福岡県/企画情報部
農事組合法人穂坂牧場へはJR筑豊線の新飯塚駅から車で西へ15分。遠賀川に 架かる橋を渡る時、代表理事の穂坂恵之輔さん(61歳)は「石炭の町としての名 残はあそこに見えるボタ山ぐらいのものでしょうかね」と遠くを指さした。 穂坂さんが農事組合法人を設立し、モデル畜産団地内で肥育経営を開始したの は昭和53年。現在では肉牛1250頭を擁し、その70%がF1、30%が乳雄で構成さ れている。 F1は全て「導入コストの低い」雌で占められており、6カ月齢で購入し、18 カ月間肥育する。一部は大阪市場等へも出荷されるが、大半が福岡県畜産農協の 手に委ねられている。 経営に貢献しているのは牛ふんたい肥の販売。売り上げ全体の30%に達し、従 業員9人のうちの6人が携わっているほどである。相手先のブランド名入り袋に 詰め込んで出荷されるほか、独自ブランド「ネオ・ノビール」としてホーム・セ ンター等にも卸されている。 ここまで順調に伸びてきたのは「使う側のニーズに合わせてきた」からに他な らない。往々にして自分のたい肥は良いと思いこみがちだが、品質の改良には常 に意を用いてきた。 穂坂さんは「たい肥に救われた」ことがある。オーストラリアからの和牛F1 の導入が軌道に載らなかったことから、数年間赤字経営を強いられのだが、「た い肥の頑張りが経営を支えてくれた」。 昭和60年頃にスタートしただけにたい肥の製造設備は今では「時代遅れのもの」 となっており、効率を上げるためにも更新を検討しなければならない時期に差し かかっている。同様にたい肥舎の新築も視野に入れているが、問題は地域住民と の関係。市街地を抜けて、点在する住宅を見下ろすような小高い丘の中腹に位置 する穂坂牧場だが、「何か新しいことをしようとすれば…」住民は即座に反応す る 素牛コストの上昇などは肥育経営に共通する悩みであって、穂坂さんはこれを 嘆こうとは思わない。だが都市化、住宅化が進む中堅地方都市の中で畜産経営を 今後どのように展開していくか。穂坂牧場にとっての難題はここにある。 将来を担う長男・貴彦さん(21歳)は現在島根県下の牧場で修業中。「まだ10 年は頑張る」意向の穂坂さんだが、バトンタッチした後はF1に絞り、育成・哺育 にまで事業を拡大していくのも1つの道とアドバイスしている。 「60歳になってから始めたので…」と照れる穂坂さんが最近熱を上げているの はゴルフ。グリーンの上では仕事とは全く関係のない友人をたくさん得ている。 そうした出会いが穂坂さんにいま新しい視界、展望を切り開こうとしているのは いうまでもない。
【F1牛を飼養する畜舎の前で】 |
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【小高い丘の中腹から見た牧場】 |