◎専門調査レポート
中山間地域における水田放牧を活用した肉用牛振興
− 山口県長門大津地域における取り組み −
鳥取大学農学部 教授 小 林 一
はじめに
わが国の伝統的農法の一つである放牧を取り入れた肉用牛飼養の方式を、再評
価する動きが広がりつつある。この背景には、放牧による省力化、飼養コストの
低減、良質な肉用もと牛生産といった経済的要因ばかりでなく、農地保全や自然
環境保全等の農業・農村の多面的機能の発揮に着目した、近年の社会的要因の変
化による影響を読みとることができる。平成11年に制定された食料・農業・農村
基本法に基づいて、12年から中山間地域等直接支払制度が実施されることになっ
た。そこには中山間地域等において、農業生産の維持を図りながら、農業・農村
がもつ多面的機能を確保するねらいが示されている。放牧は、里山や農地等の地
域資源の保全を図ると同時に、それらの有効利用を通じて畜産を振興するための
伝統的農法である。近年では最新技術を導入して在来農法を改良し、科学的な放
牧技術が組み立てられてきた。中山間地域等直接支払制度による新しい政策の登
場を、こうした近代的な放牧技術を取り入れた肉用牛飼養方式の確立に向けて、
効果的に活用していくことが課題となっている。
そこで本稿では、条件不利な中山間地域にあって棚田における転作田や耕作放
棄地を活用し、水田放牧によって黒毛和種の肉用牛の生産振興に取り組んでいる、
山口県長門大津地域を事例に取り上げてその実態を紹介する。当地域は傾斜地を
多くかかえており、兼業の深化や高齢化、過疎化の進展によって、農業的土地利
用の荒廃が見られるようになってきた。こうした条件下にあって、補助事業等に
よる政策的支援を受けながら、管内の肉用牛農家が転作田や耕作放棄地等を団地
化して棚田に放牧地を造成し、肉用牛生産に効果を発揮するようになっている。
全国には耕作放棄地や遊休農地を抱える市町村が広範囲に存在する。長門大津地
域での取り組みは、畜産振興を通じた農業生産の維持や農業・農村のもつ多面的
機能確保の観点から、他地域にとっても大いに参考になるであろう。
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【日本界に面した棚田】
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地域農業の概況
山口県長門大津地域は、長門市と大津郡の三隅町、日置町、油谷町の1市3町
からなる(図)。行政組織では山口県日置農林事務所の管内と一致する。地理的
には県の北西部、日本海沿岸に位置し、地形は起伏をもった山間地が海岸線まで
突きだした形になっている。平野部の面積は狭小である。農林水産省の農業地域
類型によると、長門市と三隅町は山間農業地域、日置町と油谷町は中間農業地域
に属する。基幹産業は農林漁業の第一次産業である。農業は従来から稲作と畜産
が主体であり、これらの部門を組み合わせた複合経営が多く存在する。
◇図:山口県長門大津地域の位置図◇
農家の中では、立地条件を反映して高齢農家や兼業農家が高い割合を占める。
1995年農業センサス(平成7年)によると、管内の農家戸数は3,145戸である。そ
のうちの73%を第2種兼業農家が占め、専業農家が15%となっている。専業農家
の中には高齢専業農家が高い比率を占めており、男子生産年齢人口を有する専業
農家はわずかに124戸である。管内では、高齢化や兼業化の進展を反映して農家
戸数が減少しており、昭和60年〜平成7年までの10年間に約2割の戸数減となっ
た。農家数の減少から過疎化の進んだ農業集落が多い。また、農業就業人口の中
に占める65歳以上の高齢者の比率が高まっており、同期間中に38から55%にまで
上昇した。
農業の土地利用に関しては、水稲単作が支配的であり、1995年センサスによる
と農家全体の約7割が稲作単一経営である。農家1戸当たり平均経営耕地面積は
99アールであり、そのうち水田率が93%と高い値を示す。また、管内には傾斜地
が多く、5年の農林水産省の水田適正利用対策に関する資料によると、全体の水
田面積3,403ヘクタールに対する棚田面積が31%である。特に、油谷町と長門市
