企画情報部
これまで、畜産関係団体で「畜産情報ネットワーク」を農畜産業振興事業団主 導の下、運営してきたが、最近におけるIT(情報技術)化の進展を踏まえ、今後 の畜産情報ネットワークのあり方について、検討委員会を設け、平成12年12月か ら13年8月まで検討してきたので、その報告書の概要を報告する。
3年度からの畜産関係団体内における畜産に係る情報提供のあり方の検討の中 で、「今後の畜産経営の改善と体質強化を図るためには畜産に関する多様な情報 を適時、的確に総合的に提供していくことが不可欠」との共通の問題意識が形成 された。これを踏まえ、6年度から畜産振興事業団(現、農畜産業振興事業団) が主体的役割を果たしつつ、関係3団体(社団法人中央畜産会、社団法人中央酪 農会議、社団法人家畜改良事業団)とともに、インターネットのホームページを 活用した「畜産情報ネットワーク(通称、LIN)」の構築に向けての取組みがな され、8年度から運用が開始された。その後、このLINに主要な畜産関係団体の ほとんどが参加し、現在、LINに参画している団体は、農林水産省生産局畜産部、 独立行政法人家畜改良センター、畜産関係の40団体、47都道府県の計89団体と なり、畜産分野における一大ネットワークを形成するに至った。(図1参照) ◇図1 LINの概要◇ 参加各団体は、それぞれのホームページの内容を充実させつつ、畜産に関係す る情報ならば、まず、LINのホームページにアクセスすれば一応の情報が得られ るまでに発展を遂げてきた。「YAHOO」や「GOO」がインターネット全般のポー タルサイトとすれば、「LIN」は、畜産専門のポータルサイトとして発展してき たと言える。
委員会設置の趣旨 しかしながら、最近のITの進展・普及には目覚ましいものがあり、政府におい ても高度情報通信ネットワーク社会推進本部を設置する等IT化を国家戦略として 推進している。また、農業分野においても農林水産省が策定した「食料・農業・ 農村基本計画」の中において、農村地域におけるIT化の推進がうたわれ、さらに、 農林水産分野におけるIT活用の基本方針として13年4月に「21世紀における農林 水産分野のIT戦略」が農林水産省によって策定された。このようなIT化の著しい 進展に加え、参加団体や利用者の増加、LINに求められるものが多様化してきた 等から、関係者内にLINのあり方を見直していく必要が認識されるようになった。 このため、LINのあり方や今後の対応方向等について検討するための委員会(畜 産情報ネットワーク検討委員会)を設け、LINの置かれている現状をつぶさに把 握し、今後LINの歩むべき方向等について具体的に検討した。 委員会の構成と検討経過 畜産情報ネットワーク検討委員会の構成は、LINに参加する主要団体の役員等 5名、学識経験者3名およびシンタンク1名で構成された。 なお、農林水産省からもオブザーバーとして担当者の出席を得た。 検討委員会は、12年12月から13年8月の間に計6回開催され、LINの経緯と現 状、課題の整理、今後の対応方向等について検討が行われた。
コンテンツ(提供する情報の内容)の構成 現在のLINのコンテンツの構成は図2とおりである。発足当初は、団体別に束 ねた形の構成であったが、利用者の立場に立って、欲しい情報が効率的に得られ るように、12年度からトップページの構成を「ジャンル別」に変更している。 ◇図2 LINのコンテンツの構成◇ LINへのアクセス件数の推移 LINは分散統合型の形態(個別情報が各団体のそれぞれのホームページに分散 し、これをLINというポータルサイトが統括している形態)をとっているため、 LIN全体としてのアクセス状況を把握することは困難であるが、おおむねのアク セス件数の推移は図3のとおりである。12年度においては、国内で口蹄疫が発生 したこともあり、年平均で1日当たり2,000件を超えるまでのアクセスがあった。 特に12年5月は1日当たり4,500件弱のアクセスとなっている。 このように、畜産に関する全般的情報の提供のほか、何か大きな出来事があっ た場合、緊急的情報を大量、かつ即座に提供する手段として、LINは極めて有効 な手段と言え、この重要性は益々大きくなってきていると言える。 ◇図3 LINトップページ等 1日あたりアクセス数◇
LINの評価について、(社)中央畜産会が実施しているLINに係る生産者モニタ ー(153名)の評価結果(12年度)をみる。 ア LINの利用状況 モニターのうち、毎日または週に複数回利用しているといった日常的利用者は 約2割であり、利用率はまだまだ不十分であるようだ(図4)。 ◇図4 LINの利用状況◇ イ 生産者の評価 提供情報のうち、「経営」、「生産・技術」、「環境」の3つのジャンルに限 って、その満足度等を酪農関係モニター(70名)からの回答をみると、「十分で ある」と評価する者の割合は、「経営」ジャンルで57%、「生産・技術」ジャン ルで45%、「環境」ジャンルで39%であった。いちばん高い評価を得た「経営」 ジャンルにあっても、80%の者が「十分である」と評価する個別コンテンツがあ る一方、必ずしも「十分である」との評価を得られない個別コンテンツもあり、 提供コンテンツ間でその評価に大きな差が見られた。 一方、期待する情報については、「経営の指針となる情報」、「具体的な事例 紹介」、「最新の畜産技術」等、畜産経営を行っていく上で生産現場に直結して 活用できる情報の提供を望んでいることが分かった。
