九州大学大学院 農学研究院 教授 甲斐 諭
本調査研究は、生協や消費者グループが、非遺伝子組み換え飼料を用いて生産 した牛乳(Non-GMO牛乳)を、価格が上昇したにもかかわらず、消費量を増加さ せてきた事実に注目し、その一般化・システム化を図るための課題と問題点の解 明を行うのが目的である。 本稿では、このNon-GMO牛乳が生産されるに至った 背景、生産状況、地域農業の振興に果たす効果、当面している課題を、生協・消 費者グループと農協・生産者の両面から分析し、これらの新たな試みによる牛乳 の需要開発のための課題と問題点を明らかにする。 本調査研究では、Non-GMO 牛乳の供給を全国で初めて実施した福岡市の生活協同組合連合会グリーンコープ 連合(以下、グリーンコープ)と熊本県酪農業協同組合連合会(以下、県酪連)、 菊池地域農業協同組合(以下、JA菊池)およびその管内の酪農経営を調査対象にし、 主に、酪農家選定、飼養管理、分別集乳、加工・流通、プレミアム価格設定等を 中心にして聞き取り調査を実施した。
菊池地域で展開される酪農の実態 平成元年に菊池地域において8農協が合併し、総合農協としてJA菊池が設立さ れた。いま菊池地域では、総合農協であるJA菊池と各市町村をその管内とする他 の4つの専門農協(菊池酪農業協同組合、合志酪農業協同組合、熊本市酪農業協 同組合、西合志酪農業協同組合)の計5つの農協の構成員が酪農を営んでいる。 酪農家戸数は11年で470戸であり、うちJA菊池の構成員が6割、専門農協の構成 員が4割を占めている。また、生乳の取扱量もほぼ前者が6割、後者が4割であ る。 菊池地域の10年の農業粗生産額の主要品目を見ると、生乳117億2,900万円(2 3%)、野菜94億2,500万円(18%)、肉用牛74億4,500万円(15%)、豚60億9, 400万円(12%)、米60億7,000万円(12%)となっており、菊池地域では、畜 産、とりわけ酪農が主幹作目であることが分かる。生産乳量については、堅調に 推移してきており、特に、以下で検証するように、Non-GMO牛乳の生産に伴う過 去2、3年間の伸びは明らかである。 Non-GMO牛乳の生産に至るまでの経緯〜酪農家への積極的な働きかけ〜 Non-GMO牛乳の生産が開始される前年の9年に、グリーンコープの要請を受け たJA菊池によって、JA菊池管内の市町村ごとに酪農家を対象にして説明会が開か れた。特に、従来グリーンコープの扱う牛乳の指定産地であったJA菊池管内の大 津地域と泗水地域を中心にして、酪農家に対してNon-GMO生乳生産の働きかけが なされた。 具体的には、 @ グリーンコープの遺伝子組み換え作物反対の立場から、Non-GMO飼料原料を 使って生乳を生産すること。 A 飼料は、グリーンコープ指定の配合飼料、単味飼料(ただし、遺伝子組み換 えの可能性のあるとうもろこしや大豆、なたね、綿実を除く)を用いること。 B 生乳は日量70トン、年間25,500トン(JA菊池の年間生産乳量の約1/3) を目途に生産すること。 C 飼料費用増加分については、補てんされること。 D 特別牛乳生産見合い分として、乳価プレミアムが支払われること。 などの取り決めを酪農家に確認していった。その上で、9年12月から酪農家の選 定が開始され、10年1月上旬頃までに希望者を募り、飼養する乳用牛の細菌や体 細胞の状態の良い農家並びに集乳コスト削減のために大型ローリー車が庭先に進 入できる農家を優先的に選定していった。 選定が終わった10年の1月末から3月にかけて、20戸ほどの農家を対象にして 試験的にNon-GMO配合飼料の給与を開始し、4月からは本格的に飼料給与を始め、 5月にはNon-GMO牛乳の供給・販売がグリーンコープで開始された。83戸から開 始された全国初の画期的な取り組みは、12年12月現在でも78戸において継続され ている。 飼料原料の切り替えによる乳牛への影響 「遺伝子組み換え作物を飼料原料として全く使わない」ことは、実は酪農家に とって相当大変なことで、濃厚飼料原料の一部内容変更、配合設計の変更による 乳質あるいは乳量などへの影響も考慮に入れなければならない。Non-GMO牛乳生 産の取り組み初年度、この乳質の低下が生産農家に大変な混乱を招いた。