九州大学大学院 農学研究院 助教授 福田 晋
一般に家族経営においては、家の後継者が経営を継承するケースがほとんどで あり、第三者に離農した後の経営を譲るといったケースは極めてまれである。と りわけ農地のみならず、畜舎などの資本施設がセットとなっている畜産経営の牧 場においては、牧場ごと第三者に委譲されるということは極めて珍しいといえる。 しかし、経営者がリタイアしても価値のある資源を放置して無駄にすることは、 社会的に見て大きな損失である。また一方、畜産経営の場合、新規就農開始時に 多額な投資が必要であることが、新規就農を難しくしているということも事実で あり、今後は北海道における「公社営農場リース事業」の手法などを基本としな がら、都府県でも牧場が第三者に取引されるシステムを作る必要があろう。 岡山県ホクラク農協(以下、「ホクラク」と称す)は、平成11年度から新規就 農円滑化モデル事業を全国で先駆けて導入し、離農牧場を利用して新規就農者の 経営研修の場とする「経営体験研修体制整備事業」に取り組んでいる。しかし、 このような牧場の第三者移譲への取り組みは、単に事業制度化に対応したもので はなく、ホクラク独自の牧場取引の実践経験と支援体制の積み重ねの結果として 生じたものである。 本稿では、はじめにホクラクが取り組んできた酪農経営の第三者移譲への取り 組み過程について述べ、離農牧場の取引仲介の考え方を考察する。次に、さまざ まな第三者への経営委譲のタイプを整理し、その特徴について考察する。さらに 経営体験研修体制事業の第1号取り組みとなった新規参入者の事例について分析 する。最後にこれらの経営継承を成立させた条件をまとめる。 ホクラクは、岡山県北部地域を管内とする酪農専門農協として昭和23年5月に 設立されている(図1参照)。最盛期には組合員1,500名、乳用牛25,000頭、年 間の生乳取扱数量9万トン、職員数120名を誇っていたが、平成12年現在では組 合員戸数312戸、乳用牛12,612頭、販売乳量73,476トン、職員数67名まで減少し ている。組合事業として、信用、販売・購買、乳牛・肉牛流通、育成牧場、診断、 農地供給事業を行っており、信用事業31億、貸付金17億、購買供給高28億である。 専門農協として信用事業を担当していることから、組合員酪農家の経済、信用、 生産指導まで経営すべてを包括できることが大きな強みであり、中でも次に詳述 するように、農用地供給事業は特筆すべきものである。
用地供給事業の取り組み ◇図1◇ ホクラクの牧場継承にかかわって注目すべき事業が農用地供給事業である。こ の事業の実施基準は昭和50年に作られているが、その事業の種類として、@農用 地の造成改良もしくは管理、A農用地の売渡、貸付もしくは交換、B農用水利施 設もしくは農道(牧道含む)の設置もしくは管理、Cその他前各項に付帯する事 業とある。そして、その対象となる土地は当該土地を開発し、または整備して農 用地とすることが適当な土地であって、農用地開発事業、草地造成事業、農業構 造改善事業、飼料増産対策事業などの実施が確実と見込まれる地域内の土地に限 るものとするとある。@については、公有地ないし私有地(多くは山林)をホク ラクがあっせんして岡山県農地開発公社(以下「公社」)の各種補助事業に乗せ て整備し、酪農団地として供給している農業公社牧場設置事業などがその代表的 なものである。また、既存経営の農地の取引仲介、売買、貸借に関わる業務はA に該当する。 ホクラクは、この農用地供給事業の実施基準が結ばれる以前、40年から実質的 に農地の取得、牧場開発に関わる業務を組合業務として行ってきたが、折から日 本列島改造ブームに乗った山林開発に関わるデベロッパーとの競争の中で、職員 に宅地建物取扱免許主任者の資格を取得させ、正式な「農協事業」として位置付 けている。県内の多くの農協も同時期に宅建免許を取得しているが、宅地取得業 務を主とし、農地業務には参入しておらず、現在では宅地取得も有名無実となっ ている。 ところで、上述した牧場開発による就農者が順調な酪農経営を続けていれば問 題はないが、不慮の事故や病気、経営事情などによりやむなく経営を離脱するケ ースがあった。そのような際には、管内地元市町村にも影響が出るために、ホク ラクが牧場のその後の利用に積極的に関わって、第三者への牧場の委譲という取 り組みが行われてきた。従って、現在でも初期の開発牧場で「離農跡地」となっ て空いていることは一件もないという牧場の継承実績を誇っている。 