ではその比率が高く、それぞれ51、28%となっている。このような条件不利の棚
田を多くかかえた地区では、農家戸数の減少や農業労働力の弱体化による影響か
ら、耕作放棄地を増加させるようになった。7年における管内の耕作放棄地面積
は56ヘクタールであり、昭和60年からの10年間に46%増加した。とりわけ油谷町
においてその傾向が強く現れている。
畜産については、地域農業における位置付けが相対的に高い。県統計によって
10年の実績を見ると、管内全体の農業粗生産額86.8億円のうちの55%を畜産が占
める。畜種別の産出額は、採卵鶏・ブロイラー9.6、肉用牛9.1、豚7.3億円の順序
である。肉用牛については、粗生産額から見ると近年緩やかに増産傾向をたどっ
ており、10年までの5年間で約3割の伸びを示している。
管内の肉用牛飼養農家については、黒毛和種による小規模な繁殖経営が支配的
である。近年は小規模階層の農家を中心に飼養戸数が大幅に減少してきており、
対照的に1戸当たりの飼養規模が増大して、全体の飼養頭数は緩やかに増加して
きている(表)。12年現在の肉用牛の飼養状況は、飼養農家数251戸、飼養頭数3,
662頭、農家1戸当たり平均飼養頭数14.6頭となっている。品種別には、黒毛和
種が93%と大部分であり、残りは交雑種である。飼養形態別の農家の内訳は、繁
殖84%、肥育7%、繁殖肥育一貫9%となっており、繁殖経営が支配的である。
ちなみに、11年の子牛生産頭数は905頭であった。
表 肉用牛飼養の動向 山口県長門大津地域
資料「山口県農林水産統計」各年次による。
近年の肉用牛の飼養動向を見ると、飼養農家数は昭和55年からの20年間に3分
の1に減少し、現在もなおその傾向が続いている。特に減少傾向が目立つのは、
1〜2頭の階層を中心とした少頭数飼養の農家である。これらの小規模農家では
高齢労働力に依存する割合が高く、後継者の確保が困難なために飼養を中止する
ケースが多い。肉用牛飼育に従事する労働者を年齢階層別に整理してみると、現
状では60歳代以上が全体の72%を占めるまでになっている。農家全体の7割強が
分布する3〜9頭以下の小規模階層では、高齢者への依存割合が高いだけに、これ
らの階層からは今後とも飼養戸数の減少が見込まれる。ただし、山口県の調査に
よれば、日置農林事務所管内には飼養規模の拡大志向農家が全体の251戸中の42
戸と、県内の農林事務所としてはもっとも多く存在する。そのため、肉用牛の経
営基盤が安定的に確保できれば、既存農家による飼養頭数の拡大を通じた産地の
発展が充分に可能であると判断できる。
棚田を利用した水田放牧の取り組み
長門大津地域では、農業の縮小や農村活力の低下を防ぐために、地域農業の基
幹的部門である肉用牛の生産振興に力を注いでいる。上述したように、近年は条
件不利な棚田等を中心に耕作放棄地が増え、また、水田転作面積も増加してきた。
そのため、県や市町を始めとする地元の農業指導機関では、これらの農地の有効
利用を図り畜産振興に結びつけるために、肉用牛の水田放牧の奨励に当たること
とした。そして、こうした経済活動を通じ、合わせて美しい棚田や農村景観を維
持し、環境保全に当たることをねらいとした。
地元の市町村では、平成元年に山口県が単独事業(県単事業)として実施した
水田放牧事業を皮切りにして、順次、補助事業を導入し棚田を利用した水田放牧
の推進に当たってきた。これらの補助事業によって、肉用牛農家の一部が水田放
牧に取り組むようになり、現在では日置農林事務所管内で約20戸の農家が、9.7
ヘクタールの水田放牧地を利用するまでになった。これらの水田放牧の多くは、
自作地と一部の借入地を利用した単一農家による個別対応である。しかし、10年
からは集落を単位とする農家間共同によって水田放牧に取り組む事例が生まれる
ようになった。
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【海に面した水田放牧地】
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長門大津地域において、棚田を利用した水田放牧の取り組みが全国に先駆ける