乳脂肪 率が低下したほか乳用牛に繁殖障害が起こったりするなど、「もう契約を取り止 めにしたい」という酪農家が続出した。飼料原料のNon-GMO飼料原料への切り替 えが直接的な原因であることは間違いないが、中でも綿実が使えなくなったこと に大きく起因していた。綿実が使えなくなったことにより、配合飼料の栄養バラ ンスがくずれてしまったのである。 初年度末に配合設計の見直しが図られた。具体的には、主原料のNon-GMOとう もろこしとNon-GMO圧搾大豆かすの栄養成分の見直しである。ハイオイルコーン から油分の低い普通のコーンに切り替え、大豆も同様にして亜麻仁かすを混ぜる などして油分を下げる工夫をした。両原料の油分が乳用牛の生理に大きな負担を かけていたと考えられたからである。2年目以降も配合設計に改良が重ねられた ので、現在では順調に生産が維持されている。 地域農業振興に果たす効果 Non-GMO牛乳の生産が、菊池地域農業の振興に果たしている効果について検証 する。まず、県酪連が取り扱っている乳量の増加率とJA菊池管内の生産乳量の増 加率とをNon-GMO牛乳供給開始年(10年)の前後2期に分けて比較する。Non- GMO牛乳の生産を開始する前年である9年度の元年度に対する増加率は、県酪連 が20万4,710トンから22万5,644トンへ10.2%の増加、JA菊池が6万8,906トンか ら7万4,828トンへ8.6%の増加と、県全体の生産乳量の増加率の方が高い。だが、 Non-GMO牛乳の生産に取り組みだしてから2年目を迎えた11年度の9年度に対す る増加率では、県酪連が22万5,644トンから23万400トンへ2.1%の増加、JA菊池 が7万4,828トンから7万8,105トンへ4.4%の増加と県全体で生産乳量の増加率が 低下傾向にある中で、菊池地域においてはNon-GMO牛乳生産の取り組みが、それ に歯止めをかけているととらえることができる。 また、Non-GMO牛乳の生産に取り組む農家では、このところ廃業が全くない。 この数年のうちに廃業する予定の農家は、始めからこの取り組みに参加していな かったことも理由として挙げられる。Non-GMO牛乳の生産には、飼料原料の切り 替え等、経営内容の変更を余儀なくさせるなど種々のリスク要因が存在するため、 後継者のいない農家などは、リスクを避けて従来どおりの経営を選ぶ向きが強い。 逆に、後継者がいる農家、経営者が若い農家は、飼料原料の切り替えやNon-GMO 牛乳の高価格設定など種々のリスク要因をあえて受入れたうえで、Non-GMO牛乳 生産に挑戦しようという強い意欲を持つために、現在においても、順調な経営を 維持している。従って、廃業が発生していない。 一方で、生産開始1年目こそ多少の入れ替わりはあったものの、現在では、取 り組み農家は78戸と、ほぼ固定している。生産開始初年度、飼料原料の切り替え がもとで、乳脂肪率の低下や繁殖障害を招き、取り組み農家は大変な混乱に陥っ た。その際、飼料原料の配合設計の見直しを図ったのも農協なら、混乱に陥って いる農家の庭先指導を行ったのもまた農協であり、Non-GMO牛乳生産を通じた農 業振興に努力した。こうした農協の地域農業振興努力に呼応したのが指導的酪農 家であった。 Non-GMO牛乳生産に積極的に取り組むY乳肉複合経営 菊池郡大津町で乳肉複合経営を営んでいるY氏は、グリーンコープの牛乳指定 産地である菊池地域の指導的酪農家として、Non-GMO牛乳の生産に積極的に取り 組んでいる。Y氏の経営する牧場は、完全な乳肉複合経営であり、搾乳牛50頭、 和牛68頭、F1(交雑種)の雌15頭、和牛の供卵牛23頭、計156頭の牛を飼養して いる(12年12月現在)。なお、肥育牛舎では、鹿児島産、岐阜産、兵庫産、宮崎 産などさまざまな和牛を飼養しているほか、水田は所有しておらず、畑6.2ヘク タールを耕作している。現在、Y氏はF1の雌15頭に和牛の受精卵を移植しようと 考えている。酪農部門は日量で平均約880キログラムの生乳を生産しており、9, 10月は乾乳牛が多く、大変楽な時期である。しかし、12月には多くの乳用牛が分 娩するため、1月の始め頃には1,100キログラムあるいは1,200キログラムぐら いの生産量になる。 