★ 農林水産省から


有機畜産物についての コーデックス・ガイドラインの制定

生産局 畜産部 畜産企画課 (現農林水産技術会議事務局研究開発課) 藁田 純




はじめに

 コメや野菜などの有機農産物については、かなり以前から各地で生産されてき
たが、一部に不適正な表示が見られるなど、有機農産物をめぐり表示の混乱が生
じ、有機農産物の定義の明確化や表示の適正化を求める声が強くなった。また、
コーデックス委員会(注)(FAO/WHO合同食品規格委員会)において、有機農産
物についての国際的なガイドラインが策定されたことを踏まえて、平成11年7月
に有機食品の検査・認証制度および表示の規制を盛り込んだJAS法(農林物資の
規格化及び品質表示の適正化に関する法律)の改正が行われた。その結果、13年
4月からは、JAS法に基づく有機の格付がなされたものでなければ、「有機」の
表示を行えないこととなった。

 畜産物についても、農産物と同様にコーデックス委員会での議論を経て、本年
7月に有機畜産物についての国際ガイドラインが策定された。また、欧米を中心
とした諸外国において有機畜産物の生産が増加してきており、わが国においても
わずかではあるものの、有機畜産物の生産・流通が見られるようになってきたこ
とを受けて、わが国における有機畜産のあり方や表示規制の必要性等について検
討していくため、最近、「有機畜産に関する検討会」が設置されたところである。

 そこで本稿においては、コーデックス委員会が制定した有機畜産物についての
国際ガイドラインの概要を紹介する。

(注):コーデックス委員会は、消費者の健康の保護、食品の公正な貿易の確保
  等を目的として、FAO(国際食糧農業機関)およびWHO(世界保健機関)によ
  り設置された国際的な機関であり、国際食品規格の作成等を行っている。


コーデックス委員会における検討経過

 欧米を中心として有機農産物に対する関心が高まってきたことから、3年にコ
ーデックス委員会において、有機食品に係るガイドライン作成についての検討作
業が開始され、11年には、「有機生産食品の生産、加工、表示および販売に係る
ガイドライン」(畜産物を除く)が採択された。

 また、9年にコーデックス委員会において、有機畜産物に係るガイドライン作
成についての検討作業が開始され、わが国としてもガイドライン策定のために設
けられた作業部会に参加するなど、その策定作業に積極的に関与した。

 12年5月のコーデックス委員会の食品表示部会でガイドライン案についておお
むね合意し、13年7月のコーデックス委員会総会で国際ガイドラインとして採択
されたところである。


コーデックス・ガイドラインの検討経過

 平成
  3年 第19回コーデックス委員会総会において、「有機生産食品の生産、加工、 
     表示および販売に関するガイドライン」の作成作業の開始を承認 
   9年  第25回コーデックス委員会食品表示部会において、豪州を議長国として、 
     日本、米国、EU等の関係国からなる作業部会を設置し、有機畜産物に 
     係るガイドラインについての検討を開始
  11年 第27回食品表示部会において、有機畜産物に係るガイドライン案が提示 
     され、関係国間で議論
  11年 第23総会において、「有機生産食品の生産、加工、表示および販売に関
         するガイドライン」(畜産物を除く)を採択
  12年 第28回食品表示部会において、有機ハチミツの生産基準等を残して、有 
     機畜産物に係るガイドラインについて合意
  13年 第29回食品表示部会において、有機ハチミツの生産基準、加工品の添加 
     物等の積み残し事項に係る部分についても合意 
  13年 第24回総会において、有機畜産物に係るガイドラインを採択

コーデックス・ガイドラインの内容

 本ガイドラインでは、有機畜産を土地と関連した活動と位置付けた上で、

  @草地や野外の飼育場へのアクセスの確保
  A有機飼料(無農薬、無化学肥料での栽培)の給与
  B動物医薬品の使用条件の限定(予防目的での抗生物質の使用禁止等)
  C家畜排せつ物管理の適正化
  D家畜の飼養管理記録の保存

 等を有機畜産の要件として定めている。

 なお、本ガイドラインは、各国が有機畜産物に関する国内基準を設けることを
強制するものではないが、各国が有機畜産物についての表示規制を行う場合には、
本ガイドラインを基礎として国内制度を制定しなくてはならない。

 本ガイドラインの内容は、かなりのボリュームになるため、その骨子を次ペー
ジ以降に示すので参照されたい。

有機畜産物の生産・加工のイメージ



【生産過程】

(一般原則)

・有機畜産は土地と関連した活動。草地や野外の飼育場へのアクセスの確保が必
 要。

(飼料)

・飼料は原則としてすべて有機飼料。
・ただし、経過期間中は、最低85%(反すう家畜の場合)または80%以上
 (非反すう家畜の場合)の有機飼料を給与すれば可。

(衛生管理)

