなく、複数日の納入など B乳業者側としては、製品の出荷前検査を確実にすることと、万が一の場合迅速 に製品回収できる体制の整備 (2)やむなく再利用を行う場合のルール化 @加工乳を加工乳の原料として再利用することは乳等省令で認められていない。 乳等省令別表二(五)(2)「加工乳にあっては水、生乳、…」参照 A加工乳を加工乳の原料として使用することを認めない絶対的な理由はないので 検討の余地があるものの、まず、再利用のガイドラインの作成や管理体制の充 実を進めること B業界団体は、下記のような項目を盛り込んだ再利用のガイドラインを作成し、 乳業自ら取り組まなければならない。 ・製品全体の量に対して使用した再利用の量(再利用する量の制限) ・同じ物が繰返し再利用されることがないよう、どこかで遮断する。(再利用 する回数の制限) ・再利用する製品の品質管理 ・小売店頭から返品された製品でないこと ・衛生的な開封方法と製品のロット等の記録
当協会の生産技術特別委員会(委員長 森永乳業難波専務)の下にワーキング グループ「製品の再利用に関する検討員会」を設け、厚生労働省の「加工乳等の 再利用等に関する有識者懇談会」の進行をみながら、ガイドラインの検討を行っ た。本年4月27日の理事会で了承を得て、5月7日に公表した。 ガイドラインの内容は「飲用乳の製品の再利用に関する報告書」に沿ったもの である。本ガイドラインの順守により安全、品質の確保はもとより、消費者の飲 用乳に対する理解が深まることを期待するとしている。 再利用の対象(適用範囲) 製品の再利用であって、次の再利用の範囲とする。 牛乳 →加工乳、乳飲料 加工乳、乳飲料→乳飲料 なお、乳等省令において、次の再利用は認められていない。 牛乳 →牛乳 加工乳→加工乳 再利用する量の制限 再利用する量については、量販店・CVS(コンビニエンス・ストア)等と受発 注ルールの改善等により、極力少なくするよう取り組む。その量は最大でも当該 工場における飲用乳(製品)全体の年間製造量の0.5%以内でなければならない。 再利用する回数の制限 再利用の原料を含む製品から優先して出荷するとか、特に乳飲料では、週に1 〜2日の再利用を行わない日を設ける等により連続的な再利用を遮断する。 再利用する製品の要件 ・消費期限または品質保持期限内の製品であり、設定した期限の2分の1以内で あること ・製品の製造ロット、供給方法、温度管理の状況等その履歴がはっきり確認でき ること ・出荷等により一旦工場の管理下を離れた製品は再利用しないこと 再利用における衛生管理 製品の再利用に当たっては、下記の事を定めた衛生標準作業手順書を作成し、 遵守する。 ・開封前に外観検査を行い、汚れ、傷等のあるものを取り除くこと ・開封後、ロットごとに検査を実施し、異常のないことを確認すること 検査項目は −官能検査(風味、性状) −理化学検査(酸度、アルコールテスト) −成分検査(乳脂肪、無脂乳固形分)(再利用乳を原料とする製品の成分調整 が必要な場合) ・開封は、工場の清浄区域内で、再利用乳の温度を10℃以下に保持できる環境で、 二次汚染を防止できる方法で行うこと 再利用の記録 ・あらかじめ記録の様式と記録する者を決めておき記録する −再利用した製品の種類 −履歴(製造ロット、供給方法、温度管理の状況等) −再利用の量 −用途 ・記録は1年以上保存すること
乳業の品質管理につき原点に帰って見直すため、また事故が起こった場合の適 切な対応につき徹底するため、生産技術特別委員会での検討により、上記のガイ ドラインの他に次のものを作成した。 「製品の出荷前検査実施要領」 「乳・乳製品の安全を確保するために−品質保証と危機管理」 「乳業工場における自主検査ガイドライン」 また、雪印乳業大阪工場の食中毒の原因は、同社大樹工場の4月10日製造脱脂 粉乳のエンテロトキシン汚染と結論づけられたことから、 「HACCPに基づく、脱脂粉乳製造工場の衛生管理マニュアル」 を作成した。
ガイドラインを作成することも大切であるが、これを実効あるようにするため に努力が必要である。まず当協会が開催するブロック会議、衛生講習会等で周知 徹底に努める。 報告書に述べられているように、再利用量を少なくするためには流通側の理解 を得ていかなければならない。進歩している製造技術や検査の面から必要なリー ドタイム等を説明し理解を得ていきたい。