全国食肉公正取引協議会 (現 東京都食肉公正取引協議会専務理事) 大野谷 靖
平成11年、JAS法(農林物資の規格化および品質表示の適正化に関する法律) が改正され、すべての生鮮食料品について、原産地表示が義務付けられた。表示 の詳しい内容については、農林水産省によって「生鮮食品品質表示基準」が定め られ、12年7月から適用された。 全国食肉公正取引協議会は財団法人日本食肉消費総合センターから委託を受け て、原産地表示の浸透状況について全国調査を行った。併せて、消費者の関心が 高い交雑種牛や黒豚の定義の浸透状況についての調査も行った。調査時期は平成 12年11月、調査対象は全国の2,159店の食肉販売店、および店頭における消費者 である。調査の方法は、調査員がその担当地域の食肉販売店を巡回し、販売店お よび消費者の意見を聞き取り、調査表に記入した。回答はいずれもそれぞれの選 択肢から回答を受けたものである。 ここに、その結果の要約を紹介する。 JAS法改正の浸透度 JAS法が改正されたことは、販売店では91.2%が知っている。業界の人間だか ら当然の結果であるが、消費者ではそうはいかず、知っていたのは45.6%で、5 3.8%が知らなかった。法律改正は一般人にとっては関心が薄いのかもしれない が、あれだけ報道されても、その認識度は半分以下で、業界人と一般消費者の間 には大きなギャップがある。(図1) 設 問 昨年JAS法が改正され、今年の7月から適用されたことをご存知ですか。 ◇図1:JAS法改正の浸透度◇ 原産地表示義務付けの浸透度 すべての生鮮食料品について原産地表示が必要になったことは、販売店の92.5 %が知っており、JAS法改正と原産地表示の義務付けがイコールで認識されてい ることが分かる。 これに対し消費者の認識度は58.1%で、販売店とのギャップはJAS法改正認識 度の相違より縮まっており、JAS法改正は知らなくても、その結果としての原産 地表示は知っている人が多い。しかし、4割の消費者が知らないというのでは、 いまだ浸透が足りないと言わざるを得ない。(図2) 設 問 JAS法改正により、すべての生鮮食品に原産地表示が必要になったことをご 存知ですか。 ◇図2:原産地表示義務付けの浸透度◇ 原産地表示の内容の浸透度 1 輸入食肉 輸入食肉については、原産国名を表示するのが決まりだが、そのことを正しく 認識しているのは、販売店の91.6%、消費者の81.6%である。JAS法改正以 前から原産国表示は食肉公正競争規約で実施されていたため、浸透は容易であっ たと思われる。 しかし、「輸入」という表示でもよいという、昔のままの認識が販売店で23.5 %、消費者で35.6%見られ、一度普及した考え方が払しょくされるには時間がか かるという証明である。 州、省、市、町などの名称でよいと思っている回答は販売店で12.2%、消費者 で16.6%であった。これは国内産食肉が都道府県名や市町村名でも可ということ と混同しているものと思われる。 国名表示について具体的に聞いてみると、「アメリカ産」「オーストラリア産」 などの片仮名表記に比べて、「中国産」「米国産」「豪州産」などの漢字表記は、 消費者において認める率が低くなる。たとえば「アメリカ産」は販売店で80.3%、 消費者で72.9%がよしとしているが、「米国産」は消費者の49.6%、「豪州産」 は消費者の42.6%しか原産地表示とは見ていない。漢字による国名表記が若年層 には普及していない可能性もある。(図3、図4) 設 問 食肉の場合、JAS法に基づく原産地表示とはどのような内容だと思いますか。 ◇図3:輸入食肉の原産地表示の内容◇ 設 問 具体的に次の中で、原産地表示として正しいと言えるのはどれでしょうか。 ◇図4:輸入食肉の原産地表示実例◇ 〔注:複数回答のものは回答の合計が 100%を超えるものがある。この場合、百 分比は、回答者中何%がそう答えたかを示す。〕 2 国内産食肉 国内産食肉の原産地表示の方法については、選択肢が多く、その分混乱もある が、最低限の「国産」でよしとする回答は、販売店で77.3%、消費者で69.1% にとどまった。