また、今後は、ホルスタインから和牛を産ませて、その肥育を行うつもりであ る。育成牛は、近隣の農家から購入し、不足した分については北海道から購入す る。Y氏と夫人の2人だけで牧場を経営しているため、育成牛を飼養することは 非効率的だと考えている。主に夫人が搾乳と子牛のほ育など牛舎内の仕事を担当 し、Y氏が粗飼料生産等の仕事を担当している。搾乳部門の収益で乳肉部門すべ ての経費を賄うことができるようになっている。 飼料は、農事組合法人Wから取り寄せている。このWもまた、Y氏が経営する配 合飼料の製造工場であり、専従者4人で年間約460トンの飼料を製造している。 この配合飼料にはNon-GMO、GMOの両方を含んでいる。乳用牛に給与するNon- GMO配合飼料は当然、グリーンコープの指定するNon-GMO飼料原料を配合したも のを使っており、Non-GMO牛乳の生産に取り組むJA菊池管内の大津地域、泗水地 域、旭志地域の酪農家のうち、Y氏の近隣の酪農家が、このWで作られたNon-GMO 配合飼料を使っている。 Y牧場では、このように乳用牛に給与している配合飼料は、すべてNon-GMO飼 料である。そのほか、主な飼料であるとうもろこしは、あらかじめグリーンコー プが全酪連を通して購入し、圧ペンして1年分倉庫に貯蔵しているものを使って いる。 また、肉用牛には、すべて購入飼料を給与しており、普通の(Non-GMOではな い)飼料であるが、搾乳牛と肉用牛を飼養している牛舎は分離されており、搾乳 牛に与える飼料と肉用牛に与える飼料は保管している場所が異なるため、給与飼 料が混合するということはあり得ない。乾乳牛や乳廃牛にもNon-GMO配合飼料を 与えている。乳廃牛枝肉は約450〜460キログラムで単価は約200円/キログラム であるため、1頭約9〜10万円で出荷できる。現在、県酪連を通じて販売する時 に、出荷先にNon-GMO配合飼料を与えて飼育した質の良い経産牛であることを示 すことにより、約2万円の価格の上乗せを図っている。
グリーンコープの概要 グリーンコープは、沖縄を除く九州全域と山口、広島にまたがって展開されて いる13の生活協同組合の連合組織であり、組合員を組織し、商品を直接供給する 会員生協と、商品の開発・管理や組織運動の調整を担うグリーンコープ連合によ って構成される。組合員の視点で開発した、安全でかつ環境に配慮した商品をカ タログによる共同購入や店舗販売などで組合員に供給することが主な業務である が、福祉事業やリサイクル運動、脱原発運動などにも積極的に取り組んでいる。 グリーンコープの現在の組合員数は12年3月末の時点で29万5,541世帯で、そ のうち、共同購入組合員数は23万4,392世帯、店舗組合員数は6万1,149世帯で あり、供給高の合計は11年度実績で約578.3億円(共同購入事業高約508.2億円、 店舗供給高約70.1億円)であった。 安全性をアピールしたこだわり商品「Non-GMO牛乳」 現在、Non-GMO牛乳を週当たり約10万世帯の組合員が購入しており、1世帯で 週平均2.6本(J/本)を購入している。月間の販売量は本数で約97万本であり、 販売金額は約2億1,000万円である。供給高は11年度実績で、共同購入で約26.3 億円(共同購入事業高構成比で5.2%)であった。 遺伝子組み換え問題に対して積極的な取り組みを行っている生活協同組合の中 でも、とりわけグリーンコープのそれには目を見張るものがある。非遺伝子組み 換え食品の表示を日本で初めて行ったのはグリーンコープで、表示の徹底ぶりも 他の生協と比べて群を抜いている。グリーンコープがNon-GMO牛乳の販売を開始 するに至った背景には、そうした遺伝子組み換え問題に対する真摯な姿勢から、 より安全な牛乳を開発していこうとしたことが大きい。従来、「ノンホモ」や 「パスチャライズ」など牛乳の質を追求していたが、そのことに加えて、乳用牛 への飼料供給面での安全性を求めて、生産に踏み切った。特に、1990年代半ば以 降、遺伝子組み換えの問題がクローズアップされてきたこともあり、基幹商品と しての牛乳を「Non-GMO牛乳」とすることで、消費者に対して、より大きな安心 感を与えようと考えた。