農林水産省総合食料局食品産業企画課 食品環境対策室 武藤 誠
近年、地球温暖化、オゾン層破壊等、われわれを取り巻く環境をめぐる状況は 深刻化しており、環境問題への対応を図っていくことは、今後、わが国を含めた 人類の持続的な発展を図っていく上での大きな課題となっている。 特に、現在の大量生産、大量消費、大量廃棄の社会構造を背景とした廃棄物問 題の深刻化は、その処理過程において生ずるダイオキシン、また、これら廃棄物 の最終処分場のひっ迫等環境への負荷という点においてさまざまな問題を生起せ しめているとともに、限りある資源の有効利用という点からも問題であり、その 早期の解決が必要とされるものである。このため、わが国においても、現在の使 い捨て文化等に代表されるような動脈部分を基調とした社会経済システムを、リ サイクル等の静脈部分をも重視した資源循環を基調とする社会経済システムへと 早急に構造転換していくことが必要となっている。 このような現状を踏まえ、これまで国全体として、循環型社会構築に向けた各 種取組が進められてきたが、平成12年度に開会された第147回国会においては、 これら循環型社会構築のための基本法というべき「循環型社会形成推進基本法」 が成立するとともに、その理念を具体化する個別リサイクル法の制定、改正等が 行われたところである。 このような中で、廃棄物問題において一定の位置付けを占める食品廃棄物につ いても、その再生利用等を促進するため、「食品循環資源の再生利用等の促進に 関する法律」が同国会において成立し、6月7日公布されたところである。
本法の施行については、法において、公布の日から起算して1年を超えない範 囲内において政令で定める日から施行することとされている。 このため、同法の円滑な施行を図るため、これまで、同法に基づく政省令等関 係規定の整備に向けた、食品廃棄物等の排出状況、食品循環資源の再生利用等の 実態把握、関係部局等との調整を鋭意進めてきたところであり、これらを踏まえ、 このたび政省令等関係規定が取りまとめられたところである。なお、政令で定め る施行日は13年5月1日としたところである。 本政省令等関係規定については、13年3月9日より、農林水産省ホームページ 等において、パブリックコメントの聴取が実施されるとともに、3月22日に開催 された食糧・農業・農村政策審議会総合食料分科会食品リサイクル小委員会にお いて、そのあり方が審議されたところである。 今後は、これらの意見を踏まえつつ、関係部局等との調整等を行いながら、こ れに合わせた円滑な法の施行を行うこととしている。
本法の成立の背景、また、法施行に向けた動きについては、これまで述べた通 りであるが、以下においては、政省令等の関係規定を含め、食品リサイクル制度 の内容について述べる。 本法の趣旨・目的 本法は、加工残さ、食べ残し等の食品に由来する食品廃棄物等について、その 再生利用、発生の抑制および減量を促進することにより、これら食品に係る資源 の有効な利用の確保と食品に係る廃棄物の排出の抑制を図ろうとするものである。 このため、国民、食品関連事業者、国、地方公共団体等食品循環資源の再生利 用等の促進に関わる各主体に対し、その責務を定めるとともに、事業活動に伴っ て食品廃棄物等を発生させる食品製造業、食品流通業、飲食店業等については、 これを本法上の食品関連事業者として位置付け、一定の基準に基づいた具体的な 食品循環資源の再生利用の実施を求めることとしている。 定義 @ 食品廃棄物等 本法においては、再生利用等の対象となる食品廃棄物等を ア 食品が食用に供された後に、または食用に供されずに廃棄されたもの イ 食品の製造、加工または調理の過程において副次的に得られた物品のうち 食用に供することができないもの としており、具体的には、食品の製造過程より生ずる動植物性の加工残さ、食品 の食べ残し、賞味期限切れ等により廃棄される食品等がこれに該当することとな る。 A 食品循環資源 食品廃棄物等のうち有用なものとして、具体的には食品廃棄物等のうち、肥飼 料等への再生利用が可能なものがこれに該当することになる。 B 食品関連事業者の範囲 本法においては、食品循環資源の再生利用等を実施主体となる食品関連事業者 を ア 食品の製造、加工、卸売または小売を業として行う者 イ 飲食店業その他食事の提供を伴う事業として政令で定めるものを行う者 としている。 なお、政令においては、その他食事の提供を伴う事業を行う者として、結婚式 場業、旅館業等を指定している。 C 再生利用等 本法においては、食品関連事業者が行うべき取り組みとして、再生利用、発生 の抑制および減量を位置付け、各食品関連事業者はこれらの取り組みを効果的に 組み合わせることにより、食品に係る廃棄物の排出の抑制等を行うこととしてい る。 ア 再生利用 食品循環資源を肥料、飼料その他政令で定める製品の原材料として利用、また は利用するために譲渡することであり、その再生処理については、自ら行うこと も他人に委託して行うことも可能となっている。 なお、政令においては、その他政令で定める製品について、油脂および油脂製 品、メタンを指定している。 イ 発生の抑制 食品廃棄物等の発生自体を抑制することであり、再生利用、減量の前段階とし て取り組み得る行為である。 ウ 減量 脱水、乾燥その他主務省令で定める方法により食品廃棄物等の量を減少させる ことであり、具体的には発生してしまった食品廃棄物等を処理等に回す前段階に おいて減量させる行為である。 なお、省令においては、その他主務省令で定める方法として、発酵、炭化を指 定している。 各主体の責務 食品循環資源の再生利用等を促進するためには、消費者、事業者、国、地方公 共団体等これらに各主体の全体的な取り組みを確保することが重要である。 このため、本法においては、各主体の食品循環資源の再生利用等の推進におけ る位置付け等を踏まえ、以下のような責務を定めている。 @ 事業者及び消費者の責務 食品の購入又は調理方法の改善により食品廃棄物等の発生の抑制に努めるとと もに、再生利用により得られた製品の利用等に努めること。 A 国の責務 ア 再生利用等を促進するため、必要な資金の確保等とともに、情報の収集活 用や研究開発の推進その他必要な措置を講ずるよう努めること。 イ 教育活動、広報活動等を通じて国民の理解と協力を求めるよう努めること。 B 地方公共団体の責務 区域の経済的社会的条件に応じて再生利用等を促進するよう努めること。 基本方針の策定 食品循環資源等の再生利用等を促進するためには、消費者、事業者、国および 地方公共団体等これに関わる各主体に対して、その取り組みの基本方向が明示さ れることが必要である。 このため、本法においては、主務大臣は、その取組方向を示す基本方針を策定 することとしている。 基本方針については、再生利用等の促進の基本的方向、再生利用等を実施すべ き量に関する目標等を定めることとしており、現在、検討中の基本方針案におい ては、その具体的な目標値を、食品循環資源の再生利用等の実施率を18年度まで に20%に向上させることとすることを予定している。 食品関連事業者による再生利用等の実施 本法においては、食品関連事業者の食品循環資源の再生利用の促進上の位置付 けを踏まえ、これらの者に対して、具体的な基準に従った再生利用等の実施を行 わせることとしている。 また、これらの者の再生利用等の取り組みが不十分な場合については、勧告、 命令等の措置を行い得ることとしている。 @ 「食品関連事業者の判断の基準」に 基づく再生利用等の実施 本法においては、食品関連事業者に対し、基本方針に定める再生利用等を実施 すべき量に関する目標の達成を求めているが、これに当たっては、主務大臣が定 める再生利用等の基準(「食品関連事業者の判断の基準」)に従った取り組みを 行うべきものとしている。 具体的な基準の内容については、現在、検討中の食品関連事業者の判断の基準 案において、再生利用の実施時における食品循環資源の効率的な利用、適切な分 別および保管の実施、特定肥飼料等の品質および安全性の確保、特定肥飼料等の 利用の確保等の措置を定めることが予定されている。 なお、本案については、法の施行後、食料・農業・農村政策審議会の意見を聴 いて定められることとなる。 A 勧告・命令等 本法においては、食品関連事業者の基準に従った再生利用等の実施を確保する ため、主務大臣は必要な指導・助言を行い得るものとするとともに、食品廃棄物 の発生量が一定量以上の事業者に対しては、その取組が基準に照らして著しく不 十分な場合には、勧告、命令等の措置を行い得ることとしている。 この場合の発生量については、政令において、年間の食品廃棄物等の発生量が 100トン以上としている。 再生利用を促進するための措置 本法においては、食品関連事業者による再生利用等の実施を促進するため、再 生利用事業者の登録および再生利用事業計画の認定という2つの促進措置が設け られている。 @ 登録再生利用事業者の登録 食品循環資源の再生利用を促進するためには、食品関連事業者の委託を受けて 適切に再生利用事業を行うリサイクル業者の育成等が重要である。 このため、本法においては、再生利用事業を確実に実施しうるものとして、本 法において定める要件に合致するものについて、主務大臣による登録を行うこと にしている。 登録再生利用事業者については、その名称についての使用独占が認められると ともに、廃棄物処理法上の一般廃棄物収集・運搬業の特例等による広域的な再生 利用事業の実施、また、再生利用事業として、肥飼料を製造する場合について、 肥料取締法及び飼料安全法上の製造、販売等に係る届出の特例が設けられている。 具体的な登録の要件については、 ア 肥飼料化等の事業の内容が、生活環境の保全上支障がないものとして主務 省令で定める基準に適合するものであること イ 再生利用事業を効率的に実施するに足りるものとして主務省令で定める基 準に適合するものであること ウ 事業の実施に十分な経理的基礎を有すること とされている。 なお、省令においては、アの基準の内容として、事業の内容が基本方針に照ら して適切なものであること、受け入れる食品循環資源の全部または大部分を特定 肥飼料等の製造に利用すること等、また、イの基準の内容として、1日当たりの 食品循環資源の処理能力を5トン以上としている。 A 再生利用事業計画の認定 食品循環資源の再生利用を促進するためには、リサイクル製品の利用までを含 めた計画的な再生利用の実施を促進していくことが必要である。このため、本法 においては、食品関連事業者が、農林漁業者等のリサイクル品の利用者や肥飼料 等への再生利用事業を行う者と共同して、再生利用事業計画を策定した場合、本 法において定める要件に合致するものについて、主務大臣による認定を行うこと としている。 再生利用事業計画の認定を受けた場合については、登録再生利用事業者制度と 同様、廃棄物処理法上の一般廃棄物収集・運搬業の特例、肥料取締法および飼料 安全法上の製造、販売等に係る届出の特例が設けられている。 具体的な認定の要件については、計画の内容が、 ア 基本方針に照らして適切であり、かつ、食品関連事業者の判断の基準に適 合すること イ 肥飼料化等の事業を確実に実施できると認められること ウ 再生利用により得られた肥飼料等の製造量に見合う利用を確保する見込み が確実であること とされている。 食品廃棄物の現状 ○食品廃棄物の分類: 食品廃棄物は、@産業廃棄物として食品製造業から、A一般廃棄物として (ア)事業系は食品流通業及び外食産業から、(イ)家庭系は家庭から排出 ○食品廃棄物の発生及び処理状況 (平成8年度厚生省資料等からの推計)
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