第三者委譲のポイント 表1に示すように、われわれの調査では27戸が現在第三者から購入、借り入れ して経営を行っている。うち、2戸は初代経営から数えて3代目の譲渡であり、 実質的には29件の取引が行われている。もちろん、初代入植者が順当に経営を継 続している事例もあることを断っておかねばならない。その取引方法、内容は実 にさまざまであるが、取引のポイントは、譲受希望者のニーズにあった牧場のみ が取引対象となり、経営資源としてマーケットベースに乗る牧場のみが譲渡され るということである。 表1 農用地供給事業による農業取引の概要 それでは、その経営資源としてマーケットベースに乗る条件は何であろうか。 第1は、畜舎と住居が離れていることであり、第三者が継承しても前経営者の顔 が見えないということである。その方法として、通勤酪農という職住分離や畜舎 と住宅を意識的に距離を置いて酪農団地を建設するということを指摘できる。第 2は、どのような経営タイプが入っても対応できるように、大型トラックが搬入 できる道路の牧場内敷設である。従って、このような条件に合わない牧場は当初 から取引の対象とならないと明言している。すべての牧場が譲渡できるわけでは ないという経営資源としての条件は極めて重要である。 農地保有合理化促進事業の利用とホクラク仲介の効果 第三者委譲の農地取得に至る手法としては、農地保有合理化促進事業(名称は 時期により変わる。以下「合理化事業」)を利用するケースがみられる。この事 業は、担い手農業者等の経営規模拡大のために、買い入れた農用地等を担い手に おおむね5年で貸し付け、経営が安定した後に売り渡す事業である。この事業は、 売り渡し時に合理化法人が保有していた期間の金利負担が受益者にかからないと いう最大のメリットがある。 この合理化事業で牧場を取得しているものは7件である。合理化事業で取得し ているケースは、ホクラクが牧場の取得希望者を確保した上で、公社事業で整備 して売り渡すことを合意の下で、公社が委譲者から買い取り、整備後一定借地期 間を経て、取得希望者に売り渡す仕組みである。公社の合理化事業を利用する際 は、ホクラクはあくまで仲介役であり、経営困難な牧場、離農牧場をホクラクの 要請により公社が取得したケースがほとんどである。 保有期間と借地料については、公社が取得する時期から、買い受けをするまで の期間で原則は5年間である。農地は10アール当たり1,000〜5,000円程度で、 機械、畜舎、監視舎(施設用地)を含めて原則は積算方式で、農家、ホクラク、 公社が話し合って総合的に一括してリース料を決定している。取引の対象物件は、 ケースにもよるが施設用地、機械格納庫、機械までも含む。売り渡し時期は、賃 貸借期日到来に伴って農業委員会に所有権移転の申し出をし、売り渡し額は原価 に有益費、事務費等を加算した額となっている。 上記7件を除いたケースは、ほとんどがホクラク単独の仲介により離農希望者 と取得希望者による相対取引が行われている。当然補助事業による整備はなく、 取得者が牧場取得後自力で整備することになる。ここではホクラクの農地供給事 業が全面的に機能することになる。 以上のように、相対取引は牧場の自力整備と即座の売買となるが、公社が介在 すると補助事業による整備と買い取り前に一定のリース期間があることが特徴で ある。つまり、この関係から分かるように、新規就農者などの資金力がない者が 合理化事業に乗り、一定の資本蓄積がある移転就農者などは、ホクラクの仲介に よる相対取引で購入する傾向があるようである。また、町村が所有している財産 区(入会地などが典型)を公社が借りて、それを貸し付けて牧場を設置している ケースもある。 ここで、ホクラクが農地供給事業をベースに農地取引の仲介を果たす効果につ いて、2点ほど指摘しておこう。まず第1に、表1に掲載した取引の中で、離農 以降1年以上の時間が経過したものは3件しかなく、ほとんどが1年以内に継承 者が決まっていることである。これは、離農希望者が早めにホクラクに相談に訪 れ、ホクラクは即座に牧場の条件、周辺環境条件を把握して総額を算定し、それ に見合う取得希望者をあっせんするという仕組みになっているからである。ホク ラクが信頼されているために、離農希望者も譲受希望者もホクラクに相談してく るという市場機能を果たしている。条件があわずに取得希望者が見つからない間 は、離農希望者を励ましながら監視するという機能も果たしている。これはホク ラクに譲渡依頼を持ちかけた時点で経営継続の熱心さが衰えて、牧場管理がおろ そかになるというモラルハザードを防ぐためである。 第2に、畜産農家の場合、一般的な農地取引と異なって、牧草地が多いために 農地利用が限定されていること、畜舎施設がセットとなった牧場であるために、 いわゆる「うわ物」施設も購入しなければならないことなどの理由により、公社 にとってその取得はリスクが大きい。そのリスクを軽減しているのが、信頼でき るホクラクが仲介しているという事実である。他都府県で畜産農家の牧場取引が 進まない要因は、このような仲介機能を果たす組織が存在せず、公社が合理化事 業に取り組まないことにある。