実際に、Non-GMO牛乳に切り替えた10年は対前年比で11 3%の売り上げがあった。しかし、11年には対前年比で94%、12年には大手乳業 メーカーの中毒事故や量販店の乱売合戦等の影響もあり90%と減少している。国 内全体で見ても牛乳の消費量は9年以降減少傾向にある。 ノンホモ牛乳とパス牛乳 グリーンコープが取り扱っている牛乳には、ノンホモパスチャライズ牛乳(以 下、ノンホモ牛乳、価格は1J218円)とパスチャライズ牛乳(ホモパスチャラ イズ牛乳と呼ぶべきところ、以下、パス牛乳という、価格は1J218円)の2種 類の牛乳があり、その両方とも遺伝子組み換え飼料は使われていない。牛乳は一 般にホモゲナイズされた牛乳とホモゲナイズされていない牛乳の2種類に分けら れるが、イギリスなどでは、ホモゲナイズされていない牛乳のほうが奨励されて いる。グリーンコープは、「安全性に関連していえば、生乳に近い、つまり自然 に近いという意味でホモゲナイズされていない牛乳のほうがより自然である。ホ モゲナイズする場合、乳成分中の脂肪球を砕くことにより、脂肪球の周りを被っ ているタンパク質の膜までも破壊することになり、結果として、牛乳は酸化され やすい状態になる。事実ホモゲナイズされていない牛乳の方が日持ちは長い。」 と指摘している。 グリーンコープでは、今までノンホモ牛乳とパス牛乳の販売比率はほぼ半々で あったが、12年の各々の受注量を対前年比で見るとノンホモ牛乳は90%、パス牛 乳は97%と、パス牛乳の方が落ち込みは少なく、相対的に比率は増大している。 また、ゴールデンウィークと盆休みの週は、組合員のなかでも郷里に帰ったり、 旅行したりするなど利用制限をする世帯が増えるため、通常週5日配送するとこ ろを週2,3日に切り替えて配送される。そのため、両期間の2週は受注量が激 減する。このことは、受注量が落ち込んだ分、残った牛乳をどう処理するかとい う以下の余乳処理の問題にもかかわってくる。 余乳処理の問題 これまで述べてきたように、グリーンコープの牛乳指定産地である熊本県のJA 菊池管内の大津地域・泗水地域・旭志地域では、年間2万5,500トン(日量70ト ン)(基準量)のNon-GMO生乳が生産され、そのうちグリーンコープが契約して いる量は1万5,500トンである。午前中に搾乳された生乳は前日の夕方に搾乳さ れたものと一緒に集乳ミルクローリーで集乳され、工場に運ばれ、貯乳タンクに 貯乳される。なお、集乳ミルクローリー、貯蔵タンクともに普通の牛乳と区別さ れている。 グリーンコープでは、土曜日、日曜日に商品の配送がなく、平日組合員に配送 する量も日によって異なってくるため、当然、生産された日量70トンのNon-GMO 生乳すべてを消費するということはできない。そのことに加えて、配送のない日 曜日に生産された生乳は月曜日に処理することができるが、土曜日、金曜日に生 産された生乳を完全に処理することは難しい。結果として、週当たり約120トン、 単純に計算して年間では約6,240トン(120トン/週×52週)の余乳が生み出さ れることになる。Non-GMO生乳の生産量そのものは年間2万5,500トン(基準量) であるが、そのうちの1万5,500トンを目標に取引されることになっている。 発生する約1万トンの余乳(2万5,500トンの生産量−1万5,500トンの契約 量)をどう処理するのかが問題である。1万トンの余乳は、「普通の牛乳」とす るか、あるいはグリーンコープの他の乳製品にまわさざるを得ない。Non-GMO生 乳はグリーンコープのプライベート・ブランド商品であるため、そのままの形で 他社に販売することはできないからである。このときのコストの差額分は、乳価 プレミアム(Non-GMO牛乳生産農家には、利用できる飼料に制約があるため特別 牛乳生産見合いとして乳価プレミアムが支払われることになっており、さらに飼 料費用増加分とリスク負担手当が上乗せされる)とは別にグリーンコープが補て んする。 余乳対策として、11年6月からNon-GMO生乳を96.4%使用したコーヒー牛乳 (名称は「わが家風コーヒー牛乳」で価格は1J238円。