次いで「都道府県名でもよい」とする回答は販売店71.2%、消費 者58.1%であるが、「一般によく知られた地名でもよい」とするものは販売店46 .1%、消費者29.0%と一気に下落する。「銘柄名に付けられた地名でもいい」と する回答は販売店29.0%、消費者14.7%とかなり低い。 「銘柄であっても地名がない場合は『国産』や都道府県名などが必要」とする 応用問題の正答率は販売店27.7%、消費者17.6%と低く、「市町村名でもよい」 とするのは販売店21.9%、消費者12.4%とさらに低かった。 以上が正解の回答だが、以下のような間違った回答も多数ある。 「地名の入った銘柄名でも『国産』や都道府県名などが必要」との誤答は販売 店21.3%、消費者20.7%。「都道府県名が必ず必要」という青果類と混同した 思い込みは販売店11.8%、消費者15.3%。「『和牛』と書けば十分」という重 大な誤解は販売店 7.0%、消費者 7.3%であった。 具体的な例で聞いてみると、「鹿児島黒豚」「宮城県産牛肉」等県名が入って いるものを正しいとした者は販売店で73〜75%、消費者で63〜72%と浸透度は 高く、地名の入った銘柄名である「松阪牛」は、販売店の65.1%、消費者の65. 4%が正しいとしており、原産地として認識しているが、「房総ポーク」になる と、販売店で30.6%、消費者で21.0%しか原産地表示と思わず、個別の地名によ って相当開きがあることが分かる。 「和牛」と書けば十分という誤解は、販売店の11.5%に対し、消費者は16.6% と高かった。(図5、図6) 設 問 食肉の場合、JAS法に基づく原産地表示はどのような内容だと思いますか。 ◇図5:国内産食肉の原産地表示の内容◇ 設 問 具体的に次の中で、原産地表示として正しいと言えるのはどれでしょうか。 ◇図6:国内産食肉の原産地表示の実例◇ 混合した場合についての浸透度 同じ種類の食肉で、複数の原産地のものを混ぜた場合の表示については、表示 基準で最も理解の難しい部分だが、「重量の割合の多い順に列記」と正しく認識 している者は販売店58.9%、消費者40.7%であった。応用編「両方国産なら『国 産』で十分」という正答率は販売店34.5%、消費者25.0%とかなり低くなる。 「多い方だけを記載」「混合したら原産地表示は不要」「原産地表示を自由に 列記」「どちらか一方を記載」などの誤解はそれぞれ3〜7%と低かったが、こ れらがまとまれば大きな誤解となることを感じる。(図7) 設 問 JAS法において同じ種類の食肉で複数の原産地のものを混ぜた表示で正しい のはどれでしょうか。 ◇図7:混合した場合の表示◇ カタログやチラシでの表示 品質表示基準では、カタログやチラシには原産地表示をする必要はないとされ ているが、それにもかかわらず、必要があると思っている店舗が84.5%もいた。 必要でないという正解は15.2%であった。消費者のためには詳しい表示は歓迎だ が、ルールとしては必要ないことを認識する必要がある。(図8) 設 問(販売店のみ) JAS法においては、宣伝用のカタログやチラシにも原産地表示を必要がある でしょうか。 ◇図8:カタログやチラシでの原産地表示◇ 流通段階での表示 原産地表示が正しく店頭で表示されるには流通段階での表示が必要だが、品質 表示基準でそのように定められていると認識している販売店は84.5%で、15.4% が必ずしもその必要がないと思っていた。(図9) 設 問(販売店のみ) JAS法においては、卸売など流通段階でも原産地表示をする必要があるでし ょうか。 ◇図9:流通段階での原産地表示◇ 生体輸入の食肉の原産地表示 生体で輸入して日本でと畜したものは、以前は全て国産品扱いだった。新基準 では、輸入されてから牛は3カ月、豚は2カ月、鶏などそれ以外は1カ月以内に と畜して生産したものは輸入食肉として扱うことが定められた。 このことについては、「輸入から一定期間を経る前にと畜されたものは輸入扱 いで、一定期間を経てからと畜されたものは国内産扱いになる」と正しく認識し ていた販売店は51.4%。新しい概念のためか、正答率は半分程度でしかない。早 めの浸透が望まれる。「すべて輸入扱いで、原産国名の表示が必要である」とい う間違いは34.1%、「日本でと畜されて商品になったのだから国内産扱いになる」 という古いままの考えが14.1%あった。(図10) 設 問(販売店のみ) 生体で輸入し、日本でと畜したものは、輸入もの国産ものどちらになるでしょ うか。 ◇図10:生体輸入の食肉の原産地表示◇