農場を譲受した経営者の前職という観点からは、ヘルパー7人、酪農家の子弟 で家の手伝いをしていたもの2人で、いわゆる新規就農者が9人となっている。 他はいずれも移転就農であり、従前の地での規模拡大が困難であることや宅地化 に伴う環境制約などで移転している。ヘルパー出身者の表1の1番農家はすでに 長野に移転して酪農経営をしており、その牧場跡地を9番農家が継承している。 3番農家は離農して、その跡地は後に詳述する経営体験研修牧場「ホクラク旭研 修ファーム」として7番に継承されている。 新規就農のためには、ヘルパーとして信頼を得ることがきわめて重要であると のホクラクの認識がある。また、これらヘルパー出身者のうち3番から7番まで の4人が財団法人酪農大学校の出身者であり、新規就農までの研修コースとして 注目される。 ここで新規就農の2つの事例について就農の経緯について検討しておこう。 新規就農者の就農動向 まず4番農家について見ておこう。経営者は(財)酪農大学校を昭和50年卒業 後、自宅の酪農経営を手伝いながらヘルパーを行っていた。就農するための牧場 探しをホクラクに依頼していたが、3年に離農牧場が出たので、ホクラクが仲介 し、1カ月後に総合資金を借り入れて2,700万円(土地46アール、40頭牛舎(築 20年)、牛は800万円)で購入している。一部農地は前経営の借地を引き継いで いる。 委譲者は妻が病気で離農を余儀なくされているが、経営者は当該牧場にヘルパ ーに入った経験もあり、同じJA管内で自宅から10分で通勤できることが魅力で購 入している。前任者は畜舎から歩いて5分のところに現在も在住しているが、屋 敷が同一地でなく少しでも畜舎とは離れているところが重要な決め手となってい る。 次に、新規就農10番農家(36歳)は、昭和40年に父が岡山市から現在地 に入植しており、その3男にあたる。9番農家は4男にあたる。氏は農業大学校 を昭和60年に卒業後、父の牧場を手伝っていたが、平成元年に現在地で1番農家 を継承して経営を開始している。始めに述べた農地保有合理化促進事業を利用し、 農地を12万円、建物・畜舎を10万円、合計年間22万円のリース料で賃借して経営 をスタートできたことが極めて大きな意味を持っている。これらのリース料の設 定に当たっては、地域の標準小作料の水準および固定資産税水準を考慮し、県農 地開発公社との協議によって決定している。 4年にパドックをつぶして成牛8頭分の増築をしており、7年に譲渡価格4,1 65万円でスーパーL資金(2年据え置き、20年償還)を借りて牧場を取得してい る。この時、町が2.5%の借り入れ利子に1%の利子補給を行っている。この年 さらに畜舎を8頭分増築し、11年には弟と共同でたい肥化施設を公社営畜産基地 建設事業で設置している。現在は経営主1人で330アールの飼料基盤で、56頭の 経産牛を飼養している。 現在の牧場に入ったのは、ホクラクの紹介で、気象条件が良く、畜舎が比較的 大きかったことによる。氏は実家の経営を手伝った後すぐに就農しているために、 経営感覚を身につける研修の場がなかったことを新規就農の問題としてとらえて おり、研修牧場の必要性を実感している。 弟である9番農家も兄と同様に近接する公社所有の牧場に8年に入植し、年間 22万円(草地3.4ヘクタールを12万円、畜舎施設を10万円)のリース料で5年間 経営し、13年は当初計画通り5,149万円で牧場を取得することになっており、30 0万円程度の償還金返済を行うことになる。 特筆すべきリース方式による経営権取得 継承方法で注目されるのは、リース継承の形態が2戸見られることである。こ れは、今後の経営継承にとって注目すべき事例であるといえよう。 N町の26番農家(48歳)は、妻と子供2人の4人家族であり、7年12月に1.2 ヘクタールの農地と30頭牛舎(300゚)、裏山50アールを「5万円/月の10年更新」 でリース契約し、従来の畜舎から牛と機械を持ってきて経営を始めている。