◎調査・報告


食肉公正競争規約、32年ぶりの大改正

東京都食肉公正取引協議会  専務理事 大野谷 靖


 かねてより申請中であった「食肉の表示に関する公正競争規約」(以下、
「食肉公正競争規約」または「規約」)の変更が、平成14年10月8日公正
取引委員会から認定され、翌10月9日官報告示、即日施行された。同時に施行
規則の変更も承認された。

 食肉公正競争規約は昭和45年に東京で設定され、以後各県に拡大、平成7年
の全国統一規約一本化を経て、内容は基本的に変わらず継承されて来た。しか
し、今回の改正は、本質的な内容変更を含んでおり、32年ぶりの大改正と言う
にふさわしいものである。

 主な変更内容を列挙し、解説を行う。


主な改正点

対象を卸売段階に拡大

 今まで規約の対象者は小売販売業者に限られていたが、これを食肉卸売業者
(業務用卸、副産物、商社を含む)にも適用されることにした。従来小売店で
の消費者向けの表示のルールであった規約を、卸売業者を含めた流通全段階の
ルールに拡大したのである。

 規約も構造を変えて「章」を立て、「小売販売業者」と「小売販売業者以外
の販売業者」を別章で記載することとなった。「小売販売業者以外の販売業者」
というのはいかにも堅苦しい表現だが、要するに卸売業者のことで、小売業者
と合わせてすべての販売業者となるわけである。

 このような改正が行われた背景には、雪印食品による牛肉偽装事件を契機と
して次々と発覚した偽装表示の問題がある。北海道産の牛肉を「熊本産」と表
示したり、輸入鶏肉を長期にわたり国産品として販売していたという有名大手
食品会社の不当表示が次々と表面化したが、これらの一連の偽装は主に卸売段
階で起こり、結果的に小売段階での不当表示になった。

 そこで、その是正のために公正取引委員会が乗り出して、食肉公正競争規約
を改正し、卸売段階においても規約を適用するようにしたものである。

 もともと公正競争規約は、景品表示法に根拠を置く関係上、消費者に対する
店頭での表示の規定という性格を有し、卸売段階の表示を規定するものではな
い。だが、小売の表示を正しくするためにはその前段階の表示が正しいことが
前提で、卸売段階の表示が正しくなければ小売段階の表示は結果的に虚偽とな
る。JAS法に基づく原産地表示も、川上から情報が正確に伝達されなければ、
川下で正しい原産地表示をすることはできない。

 こうしたことから、卸売段階における表示を適正化するために、規約の構造
を進化させて食肉卸売業者が参加できるようにしたのである。

 なお、一時期、業務用卸売業者は適用外という案があったが、公聴会におい
て消費者団体から強く要望が出され、外食における原産地や銘柄食肉の表示の
根拠を明確にするために、業務用卸売業者も規約の対象となった。

卸売段階の「必要表示事項」を設定

 食肉公正競争規約には、「必要表示事項」というものが定められているが、
これは購入者のために最低限表示すべき項目のことである。

 従来の規約では、専門小売店の計り売りの必要表示事項とスーパー等のパッ
ケージ商品(事前包装食肉)の必要表示事項、それにチラシにおける必要表示
事項が定められていたが、これに卸売段階における必要表示事項が下記のとお
り追加された。

(1)食肉の種類および部位 (2)原産地
(3)内容量 (4)冷凍に関する事項
(5)品質保持期限(賞味期限)および保存方法
  〔消費期限の表示の方が適切な場合は消費期限〕
(6)販売業者の氏名または名称および所在地

 基本的に小売段階の必要表示事項と一致している。卸売段階の表示は、情報
を小売段階に伝達するものという意味から当然である。ただ、消費者向けのも
のではないので、100グラム単価と販売価格は省略されている。

 (6)について注釈すると、販売業者とは加工者と今の販売業者の両方を指
し、販売業者が加工者と一致している場合は「加工・販売:○○畜産」と1本
で良いが、加工者から購入して次に販売する場合は、「加工:○○食肉センタ
ー 販売:○○畜産」という2本立てにする必要がある。これは、食品衛生法
の規定から、必ず加工者を表示する必要があるからである。なお、輸入部分肉
にあっては、加工者として外国の加工工場を書くのではなく、輸入業者を表示
することになる。

 表示の方法は、容器や包装に外部から見やすいように表示することとされて
いる。容器や包装に入っていない食肉は、送り状や納品書に表示する。

 なお、卸売業者が一般消費者に販売する事前包装食肉(いわゆる「アウトパ
ック」)を製造する場合は、小売段階の事前包装食肉の必要表示事項が適用さ
れる。つまり、100グラム当たり単価と販売価格が必要である。