・疾病の予防は、適切な飼料管理、良質な有機飼料の給与等を原則として達成。
・疾病が発生した場合、休薬期間を通常の2倍にすること等を条件として、動物
 用医薬品の使用は可。

(飼養管理)

・繁殖方法について、人工受精は可。受精卵移植技術、遺伝子工学の利用は不可。
・家畜排泄物は、土壌や水質の劣化を最小限にすること等、適切な管理が必要。

(記録と個体識別)

・個体又は群毎に飼料、治療、移動等に関する詳細な記録を保存。



【加工過程】

(原材料)

・食塩及び水を除いた原材料のうち、有機食品以外の原材料に占める割合は、5
 %以下であることが必要。

(製造管理)

・加工、貯蔵、輸送の各段階において、非有機食品と混合しないように管理。

 さらに、これらの基準を満たして、生産・加工されていることについて、登録
認定機関による認定を受けることが必要。


有機生産食品の生産、加工、表示および販売に係るガイドライン(骨子)
−畜産物およびその生産物−

T 家畜の飼養管理等

(一般原則)

1.畜産は土地と関連した活動である。草食動物については草地へのアクセスが、
 その他の家畜については野外の飼育場へのアクセスが与えられなければならな
 い。ただし、動物の生理状態、厳しい気候条件等を考慮して例外を認めること
 ができる。

2.家畜の飼養密度は、飼料の生産能力、家畜の健康状態等を考慮して当該地域
 にとって適切な水準にすべきである。

(家畜の源/由来)

3.有機生産のために使用される家畜は、誕生またはふ化したときから、本ガイ
 ドラインに合致した生産農場に由来するものでなければならない。ただし、新
 たに畜産を開始する等の場合には、非有機農場由来の家畜を導入することがで
 きる。

(栄養)

4.給与される飼料は原則としてすべて本ガイドラインに沿って生産された有機
 飼料(無農薬、無化学肥料での栽培)であるべきである。ただし、各国が定め
 る経過期間中においては、乾物重量ベースで最低85%(反すう畜の場合)、ま
 たは80%以上(非反すう畜の場合)の有機飼料を給与すれば、有機畜産物とす
 ることができる。

5.すべての家畜は、十分な健康と活力を維持できるように、新鮮な水への十分
 なアクセスが確保されなければならない。

6.国は、飼料、飼料添加物等として使用可能な物質のリストを作成すべきであ
 る。

(衛生管理)

7.疾病の予防は、適切な品種または系統の選択、適切な飼養管理の実施、定期
 的な運動及び放牧地や野外の飼育場へのアクセス、良質な有機飼料の使用等に
 基づくべきである。

8.動物用医薬品の使用は、以下の原則に合致しなければならない。

 ・特定の疾病または健康上の問題が発生、または発生の可能性があり、他に認
  められた治療方法や管理方法がない場合、または法律で義務付けられている
  場合には、ワクチン接種、駆虫薬の利用または動物用医薬品の治療目的での
  使用が認められる。
 ・動物用医薬品や抗生物質の利用による休薬期間は、法律で義務付けられてい
  る期間の2倍とすべきである。
 ・動物用医薬品や抗生物質の予防目的での使用は、禁止される。
	
9.成長促進剤、成長促進または生産促進効果のある物質の使用は、認められな
 い。

(家畜の管理、輸送およびと畜)

10.繁殖は、以下の点を考慮して行われるべきである。 

 ・当該地域条件および有機畜産に適した品種および系統
 ・人工授精を用いることはできるが、自然の方法での繁殖が望ましいこと
 ・受精卵移植技術およびホルモンによる繁殖処置、遺伝子工学を用いた繁殖技
  術は用いてはならないこと

11.断尾、切歯、除角のような処置は、基本的には認められない。しかし、これ
 らの処置は、安全のためまたは家畜の健康や福祉の改善を目的としたものであ
 る場合には、国や認証団体により許可され得る。

12.家畜の輸送は、ストレスや苦痛を避けるように行うべきである。

13.と畜は、ストレスや苦痛を最小限にする方法で行うべきである。

(畜舎および放牧地の条件)

14.畜舎は、飼料や水への容易なアクセス、十分な自然の換気や採光等により、
 家畜の生物学的および行動学的な要求を満たさなければならない。

(ほ乳類)

15.全てのほ乳類は、草地、野外の運動場にアクセスできなければならず、かつ、
 当該動物の生理学的状態、気候条件および土地の状態が許すときはいつでも、
 これらの場所を利用できるようにしなければならない。

16.子牛の単飼および家畜のつなぎ飼いは、国の許可がない限り認められない。

(家きん)