前経 営者は亡くなっており、子息はサラリーマンとなってごく近隣に住んでいる。 当該農家は津山市の従来の畜舎が古くなったため、ホクラクに相談して、その あっせんで当初からリース経営を第一条件に交渉している。交渉に当たっては、 ホクラクが仲介しているために一切地主と折衝することはなく、牛舎の規模も構 造も適切で、居住景観も良く、妥当な額が提示されたため契約に至っている。 契約書はホクラクと結んでおり、土地利用に当たっては経営者が、「農用地の 高度利用と善良な管理者の注意を持って一切を管理し」自由度の高い利用が与え られ、「機械施設の設置、看視舎の設置に当たってはホクラクと当該農家が協議 のうえ、ホクラクが農家に指示して設置を認める」という内容になっている。 経営開始前に畜舎の施設や道路舗装、看視舎設置など820万円程度の投資を農 協のプロパー資金で行っている。信用事業を行える専門農協としての強みを発揮 している。また、経営開始後、継承者の責任で流下式をバーンクリーナ方式に変 え、平成10年に敷地内にも自ら住宅を建設している。 現在の経営規模は経産牛28頭、育成牛5頭で、生乳を年間190トン出荷してい る。土地はすべてふん尿の処理場となっており、自給飼料は一切ない。しかし、 裏山は牧柵をして子牛を放牧して有効利用している。無理な機械投資をせず、ゆ とりのある経営を行うという経営理念があり、それを購入飼料依存のリース経営 で実現している。 また、K町のF氏は、妻と2人の子供、両親の6人家族であり、現在地にほど 近くの17頭規模の畜舎で経営していたが、規模拡大を考えて農協(当時ホクラク 合併前の農協)に相談していた。そこに、近隣酪農仲間の離農という事態が起き、 4万円/月で30頭規模畜舎・看視舎(約10アール、昭和55年に公社営事業で建設)、 たい肥舎、水田1ヘクタールをリースしている。現在は経産牛20頭、育成牛15頭 で148トンの生乳出荷がある。氏のもう1つの姿は、地域内飼料生産のコントラ クターという側面であり、近隣酪農家と2人で約40ヘクタールの飼料作を請け負 っている。地域内分業型の畜産経営を標ぼうしている。 このケースは、当人同士が古くからの酪農仲間であったために、相対で取り決 めを行っており、改築等は相談のうえ行うこととなっている。しかし、リース料 の支払いやリース期間中に規模拡大したい場合などの買取のアドバイスなどを含 めて農協が仲介しておくべきだとの意向を現在は持っている。 氏はリース制のメリットとして、固定資産税を払わないでよい身軽さと後継者 が継承するか否か不確実な状況で、牧場を取得しなくても自分の代で生活できれ ば良いという理念を挙げている。 もちろん、これら2つの事例は、離農者が借入金もなく、資産を販売する必要 がないことが第1の条件であるが、そのような環境で離農者が牧場リースを相談 し、リース経営志向の希望者を募れたという環境=ホクラクの機能を重視する必 要があるであろう。 2人ともまだ40歳台であり、これからの若い人には莫大な投資をするよりも職 住分離で、リース経営を望む人が増えるのではないかと見込んでいる。しかしな がら、現状では畜舎と住居が隣接していたり、マーケットに出る牧場規模が現在 の需要者のニーズに合わない等のミスマッチがたぶんに存在すると見ている。も ちろん、地域内における生活面での溶け込みが最も重要であることは言うまでも ない。 移転就農した後に第三者委譲を希望するケース 次に、ホクラク管内に移転就農し、通勤酪農を行っており、後継者がいないた めに第三者に農場の委譲を考えているケースについて考察する。12番農家(65 歳)は、53年3月に、津山市内の自宅から3キロメートル離れた牧場(当時は肥 育経営が行われていた)に移転して、現在成牛26頭、育成牛10頭(ピーク時成牛 35頭、育成牛18頭)飼養している。自宅近くが市街化して規模拡大に限界があり、 環境制約が移転の要因であった。 元来、当該地は45年の農地開発事業で開発され、地主である初代経営者から2 代目の前経営者へ牧場がリースされて経営が行われていたものである。12番農家 は、前経営者に権利継承金(電気整備、道路整備、その他環境整備費)600万円 を支払い、牛舎を250万円で地主から買い取って、3代目として入植している。 そして、元の畜舎から15頭と新規の6頭導入して経営を始めている。 後継者は津山市内で就職しているが継承する意思がなく、昭和52、54年に借り 入れた総合施設資金の償還も終わっているので、平成11年にホクラクに離農の意 思と第三者継承について相談に行っている。 このように、初代経営から3代目の経営へと譲渡され、さらにその経営資源が 4代目の経営者へ譲渡されようとしている。経営者は変わっても経営資源がマー ケットに乗ることで有効に利用される典型的な事例である。