形で展開するようになった要因として、山口県や国によって実施された補助事業
の役割に注目しておく必要がある。その概要を整理すると次の通りである。
(1)元〜3年:県単事業「水田放牧技術定着化促進モデル事業」
油谷町の肉用牛農家1戸を対象にして実施。64アールの水田を利用して野芝に
よる放牧地を造成。
(2)4〜6年:県単事業「水田放牧普及促進事業」
管内の1市3町において10戸の個別の肉用牛農家を対象にして実施。棚田を団
地化して合計で4.8ヘクタールの放牧地を造成。
(3)7〜8年:県単事業「中山間地域資源活用型畜産推進事業」
水田放牧地に野芝等の牧草を植え付け、肉用牛農家と耕種農家との間で堆肥交
換や農地賃貸借を通じた提携を図る。ただし、当該事業による受益農家は管内に
はなし。
(4)10〜11年:国庫事業「耕作放棄地等活動畜産振興促進事業」、県単事業
「肉用牛複合経営定着化事業」
受益対象は油谷町の畜産振興協議会の構成員である5戸の肉用牛農家。町内の
2カ所で耕作放棄地となった280アールの棚田を団地化し、放牧地を造成。
水田放牧の経営事例
ここでは、長門大津地域において棚田を利用した水田放牧に取り組む代表的な
2つの経営事例を紹介する。1つは管内でもっとも多い個人農家による個別対応
型の事例であり、もう1つは最近、設立された集落内の農家による集団対応型の
事例である。
●個人で水田放牧に取り組む事例(長門市俵山郷地区・福波昭夫氏)
長門市俵山郷地区に在住する福波昭夫氏(73歳)は、妻と2人で稲作と繁殖肉
用牛による複合経営を営む高齢専業農家である。肉用牛の飼養頭数は少ないが、
水田放牧による省力化、飼養コストの節減、健康な素牛生産等のメリットを発揮
して、所得形成を図っている。当事例は、中山間地域の条件不利を逆手にとり、
高齢農家であっても水田放牧を採用することによって肉用牛経営を確立できるこ
とを実証している貴重な事例である。
12年度の経営概況は、水稲90アール、水田放牧地60アール、黒毛和種の繁殖牛
4頭、子牛3頭となっている。福波氏は、山間地の農家としては規模の大きな16
0アールの水田を所有しているが、傾斜がきつく小区画の山沿いの棚田を転作ほ
場に当てて、水田放牧地として利用している。
経営内での肉用牛飼養の推移を見ると、福波氏は昭和45年に水田転作事業が開
始された当時に繁殖牛1頭を飼育していた。その後、平成3年には長門市の市有
牛制度を利用して1頭導入し、繁殖牛を3頭とした。合わせて、山口県による4
年度の「水田放牧普及促進事業」を利用して、それまで耕作放棄によって荒れ地
となっていた自宅裏山の60アールの棚田を、放牧地に転換することにした。放牧
用地のうちの20アールは集落内の2戸の農家との交換耕作地であり、造成時には
地主の承諾を得た。経営主は、水田放牧によって省力化が可能になったことから、
11年には繁殖牛を5頭にまで増頭した。
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【福波氏の放牧場】
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福波氏は、水田放牧事業を導入した当初、45アールの水田を有刺鉄線で囲み、
カヤが生い茂ったままの状態で放牧草地として利用した。その際、牧区は設けず
牛が自由に動けるように設計した。また、放牧地の造成と合わせて畜舎の整備を
行ったが、牛舎には電柱や間伐材を利用して建築費の低減に努めた。総事業費は
180万円であった。放牧草地については、繁茂していたカヤ等を放牧牛が採食し
てきれいになってから、野芝を植え付けた。野芝を定植してから後、林道工事に
よって放牧地内に排水路が付設されたことにより、排水条件が改善されて野芝の
生育状況が良好となった。野芝は、カヤが生い茂った中でも部分的に自生してい
た状態にあり、当該地域での栽培には好適な条件を備えている。
なお、野芝草地による放牧の場合には冬期の12〜3月の期間中の草勢が落ちて、
どうしても乾草や稲わらへの依存度が高まることになる。そのため、当経営では
冬場の粗飼料確保のために、10月初旬に野芝草地の上に極早生のイタリアンライ
