岩手県/佐藤 彰
ここは田んぼの中を通る農免道路であるが国道の渋滞を避けた大型トラックが ひっきりなしに通る。千葉さんの牛舎は、この道路沿いにあり、雨の日は車で跳 ねた水が牛舎の中まで入りそうになる。岩手県北上市和賀町の千葉洋子さんの農 場は、水稲と肉用牛肥育経営主体の複合経営である。経営規模は黒毛和種50頭で、 年間出荷頭数は25頭である。他に水田作付け面積2ヘクタール、転作牧草58アー ル、小菊の栽培が10アール、更に借地による共同利用草地も利用している。経営 規模は地域内でも、けっして大規模ではなく、普通の複合経営規模といえるが、 これだけの農作業を殆ど彼女一人でやっている。特に経営の柱である肥育では、 とにかく牛に声をかけ、よく触り、よく観ている。「おいで、おいで」と彼女が 声をかければ牛がすり寄ってくる。こうしたことによって、群飼のまま個体管理 がされている。また、「プロファイル」(血液検査)を取り入れ、ビタミンAや コレステロールなどの数値を把握し、肉質の向上、増体、障害予防に役立ててお り、その結果、平成12年の出荷成績は1頭当たり平均販売額で、100万円を超す成 果を挙げている。導入牛を含む生産資材の調達等、生産に関わる経費はもちろん、 損益収支に至るまで帳簿とパソコンで整理分析を行うなど、常に自らの経営状況 の位置を見ながら取り組んでいる。もちろん、これまでの道のりは決して楽なも のではなく、4年に突然見舞われた不幸を機に、「これからは、夫の志を自らの 志として生きよう」と決心し、それまでの経営規模を見直すことから挑戦を始め た。大型特殊、けん引免許の取得、農業機械技能競技会での優賞、毎日農業記録 賞最優秀賞、平成12年度県畜産共進会名誉賞受賞といった具合に、彼女の努力に は目を見張るものがある。彼女の性格は、何事にも動ぜず、物事に対するきめ細 やかさ、旺盛な好奇心と深求心、何よりも人一倍努力家であると周りはいう。皆 さんに支えられて何とかやっているだけ、と本人は云うが、いつも帳簿の数値や データを睨みながら、経営と生活の安定を第1目標としている。また、昨年12月 に肉牛生産者の奥様方で、自分達が普段、育てている牛のPRや消費者の声を聞い て、生産に役立てようと「ビーフレディースきたかみ」を組織し、その代表に就 いた。また、時には結婚式などの司会を頼まれることもあるという。夢は、将来 自分自身に対し、褒美を上げることであり、いま積立(慰労金として)を行って いる。4人の子供達を育てながら、農業を生活の場とし、多忙な中にも自らの生 活をライフワークとして楽しんでいる。真に農村社会のキャリアウーマンである。
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【きたかみ市の広報の 表紙を飾った千葉さん】 |
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【手前の水田と道路沿い の牛舎(農場全景)】 |