ホクラクは、11年度から取り組まれた経営体験研修体制整備事業に、全国第1 号として取り組んだ。この事業は、畜産基地建設事業で建設した民間牧場を「ホ クラク旭研修ファーム」として整備し、新規就農希望者の研修牧場として利用す る事業である。 研修者と研修期間 研修者(7番農家)は県内T市に住む酪農家子弟の他産業従事者(23歳)で、 酪農ヘルパーと牛群検定指導員の経験を持っている。夫婦2人で酪農をやりたい が、親の経営に就農するには規模拡大の制約があり、自らの牧場を探すためにホ クラクに相談に来て、当該制度を紹介されて参入している。研修期間は11年2月 1日から12年1月31日までである。 修施設の条件整備と事業 旧経営者(3番農家)の牧場資産(採草地3ヘクタール、施設用地0.8ヘクタ ール、山林1ヘクタール、看視舎、50頭牛舎、施設、機械)を岡山県農地開発公 社よりホクラクが借り受け、さらに総事業費3,834万円(うち1,792万円が社団 法人酪農ヘルパー協会の補助)で自動給餌機、自動離脱装置、草地整備・構内排 水、牛50頭(経産牛含む)導入の条件整備を、10年度経営体験研修整備事業に基 づいて整備している。 研修期間中のポイントと成果 乳牛飼養管理にかかわる機器の整備と乳牛は、ホクラクが助成事業によって整 備調達(農用地供給事業勘定で処理)し、飼料、資材、諸経費等は「旭研修ファ ーム」ホクラク貯金口座または乳代精算書で精算するが、水道代、光熱費につい てはホクラクが負担する。一方、売上げに関わるものすべてについて、「旭研修 ファーム」ホクラク貯金口座に振り込まれ、実際の経営は研修生が行うが、経営 権はホクラクにあることを示している。従って、研修者には、研修手当として毎 月19万円を支払われるほか、牧場資産管理手当として毎月6万円が支払われる。 研修生には複式簿記の記帳と青色申告の届出を義務付けており、毎月、検討会 メンバー(地方振興局、農業改良普及センター、家畜共済連、市町村、畜産会、 県総合畜産センター、ホクラク)による経営検討が行われている。 ヘルパー、牛群検定員としての知識や技術があることと、経産牛の導入、自給 飼料は2年目から取り組むといったホクラクの配慮により、2000年1月時点で経 産牛44頭、未経産牛4頭で378トンの出荷、約700万円の所得をあげている。そし て、現在すでにスーパーL資金を借り入れて牧場を取得しており、経営のスター トをきっている。
ホクラクは、離農牧場の委譲に対して農用地供給事業をベースに取り組んでき ており、公社とタイアップしながら円滑な取引を支援してきた。最後に、このよ うな取り組みが成立してきた条件について考察してみたい。まず、第1に農用地 供給事業の仕組みを指摘したい。これについては繰り返しを避ける。 第2に、ホクラク農協としての取り組みを可能にした人材育成である。農協で は昭和30年代以降、指導員や獣医師の積極的な人材登用を行ってきており、それ らの人材が現在の中核となって組合員から信頼されて機能している。離農につい ての相談、就農についての問い合わせという情報が農協に一元的に集中すること が大きな強みとなっている。 第3に、専門農協として信用事業までも含んで一貫した指導体制が敷かれてい るという強みである。すなわち、経営診断、牛群検定、指導員、獣医師、販売流 通、信用事業さらには農用地供給事業まで一貫していることが、牧場取引の仲介 を可能にしている最大の要因である。この点は総合農協が、機能的に同様の事業 を抱えながら、農地取引に遅々として取り組めないことと比べて対照的である。 しかしながら、今日多くの農協は農地保有合理化法人の資格を有しており、重要 な資源を活かすためにも実質的な機能発揮が求められる。 附記:本稿を執筆するに当たって、面接調査に快く応じてくださった酪農家の方 々に心よりお礼申し上げます。また、聞き取り調査にご協力いただいたホク ラク農協の高山部長、亀山部長を始めとするスタッフの方々、岡山県農地開 発公社、岡山県畜産課の方々、補完調査までお世話になった岡山県畜産会の 本松様のご協力ご指導に厚くお礼申し上げます。