兵庫県/出水 正紀
兵庫県但馬地域は、急傾斜地である山間棚田が多く、その管理保全が問題とな っている。耕作が困難もしくは放棄される田んぼの多くは、集落の高齢化だけで なく土日しか集落にいないサラリーマン世帯の増加によるものである。その中で、 畜産農家が行う放牧が牛を持たない水稲農家や集落において草刈り牛として求め られるようになってきている。 城崎郡竹野町三原地区において和牛を13頭飼育する加悦大三郎氏(51歳)が平 成12年度和牛2頭で放牧実証を行ったところ、集落の中から「うちの田んぼにも 牛を放して草刈りをやってくれないか」と申し出があり、13年度には5頭の出前 放牧(畜産農家以外の田んぼに電気牧柵などと併せて無償で貸し出す放牧)を始 めた。三原地区は中山間地域直接支払制度の対象地域である。そのため棚田の維 持管理には苦心をしていたが、出前放牧を行うことによって耕作放棄田の草刈り の手間が軽減された。それだけでなく放棄田から飼料作物を作付けすることで転 作田に生まれ変わり、それと合わせて転作料が入るなどさまざまな効果も見られ た。さらに耕作放棄田に但馬牛を放牧することによって、但馬地方独特の牧歌的 景観が創出された。また三原集落では転作田にハスが栽培されており、但馬牛と ハスの花の組み合わせが新しい景観を生み出した。 一方、14年度においては城崎郡日高町八代地区において出石放牧組合旗谷仁志 組合長(46歳)が牛を貸借契約書に基づいて行う契約放牧(畜産農家のいない集 落などに牛のみを無償で貸し出す放牧。出前放牧との違いは牛のみを貸し出す点 であり、電気牧柵代やその設置作業および日々の放牧牛管理は借り手の集落が行 う)を開始した。八代地区も中山間地直接支払制度の対象地域であり、昨年度か ら棚田交流人(都市から対象集落の草刈りなどを行う農作業ボランティア)が棚 田保全のため、草刈りや火入れを行ってきた。しかし面積的にも労力的にも限界 があった。牧柵は棚田交流人と集落が一緒に設置作業をし、現在2頭が草刈り牛 として活躍中である。 今後は、放牧が畜産農家の省力化や低コストだけで完結するのでなく出前放牧 のように地域の中で耕作放棄地の解消に役立ったり、契約放牧による牛の貸出制 度が一般的となり、人の手ではどうしようもない棚田へ派遣される草刈り牛が増 えるのではと期待している。
【新しい景観が生み出された三原集落】 |
|
【農作業ボランティアの棚田交流人と 集落が一緒に電気牧棚を設置】 |