◎調査・報告


食肉消費構成実態調査結果について

財団法人 外食産業総合調査研究センター 主任研究員 小田勝己




はじめに

 財団法人外食産業総合調査研究センターでは、農畜産業振興事業団からの委託
により外食産業における食肉類の需要動向を把握するため「食肉消費構成実態調
査」を実施している。そこで、本稿では12年度調査結果(11年次実績)をベース
に過去5年間に外食産業の食肉需要がどのような変化を遂げたかを整理してみる
こととする。


外食市場の変化

 昭和年代(50〜60年)の外食市場は、年率3.6%の伸びで拡大し、その後の
「バブル経済」期に年率3.8%の高い伸びを達成した。しかし、平成3年4月の
「バブル経済」の崩壊を契機に全般に企業の業績が悪化し、外食市場でも法人需
要に支えられてきた料亭やホテルの宴会部門が先行して業績を悪化させ、そして
6年には、地価や株価の下落により、さらに経済が悪化し、外食産業の市場規模
が初めてのマイナス成長(−0.2%)を経験した。それから11年まで、外食市場
は、年率0.6%減という低迷を続け、同年には27兆3,711億円(対前年比3.9%減)
にとどまっている。

◇図1:外食市場の伸び率◇

 なお、この調査は年度(4月〜3月)事業であるが、調査内容は年次(1月〜
12月)の実績を整理している(例えば12年度調査は11年次の実績)。そして、以
下の文中では、それぞれの年次における実績に基づいていることに留意されたい。


食肉類の需要構成

 食肉消費構成実態調査は、外食産業を構成する業種のうち食肉類の需要が見込
めない「すし店」、「喫茶店」、「バー・キャバレー・ナイトクラブ」、さらに
調査対象の抽出が難しい「特殊タイプ飲食(列車食堂・国内線機内食)」、「福
祉施設(保育所)」を除く全業種を調査対象としている。

 12年度調査(11年次実績)では、全国4,500店(飲食店3,500、学校500、病院
500)と調理済食品メーカー500事業所にアンケート調査をお願いし総回収数1,1
09(22.2%)、うち有効回答数1,069(21.4%)の協力が得られた。

 また、本調査は、継続的な調査ではあるが調査対象を固定したモニター調査で
はないため時系列な変化を単純に比較することはできないが、外食産業の食肉需
要の傾向を見ることはできる。この点を留意しながら以下の分析を見ていただき
たい。また、11年以前の配布・回収状況は表1に示す通りである。

表1 アンケート票の配布・回収状況

 資料:食肉消費構成実態調査報告書各年版より作成


回答店舗の概要

 初めに店舗の概要をみておくこととする。表2は、調査対象全体および飲食店
の年間販売額と従業員数を整理したものであるが、7年の回答店舗の年間販売額
は、ホテル・旅館、給食センター等の規模の大きな事業所を含むため1億4,690
万円であったが、8年には従業員数17.3人から20.3人へと平均規模が大きくな
ったため、2億753万円へと大きくなった。9年と10年の調査では、従業員数が
18人前後、販売額が1億5千万円前後で推移し、11年には従業員規模が15.6人
と小さくなったことから、販売額も1億4,280万円となっている。なお、ホテル
・旅館、給食関係の事業所を除く飲食店平均では、8年を除くと従業員数が11人
前後、販売額は8千万円となっている。

表2 店舗当たりの年間販売額と従業員数の推移

 注1:年間販売額には、学校給食と病院給食を除く全体平均を示す。
 注2:飲食店の販売額と従業員数は業種別販売額と従業員を回答数で
    加重平均して算出。
 資料:食肉消費構成実態調査報告各年版より作成


食肉類の仕入店舗比率

 外食店舗あるいは事業所(以下、店舗)のうち、食肉類を利用している店舗比
率を見ると、牛肉を仕入れた店舗は、7年の83.5%から、外食市場の堅調な需要
拡大(2.8%増)もあり8年には85.5%に上昇したが、同年夏の腸管出血性大腸
菌O157による集団食中毒事故の発生から、学校給食等の集団給食部門で牛肉メニ
ューを手控える動きがあり80.0%にまで低下している。その後、10年は集団食中
毒の影響も薄れ82.2%にまで回復し、11年も同じ程度の比率で推移している。

 豚肉は、7年の88.7%から8年には90.2%に上昇したが、9年になると輸入生
鮮豚肉で大きなウエイトを占めていた台湾で口蹄疫が発生し、日本国内への輸入
が禁止され品薄感から国内価格が高騰したため、給食部門を中心に仕入を手控え
る動きがみられ89.7%、10年には88.3%に低下した。その一方で米国産バークシ
ャーの利用が外食産業にも拡がり、11年には90.0%に回復している(黒豚表示は
11年に公正取引規約が改正され、100%純血バークシャー以外「黒豚」と表示す
ることが禁止されている)。

 鶏肉は、食肉類の中で仕入れている店舗が多く、7年には91.0%、8年には92
.3%であったが、9年には89.7%に低下し9年以降は90%をわずかに上回る比率
で推移している。

 次に、11年の仕入店舗比率を業種別に見ると表3が示すように、日本料理店で
は鶏肉を仕入れる店舗比率が高く、西洋料理店では牛肉、中華料理・その他の東
洋料理店では豚肉、一般食堂も豚肉、そば・うどん店では鶏肉、割烹・料亭は牛
肉、酒場・ビヤホールは牛、豚、鶏ともに高く、ホテル・旅館は牛肉、給食関係
が豚肉と鶏肉といったように、業種により特徴がある。

表3 業種別に見た食肉を仕入れた店舗の比率(%)