卸売段階の「不当表示」を規定

 内容的には小売段階と同じで、輸入食肉を国産食肉と偽る行為や、産地銘柄
の偽装、和牛や黒豚の虚偽等はすべて不当表示と規定されている。

帳票類整備の義務付け

 今回新たに挿入されたもので、帳票類の整備・保管を2年以上に義務付けた。
これは、指導員による表示の監視・調査を可能にするためである。

違反調査の外部委嘱

 従来、会員の中から「適正表示指導員」を選んで、表示違反の調査指導をし
てきたが、食肉公正取引協議会以外の者、例えば消費者団体の推薦した者など
にも違反調査を委嘱するようになった。

 これは、内部の調査だけでは信頼性に欠けることから、業界外部の第三者に
よるチェックを導入して、対外的な信頼性を確保する狙いである。

違反調査結果の報告

 対外的な情報公開を推進する意図から、違反調査結果は県協議会や全国食肉
公正取引協議会に報告することが明記された。

違反者への違約金の増額

 違反者に対して課する違約金を増額した。具体的には、調査協力拒否への3
万円を5万円に、警告拒否への30万円を50万円と重くした。

違反への措置に関する整備

 違反者に対する措置の中で、ステッカーの貼付け差し止め・回収、違約金、
除名処分、公正取引委員会への措置請求等の措置については、その案を対象者
に提示の上、異議申立てを認め、弁明の機会を与えることにした。


今後の展開

 このように、従来の小売段階の規約に卸売段階の規定を加え、食肉卸売業者
と小売業者の連携した取り組みがなされるようになった。卸売業者の団体が集
まって自ら規約を作った方が責任が明確になり、運営も円滑になるという意見
もあったが、結果的には、従来の小売の規約に卸売段階の規定を付加する形で
決着した。

 そこで、今後の課題は、卸売業者の食肉公正取引協議会への参加であるが、
これには、本部と各県協議会との二段構えの参加が想定されている。

 まず全国食肉公正取引協議会の会員として食肉卸売業の全国団体が加入し、
各団体において構成員を指導するという形が1つである。全国団体としては、
全農、全酪連、全畜連、全開連などの生産者団体、市場協会や市場卸売組合な
どの卸売市場関係団体、流通センター組合や全国食肉業務用卸協同組合連合会
などの卸業団体、日本食鳥協会や日本成鶏処理流通協議会などの食鳥団体、日
本ハム・ソーセージ工業協同組合等のハム・ソー会社団体、それに、日本食肉
輸出入協会、日本畜産副産物協会などの参加が予定されている。

 各団体では、規約の周知徹底、相談指導、違反の調査、食肉小売業からの苦
情処理などに当たることになる。

 もう1つは、全国団体傘下の食肉卸売業者や全国団体に所属していない卸売
業者が、地元の各県協議会にそれぞれ参加するという形である。全国規模の会
社や多県にまたがって営業所を持つ卸売業者の場合、本社が入っているから他
の県で入らなくてよいということではなく、各県別に加入してもらうわけであ
る。

 規約が大きく変革した今、その成否は、具体的に卸売業者がどれだけ協議会
に加入するかにかかっている。それが円滑に進まなければ、今回の規約大改革
は有効に機能せず、宙に浮いてしまう。それでは、せっかく卸売と小売を連動
させた新しい規約も絵に描いた餅になるだろう。

 業界挙げて危機感を高め、一致団結して盛り立てていかなければ、表示への
信頼回復は不可能である。

 こうした新しい体制作りのために、財団法人日本食肉消費総合センターは、
改正規約を掲載した『お肉の表示ハンドブック』の改訂版と、加入促進用のカ
ラーパンフレットを作成した。キャッチコピーには「卸も小売も一つになって 
守りましょう お肉の正しい表示」と書かれている。

 こうして生まれ変わった食肉公正競争規約だが、実は制定当時と状況が大変
似ている。

 昭和44年、東京で豚に兎の肉を混ぜたものを豚挽肉と表示した「ニセ挽肉事
件」が起こり、連日の「ウソつき肉」の報道の嵐の中で、危機感を高めた食肉
組合、食鳥組合、日本チェーンストア協会、日本セルフ・サービス協会の4団
体が、一致協力して翌45年、食肉公正競争規約を設定したのがすべての始まり
であった。

 似ているとはいえ、今の状況はその時の比ではない。連日偽装が報道され、
公正取引委員会による排除命令や農林水産省による業務改善命令も出され、ト
ップ企業が存亡の危機さえ迎えている。歴史は繰り返すと言うが、らせん状に
大きくなって、消費者の不信感は30年前よりもはるかに深い。

 こうした状況の中で、食肉公正競争規約が大きく改正されたのは当然の帰結
と言えるが、実効性を上げるために、今後しばらくは産みの苦しみを味わって
いくことになるだろう。

(参考)

平成14年10月 財団法人 日本食肉消費総合センター刊

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