17.家きんは、屋外の条件で飼育され、かつ、気候条件が許すときはいつでも野
 外の飼育場に自由にアクセスできなければならない。家きんをケージで飼育す
 ることは認められない。

(排せつ物の管理)

18.畜舎、草地における排せつ物の管理方法は、土壌や水質の劣化を最小限にし、
 養分のリサイクルを最適にするような方法で行われるべきである。

(記録および個体識別)

19.すべての家畜は個体別に(ただし、小型のほ乳類および家きんは群別に)識
 別されるべきである。また、家畜に施された治療および薬品、給与した飼料、
 と畜、販売等の事項について、詳細かつ最新の記録が保存されるべきである。


U 養ほうおよびその生産物

(一般原則)

1.養ほうは、みつばちの花粉媒介を通じて環境および農業・林業生産の向上に
 寄与する重要な活動である。

2.天然の花蜜および花粉等の供給源は、有機的に生産された植物、または自然
 の植生から成らなければならない。

(巣箱の配置)

3.巣箱は、本ガイドラインの生産基準に従って耕作されている地域あるいは自
 然の植生に置かれなくてはならない。

(飼料)

4.ほう群への給じは、一時的な飼料不足を克服するために限って行ってよい。
 この場合、可能であれば、有機はちみつ、または有機の糖類が使用されるべき
 である。

(みつばちの健康)

5.ほう群の健康は、系統の選択、巣箱の管理を通じた疾病予防を重視した農業
 慣行によって維持されるべきである。予防的措置が失敗した場合には、一定の
 条件の下、動物用医薬品を使用することができる。

(記録の保持)

6.ほう群に施された治療及び薬品、給与した飼料、販売等の事項について、詳
 細かつ最新の記録が保存されるべきである。地図にはすべての巣箱の位置が描
 かれているべきである。


V 飼料作物(有機農産物と共通)

1.有機飼料作物の作付けの前、原則として最低2年間、有機の植物についての
 原則が適用されるべきである。

2.土壌の肥よく度は、適切な輪作計画や本ガイドラインに従った生産を行って
 いる保有地から得られた有機物やきゅう肥の土壌への投入等により、維持・増
 進されるべきである。これらの方法では充分でない場合には、作物への栄養供
 給や土壌改良を補う程度に限り、本ガイドラインで指定する肥料および土壌改
 良材を用いることができる。

3.病害虫および雑草の防除は、適切な作物および品種の選定、適切な輪作計画、
 耕うん、雑草の焼却、天敵や動物を放つこと等によって防除されるべきである。
 作物に対して差し迫った脅威があり、かつ、これらの措置が効果的でない場合
 においてのみ、本ガイドラインで指定する病害虫防除用の資材を用いることが
 できる。


W 有機産品の加工、貯蔵、輸送等

1.加工の全段階を通じて、有機産品として瑕疵のない状態が維持されていなけ
 ればならない。

2.加工方法は、機械的、物理的あるいは生物的(発酵等)であるべきであり、
 非農業由来原材料および添加物の使用は最小限に止められるべきである。

3.病害虫管理および防除については、病害虫の生息場所および施設への侵入経
 路の破壊・除去のような予防措置、機械的/物理的方法および生物的方法によ
 る防除が優先され、これらの方法では十分でない場合には、有機食品との接触
 が防がれていること等を条件として、本ガイドラインで指定する病害虫防除用
 の資材を用いることができる。

4.本ガイドラインで認められていない農薬をポストハーベストあるいは検疫の
 ために使用したときは、その食品は有機の状態を失う。

5.有機食品以外の原材料は、食塩および水の重量を除いた原材料のうち、最大
 5%まで使用することができる。


X 有機食品の生産のための許可資材

○ 以下は、畜産物およびみつばちの生産物の加工に限った暫定的なリストであ
 り、各国は国内向けに資材リストを作成することができる。
 名 称	   特定の条件〔使用に当たっての条件〕
 木灰	伝統的な製法によるチーズ
 炭酸カルシウム	乳製品(着色料としての使用は不可)
 乳酸	ソーセージのケーシング
 二酸化炭素	  ―
 レシチン	乳製品/乳由来の幼児食品/油脂製品/マヨネーズ
 (漂白剤あるいは有機溶媒を用いずに製造されたものに限る)
 クエン酸ナトリウム	ソーセージ/卵白の低温殺菌/乳製品
 寒天	  ―
 カラギナン	乳製品             
 イナゴマメゴム	乳製品/肉製品      
 グァーゴム	乳製品/缶詰肉/卵製品
 トラガントゴム	  ―              
 アラビアゴム	乳製品/油脂/菓子  
 ペクチン(非加工)	乳製品             
 塩化カルシウム	乳製品/肉製品      
 アルゴン	  ―              
 窒素	  ―              
 酸素 	  ―              

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