生産局 畜産部 飼料課 富田 育稔
農林水産省は、平成12年、飼料作付面積の拡大、単収の向上等を内容とする 「飼料増産推進計画」を策定・公表した。また、行政、農業団体等が一体となっ た飼料増産戦略会議を設置し、全国規模の飼料増産運動を展開している。12年の 作付面積94万ヘクタールを22年には110万ヘクタールに拡大する計画である。 飼料増産推進計画の上位計画である「食料・農業・農村基本法」に基づく基本 計画では食料自給率の目標とともに、主要な農産物の1つとして飼料作物につい ても生産努力目標が設定されている。 これまで、わが国の畜産は、飼料穀物をはじめ飼料の多くを海外に依存してき ており、その結果、供給熱量ベースでは畜産物の自給率は相当程度低いものとな っている。すなわち、畜産物の重量ベースの自給率を高めつつ、飼料自給率を高 める方向に生産構造を転換しない限り食料自給率の向上は望めないという状況で あり、食料自給率の向上のためには、自給飼料の増産が不可欠である。 農林水産省、農業団体等は、5月に飼料増産戦略会議を開催し、今年の作付面 積の目標を97万ヘクタールと決定した。今年は、飼料増産運動の2年目であり、 運動の成果が問われる。 ◇図1:飼料自給率推移◇ 飼料増産推進計画骨子 T 基本的考え方 食料自給率の向上、安定的な経営構造の確立、地域資源の循環等の観点から、 畜産を核とした土地利用の拡大を図ることが重要。 U 飼料増産目標 (食料・農業・農村基本計画における平成22年の生産努力目標と同一) 1 生産量 508万トン(可消化養分総量(TDN)) 2 10アール当たり収量 4,461kg/10a 3 作付面積 110万ha V 飼料作物生産の指標 飼料増産に資する望ましい飼料生産の姿を明確にしつつ、地域の創意工夫を生 かした飼料生産を実現するため、作付体系等から区分した類型毎に指標を設定。 また、放牧についても利用形態毎に指標を設定。 W 飼料増産のための推進方策 1 畜産農家等への土地利用集積及び団地化の推進 2 水田等既耕地の活用及び耕種農家との連携 3 中山間地域における飼料基盤の強化 4 草地整備の着実な推進 5 優良草種・品種の普及、技術水準の高位平準化等の推進 6 飼料生産の組織化・外部化等の推進 7 日本型放牧の推進及び公共牧場の活性化 8 あらゆる地域資源の畜産的活用の推進 9 粗飼料多給型畜産物の普及・啓発 X 飼料増産運動の展開 自給飼料生産の有利性・重要性の啓発と、関係者一体となった飼料増産の取組 を展開。
一昨年「家畜排せつ物法」が施行されるなど、家畜排せつ物の適正管理により、 畜産環境問題の早急な解決が求められている。 これまで輸入飼料への依存の強まりにより、海外からの飼料が国内で家畜排せ つ物としてアウトプットされる一方通行のフローとなっており、物質循環の収支 均衡が大きく崩れている。 このため、畜産環境問題の解決のためには、家畜排せつ物の農地への還元はも とより、元を断つ努力として輸入飼料への依存から自給飼料生産への転換を推進 していくことが重要となっている。 また、昨年の口蹄疫発生に伴い、海外からの口蹄疫侵入防止に万全を期すため、 輸入粗飼料の検疫強化が行われた。安全な粗飼料を確保するという観点からも自 給飼料を基本とした経営構造を確立することが重要となっている。
自給飼料の生産コストは、1キログラム当たり50円(11年、可消化養分総量ベ ース)である。これに対し輸入粗飼料は76円で、自給飼料のほうが30パーセント 以上安く、労働費を差し引くと差はさらに拡大する。現金支出が少ない分畜産農 家の所得も大きいと言える。また、輸入飼料の価格は、生産地である海外の飼料 需給の変動や為替変動などに影響される。経営外の要因に左右されない安定した 経営確立のためにも自給飼料基盤に立脚した経営の確立が重要である。 ◇図2:自給飼料生産コストと輸入粗飼料価格(TDN1キログラム当たり)◇
草地飼料作物は、傾斜地、冷涼地域等耕種農業に適さない土地・地域において 栽培・利用が可能なこと、土壌流亡防止等森林に匹敵する高い国土・自然環境保 全機能を有すること、二酸化炭素や窒素を吸収し、地球温暖化防止に役立つこと、 緑のオープンスペースを提供すること等の多面的機能を有しており、地球環境の 面からも草地の維持・拡大が重要である。