本検討委員会のなかで、以下のとおりさまざまな課題が出され、これに対する 対応方向が出された。 LINに求められる基本的な機能 LINは、インターネットを活用して情報の入手、伝達の迅速化・効率化を図る ためのツールであり、関係者は情報が効率的に入手可能となる。具体的には、生 産者にとっては生産コストの低減、飼養管理・経営管理技術の高度化が、消費者 にとっては、畜産に対する理解を深めることが、加工・流通関係者にとっては、 市況情報等の迅速・効率的入手が、行政関係者等にとっては、関係者等に対して 情報を効率的に公開すること等が可能になると位置付けられる。 ◇図4 LINの機能のイメージ◇ @発信する情報内容(コンテンツ)の充実 課 題 LINを活用して相当程度の情報発信が行われるようになったが、今後コンテ ンツをさらに充実していくことが求められる。そのため、利用者のニーズを十分 に把握した上で、より効果的・効率的な情報発信方法を構築していく必要がある。 また、電子図書館機能の充実、新しい情報端末への対応などとともに、能動的 な情報発信についても取り組んでいく必要があろう。 (対応) ア 行政情報の充実 国を挙げての情報化の推進や行政に対する「透明化」の要請の観点から、イン ターネットを通じた行政情報の発信が強く求められており、今後とも積極的に進 めていくこととされた。 イ 団体関係情報の充実 団体に対しても「透明化」の要請が強くなってきていることに加え、団体の存 在意義が外部から厳しく問われる時代である。また、情報化時代を迎え、HP(ホ ームページ)への情報の掲載が日常業務の一環としてなされるべき性格であるこ とを認識し、さらに、情報に対する利用者のニーズを十分に考慮しながら、コン テンツの充実を積極的に進めていくこととされた。 ウ 他のホームページの活用 LINですべての情報を提供することは合理的ではなく、必要とする情報が他の HPに存在する場合には、他のHP間とリンクする形で対応することとされた。 エ 電子図書館機能の充実 従前、紙情報により報告書などの形で集積されている畜産関係情報を電子化す ることによって、利用者が迅速に情報を活用できるような形を整えていくことと する。ただし、その費用対効果を十分に考慮しながら進めていくこととされた。 オ 携帯型情報端末への対応 携帯電話等に対応した専用HPの開発については、機能が未だ発展途上にある状 況を考慮した上で、情報ニーズを精査して進めていくこととされた。 カ 能動的な情報発信の推進 従来の情報提供の方法に加え、利用者に対して関心のある情報をメールの形で 定期的に発信する、いわゆる「メールマガジン」方式についても検討していくこ ととされた。 キ 電子商取引(Eコマース)への対応 LINの基本的性格である「公益性、信頼性に対する要請」を考慮し、商業的な 性格の強い電子コマースへ過度に踏み込んでいくことは避け、「地域特産品の紹 介」のようなイメージで止めることが適切であるとされた。 A 情報の玄関口(ポータルサイト)としての機能強化 課 題 増大する情報の中から目的とする情報を利用者が的確、迅速に入手することが 可能となるような「情報入手のための玄関口・案内板」、すなわち、ポータルサ イトとしてのLINの機能強化を図っていく必要がある。 (対応) ネット上に構築される様々なデータベースの中から利用者が必要とする情報を 迅速に取り出すため、利用者の立場に立った検索機能の強化等を早急に実現する こととされた。 B 個別経営体・個体データベースの創設および利用促進 課 題 LINは、不特定多数の利用者を念頭に置いてデータベースを構築してきたが、 このような既存データベースとは異なり、特定の経営者による利用を主眼として、 個別の経営体情報(酪農家の経営基礎データ)、さらには家畜個体に係る情報 (例えば、牛の血統情報、泌乳能力)に係るデータベースの構築が関係団体を中 心として個々に進められてきた。 さらに、現在、家畜を統一の個体識別コードで管理することによって、これら のデータベースを連携させ、疾病家畜の追跡調査を始めとして家畜個体に係る情 報利用の高度化・迅速化を推進するための取り組みが始まりつつある。 (対応) 個別経営体・個体データベースの活用は、経営に係る意思決定を直接的に支援 するため、当該生産者がより直接的にメリットを享受できる部分であり、今後と も重点的に取り組んでいく必要がある。 