グラスを追播し、12月中旬ないし1月初旬からの採食が可能になるように試験を
開始したところである。この試験には県畜産試験場の協力を得ており、シードペ
レット播種による新技術の確立を目指している。この場合、イタリアンライグラ
スは、野芝の成長が旺盛になる夏場には自然に枯れてしまう。60アールの放牧地
に対してこの技術を採用することができれば、7〜8頭の繁殖牛を常時放牧する
ことが可能になると、経営主は期待している。
当経営では、年間を通じて肉用牛を放牧しており、粗飼料を主体にした飼育を
行っている。ただし、放牧期間中にあっても夜間には牛が自ら畜舎に戻って過ご
すようにしており、その際、ふすまを中心にした濃厚飼料を給じする。繁殖牛に
ついては、分娩の1カ月半前から舎飼に移し、分娩後20〜30日の期間をおいて再
び放牧に戻す。子牛については、生後4〜4.5カ月間を親牛と一緒に放牧するよ
うにし、その後は舎飼する方式をとっている。子牛は、8〜9月令まで飼育して
地元の市場に出荷している。
福波氏は、棚田を利用した水田放牧の効果として、労働の軽減、繁殖率の向上
の2点に着目している。1点目については、飼料給与やきゅう肥搬出等に要する
作業労働の軽減効果が夏場に大きく現れており、これによって繁殖牛の飼養頭数
を増加させることができた。2点目に関しては、放牧によって繁殖牛の健康状態
が良くなり、平均して年間1産を確保することができるようになった。この2点
に加えて、放牧によって育成した子牛が足腰が強く採食能力の高い状態に仕上が
り、相対的に高値販売に結びつく効果を挙げている。
しかし、このような経営的効果の反面で、当経営においては現行の棚田を利用
した水田放牧による問題点がいくつか現れている。その第1は、自作地を主体に
した個別対応によっているため、放牧地面積が小さく多頭数放牧が困難で、放牧
によるメリットを十分に発揮できていない点である。第2は、傾斜度のきつい棚
田を利用した放牧であるため、注意をしないと繁殖牛や子牛にとって運動過多と
なり、障害の原因となりやすい点である。
第1の点に関しては、例えば、10年度には4頭の子牛を生産・販売して94万1,
650円の売上高を確保した。そして、放牧のメリットを発揮させて繁殖牛1頭当
たりの投下労働時間を272時間に短縮した。給じ面では放牧による粗飼料を主体
とし、濃厚飼料の給与量を極力減らすように努めている。その結果、購入飼料費
を繁殖牛1頭当たり6万7,418円に抑制して、子牛1頭当たり生産原価を27万8,4
00円に節減した。ところが、そうした経営努力の反面で、雌子牛の販売価格が1
頭当たり21万6,300円と低迷したこともあって、繁殖牛1頭当たり年間所得が2
万274円にとどまった。このような年間所得額の水準では、肉用牛経営として自
立することは困難である。また、例え1頭当たりの収益性の向上が可能になった
としても、肉用牛経営として安定した経済基盤を備えるには、繁殖牛の増頭や肥
育部門の導入が必要である。当農家において肉用牛の経営基盤の強化を図るには、
放牧地面積の拡大が望まれる。
●農家の集団組織によって水田放牧に取り組む事例
(油谷町向津具地区・水岬放牧場)
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【水岬牧場の避難舎に集まる牛】
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水岬放牧場は、集落内の農家が集団組織を形成して、共同で放牧に取り組むよ
うになった事例である。放牧を開始してからまだ間がないため利用効果を問える
段階にはないが、耕作放棄に陥った棚田を利用権集積を通じて団地化し、放牧地
として共同利用する事例として、今後の活動の展開が注目される。
水岬放牧場は油谷町の北西部、日本海に突きだした半島の向津具地区にある。
油谷町では高齢化と過疎化が進んだことにより、長門大津地域の中でも耕作放棄
地が目立って増加している。特に、日本海の海岸線にあって一面が棚田となって
いる向津具地区ではその傾向が強い。そのため、水田転作に振り向けられたまま
耕作放棄の状態に陥っていた岬の棚田を有効利用し、肉用牛の生産振興に当たる