◇図2:食肉類を仕入れた店舗比率の推移◇


食肉類の需要量およびその構成比

 ホテル・旅館、弁当給食、学校給食センター等の規模の大きな事業所を含めた
外食産業全体の食肉需要量は、図3が示すように7年の年間・1店舗当たり4,96
0キログラムから9年には同5,974キログラムに、10年には同5,656キログラム、
11年には同5,239キログラムと、年次により対象が異なるため変動がみられるが、
9年をピークにやや減少傾向にある。

◇図3:食肉類の年間・1店舗当たり仕入量と構成比の推移◇

  次に、食肉の種類別の構成比を見ると、牛肉は7年には食肉類全体の32.0%を
占めていたが、O157による集団食中毒事故が発生した翌年の9年には、仕入れた
店舗の比率が低下しただけでなく全体に占める比率が26.9%に低下している。そ
の後10年になると31.2%、11年には32.2%に回復している。

 豚肉は、給食関係での利用が多く、7年には食肉類全体の36.9%を占めており、
牛肉の比率が低下した9年には「黒豚ブーム」もあり、同38.5%にまで高まった。
しかし、黒豚の表示規制が実施された11年には同33.0%に落ち着いている。

 鶏肉は、7年の同31.1%から8年には同34.4%となり、その後も大きな変動も
なく、11年には同34.8%の比率となってる。

  なお、業種別の構成比は表4が示すように、日本料理店は豚肉需要量の大きな
とんかつを含むため豚肉の構成比が48.1%と高く、西洋料理店はステーキをメイ
ンとしているところが多いことから牛肉の構成比が47.2%と高く、割烹・料亭、
ホテル・旅館も同様の理由から牛肉の構成比が高い。中華料理・その他の東洋料
理店は鶏肉が、一般食堂は豚肉の構成比が高く、酒場・ビヤホールは焼き鳥や唐
揚げメニューが多いため、鶏肉の構成比が高い。また、給食関係や料理品小売業
になると、仕入価格の安い豚肉や鶏肉を利用することが多く、社員食堂と学校給
食では豚肉が、弁当給食と病院給食、料理品小売業では鶏肉の構成比が高いこと
が特徴となっている。

表4 業種別にみた年間・店舗当たり仕入量(11年)



国産・輸入別の構成比

 外食産業が仕入れている食肉類を、国産・輸入別の構成比でみていくと、表5
で示すように、7年には牛肉の41.1%が国産、52.3%が輸入、6.6%が国産・輸
入が不明であったが、牛肉の国内出回り量に占める輸入牛肉の比率が高まるに従
って、国産牛肉の比率が下がり、輸入牛肉の比率が徐々に高まる傾向をみせ、11
年には国産が39.4%、輸入が55.1%となっている。豚肉は、国内への出回る量
に占める国産・輸入バランスと比較し国産の占める比率が高く7年には78.2%を
占めていたが、その後徐々に国産比率が低下し10年には63.9%、11年に68.2%
となっている。鶏肉も国内への出回る量に占める国産・輸入バランスと比較し国
産の占める比率が高く、7年には74.9%を占めていたが、その後徐々に国産比率
が低下し10年には63.0%、11年に60.2%となっている。

表5 食肉類の国産・輸入別の構成比(%)

 注:( )は農畜産業振興事業団による推定出回り量によるそれぞれの
   輸入食肉比率を示す。

 このように、外食産業が仕入れている食肉類は、肉の種類により国産・輸入の
構成比に差があるが、いずれも輸入肉の比率が高まっている点では共通している。
なお、11年における牛肉、豚肉、鶏肉の原産国別の内訳は図4〜6に示した通り
である。

◇図4:牛肉の原産国別構成比(11年)◇

◇図5:豚肉の原産国別構成比(11年)◇

◇図6:鶏肉の原産国別構成比(11年)◇


食肉仕入の増減とその要因

 図7は、7年から11年の食肉需要の変化を、国産と輸入に分けて整理したもの
である。この図は、それぞれの年次に仕入量が「増加した」と回答した店舗比率
から「減少した」と回答した店舗比率を差し引いた値を示しており、プラスの値
を示せば「増加した」店舗が多く需要量が増加した可能性を示唆している(増減
店舗比率とそれぞれの増減量を考慮しなければ厳密な評価はできない)。

◇図7:食肉仕入の純増・減店舗比率の推移◇

 これを見ると、国産の牛肉、豚肉はこの期間を通してマイナスの値を示してお
り、国産鶏肉も8年を除くと同様の結果を示している。ところが、輸入牛肉と輸
入鶏肉は7年から10年まではプラスの値を示し、国産から輸入への代替化が進ん
だことが伺える。そして10年以降になると国産と同様に輸入牛肉・鶏肉ともにマ
イナスとなり、需要量が増加しなかったことを示唆している。また、輸入豚肉は
7年を除くと国産豚肉と同様にいずれの年次もマイナスを示し、仕入量を減少さ
せた店舗が多かったことを示している。

 そしてその要因は、図8が示すように国内景気の低迷を反映し、「売上高の低
迷」からとの回答比率が9年から増加する傾向をみせ、11年には70%を上回るま
でになっている。

◇図8:「売上低迷」により仕入減と回答した店舗比率◇


今後の見通し

 食肉類の仕入量が、2〜3年後にどのように変化するかを見通すのは大変難し
いことであるが、12年度調査によれば、図9で示すように牛肉、豚肉、鶏肉とも
に「増える」と回答した店舗が多い。しかし、12年の外食産業市場は0.7%減と
推計されているし、11年の総務省「事業所・企業統計調査」では、飲食店の店舗
数が8年よりも3.8%減少している。これらのことを考慮すると、上述の見通し
が実需要に結びつかないことも考えられる。

◇図9:食肉類の仕入見通し(12年度調査)◇

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