米の生産調整の強化と関連して今年注目を浴びているのが稲発酵粗飼料である。 稲発酵粗飼料とは、稲の子実と茎葉を同時に密封し、発酵させた飼料であり、 養分含量は乾物当たり60%前後と牧草と同じ程度で、牛のし好性も極めて良い。 子実部分がアルコール発酵をすることから、芳醇な香りがし、「大吟醸飼料」と 評する人もいる。 ◇図3:稲発酵飼料作付けの推移◇ 稲発酵粗飼料の利点は、水田を活用し、稲作農家が稲の栽培技術や機械をその まま利用できる点にある。また、水田はもともと稲をつくるためのほ場であり、 土壌条件等においても稲が最も適した作物と言える。 一方、稲発酵粗飼料の生産が拡大すれば畜産の飼料自給率の向上にもつながる ことから、畜産の飼料作物としても大きな期待が寄せられている。 12年、稲発酵粗飼料推進協議会が設立され、年明けから本格的な推進活動が展 開された結果、13年産の作付面積は2,000ヘクタール以上が見込まれている。今 後、稲発酵粗飼料の取り組みを成功させるためには、実質的に初年度である本年 において、牧草と比較してそん色のない良質な稲発酵粗飼料を生産供給し、畜産 農家の理解を促進することが重要であり、関係者においては基本技術の指導の徹 底に努める必要がある。 良質な稲ホールクロップサイレージ(WCS)の収穫・調製のための5つの基本 【材料の水分は65%以下が絶対条件で糊熟〜黄熟期が最適】 高水分では十分な乳酸発酵をしないので、必ず普及組織等の協力により水分の 確認を行うこと。 一般的に、黄熟期の水分は既に65%以下になっており、乳酸発酵とともにアル コール発酵が極めて旺盛である。専用収穫機での直接収穫(ダイレクトカット) でも良好な発酵状態になるが、特に水分の高い黄熟期前の収穫は避けること。 モアでの刈り取りでは、半日から1日程度の予乾後に梱包するが、強度の反転 作業は籾の脱粒が多くなるため避けること。 【刈り取りや予乾時は、泥の付着や土砂の混入を避けること】 軟弱な水田の場合、株元への付着泥や予乾時の土砂の混入は、サイレージの品 質を悪化させ、採食性を落とす要因になるので、専用の収穫機で直接収穫や高刈 りで収穫を行うこと。 【梱包密度を高くして空気を排除】 サイレージ調製では材料中への空気侵入を少なくすることが大切である。ロー ルベール調製では梱包密度を高くし、空気排除をしっかり行うこと。 【調製は素早く、密封は完全に】 梱包したまま外気に長時間さらされていると、内部の温度が急速に上昇し、発 酵に重要でかつ消化性の高い糖分が損失し品質が低下する。梱包後は短時間にラ ップ作業を完了し、空気や水が侵入しないよう密封(少なくとも4重巻き以上) を完全に行うこと。 【ラップサイロは、排水の良い場所に、縦置き保管】 雨水等の浸入は、カビの発生や品質の悪化の要因となるので、排水の良い場所 に必ず縦置きで保管し、防鳥ネット等で鳥害防止を行うこと。 ラップサイロの移動はフィルムが破損しないよう慎重に行うこと。破損した場 合や鳥獣害で穴があけられた場合は、補修専用の粘着テープで補修すること。
12年、わが国で92年ぶりに口蹄疫が発生した。撲滅に向けた関係者一体となっ た取り組みが功を奏し、9月には清浄国に復帰することができた。 口蹄疫発生の原因は中国産のわら類である疑いが濃いと考えられており、輸入 稲わらから国産稲わらへの転換が課題となっている。 わが国の稲わら生産量は約9百万トンであるが、このうちの約6割がすき込ま れたり焼却されたりする一方、約26万トンの稲わらが輸入されている。すき込ま れたり焼却されたりする稲わらの5%を家畜飼料として利用できれば輸入はゼロ となり、口蹄疫を心配する必要もない。ただし、稲わらを収穫した水田には、家 畜たい肥を還元することが肝要である。 農業団体と農林水産省は稲わらの輸入ゼロを目指すとして、全国、ブロック段 階に協議会を設け、行政、農業団体一体となった稲わら収集運動をたい肥の還元 と併せて展開している。 ◇図4:国産稲わらの利用状況(平成11年度)◇
以上で述べてきた飼料作物の増産、稲発酵粗飼料の生産拡大、稲わらの収集等 について、これらの取り組みの支援措置を以下に紹介する。 自給飼料増産総合対策事業 自給飼料生産の組織化や生産ほ場の団地化、飼料生産受託組織の育成等を推進 するための飼料生産機械施設の整備に対し助成するほか、新しい飼料生産技術の 導入に要する経費の助成を行う事業。稲発酵粗飼料の収穫調製機械や稲わら収集 機械の導入に対し2分の1の助成が受けられる。 飼料増産受託システム確立対策事業 飼料生産受託組織の育成を支援するため、組織の立上げ支援を行う事業。 飼料収穫作業や稲わら収集作業等の受託活動を行う場合、受託面積に応じた定 額助成が受けられる。 国産粗飼料増産緊急対策事業 稲発酵粗飼料の給与実証を行う事業と国産稲わらの収集を支援する事業。前者 では稲発酵粗飼料を給与する畜産農家等は10アール当たり2万円の助成金受けら れる。後者では稲わら収集組織が長期契約の下で国産稲わらを収集・供給する場 合、稲わら1キログラム当たり最高30円の助成が受けられる。
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