ことを目的として、水岬放牧場が造成された。事業には、10〜12年度の農林水産
省「耕作放棄地等活用畜産振興促進事業」を利用した。事業主体となったのは、
地元の油谷町肉用牛振興協議会である。水田の利用権集積に関しては、油谷町畜
産振興協議会が地権者より利用権設定に基づいて、年限5年の契約で合計240ア
ールを一括借り入れし、これを肉用牛振興協議会に貸し出す方式をとった。
油谷町肉用牛振興協議会は生産組合等で構成され、この会員のうち、事業参加
は肉用牛飼養農家の6戸である。このうち放牧地造成の運動をリーダー役として
中心的に担ったのは、黒毛和種の繁殖牛10頭、肥育牛76頭を飼育する大規模肉用
牛農家であった。補助事業によって開発した放牧場は12年2月から利用を開始し
ており、現在の放牧頭数は2戸の会員農家による繁殖牛10頭である。草種には野
芝を利用しており、放牧場を3牧区に分けて周年放牧する計画である。これまで
分娩も放牧したままで行わせるようにしており、子牛は離乳のできた生後4カ月
目から舎飼いに移すようにしている。
おわりに
長門大津地域では、平成に入り、山口県や国による補助事業を導入して、棚田
を利用した水田放牧の推進に当たってきた。これまで造成された放牧地面積は必
ずしも大きくはなく、水田放牧の実施農家はまだ一部にとどまっている。また、
水田放牧を採用している農家の多くは、主に自作地や一部の借入地を利用した個
別対応型である。個別対応による放牧の場合には、一般に団地化できる水田面積
に限界があり、多くの頭数を放牧することが困難である。そのため、飼養する肉
用牛の一部について、半ば運動場的な感覚で利用する状態となり、放牧の効果を
有効に発揮できないでいる事例が多い。
しかし、管内における従来の放牧利用を通じて、@飼料給与やきゅう肥搬出等
の作業の軽減による省力化、A成雌牛の繁殖率の向上、B良質の肉用素牛生産、
C子牛や肥育牛の生産費の節減、D耕作放棄地の解消を通じた農地や環境保全と
いった効果が確認されてきている。今後、放牧地の面積が拡大され、農家におけ
る放牧技術の高位平準化が進めば、肉用牛の経営基盤の安定に大きく貢献するこ
とが期待できる。
今後、管内における棚田を活用した水田放牧が本格的に定着していくためには、
次のような条件整備が重点的に取り組まれる必要がある。
第1に、草地造成や飼養管理に関わる放牧技術の向上である。管内では野芝を
主体にした水田放牧地の造成法が採用されてきている。しかし、放牧地面積に対
する肉用牛飼養頭数が多すぎるため、放牧頭数を増加させるには、野芝と他の飼
料作物との組み合わせ等による粗飼料生産の増強が必要である。また、棚田を利
用した水田放牧地には傾斜や段差が多く、通年放牧の場合には気象変動が大きく
なるため、放牧牛の飼養管理の徹底が図れるように技術の組み立てに工夫する必
要がある。
第2に、放牧地の造成および面積確保のための農用地利用調整の推進である。
一般的に棚田地域での農家の土地所用については、小区画のほ場が分散した、い
わゆる零細分散錯ほの性格が強く現れる。当管内においても同様な条件下にあり、
棚田をまとめて団地化し放牧地を造成するに至るまで、農家間の権利調整に多大
な労力を要している。棚田を利用した水田放牧を推進するためには、農用地利用
調整に関わる組織体制の強化が重要である。
第3に、水田放牧を推進するための政策的支援の強化である。棚田を活用して
放牧地を造成するにはまとまった資金が必要であり、利用権集積によって水田の
団地化を図るためには農用地利用調整に当たる組織体制の整備が必要である。こ
うした要請に対し、長門大津地域では、山口県と地元の市町村が協力して積極的
に支援事業を企画し、導入に当たってきた。とりわけ、県が継続的に実施してき
た放牧事業による効果が大である。国では食料・農業・農村基本法に沿って諸施
策を具体化しつつあるが、中山間地域等直接支払制度を含めて、中山間地域にお
ける畜産振興と農地および環境保全を有効に結びつけるような本格的な施策の展
開が待たれる。
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