◎地域便り


衛生向上と環境対策のための規模拡大

石川県/企画情報部


 鳳至郡能都町で母豚250頭を擁し、子取りから繁殖・肥育までの一貫経営を行
うのが有限会社能都ピッグファーム。

 その代表取締役・吉中伸一さん(45歳)の実家は同じ石川県でも加賀平野、小
松市内で野菜園芸を営んでいた。しかし養豚にとてつもない魅力と将来性を感じ
て一念発起。同市営の養豚団地で1軒を構えるまでに漕ぎ着けた。

 当時の母豚当たりの生産量は年間10頭程度。視察した新潟県下の同業者が年間
24頭余のペースと知った時はショックだったが、追いつき、追い越そうと誓った。
だが、養豚団地は廃止される。

 これには「見ていられないほどの落ち込みようだった」とは同社専務で妻の雅
美さん。だが、現在の能都町武連に新規入植の場所を得、10年前に一家で加賀か
ら奥能登に引っ越してきた。もちろん豚も一緒に。

 "奥"の字に恥じない…といったら失礼かもしれないが、金沢市から能登自動車
道を1時間半。途中の七尾市辺りまでは車も行き交うが、能都町に近づくにした
がって、それもほとんどなくなる。小高い丘の中腹に位置する豚舎近くには人の
声が懐かしいのだろうか、キツネが平然と歩いているし、夏場に聞こえるのは豚
とカエルの鳴き声だけである。

 年産目標は5,000頭。6カ月齢での出荷は枝肉ベースで73〜74キログラムをメ
ドとしている。大きなハンデと思えるのは仕向け地が富山市ということだが、幸
いにして全国4市場における平均相場の適用を受けており、また飼料輸送でも低
コスト化を図るなど、遠隔地での畜産経営の維持にさまざまな工夫が凝らされて
いる。

 吉中さんは経営規模の拡大を「単に飼養頭数を増やすばかりでなく、健康な豚
をつくるための最も有効な手段」と位置付けている。昨年、ウインドウレス式の
豚舎を新築したが、これは離乳子豚専用のもの。1週齢ごとに仕切ってオール・
イン/アウトをほぼ完璧に実現している。

 現在の施設規模ならば母豚500頭程度までの拡大も可能だが、衛生状態の向上
を第一に思い止まっている。

 ウインドウレス式豚舎にはふん尿の自動排出装置が取り付けられ、また浄化槽
とコンポストも設置した。ちょうど3年後に迫った畜産環境対策の強化にも、こ
れでクリアできるし、こうした環境対策に要したコストの分散化、低減化のため
にも規模拡大が必要だったという訳だ。

 初めてたい肥販売を行ったのは雅美さんで、子供が通う保育園の先生からの注
文だった。「これは地域におけるネットワークを大切にしてきたことのたまもの。
こうした連携・交流を拡大しながら、遠隔地での養豚業を発展させて行こうと思
う」。
【吉中伸一さんと妻・雅美さん】

    
【豚舎の中での吉中さん夫妻】

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