農村振興局 地域振興課
グリーン・ツーリズムとは、緑豊かな農山漁村地域において、その自然、文 化、人々との交流を楽しむ滞在型余暇活動のことをいう。 グリーン・ツーリズムは、家族で長期バカンスを楽しむことの多いヨーロッ パ諸 国で普及した旅のスタイルで、長期休暇制度が定着していないわが国に おいては、 まだまだ認知度の低い言葉であるが、従来の団体ツアーによる名 所・旧跡巡りとは 異なる「新しい旅のカタチ」として都市住民を中心に関心 を集めている。 農山漁村に滞在し、さまざまな田舎暮らしを体験することへの期待は、単な る観光旅行のそれとは異なり、健康や情操教育、生きがいなど多岐にわたり、 このことがグリーン・ツーリズムと従来型の旅行を差別化する大きな特徴とも なっている。 農林水産省では、グリーン・ツーリズムの推進を農山漁村の活性化と都市と 農山 漁村の共生・対流の構築のための重要な施策として位置付け、各種の調 査・情報の提供、地域の受入れ体制作りなどに積極的に取り組んでいる。
近年、ゆとりある生活、やすらぎ、自然を求めるトレンドを背景に、農業・ 農村 体験を希望する都市住民が増加傾向にあり、以下のように、多様なグリ ーン・ツー リズムの展開がみられるようになってきている。 @茅葺き屋根等の伝統的な農林漁業体験民宿への宿泊 Aクラインガルテン(ログハウスを附設した滞在型市民農園)での滞在 B稲刈り、そば打ち等の「農」、「食」体験、また、自然の中での森林浴ト レッキング活動や海の恵みを活用した定置網上げなどの「親水体験活動」 C夏休み等を利用した子ども達の長期の農林漁業・農山漁村体験活動 Dふるさとまつり等の地域伝統文化行事への参加、直売所、棚田オーナー制 度等による交流 こうした旅行に対するニーズの変化は、都市住民を対象としたアンケート調 査結果においても、回答の傾向の変化として、次のように明らかとなっている。 表1 都市住民の農業体験・農村交流・市民農園に関する意識 資料:(株)博報堂生活総合研究所「食と農業に関する意識調査」 注:首都圏居住の非農業者400名を対象とするアンケート調査
近年になって、作業体系上、導入が難しいと考えられていた畜産経営におい ても、多くの酪農家が消費者をターゲットにした乳製品の加工・販売、体験牧 場や民宿経営などの活動に積極的に取り組むようになってきた。 こうした動きの背景には、酪農経営の多角化という視点も存在するが、都市 住民 の間でグリーン・ツーリズムへの関心が高まってきたことや、食の安全 ・安心とい う観点から、畜産農家側が消費者との交流を強化しようとする動 きがあるものと考 えられる。 アンケート調査による畜産農家民宿経営の実態 社団法人中央酪農会議が組織する地域交流牧場に登録・参加している酪農家 302戸を対象に調査した。うち有効回答は111戸。 「平成13年3月;日本型グリーン・ツーリズム実態調査報告書 ((財)都市農山漁村交流活性化機構(まちむら機構))」 @ 地域交流牧場を行う酪農家のうち、民宿経営を併せて行っている者は2割 程度に過ぎず、またその開業時期も平成7年度以降と最近になって始めたも のが過半を占めている。 表2 民宿経営を始めた時期 A 民宿経営を始めたきっかけとしては、「消費者との交流がしたかった」と するものが32.6%と最も多く、「酪農経営の多角化」、「町おこしの一環と して」とするものがそれに次ぐ理由となっている。 表3 民宿開始のきっかけ B 体験型民宿として、牧場で提供している体験メニューについては、「搾乳 体験」、「飼育・管理体験」が多く、ついで、「乳製品手作り」が多くなっ ている。 表4 牧場で提供している体験メニュー C 民宿を始めた者の民宿経営に対する評価は極めて高く、また、ここ数年の 宿泊者数の動向についても、旅行者のグリーン・ツーリズムへのニーズの高 まりを反映して増加傾向にあるものが41.2%と大勢を占めているところである が、一方で、宿泊客数が減少傾向にあるものも23.6%存在しており、こうした 牧場では、牧場や地域全体の魅力度を向上させ、顧客の確保を図る必要がある と考えられる。 表5 民宿の経営に対する評価 表6 ここ数年の宿泊者の動向
鹿児島県喜入町の「きいれ牧場」は、農業・農村の自然体験と牛乳を使った 加工 体験(ミルクパン・バター・チーズ作りなど)や牧場内に建設した宿泊 施設で宿泊事業を実施しています。 体験コースは、家族連れを想定したコースが3つ(日帰り型の「1日体験コー ス」・「半日体験コース」と宿泊型の「モーモーの休日」)、子供を対象にし たコースが2つ(日帰り型の「モーちゃん教室」と宿泊型の「モーちゃんクラ ブ」)の計5コースが用意され、また、5月のホタルツアーや8月の花火大会な どのイベントも実施しています。 最近になって、教育関係者からの農業・農村体験に対する関心が高まってき たことから、「きいれ牧場」では、小・中学生を対象とした教育ファームへの 取り組みをグリーン・ツーリズム事業の中心に据え、体験・宿泊者数は着実に 増加しています。 「きいれ牧場」の最大の特徴は、町内の関連施設との間に有機的な関係を作 り上げている点です。町が運営しているレストランや温泉の利用者が「きいれ 牧場」にも立ち寄るような環境作りに努力した結果、レストラン利用者の3分 の1は「きいれ牧場」の訪問客となりました。 また、温泉についても、入浴料を宿泊料金に含め入浴券を提供することによ り、多くの宿泊客は、喜んで町営の温泉を利用するようになりました。 「きいれ牧場」経営者の鎮守さんは、「グリーン・ツーリズムの一番の張り 合いは 来客の反応であり、また来客からさまざまな情報をもらえることです。 この仕事を通じて、お客さんや同じような仕事に取り組んでいる全国の酪農家 仲間に知り合いが増えたことが最大の財産であり、人とのつながりや情報が宝 です。」といい、交流の持つ、経済効果を超えた「付加価値」を率直に表現さ れています。
【「きいれ牧場」での搾乳体験 ・ミルクパン作り】 |
|
メモ(財)都市農山漁村交流活性化機構 グリーン・ツーリズムの普及に向けて、(財)都市農山漁村交流活性化機構 (まちむら機構)のホームページでは次のような情報提供を行っています。 (1)全国の農林漁業体験民宿の情報を、地域、季節、体験メニューごとの検索 システムにより紹介。 (2)都市農村交流に関するマーケティングやマネージメントについて、地域リ ーダーや学識経験者等の都市農村交流専門家を紹介。 (3)日本全国各地の名産、特産、地域情報等を検索システムにより紹介。 上記のほか、全国の農林漁業体験民宿の体験メニューや民宿情報について紹 介した「全国体験民宿ガイド」や、「田舎で体験学習」、「農産物直売所運営 の手引き」、「農家レストランガイド」等を発行していますので、是非ご参照 ください。 URL http://www.kouryu.or.jp/
元のページに戻る