乳飲料として牛乳とは 区分される)の供給を始め、現在では、Non-GMO生乳使用のアイスクリームやヨ ーグルトなど乳製品を開発・製造することもメーカーなどと検討中である。しか しながら、グリーンコープのNon-GMO牛乳販売が、供給開始以前からその研究・ 開発に多大な投資を行い、供給開始以後も配合飼料設計の変更等、実に多くの労 力・資本を投入し現在に至っていることを考えれば、生産されたNon-GMO牛乳の 多くが「普通の牛乳」として販売されているという事実は、やはり惜しまれるこ とである。これは、今後の課題として挙げられるだろう。 学習会、酪農ホームステイ〜それらを通じての消費者理解の促進〜 グリーンコープでは、組合員に対してNon-GMO牛乳への理解を促すため、組合 員、生産者、農協、あるいは県酪連も交えた学習会を頻繁に開催している。現在 では生協から要請があった場合に開催することにしている。工場や生産農家への 視察がその主な内容であるが、12年度に限っては、口蹄疫の発生が災いして開催 されなかった。 また、酪農ホームステイを毎年一度、夏休みを利用して開催している(このホ ームステイも12年度に限っては口蹄疫の影響で開催されなかった)。2泊3日で、 参加費用は1人1万7,000円。組合員の子供(小学校高学年から中学2年生までの 児童)80人が生産者の農場で酪農体験をする。菊池地域のNon-GMO牛乳生産農家 で受入れている。 このホームステイが、組合員の子供たちに教育効果(農業に対する深い理解、 Non-GMO牛乳を生産する酪農家の努力への理解など)を与えることは間違いない が、酪農家に対してもいい影響を与えている。酪農ホームステイで訪れてくるグ リーンコープの組合員やその子供たちなど第三者の目を意識することで、おのず と牛舎管理などに取り組む姿勢がよくなる。このことは、乳牛の飼養環境がよく なり、乳牛の能力が高まるという話にもつながってくる。その意味で、生産農家、 組合員お互いがお互いを刺激し合うことができるという点で、酪農ホームステイ は生産者・消費者双方に教育効果があるといえるだろう。
Non-GMO牛乳が生産され、消費者のもとに届くまでには幾つかの大きな課題が ある。 第1は、飼料原料の切り替えに伴うリスクが挙げられる。グリーンコープの牛 乳指定産地で、飼料原料に綿実を使っていた酪農家はNon-GMO飼料原料に切り替 えたことにより乳脂肪率が大幅に下がったことである。その混乱を解決するのに 約1年を要したのであるが、そうした飼料原料を切り替えることに伴うリスクを 酪農家は負うことになる。 第2は、価格設定に伴うリスクが挙げられる。グリーンコープのNon-GMO牛乳 の価格は、特別牛乳生産見合いとして酪農家に支払われる乳価プレミアムと飼料 費用増加分、リスク負担手当を含んだ価格に設定されるため、市販牛乳の価格に 比べて、1割ほど高い価格となる。取組み1年目こそ対前年比で113%の売り上 げがあったものの、11年では対前年比94%、12年では90%と、その販売額は減 少傾向にある。 第3は、余乳処理の問題が挙げられる。供給状況のなかで見たように、生産さ れたNon-GMO生乳のすべてがNon-GMO牛乳として販売されるわけではない。一部 が「普通の牛乳」として販売されているという事実は、経済の効率性の面から見 ても望ましいことではなく、改善の余地が残されている。グリーンコープの場合、 その解決方向が、アイスクリームやヨーグルトなどNon-GMO生乳使用の乳製品を 開発・製造することなのであるが、その際にも、取引メーカーとの慎重なる議論 ・検討を要することだろう。 そして、最も大切なことは、以上挙げた3つの課題に対して、生産者・生産者 団体、消費者・消費者団体の各々が正しい理解を持つということである。Non- GMO牛乳が全国的に普及・展開されていくためには、生産者、消費者、乳業メー カーの各々が問題意識を1つにし、積極的に相互理解を促進させていくことがま ずもって不可欠である。 《追記》本稿は、東京大学の矢坂雅充氏と帯広畜産大学の佐々木市夫氏および筆 者との共同調査研究の成果のうち、紙幅の制約上、筆者の分担部分のみを掲 載した。2人の共同研究者に感謝の意を表したい。諸般の事情により、乳価 プレミアム等の公表は割愛した。