既に市場では乳用種牛肉よりも交雑種牛肉の方が多く流通している。このよう な現実に伴い、消費者から、「交雑種の表示はどのようになっているか」という 疑問が提示されている。 現在、交雑種の表示はほとんどなされておらず、わずかに「F1牛」という表 示で販売されている例が散見されるだけである。 しかし、いずれかの時期に交雑種の表示についてはルールが定められる必要が あると思われる。 そこで、交雑種牛肉の販売状況と表示について調査した。 交雑種牛肉の販売状況 交雑種牛肉を販売したことのある販売店は19.4%。内訳は「常時販売」5.9%、 「時々販売」13.5%であった。量販店が最も販売実績があり、生協がこれに続き、 農協が最も少なかった。 販売したことのない店舗は78.7%、内訳は「今後検討していく」が33.7%、 「今後も販売する予定はない」が45.0%であった。(図11) 設 問(販売店のみ) あなたのお店では、和牛と乳用種を交配した交雑種牛を販売したことがありま すか。 ◇図11:交雑種牛肉の販売状況◇ 交雑種牛肉の消費者の認知度 和牛と乳用種牛を交配した牛が生産され、既に流通・販売されていることにつ いては、消費者の74.7%が「知らなかった」と答えており、知っていたという回 答は25.3%であった。知っている人が4人に1人いるという現状の方が驚くべき ことかもしれない。 さらに、そのような食肉であることを表示しているのを見たことがあるか尋ね たところ、「見たことがない」が91.6%、「見たことがある」が 7.1%であった。 つまり、表示としては消費者の目にはほとんど触れない形で販売されているとい うことである。(図12、図13) 設 問(消費者のみ) 和牛と乳用種牛を交配した牛が生産され、流通・販売されることを知っていま すか。 ◇図12:交雑種牛肉を知っているか◇ 設 問(消費者のみ) そのような食肉であることを表示しているのを見たことがありますか。 ◇図13:交雑種牛肉の表示販売を見たことがあるか◇ 交雑種牛肉に対する印象 交雑種牛肉に対する販売店の印象は、肯定的印象・否定的印象の比率は4対6 の割合である。 肯定的印象の中身を見ると、「価格のわりに品質が良い牛肉である」22.5%、 「両方の特色を生かした牛肉である」15.7%。否定的印象としては、「和牛より 品質が劣る牛肉である」21.3%、「まだ定着していない」16.6%、「和牛のまが いものである」11.6%、「消費者にあまり積極的にすすめられない」10.7%等で ある。 消費者の印象は「あまり良い印象はない」は31.6%で、「安くて品質がよけれ ばそれでいい」(56.0%)という現実的な回答が半数以上を占めた。販売店ほど は品種にこだわらず、価格と品質の関係を重視しているようである。(図14) 設 問 交雑種牛に対して、どのようなイメージを持っていますか。 ◇図14:交雑種の印象◇ 交雑種牛肉の表示 交雑種牛肉が販売される時の表示については、「消費者に情報を伝えるために、 はっきりそうと表示してほしい」という意見が販売店で48.4%、消費者で74.2%、 「『国産牛』の表示で十分と思う」は販売店40.6%、消費者18.3%で、販売店と 消費者の間では意識にずれがみられる。消費者の中で「特に必要なし」は6.5%、 販売店の中で「別なネーミングがあれば使いたい」が 9.4%あった。(図15) 設 問 交雑種の表示をどうしたらいいと考えますか。どのように表示してほしいです か。 ◇図15:交雑種牛肉の表示◇ 交雑種牛肉の表示の義務化 販売店に、「交雑種」という表示が義務付けられたら交雑種を扱うかどうか尋 ねたところ、「そんな表示はしたくないから扱わない」が45.5%、「扱って、そ のように表示する」が35.4%、「扱うが、表示はしない」が11.8%であった。 販売店には「交雑種」という言葉を使いたくない意識があり、その根底には 「交雑種」という言葉に対する印象の悪さ、特に「雑」という文字に対するイメ ージの悪さがあると思われる。(図16) 設 問(販売店のみ) 「交雑種」という表示が義務付けられたら、交雑種を扱いますか。 ◇図16:義務化への対応◇ 交雑種牛肉の名称提案 そこで、交雑種であることを消費者に伝えるための名称案を訊いたところ、次 のような名称の提案があった。 交配牛 交配品種 国産牛交配 和乳交配 乳用牛交配肉 和牛高配 和牛 (乳用種交配) 和牛×乳用種牛交配 混合牛肉 和乳交雑種 和乳雑牛肉 和 牛と乳用種牛の雑種 和乳牛 ホルスタイン和牛 和牛と乳牛から生まれた牛肉 準和牛等 和牛○○%+○○% 和牛50%国産50% 乳牛と和牛の混合 良品和 牛 F1牛 エフワン牛 ブレンド肉ミックス和乳牛 MIX牛 クロス牛肉ミ ルキービーフ 「和牛」表示のルール 現在の規定(食肉の表示に関する公正競争取引規約)では、交雑種牛を「和牛」 と表示することは出来ないが、そのことを知っている販売店は、78.2%で、知ら なかった店舗が20.2%あった。 さらに、「和牛」と表示できるのは、黒毛和種、褐毛和種、日本短角種、無角 和種の4品種だけであることは、79.0%が知っており、知らなかったのは20.0% であった。(図17、図18) 設 問(販売店のみ) 交雑種は「和牛」と表示できないことを知っていましたか。 ◇図17:「和牛」表示のルールの存在◇ 設 問(販売店のみ) 「和牛」と表示できるのは、黒毛和種、褐毛和種、日本短角種、無角和種だけ であることを知っていましたか。 ◇図18:「和牛」表示の4品種◇
「黒豚」の表示については、消費者の疑問を受けて長期にわたり検討が加えら れ、11年6月にようやく「黒豚と表示できるのはバークシャー純粋種に限る」と いう定義が定められた。そこで、その浸透度について調べてみた。(食肉小売品 質基準の一部改正。12年2月に食肉の表示に関する公正競争取引規約を一部改正) 「黒豚」定義の認識度 「黒豚」に定義があることを知っているのは、販売店で88.8%、消費者で43.5 %であった。業界内部ではよく浸透しているが、消費者はその半分程度の浸透度 で、まだ大きな開きがある。(図19) 設 問 「黒豚」の表示については、定義が定められたことをご存知ですか。 ◇図19:「黒豚」定義の浸透度◇ 鑑定技術の認識度 本物の「黒豚」であるかどうかを、DNAで鑑定する技術が既に確立している が、そのことを知っている販売店は55.7%であった。(図20) 設 問(販売店のみ) 本物の「黒豚」であるかを細胞の中の遺伝子を使って鑑定する技術が既に確立 していることをご存知ですか。 ◇図20:DNA鑑定技術の認知◇ 「黒豚」と表示できる品種 具体的に品種を挙げて、「黒豚」と表示できるかどうか聞いたところ、「バー クシャー種の純粋種」と正解を回答したのが販売店で76.8%、消費者で29.0%と 大きな開きがあった。「バークシャーと他の品種の交雑種(50%以上)」という 誤答は販売店12.7%、消費者8.4%であった。黒い毛の品種ならすべて「黒豚」 と表示してよいと思っている人が販売店で4.8%、消費者で11.8%あった。それ 以外の品種でよいと思っている人はごく少なかったが、「分からない」という回 答が販売店で13.7%、消費者で54.5%もあった。 販売店は4分の3が正しく認識しているが、消費者は4分の1で、半分が分か らないという回答で、黒豚の定義については、残念ながら今だ浸透が不十分であ ると言わざるを得ない。(図21) 設 問 「黒豚」と表示して良いと思うものにすべて○を付けて下さい。 ◇図21:「黒豚」と表示して良い品種◇