そこで、個体識別システムの構築を通じた個体データベース間の連携強化を進 め、さらに、LINの既存のデータベースと同様にネット上で利用できるようなシ ステムを構築することにより、生産者、関係者に対してさまざまな情報サービス を迅速に提供していくことが可能となるような体制を整備していく。また、これ らは既存データベースとは異なり、イントラネットの中で構築されることになる が、利用者の多様なニーズに迅速に応えられる形にするため、LINの既存データ ベースとの連携強化を図っていくとされた。 C 双方向の情報交流の改善 課 題 今後は一方的な情報発信だけではなく、LINを通じた双方向の情報交流を進め ていくことが要請される状況にある。特に、LINを通じて消費者、一般利用者等 からの問い合わせが増大しつつある一方で、これらにきめ細かく対応していくた めには、相当の人的負担が必要とされる。 そこで、このような問い合わせに対して、効果的・効率的に対応する方策を早 急に見出していく必要がある。 (対応) ア 問い合わせへの対応 LINの公共的性格と質問を受けて回答するための人的負担の双方のバランスに 留意しつつ、フォーラム方式(掲示板)、FAQ方式、検索方式、質問箱方式の対 応策を組み合わせて、LINとして効果的・効率的に対応していくこととされた。 イ アンケート調査等 畜産関係者のみならず、一般利用者も含めて、LINの提供情報に対する評価、 ニーズ、さらには、施策・制度等に関する意見収集等を行うため、モニターによ るアンケート調査を迅速に行うことができる体制を整備していくこととされた。 (図5参照) ◇図5 インターネットを活用したアンケート調査◇ D IT技術の進展等に対応したハードウェアの見直し 課 題 LINのハードウェアについては、@アクセス・スピードが現状においてすら 十分ではなく、LINへのアクセス増加に伴いさらなる状況の悪化が確実視され ること、A外部からの進入を防ぐためのセキュリティシステムの強化が必要なこ と、B関係4団体が別個にシステムを構築してきた結果、LINのシステムが複 雑化し、管理・運営が煩雑になっていることなどの問題が生じており、早急に具 体的な対応策を講じる必要がある。 (対応) これについては、ハウジング/ホスティング・サービスを活用し、これまで各 団体が別個に構築しているシステムを可能な限り共同で集中管理することによっ て、管理・運営の効率化・簡素化を図ることとされた。 E 運営面の改善 課 題 これまでは補助事業の活用、あるいは関係団体の自助努力により、情報発信を 行ってきたが、行財政改革が進められる中、必要な経費、財源の確保が課題にな ってきており、今後は運営経費の節減とともに、情報の種類によっては有料化も 視野に入れて検討していく必要がある。 (対応) 運営経費については、ハウジング/ホスティング・サービスを活用し、外部委 託化を積極的に進めることなどによって節減していく。また、LINは、公の情報 提供媒体としての性格を有するため、有料化が困難な面もあるが、利用者にとっ て大きな経済的利益をもたらすサービスについては、今後はその有料化も視野に 入れて事業展開を進めていくべきであるとされた。 課 題 これまでは、農畜産業振興事業団が中心となって、中央畜産会、中央酪農会議、 家畜改良事業団などの団体との連携を取りながら進めてきたが、LINが拡大し ている中、団体間の役割分担を再確認する必要がある。 (対応) これまで、ややあいまいな形で運営されてきたが、今後のLINの運営について は、「畜産情報ネットワーク推進協議会」を最終的な意思決定機関としつつ、4 団体(農畜産業振興事業団、中央畜産会、中央酪農会議、家畜改良事業団)およ び農林水産省畜産部が密接な連携を取りながら進めていくこととされた。 F LINの認知度の向上 課 題 LINを通じた情報発信や双方向の情報交流をさらに進めていくためには、L INの認知度を高めていくことが必要である。 (対応) これまで、必ずしもLINの認知度が高いとは言い難い面もあったことから、認 知度を高めていくため、畜産関係者、消費者、一般利用者に対して各種媒体を通 じたPRを展開していくこととされた。
以上が検討委員会報告書の概要であるが、LIN参加団体は、今後この報告書 を踏まえ、LINの具体的な充実強化を図ることとなるが、直近でいえば、13年9 月に国内でBSEが確認され、これに対処するための情報公開、データベースの充 実等が極めて重要になってきている。本検討会で検討された内容を早急に実施し ていく必要性を痛感する次第である。終りに関係者の皆様におかれましては、L INに対するご意見、ご希望等積極的にお寄せくださるよう併せてお願いする次第 です。 URL http://www.lin.gr.jp E-mail lin@alicml.lin.go.jp
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