石川県/企画情報部
鳳至郡能都町で母豚250頭を擁し、子取りから繁殖・肥育までの一貫経営を行 うのが有限会社能都ピッグファーム。 その代表取締役・吉中伸一さん(45歳)の実家は同じ石川県でも加賀平野、小 松市内で野菜園芸を営んでいた。しかし養豚にとてつもない魅力と将来性を感じ て一念発起。同市営の養豚団地で1軒を構えるまでに漕ぎ着けた。 当時の母豚当たりの生産量は年間10頭程度。視察した新潟県下の同業者が年間 24頭余のペースと知った時はショックだったが、追いつき、追い越そうと誓った。 だが、養豚団地は廃止される。 これには「見ていられないほどの落ち込みようだった」とは同社専務で妻の雅 美さん。だが、現在の能都町武連に新規入植の場所を得、10年前に一家で加賀か ら奥能登に引っ越してきた。もちろん豚も一緒に。 "奥"の字に恥じない…といったら失礼かもしれないが、金沢市から能登自動車 道を1時間半。途中の七尾市辺りまでは車も行き交うが、能都町に近づくにした がって、それもほとんどなくなる。小高い丘の中腹に位置する豚舎近くには人の 声が懐かしいのだろうか、キツネが平然と歩いているし、夏場に聞こえるのは豚 とカエルの鳴き声だけである。 年産目標は5,000頭。6カ月齢での出荷は枝肉ベースで73〜74キログラムをメ ドとしている。大きなハンデと思えるのは仕向け地が富山市ということだが、幸 いにして全国4市場における平均相場の適用を受けており、また飼料輸送でも低 コスト化を図るなど、遠隔地での畜産経営の維持にさまざまな工夫が凝らされて いる。 吉中さんは経営規模の拡大を「単に飼養頭数を増やすばかりでなく、健康な豚 をつくるための最も有効な手段」と位置付けている。昨年、ウインドウレス式の 豚舎を新築したが、これは離乳子豚専用のもの。1週齢ごとに仕切ってオール・ イン/アウトをほぼ完璧に実現している。 現在の施設規模ならば母豚500頭程度までの拡大も可能だが、衛生状態の向上 を第一に思い止まっている。 ウインドウレス式豚舎にはふん尿の自動排出装置が取り付けられ、また浄化槽 とコンポストも設置した。ちょうど3年後に迫った畜産環境対策の強化にも、こ れでクリアできるし、こうした環境対策に要したコストの分散化、低減化のため にも規模拡大が必要だったという訳だ。 初めてたい肥販売を行ったのは雅美さんで、子供が通う保育園の先生からの注 文だった。「これは地域におけるネットワークを大切にしてきたことのたまもの。 こうした連携・交流を拡大しながら、遠隔地での養豚業を発展させて行こうと思 う」。
【吉中伸一さんと妻・雅美さん】 |
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【豚舎の中での吉中さん夫妻】 |